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うめの自慢の馬車

 今日はハピが大量に収穫してきた草と果物を持って旧王都へ行く日だ。3人は食堂で朝食をすませると、うめとの待ち合わせ場所である馬車置き場へとやってきた。すると、1台の馬車がすでに準備されていた。


「お、来たね。なかなか早いじゃないか」

「「「おはよう~」」」

「ああ、おはようさん」

「これがうめの馬車?」

「ああ、そうだよ。なかなかかっこいいキャリッジだろ?」

「うん、いい感じだね」

「うん」

「うんうん。わたしうめが女王様って聞いたから、ぴかぴかしたのかとおもって、ちょっとどきどきしてたんだ~」

「そういうのに乗りたかったのかい?」

「ううん、こっちのほうがいい! でも、そういうのもあるの?」

「ああ、あるよ。式典なんかで使うオープントップの馬車もあれば、エルフやドワーフの国に行く際に乗る豪華な馬車もね。ただ、それらは国の持ち物なのさ。あたし個人で持ってる馬車は、全部実用性に特化しているものばかりだよ。今日用意したのは、のんびり行きたいってことだったから、コンフォートなタイプの馬車だよ」

「へ~、じゃあ乗り心地抜群ってこと?」

「もちろんじゃよ。この馬車より乗り心地のいい馬車なんて、この大陸には存在しないよ。国で持っている豪華な馬車も、基本的にはこれと同じ構造だからね」


 ぴぴとぷうはとりあえず外観を眺めて、馬のチェックなんかをしている。ハピは1人足回り、特にサスペンション等のチェックだ。こういうところは男の子としてはずせないのがハピなのだ。


 馬車と一言で言っても非常に種類がある。なにせ自動車のボディ形状なんかでよく使われるクーペやカブリオレ、ワゴンといった言葉は、元々は馬車で使われていた言葉だ。そして、今回うめの用意してくれたのはキャリッジだ。


 キャリッジは4輪タイプの馬車で、シャーシと客室が完全に分離している、一番豪華なタイプの馬車だ。なんとサスペンションも付いているのだ。外見もタイヤの上に幌つきの荷台が直付けされているようなキャラバンのようなものとはぜんぜん違う。いわゆる王侯貴族が乗るような馬車で、タイヤは大きく、客室の前後にはみ出す形で配置されている。客室もタイヤの上のスペースを目いっぱい使おうという構造ではなく、タイヤとタイヤの間に優雅に備え付けられている。これは、どうやってもタイヤのすぐ上というのは乗り心地が悪くなりやすいため、乗り心地を重視するとこうなるのだ。そして、御者席も客室からは離れた場所に設置されている。


「へ~、前後独立懸架なんだ。サスペンションはコイルスプリングに油圧ダンパー?」」

「どれどれ~、ほんとだ」

「ほほう、そこに気づくとは、なかなかやるじゃないか。その通りだよ。でもね、この馬車はそれだけじゃないよ。この馬車の客室は、魔力で浮くようになっているのさ。乗ってみればわかるけど、下手なサスペンションなんかとは次元が違うよ。オフロードですら完璧に整備された道を走っているかのごとき乗り心地のよさだからね」

「へ~、楽しみだね!」

「「うん!」」

「それじゃあ、早速出発する?」

「もう少しまちな。ちょっと時間が早すぎて、御者と従者がまだ来てないのさ」

「そっか~、じゃあのんびりまとっか」

「ねえねえ、うめ、この馬もすごいの?」

「馬にも注目してくれるとはありがたいねえ。この子達は馬番に選んでもらったんだが、最近の一押しの馬車馬って話だよ」


 ぷうとハピがうめにそんなことを聞いている時、ぴぴはずっと馬のところで馬と対峙していた。なにしてるんだろう。


「これぴぴよ、馬を威嚇するでない」

「私達が乗る馬車を引くのにふさわしいか、確認してた」

「あう」

「それで、ぴぴとしてはどうだったの?」

「とりあえず合格かな」

「まあ当然じゃな、馬番一押しの馬だからな」

「この馬ってモンスターだよね?」

「ああ、そうじゃよ。知性を持った動物の馬は、旧王都に行かないと会えないからね」


 馬車には2匹の馬がつながれているが、2匹ともちっちゃくてかわいい。そもそも妖精族が小さい種族なので、馬車も馬も小型なのだ。普通の馬との違いは、小さい以外だと角が生えていることくらいだろうか。


「なんていう種類のモンスターなの?」

「たしか、ミニマムホースとかいう種族だったかな。見ての通りパワーはないが、持久力は抜群だよ。弱そうに見えるけど、魔力は強くてね。馬車につながれていても、角から遠距離魔法でモンスターを追い払うから、けっこう便利なのさ。ちなみにユニコーンっぽさが若干あるが、あの気難しいやつらとはまったくの別物じゃよ」

「なるほどね~、そうだ、馬のご飯はどうするの? ハピの取ってきた草食べさせる?」


 馬のご飯は重要な問題だ。馬は人よりいっぱい食べるし水もいっぱい飲む。


「心配は無用だよ。この子達は妖精の国中に咲いてる花が主食だからね。水も花の魔力を体内で変換してるのか、特に必要ない。まあ、道中には小川もたくさんあるしね。そんなわけで、特に何か持っていく必要はないさ」

「それなら心配いらないね」 

「むしろへんなもの与えないでくれよ。グラジオラス、シクラメン、ローズみたいにパワーアップでもされたらやっかいだし、なにより味を占めると後が面倒くさいからね、あたしが馬番におこられちまう」

「うん、わかった」

「「は~い」」


 その後もミニマムホースと遊んだりしていると、ようやく御者と従者がやってきた。


「「うめ様」」

「お、来たね」

「うめ様、早いっすよ」

「そうですよ。出発時間にはまだ早いですよ」

「別に怒っちゃいないだろう?」

「そっすね」

「そうですね」

「ぴぴ、ぷう、ハピ、紹介するよ。このすっすうるさいのが今回の御者、ちょっと礼儀正しいのが従者だよ。あんたらも知ってると思うが、ナノハナの直属の部下だよ。あんたら、自己紹介しな」

「うっす、今回御者をまかされたイブキっす。うめ様やナノハナさんから御三方のことは聞いてるっす。お肉や果物ありがとうっす。めっちゃうまかったっす」

「私の名前はマルバ、このイブキと同じく近衛師団第1部隊所属です。よろしくお願いいたします。私もお相伴に預からせていただきましたが、非常に美味しかったです。ありがとうございました。もしイブキの口調がうるさいようならおっしゃってください。黙らせますので」

「ひどいっすよマルバ先輩、俺はうるさくないっすよ」

「私はぴぴだよ」

「わたしはぷう!」

「我輩がハピだよ!」

「よろしくっす!」

「よろしくお願いします。ではうめ様、出発いたしますか?」

「そうだね、ちょっと早いけど出発しようか」

「では、皆さんは客室にお乗り下さい。何か御用がありましたら、私は客室の後方に、イブキは客室の前方の御者台におりますので、お申し付け下さい」

「「「は~い」」」

「ああ、わかったよ」


 みんなが乗り込むと、馬車が動き出す。


「おお~、すごいね。本当にゆれが気にならない!」

「うん、我輩もこれはびっくり」

「うんうん」

「まあ待ちな。まだ王都内の舗装路だよ。揺れなくっても不思議じゃないさ。王都の外の道に出てからが本番だよ」

「うん」


 馬車はそのまま西門を出て外にいくが、外に出てもぜんぜん揺れない。


「おお~、本当に揺れないね」

「だろう? 窓から車輪を見てごらん」

「うん。車輪がすごい動いてる?」

「うむ、そのものすごい車輪の動きから来る振動を、サスペンションの動作だけで吸収できると思うかね?」

「無理だね。これほどの振動、普通は吸収できる振動じゃないね」

「だろう? それをスプリングと油圧ダンパー、それに魔法による客室の浮遊という3要素で消してるのさ」

「うん、すごいね。大陸1コンフォートっていうのも頷けるかも」

「それもだけど、この馬車って、結構速い?」

「そうだね、大体時速60キロメートルくらいじゃないかね」

「そんなにスピード出して大丈夫なの?」

「大丈夫だよ。この馬車は軽いし、ミニマムホースは普段は時速100キロメートル以上の速度で走り回ってる種族だからね。このくらいの速度だと、せいぜい早足くらいさ」


 流石はモンスターが蔓延る世界の馬形モンスターだ。すさまじく速い。


「休憩は1時間おきにとるけど、いいかね?」

「うん、のんびり行きたいから、ゆっくりな分にはいくらでも~」

「でも一応聞きたいんだけど、どのくらいで到着予定なの?」

「ん~、このペースだと1週間ちょっとかねえ。全体の予定としては、バトル大会までには戻るって事でいいんだよね?」

「うん、アオイとかみんなの応援しないとだからね!」

「なら余裕じゃろう。バトル大会まではまだ3週間以上あるうえ、旧王都では農作物を置いてくるくらいしかやることないからのう」

「そうだね。チーズってすぐできるわけじゃないんだよね?」

「そうじゃの。エサを変えて、そのエサの効果が十分にでる乳が取れるのに時間が掛かるらのう。出来上がるまでに数ヶ月かかるやもしれんな」

「けっこうかかるんだね~」

「まあ、仕方あるまい。じゃが、安心せい。様々な種族に様々なチーズを作ってもらう話はもうしてあるし、出来たチーズの搬送も手配はばっちりじゃからの。本来ならこちらで農作物を持ってっても良かったくらいなんじゃが」

「そこはわたしたちものんびりしたかったからね~」

「うむ、なんにせよ楽しみじゃのう」

「そうだね、女王様達よろこんでくれるかな~」


 こうして一行はのんびりと旧王都へと向かっていく。


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