ハピの脱出大作戦!
「うわ~ん、もういや~!」
くそう、何で我輩がこんな雑用をしなければいけないのだ。そもそも我輩は猫さんチームのメンバーだぞ。ぴぴとぷうと戦ってる相手のお世話なんてごめんこうむる! 旧王都から来たとか言うメンバーもぞろぞろ集まってるし、もういなくてもいいでしょ。というわけで、脱出だ!
この妖精族の木製の要塞は、入り口が前後にある。我輩達が来た時はスルーしたけど、本来なら正面の門から入って、中で街に入る手続きをして、背面の門から出て旧王都へ向かうっていう運用なのだろう。そして、ぴぴとぷうが居る場所は、正面の門のずっと先で、我輩が今居る場所は、背面の門から出たすぐのところにある羊さんチームの救護所ということか。
前線のメンバーが救護所に行きやすいようにって、正面の門も開いてるから、この要塞を突破することは容易い。まあ、この要塞はそもそも、そこらへんのお家よりもちょっと大きい程度の建物だ。横から回って正面に行くのも簡単だ。
我輩のカンが、気づかれると面倒なことになりそうだと言っているからな。ここは慎重、かつ大胆に動くべきだな。まずは、脱出経路の確認だな。う~む、なにをどう考えても、正面から出て行って、前線で戦っているかばさんチームの脇を通り抜けて、ゴブリンゴーレム達に合流するしかないよね。ぴぴやぷうなら地面を掘って進むことも、もし隠し通路の類があるのなら、それを探すことも出来るだろうけど、我輩には無理だし。
前線のかばさんチームのところまでたどり着ければ、ゴブリンゴーレム達へ、ヘルプの声も届くだろうから、一番のネックは、要塞から前線までの間のだな。今、要塞から前線のかばさんチームの間には、後詰で控えてるきりんさんチームがいる。ここから見る限り、きりんさん達は長い首を生かして前線の様子をみんなでチェックしているよだな。ふむ、これは好都合だな。恐らく我輩が足元に入り込んでも、気づくきりんさんはいないんじゃないだろうか?
とすれば、最大の難関は、きりんさんチームが待機している場所へ行くまでの空白地帯だな。隠れる場所がないから、この要塞の屋上にいるザクロをはじめとした妖精達に見つかる可能性が高い。うう~ん、さっき象さんチームが下がって来た時に、どさくさにまぎれてかばさんチームと前線に行けばよかったな。
はあ。でも、過ぎたことは仕方ない。なんとか抜け出す隙を見つけ出さねば。とりあえず、物資の運搬のふりをして要塞に入るかな、何かいいものがあるかもしれないし。はっ! これは、木箱か! くくくくく、いいことを思いついちゃった。ダンボールじゃないのは残念だが、ここは1つ、とある国のスパイが使っていたといわれる伝説の技を見せてやる!
となると、まずは木箱をかぶれるように改造しないとだね。早速底板をばこばこと外す。うん、なんだかんだ毛皮の性能は最高級品だからね。このくらいのことは我輩でも簡単に出来る。おっと、中身は、回復薬か、まあ中身はいらないけど、中身だけここに置いてあるのも不自然だし、う~ん、あっちの部屋の中にでも隠しておこうかな。よし、準備完了だ!
底の抜けた木箱を被って我輩は外に出る。よし、誰にも見つかって無いな。このまま外に出ちゃおう。引きづっちゃうと後が付いて見つかっちゃいそうだから、ちゃんと木箱を持ち上げてっと。
てくてくてくてく。
う~ん、まだ要塞の陰になっているから、屋上からは見つからないかな。
てくてくてくてく。
おっと、あぶないあぶない。要塞屋上に妖精の姿が見えたな。そろそろ本気モードじゃないと見つかるかな。我輩は要塞の屋上を凝視し、妖精族の姿が消えた瞬間を狙って少しずつ進んでいく。それにしても、流石はバトルプルーフ済みの戦法だな。内心馬鹿にしてたけど、本当に見つからないなんて、意外とすごいね! よし、このまま要塞の屋上を監視しながら慎重に進んでいけば、行ける! っと思っていたら、どすんっと何かに当たった。
ん? 障害物なんてあったかな? 我輩が前を見ると、そこにはきりんさんの足があった。しまった! 後ろの要塞の妖精達だけに気を取られて、前を見てなかった。くう、不覚! どうする、この危機をどう乗り越える!? 考えろ、考えるんだ! お前の人生経験は、そんなに薄っぺらくは無いはずだぞ! ハピよ!!
「ん? なんだ。木箱が飛んできたのか? 邪魔だな」
きりんさんは風で飛んできた木箱と勘違いして、我輩の木箱に軽く後ろ蹴りを入れてくる。
「みぎゃ!」
「ん? お前、悲鳴みたいなの上げたか?」
「いや、なにも? 前線は激戦だからな、たまたま耳に入っただけじゃないか?」
「なるほど、それもそうだな」
我輩は手足を全力で突っ張って木箱から放り出されないように踏ん張る。くう、結構飛ばされちゃったな。場所的には、中央と右翼の中間くらいか。ふっふっふ、しかし流石は我輩だ。咄嗟に何もしないという選択をして危機を脱することに成功するとは、この体に刻まれた豊富な人生経験の賜物ってやつかな。
さて、改めて今度は進行方向にも気を配って、進んでいくとするかな。
「ぐぎゃあああああ!」
「「「「「ぐぎゃあああ!」」」」」
んん? なにやら前線が騒がしいな。まあ、我輩には関係ないか。このまま進めば問題ないだろう。っと、そこで、我輩の危機管理センサーが警報を鳴らし始めた。なんだ? なにかいやな予感がする・・・・・・。とりあえず少し動くのは中止してっと、あれは、うめか。く、うめはなかなか鋭いところがあるからな、気づいてくれるなよ。
ふう、どうやら杞憂だったようだ。左翼のほうから現れたうめは、そのまま要塞の屋上に向かっていった。要塞の屋上に行ったってことは、ザクロ達と合流したってことだね。ここは我輩も全力で耳を済ませて、様子を探ってみるか。う~ん、我輩の耳の性能じゃあそう簡単に聞こえないか、と思っていたら。
「隊長! うめ様! 大変です! ハピを呼びに羊さんチームのところに行ったのですが、先ほどから姿が見えないようです。何度ももういや~と叫んでいたことから、逃げ出した可能性が高いです!」
「ええい、逃がすんじゃないよ! すぐに捜索しな。最悪でも向こうに取られるのは防ぐよ!」
「「はっ!」」
流石我輩の耳だ。ピンチの情報だけはきっちり拾ってくれるとは。くう、妖精達があちこちに飛び交い始めた。これじゃあ動けない。
「うめ様、隊長、前線がウォークライにより強化されたゴブリン達により押されています! 崩壊寸前です!」
「ええい、こうなったら仕方ない。防衛軍はハピの捜索を続行しな! 旧王都軍は、全戦力を持ってこれをしのぐよ。ウォークライは永続じゃない。なんとしても耐え切るんだ!」
くう、捜索を打ち切ってほしかったな。これじゃあ動けないのは一緒じゃないか。
どどどどど!
ん? なにやら騒々しいな。我輩は音の方向、つまり、戦線の後方を見る。すると、そこには象さん達をはじめ、さきほどまで手当てを受けていたメンバーが走ってきた。流石象さん、一斉にこっちに向かって走ってくると、なかなかの迫力だね。
「いいか! やられたやつを後方に運びながら、空いたスペースに間髪いれずに突っ込むぞ!」
「「「「「おお~!」」」」」
なるほど、まだ十分な回復魔法を貰っていない象さん達まで再び前線に出すとは、ザクロもなりふり構っていられないってことか。あれ? まさか、このままこの辺を通っていくの? 待って、ダメでしょ。こっちにこないでってば!
「みぎゃああああ!」
我輩の入った木箱は、ものの見事に象さんに蹴飛ばされた。我輩も必死に木箱に張り付く。
ぐるんぐるんぐるんぐるん、ばかん!
ううう、結構飛ばされちゃったな。くう、それにまずいことに木箱が壊れちゃった。このままじゃ見つかっちゃう、と思いながらも、目が回っててまともな思考が出来ない。ここはどこ? 我輩はハピ。
「あれ、ハピ? 解説はもういいの?」
「あ、ほんとだ。ハピもこっちに来たんだね~」
「ぴぴ? ぷう?」
「うん、どうしたの?」
「やった~! 我輩は自由だ~!」
くう、ぴぴとぷうのもとに帰れるのが、こんなにもうれしいことだったとは!
「ふっふっふっふっふっふっふっ!」
「「?」」
「ぷう、我輩が乗れるゴーレムある? 出来るだけ強いやつ!」
「うん。これからゴブリンキングゴーレムを出撃させようか、それとも頭でっかち恐竜のゴーレムを出そうかって、相談してたところだから、すぐに乗れるように改造出来るよ。どっちに乗る?」
「もちろん、頭でっかちゴーレムで!」
「うん、わかった。すぐに準備するね」
ふっふっふ、よくも我輩とぴぴとぷうの仲を引き裂いてくれたな! だが、お前らのたくらみもここまでだ! 見せてやろう、我輩の真の実力を!




