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駄々っ子モード

 王都を出発して数日、旧王都への旅は順調そのものだ。強いモンスターも出てこないし、ぴぴやぷうが気になるような、強いモンスターの巣が周囲にある気配すらない。強いて問題があるとすれば、すごい暇なことくらいだが、猫の国でさんざんくたくたしていたぴぴ達である。1週間ちょっと暇になったところで、大した問題ではない。


「うめばあ~、ひまひまひま~」


 が、あまりにも暇すぎて我慢の限界を迎えるものもいた。そう、御者として付いてきたイブキだ。暇すぎてもう従者ごっこも完全に飽きてしまったようだ。最初はうめのことをうめ様と呼び、すっす、すっす言いながらも女王様扱いしてたのに、いまでは客室に乗り込んできてうめばあ呼びだ。ちなみに御者は本来従者として付いてきたマルバが代行している。


「まったく、困った子だねえ。あたしも言っただろ? 旧王都への往復なんて暇だって」

「だってこのメンバーでいくんだよ。絶対面白そうなことがあると思うじゃん。シクラメンも、ハピは面白いっていってたしさ~」

「面白いことなんてないって散々言ったろう? 旧王都への道中で問題が起きたことなんて、一度もないんだから」

「う~、それにさ~、雑魚モンスターがせっかく出ても、馬達が勝手に攻撃しちゃうしさ~」

「そりゃ、あんたの索敵範囲が馬以下なんだから、しょうがないだろう? ぴぴとぷうを見習いな、こうやって爆睡してても、モンスターが近くに来るだけでぴくぴく反応してるんだから」


 ぴぴとぷうはお腹を出して、でで~んっと寝ている。仰向けで大また開きで寝てるその寝姿は、かなりかわいいが、淑女としてどうなのって思わないこともない。いや、かわいいんだけどね。ハピは丸くなって寝るのが好きなようで、一番図体が大きい割には一番こじんまりとした姿勢で寝ていた。


「はあ、困ったねえ。そうだねえ、あたしの収納魔法に入ってる遊び道具。う~ん、お手玉でもやるかい?」

「やだ。つまんない」

「そうはいっても、あたしゃばばだからね、ばばっぽい遊びしか知らないんだよね。う~ん、困ったねえ。ぴぴ達が起きたら、なにか暇つぶしでも聞いてみるかい?」

「うん、そうして~」


 もはやどっちがお世話をする立場で、どっちがお世話される立場なのかわからない。マルバは止めないのかと思うかもしれないが、こういう駄々っ子モードに入った妖精族の相手はひっじょ~に、面倒くさいのだ。御者は絶対必要だし、ここは年長者であるうめが対応するのが、一番なのだ。


 その後もひまひま言いまくるイブキをなだめながら、ぴぴたちが起きてくるお夕飯の時間を迎えた。


「ぴぴ、ぷう、ハピや、起きるんじゃ。夕飯の時間だぞ」

「ふぁ~い」

「う~ん」

「が~お~」

「なに寝ぼけとるんだい夕飯だよ」

「「「は~い」」」


 いつものようにぷうが東屋とテーブルと椅子を用意し、ご飯を用意する。ちなみに東屋の破壊は出来ていないため、一行の通り道は実にわかりやすいことになっていた。


「のう、おぬし等、なにか楽しい遊びはないかな?」

「楽しい遊び?」

「イブキがこの旅に飽きてしまったらしくてな」

「なるほど~、取っ組み合いは?」


 まずはぴぴの提案だ。取っ組み合いとは実にぴぴらしい提案だ。実際ぴぴとぷうはこの遊びだけで猫の国ですさまじく長い時間過ごしていたといっても過言ではない。


「取っ組み合いって、バトルのことか?」

「うん」

「そうだな、帰る頃にはバトル大会だし、それがいいかもな!」

「よし、それじゃあ決定だね!」

「うめ様もやるっすよ!」

「はいはい」


 この提案でイブキはいつものすっすモードに戻った。うめのことも、うめばあから、うめ様へと呼び方が戻っていた。そしてバトル開始である。まずはイブキ対ぴぴだ。イブキの実力はなかなかのものだ。暇すぎて駄々っ子モードに突入したりしたとはいえ、いちおうさくらと交代で女王として君臨するうめの御者だ。恐らくぷうと一緒に亀を退治しに行く前のアオイより強い。でも、そんなイブキよりもっと強い、ギルマスやわんこ大臣達とここ数ヶ月特訓をしていたぴぴは、思いっきり手加減を間違えた。そして、ギルマス達にしたように、イブキを空中ピンボールしてしまった。


「うわああああああ! こんなの無理、遊びじゃない。ナノハナだってここまでひどい訓練しない!」

「あれ~、わんこ大臣達は喜んでたのに。その、ごめんなさい」


 ハピとうめも同感だ。ハピも遊びで取っ組み合いしようといわれたら、もっとかわいらしくごろごろぺしぺししあうものだと思っていたのに、これはひどすぎる。案の定イブキはご機嫌斜めだが、これはしょうがない。


「じゃあ、次はわたしの番ね」


 ぷうはアオイ達にしたように大量の猫ゴーレムを作り出してイブキと対峙する。そして、その猫ゴーレムをイブキが倒せる範囲でけしかける。


「おお、楽しいなこれ、こういうのでいいんだよ!」


 イブキは順調に猫ゴーレムを倒していく、これは誰から見ても楽しい遊びだ。早い話がただの的当てなので、ありきたりではあるが、ぷうの猫ゴーレムのバリエーションと、動かし方のおかげで、イブキも十分楽しめるものになっていた。だが、するりと後ろに回った一匹の猫ゴーレムが、イブキにおもいっきり噛み付く。


「うあああああああ! 痛い痛い痛いいたああい!」

「噛み付いちゃったね」

「うん、やるとおもった」


 ぴぴとハピからすれば、ぷうのかみつき癖は最警戒攻撃だ。やりそうな気はしていたが、案の定やっぱりやった。イブキの機嫌は、直りそうになかった。


「しょうがない、我輩がやろう」

「いやだ。絶対お前も同類にきまってる」

「そんなことないよ、我輩は非戦闘要員もん。戦闘能力は低いんだよ」

「そうなのか?」

「うん、そうだよ。ハピは空間収納こそつかえないけど、ぷうが出したご飯は、王城の食堂で作ってもらったものか、ハピが作ったものなんだよ」

「そうなの?」

「うん、そうだよ。料理長こそ我輩の最大のライバルだからね」

「よし、それじゃあやるか!」

「かかってこい!」


 そのとき、ハピはふと足元が気になった。どうやら普通のサイズの蟻の通り道にいたようだ。なぜ気になったかと言われてもハピも返事に困る。気になったものは気になってしまったのだ。ハピはなにげなく右手を上げると、蟻の列に思いっきり振り下ろした。


 ドッカ~ン!


 周囲にけっこうな音が鳴り響き、地面が軽くえぐれていた。


「は? なにが非戦闘員だよ。やっぱりハピも同じ穴の狢じゃん。もういい!」


 イブキはぷんぷんしながらミニぴぴぷちゃへと乗り込んでいった。もう夕食も終わったし、これは不貞寝をしちゃうかもしれない。


「ハ~ピ~、なんであんなことしたの?」

「え、ちょっと蟻が気になって」

「蟻?」

「うん、蟻。だって普通の蟻だよ。気にならない?」

「確かにモンスターじゃない昆虫は妖精の国では珍しいね。自然魔力が弱い旧王都周辺じゃないと、見られないかもね。大きなのはそこらへんの魔力の濃い森に山ほどいるけどね」


 ちなみにハピはよわっちい。たぶんイブキ相手でも攻撃を当てることは出来なかっただろう。なにせハピは空を飛べなければ、普通の魔法も使えないので遠距離攻撃手段もない。その辺の石を投げるくらいのことはできるが、石を強化するような魔法も使えない。そんな攻撃、出会った頃のアオイより強いイブキには絶対に効かない。そのため、実質的にイブキに有効な攻撃が出来る可能性は0だ。でも、着ている毛皮の性能だけはぴぴやぷうと同等のものだ。単純な攻撃力や防御力だけはあった。ぴぴぷちゃ号なら飛べる? ぴぴぷちゃ号はもう封印決定だ。ガス欠したらハピが消滅するリスクもあるし、そもそもぴぴぷちゃ号の魔力自体、女王様からもらったメイクンへのお出かけアイテムの1つなので、ハピの力と言っていいのか、そもそも微妙だった。


「これは、明日以降、馬車の中でできる遊びを提案したほうがいいのかもしれないね」

「そうだね、そうしてもらえるとありがたいねえ」


 こうして、3人はいままでの経験をフル活用して、イブキが馬車の中で楽しくすごせる遊びを考えるのだった。



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