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頭でっかち恐竜、ぴぴ

 さあ、うめの取り巻きたちもやる気になったところで、第2ラウンドが開始した。ただ、ぴぴは今後はやり方を少し変える予定だ。猫のハンティングスタイルとしては、隠れて接近して一気に襲うというのが本来のスタイルである。でも、今回のぴぴはあくまでも巨木の森にいる、頭でっかち恐竜みたいな肉食モンスターの代わりだということを思い出した。例えば象さんや牛さんが巨木の森に行ったとして、頭でっかち恐竜が隠れて襲うかという問題がある。たぶんそんなことはしない。そもそも隠れられるようなサイズじゃないから、真正面から襲ってくるだろう。なら、それに見合った襲い方のほうがいろいろと都合がいいだろうと思ったのだ。せめて逃げ切れれば、行けないこともないだろうし。


「うう~!」


 ぴぴは頭でっかち恐竜のようにとりあえず唸る! 本当はぎゃお~ん! とか、がお~ん! と言いたいところだが、流石にそんな大型生物のようなかっこいい鳴き声は出てこない。


「わかってるね? 予定通りいくよ」

「「「「「おう」」」」」


 うめ達はどうやら向かってくるようだ。先鋒は夜と夕焼のようである。まあ、夜はもう完全に頭に血が上っているようで、小細工できそうな雰囲気ではない。夜と夕焼は二人揃って突進してくる。頭を低くし、一気に加速する。


「「ぶもおおおお!」」


 いたってシンプルな、身体強化魔法のみをもちいた。これぞただの突進というべき突進だ。ここでぴぴも考える。頭でっかち恐竜ならどう対処するか。ブレス? う~ん、夜達には悪いが、頭でっかち恐竜のブレスでは、消し炭すら残らず消滅するだろう。でも、それじゃあお腹も膨れない。もっとも、夜達の内包する魔力量はうめ達と比較しても少ないため、食べる気もないかもしれないが。でもやっぱここは、食べることも想定して、踏み潰すくらいの対応が一番可能性が高そうだ。上段からの猫パンチが正解かな?


「ふしゃ~!」


 ねこぱんち! ねこぱんち!


 突進してきた夜と夕焼の頭に猫パンチを叩き込む。夜と夕焼にとって、頭部への攻撃なんてもちろん予測済みだ。というか、頭と頭をぶつけ合うようなケンカなんて、牛なら一度はやることだ。そのため全身の中でも特に身体強化魔法の強度が高いのが頭部である。夜としても、さっきは急なことで身体強化魔法が甘かったという自覚はあった。だがその反面、本気の身体強化魔法をかけた自身の頭部の硬さへの自身ももちろんあった。しかし、ぴぴの猫パンチはそんな自身を容易く打ち砕いた。


 頭部に思いっきり猫パンチを食らった夜と夕焼は、頭から地面に突き刺さった。地上に出てる体をぴくぴくさせているが、これは誰がどう見てもKOだ。


「「「なっ!」」」


 先ほどのうめ達との戦いを見てなかったのだろうか? そうやってわざわざ相手の攻撃にびっくりして、隙を見せちゃダメって言ったのに。それに、この程度の攻撃で驚かれても困る。なにせ本物の頭でっかち恐竜の一撃なら、今の攻撃で確実に夜達の周辺は血まみれだ。


 でも、驚いている人ばかりでもないようだ。馬さんやガゼルさんといった、足に自身のある面々は、夜達の突進から一歩遅れて、横に走り出していた。なるほど、回りこもうというわけか。う~ん、頭でっかち恐竜なら、尻尾でなぎ払うかな? でも、ぴぴには尻尾は無い。ここは、低温のでっかい火の爪で代用だ。


 左右から回りこもうとしている馬やガゼル達も、あまりにあっさり夜と夕焼が倒れたことで多少は同様していたが、自身の役割をはっきり認識し、ただそれを遂行するために走るだけだった。そんな、馬達に与えられた任務はかく乱とサポートだ。具体的にはぴぴの周辺を高速で走り回りながら、スキを見てちくちくと攻撃する。さらに、突進の威力こそ高いものの、避けられると隙が大きい牛達の突進と突進の間をフォローすることも役割だ。


 一歩出足が遅れたのも、夜と夕焼にぴぴの意識を向けさせるため、つまり、囮にするためだ。そして、ぴぴの遠距離攻撃の狙いを定めさせないためにも、ぴぴの周辺を高速で駆け回る。想定外に牛達が早く倒されてしまったが、正面からの攻撃は、すぐに後詰の部隊が行くはず。自分達は役割を全うし、隙を見てちくちくするのみ!


「ふしゃ~!」


 だが無常にも、ぴぴの選んだ攻撃は、射程距離の長い近接攻撃だった。頭でっかち恐竜の尻尾くらいのサイズにした火の爪で、右に振ってぺしぺしっ、左に振ってぺしぺし。無残にも馬達も全滅した。さて、お次は~と思っていたら、間髪いれずに羊さんやヤギさん達が突っ込んできていた。夜と夕焼が力尽きた時の、後詰部隊だ。先陣は羊さん。そのもこもこボディで防御に優れる羊さんがぴぴの初撃を防ぎ、出来るならそのまま捕獲、無理でも攻撃の隙を突いて他のメンバーが仕留める。これが後詰部隊の作戦だ。


 う~ん、夜達への攻撃と一緒でいいよね。


「う~!」


 ぴぴの選んだ攻撃は、夜達への攻撃同様、頭部への猫パンチだ。羊さんたちがいかにもこもこボディをもっていようとも、頭部は関係ない。だが、当然羊さんだってそのくらいのことは理解している。対処法ももちろんある。ぴぴが攻撃を仕様とした瞬間、素早く半回転し、その体で受けるだけだ。完璧だ、確実に防げるという自信があった。そしてぴぴが手を上げたのを見た瞬間、作戦を実行する。素早く半回転し、もこもこボディをぴぴに晒す。さらにそのまま体当たりだ。攻防一体の羊さんの必殺技、もこもこタックルだ。


 ただ、ぴぴもその程度の思惑がわからない猫じゃない。う~ん、これは、もこもこを攻撃してほしいのかな? まあ、頭にこだわってるわけじゃないし、もこもこボディだったら平気だった、みたいに後で思われたくないから、もこもこボディに攻撃しちゃえばいいかな。 


「ふしゃ~!」


 もこもこボディに猫パンチを炸裂させる。なんか、言葉にならない言葉を出して、くたってしちゃったけど、まあ、手加減はしてるし、後で回復魔法もかける予定なので、大丈夫だろう。そして、その攻撃のスキ突くかのようにヤギさんまで襲い掛かってくる。どうやら羊さんの陰に隠れて一緒に接近していたようだ。とはいえ、魔力の隠蔽等ヤギさんの隠れる技術はいまいちだ。かくれんぼのスペシャリストである猫のぴぴにはバレバレだ。今度は特にひねりもなく頭に猫パンチを入れて倒す。実際問題、羊さんの後ろに隠れる戦法は頭でっかち恐竜には通じない。なにせ大きさが違うから。こういう戦法は敵も同じくらいの大きさの相手にしか通用しないのだ。頭でっかち恐竜の視点の高さからすれば、見え見えのはずだ。


 さて、お次はっと思っていたら、象さんが突進しながら、すさまじい威力の水魔法を繰り出した。これはすごい。長象さんやそのお仲間、さらにはエレフといったぴぴが旧王都にきて知り合った、どの象さんよりも強力な水魔法だ。


 水、それは猫の天敵だが、避けるのもなんか違う気がする。なぜなら、確かにすごい水魔法ではあるものの、残念ながら頭でっかち恐竜からしたら、この程度の水魔法、水浴びと変わらないだろう。でも、濡れたくもない。そのため、ぴぴは火の爪を出して、全部消滅させることにした。蒸発させるのも蒸し暑くなるからいやだ。


 ぼっ!


 ぴぴの爪に現れたのは、そんなに大きな火の爪ではなかったが、象さんの水魔法は火の爪に当たると有無をいわさず消滅した。そしてその象さんの攻撃にあわせるように、キリンさんが横から突進してくる。そして、ぴぴを踏み潰そうとしてくる。どうやらきりんさんは、馬さん達かく乱部隊の後詰のようだ。羊さんたちの攻撃の間に走り出し、回りこんでいた。馬さんやガゼルさん達のときは、ぴぴは有無をいわさず倒してしまったが、なるほど、本来はこういう攻撃がしたかったようだ。


 そして、そんなきりんさんの目の前に、ぴぴは火の爪をすっと差し出す。


「「「あぶない!」」」


 キリンさんは、危うくぴぴの火の爪を踏みかけるが、キリンさんの背後に潜んでいたうめ達がキリンさんを持ち上げてそれを止める。そして、全力で抗議してくる。キリンさんも、うめ達に抗議するようだ。


「あ、あ、あ、あんた、なにやってるんだい! 今のはしゃれにならないよ!」

「うめ様こそ何するんですか、後ちょっとで私の踏みつけ攻撃が当たって、勝ててましたよ! あんな小さな炎を怖がるなんて、どういうことですか!?」

「あんたはあほかい。あの火を踏んでたら間違いなくあんたの足は消滅してたよ!」

「そうだぞぴぴ、今のがどんなにやばいのかなんて、俺でもわかるぞ!」

「ええ、もしあれを踏んでいたら、何の抵抗もなく足が消滅していたでしょうね」

「あの、そんなにやばいんですか、あの火」

「こんな感じだよ。ぴぴ、その火で受けてくれるかい?」

「うん、いいよ」


 うめは集中し魔力を溜める。すさまじい魔力がうめの杖に集まっていく。これは完全に砲台になれる場合だけの技だ。魔力のチャージに時間がかかり過ぎている。ソロ、あるいは少人数戦で使えるような技ではない。軍隊で万全のフォローが受けられる場合の威力だけを求めた必殺技というかんじだ。


 そして、うめからすさまじい魔力を持った炎の竜が現れた。その竜をうめが飛ばしてくるが、ぴぴは火の爪で受ける。すると、うめの竜はあっさり消滅した。


「え、あの、今のって」

「あたしの攻撃の威力はあんたでもわかったでしょ?」

「はい」

「でも、そんなあたしの魔法ですら、何の抵抗もなく消滅するほど、あの火の爪はやばいものなんだよ」

「じゃあ、踏んでたら」

「さっき言ったとおりだよ。あんたの足なんて消滅してたよ」

「ひいいっ!」

「まあ、あたし達があんたの背に隠れてることも見破った上で、からかわれたんだよ」

「どっちにしろ、心臓に悪いですよ!」

「でもこの攻撃、頭でっかち恐竜なら、ブレスで広範囲に放ってくるよ?」

「う、う~ん」

「ちなみにだけど、私達どころか、巨木の森の木とか、草食のモンスターは、そのブレスにもそこそこ耐えるよ?」

「うう~ん」

「それにそもそも、私濡れるの嫌いだし」

「そ、それはすまない。わし等象の得意な魔法が水魔法だったもんで、つい」


 いつの間にか走ってそばに来ていた象さんが謝ってくる。


「いいよいいよ~、私も十分遊んだしね。回復魔法かけてあげるから、あとはぷうのゴーレムと遊ぶといいよ。ちょっと面白いことをするみたいだからね!」


 そう言ってぴぴは去っていった。そして、その背が見えなくなると、象さんがうめに話しかける。


「なあ、うめ様。もしかしなくても、わしらって、ぜんぜん相手にならない?」

「最初に言ったろ? 正真正銘の化け物だって」


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