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岩山

 一行は無事に岩山に到着した。途中モンスターもちょっとは出てきたが、象さん達が危なげなく蹴散らした。流石は草食動物でも最大の象さんだ。戦闘向きではないとは言っているが、その巨体から繰り出されるパワーだけで十分強力だ。低ランクのモンスターなんて、簡単に倒している。


「岩山ってのはどの辺にあるんだ?」

「この先だよ~」


 岩山の場所は地面にアクティブ系の探知魔法をかけたぷうは知っているが、見える位置に無いために象さん達はまだ把握できない。


「そだ、最近の建設はどうしてたの? 岩がないとああいう大きい風車は作りにくいよね?」

「その通りだ。だが、旧王都の周辺は、もう知ってると思うが、自然界の魔力が薄い。だから、岩山なんかから岩を取ると、なかなか回復しないんだ。それでも、自然界の復活を待って取れるように、ローテーションを組んでいるんだが、取りやすい範囲にある岩山だけだと、どうしても数が足りなくてな。あの大風車を直すには大量の石が必要だろ? だから、どうしても後回しになっていてな」

「なるほど~、でもそれだと困らないの?」

「正直かなり困っている。王都の周辺ではこっちよりもさらに岩が少ないらしいから、運んでもらうことも出来ないしな。だから、土魔法が上手いやつに頼んで、魔法で岩をだしてもらい、維持には王都のような魔力箱と魔力パイプをという意見も出てたくらいだ」

「なるほどね~。でも、それをやるにもこの辺では魔力の元になるモンスターの数も質も悪いからってかんじ?」

「ああ、その通りだ。うめ様やさくら様は王都に頼ってくれてかまわないと言ってくれてはいるんだが、旧王都としてもあまり王都に頼りすぎるのもよくないという意見で一致していてな。それには俺自身賛同している」

「どうして?」

「モンスターの時代のことは聞いてるよな?」

「うん」

「旧王都も王都ももとの自然魔力が薄いから、そこまで影響は受けないと思われてるんだが、その道中となるとそうもいかない。極端に強いモンスターの領域はないが、そこそこ強いところくらいはあるんだ。そうなると、そこのモンスターを食いに、より強いモンスターがどこからかやってきかねない」

「なるほど、王都に頼りすぎると、いざという時にピンチになるんだね」

「ああ、その通りだ。ちなみにこの手の対策は俺たち旧王都だけじゃないぜ。例えば王都でも農地が大量にあるだろ? あれは旧王都からの補給が途切れてもいいようにしてるんだよ。誤解の無い様に言っておくが、俺達は別に王都の連中を信用してないわけじゃないんだ。ただ、依存するわけにはいかないんだよ」

「なるほど、よくわかったよ。ありがとう」

「いや、気にするな。それより、こんな山の中に入っていくのか?」

「うん、この先みたいだね。この辺もちょこっと岩があるけど、ちょっと建材には小さいね」

「ああ、そうだな」

「あ、そうだ。ここも自然環境をいじっても、そう簡単には元に戻らないんだよね?」

「その通りだ」

「なら、土魔法で道を作っちゃうよ」

「そんなことできるのか?」

「うん、まかせて~、余裕だよ~」


 ぷうは土魔法を発動させると、山の中腹に伸びる道を作り出しながら歩いていく。


「すさまじいな。これが王都でも優秀な魔法使いの実力か」

「このくらい簡単だよ」

「そんなわけあるか!」

「そういえば、確かにこの先の場所は象さんが普通に来るのは難しそうだけど、ヤギさんとかならこの程度の山、簡単に入れるんじゃないの?」

「それはそうなんだが、やつらは俺たち以上に戦闘に向かない。道中は俺たちが護衛してもいいんだが、山の中は無理だ。そして、この山のモンスターに対抗できるヤギとなると、そこまで数は多くないだろうな。それに、岩山が見つかっても、あまりに山奥だと取りにいけない。この魔法みたいに道を簡単に作れたら別だがな」


 ずっしんずっしんと小走りしながら奥へと進んでいく。そして、旧王都を出発してから1時間、予定通り岩山に到着した。


「すげえな。本当に立派な岩山があったぜ。こんだけありゃあ、ここだけで数百年は大丈夫だぞ」

「これが岩山・・・・・・」

「うん」

「岩山ってすごいんだね! こんな大きな岩はじめてみたよ!」

「じゃ、まずはおやつタイムにしようか。本来の目的はピクニックだからね」

「は~い」


 適当なところにシートを敷いて、ぷうはファントのでっかいお昼ご飯のバスケットを取り出す。いくら身体強化魔法のおかげでダッシュが速くなったり、こけても痛くないとはいえ、その分魔力はどんどん減っていく。元気になったとはいえ、ファントは魔法を使い始めたばかりだ。無駄もかなり多い。まずはしっかりご飯を食べて魔力の回復をはかる。


 そして、お腹いっぱい食べたファントを軽く昼寝させると、その間に長象さんにファントの魔法の特訓の件で協力を依頼しに行く。すると長象さんは快く引き受けてくれた。ちなみに象さん達は長象さんを中心にどんどん岩山を切っていっていた。


「ふあ~、あれ? もしかして僕寝ちゃってた?」

「うん、もう大丈夫?」

「はい!」

「じゃあ、魔法の特訓をはじめよっか」

「はい!」

「さてと、それじゃあ、俺もまぜてもらうぜ」

「長さんも教えて下さるんですか?」

「ああ、ぷうさん達じゃあ鼻を使った技とかを教えられないだろ? だから、象としての技を俺が見せて、それをお前が真似をするってわけだ。ぷうさん達には、お前の魔力の無駄や使い方の悪い部分なんかのチェックをしてもらう」

「うん、ここに来るまでに使ってた身体強化魔法もだいぶ上手になってたし、種族特有の魔法っていうのは、普段の動作の延長線上にある技が多いから、そんなに緊張しなくても大丈夫だよ!」

「ああ、その通りだ。まかせてくれ」

「はい! よろしくお願いします!」

「おう! ま、安心しろ、いままでの詫びもかねて、丁寧に教えてやるからよ」

「ありがとうございます」

「じゃあまずは鼻から水を出す技からだ。この技は俺たち象の基本中の基本の水技だぞ」

「はい!」

「せっかくだから、石材を取り出しながら見本を見せてやる」

「はい!」

「まずはこうやって表面の泥を落とすんだ」


 長象さんは勢いよく岩山に水をかけていく。


「ほら、ファントもやってみろ」

「はい!」


 ファントも水をびちゃびちゃとかける。


「よし、じゃあ次は、岩を切り出すぞ!」

「はい! でもどうやってやるんですか?」

「こうやるんだ」


 長象さんは鼻から出す水を細く、勢いよくするとまるでウォーターカッターのようにして岩を切り出していく。


「おお~すご~い」

「もし余裕があったら、なにか小さく硬いものをまぜるんだ。魔力を込めて超硬質にした水でもいいし、金属系の魔法が使えるなら、金属系の粉でもいいぞ。そうすると切れ味が増す」

「はい! 金属は無理そうなので、魔力で硬度をあげた水にします!」


 ファントもなかなか優秀なようだ。割とあっさり鼻放水を覚え、他の象さんと一緒に岩を切り出していく。


「なんか、こうやって見てるとよ。草食動物達が戦闘苦手ってのも、なんだかな~って思うよな」

「そうだね。この岩を切り出す技なんか、立派に攻撃魔法だよね」

「そうですね。夜様のこともありますし、我々も鍛えればそれなりに強くなることはできるのでしょうね」

「そう思うぜ、でも、お前らはそうする気はないんだろ?」

「そうですね。ですがいつか、再び旧王都から飛び出す同胞が出ることを、心より楽しみにしておりますよ」

「お前みたいにか?」

「おや? 私ですか? 私はただの老牛ですよ」

「誤魔化すなよ、夕焼。あんたがそこそこ戦えるってことくらい、外を走ってるときの気の使い方なんかでもうわかってんだよ。ぶっちゃけお前と夜はここにいるどの象よりも強いだろ」

「なんのことでしょう?」

「俺の目を誤魔化せると思うな。仮にもうめ様の護衛の1人だぞ? ついでに言えば魔力量の差なんかのせいもあるから、俺の方が絶対お前より長生きだぞ?」

「そうですね。私も昔、それこそ夜様がお生まれになるよりもさらに昔、大暴れしていた時代があるのです。ただ、ハンターといったようなかっこいいものではなかったのです。その後、夜様のお母上様に更生させていただき、今は夜様にお仕えしております」

「なるほどな」


 その後もファントをはじめとした象さん達の力で岩をどんどん切り出していると、続々と象さん達が集まってきた。どうやら長老さんが送ってくれた援軍のようだ。


「そろそろ魔力も限界か。最初に来ていた第1陣は岩を持って旧王都に帰還しろ。各自無理なく持てる範囲で岩を持って行くんだ!」

「「「「「はい!」」」」」

「長も1度お戻り下さい。第2陣は昼飯を持ってきておりますが、長はまだでしょう?」

「ああ、そうだな。昼飯を食べて魔力を回復したら戻ってくるが、それまで頼んだぞ」

「はっ!」


 流石は象さんパワーだ。みんな自分の体と同じくらいの大きさの岩を背中で持っているのに、来た時と同じ速さで走り出した。どうやら帰りは長象さん1人だけがファントと一緒に行くようだ。これは、ファントを1人のオスとして認めてくれたということかな?


「僕も負けないぞ~!」


 ファントも負けじと重たい岩を背中に背負う。流石は他の象さんより大きいファントだ。パワーだけならもう1人前だ。そして、魔法の特訓の成果が、早くも出始めているようだ。ファントは岩を背負いながらもこけることなく長象さんといっしょに走って帰路に着いた。


「なんか、あの2人見てるとさ、ファントが長にみえるよな。デカイし」

「だね~」

「うん」



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