妖精トリオの異変
翌朝、ハピは起きると朝食の用意をすませて、グラジオラス、シクラメン、ローズの3人を起こしにいく。
「ご飯できたよ~」
・・・・・・。
「あれ~?」
だが、3人が起きる気配がない。特にご飯という単語を聞いて、シクラメンが反応しないのはおかしい、おかしすぎる。ハピは3人が寝ている個室に出向いていくことにした。個室とはいっても、妖精族用のお部屋ではない。あくまでも猫用の簡単な寝床だ。猫の口が大きく開いたデザインの、もこもこの猫用ベッドだ。まずは台所から一番近いシクラメンの個室を覗く。
「お~い、ご飯だよ~」
すると、内部ではシクラメンが苦しそうにうめいていた。
「シクラメン? どうしたの? 大丈夫?」
「体が、熱くて、爆発しそう。魔力の、量、が多すぎる。体の中で、あばれてる、かんじ」
「あうあうあうあう、どうしたらいい?」
「グラちゃんと、ローズちゃんは、平気かな?」
「ちょっと見て来るね」
ハピはグラジオラスとローズの様子もみる。シクラメンほどではないが、グラジオラスとローズも体調が悪そうだ。ハピはとりあえず合流したいとの3人の意見を聞いて、みんなを一緒に並べた。
「グラちゃん、ローズちゃん、あたし、体、熱くて、魔力、ぐるぐるしてるみたい。体も、内側から、爆発、しそう」
「ええ、私も魔力過多状態ですわ。ですが、内側から爆発は、しそうではありませんわね」
「ああ、俺もだ。たぶん内側から爆発は、昨日の食いすぎが原因じゃねえか?」
「うう、それ、ひどくない。あたし、ちょう、くるしい、のに」
「ハピさん、ここは魔法を使っても、大丈夫ですか?」
「うん、大丈夫だよ。好きなだけ使って良いよ」
ぴぴぷちゃ号の中は猫にとって都合のいい空間という、猫の国と同じ仕様だ。猫にとって都合がいいということは、逆の言い方をすれば猫にとって都合の悪いことを全て無くせるという、よくよく考えると妖精族にとってはこの上なく危険な場所であるが、まあ、3人がどんなに暴れても大丈夫だ。なぜなら、ぴぴぷちゃ号が内部からダメージを受けるということは、一応猫であるハピにとって都合が悪いことなので、ダメージを受けないからだ。おまけに今は巨大ドラゴン討伐時のまま、ぴぴぷちゃ号は超巨大モードのままだ。スペースも結構広い。
3人はすごい勢いでがんがん魔法を使っていく。こんなに魔法連発していいのかと思うほどの連発っぷりだ。
「ねえみんな、そんなに魔法撃って平気なの?」
「ああ、ぜんぜん平気だ。むしろ撃ちまくらねえと、自分の魔力でどうにかなっちまいそうだ」
「ええ、この症状は私も経験があるのですが、子供から大人になるときなど、魔力量が大幅に上昇する時に起こる症状なのですわ。症状としては、急激な魔力量上昇に体がついていけていないことが原因ですので、ひたすら魔法を撃ち続けていれば、治りますわ」
「ううう、絶対違う。だって、あたしも経験あるけど、お腹が爆発しそうになったことはないもん」
「だから、シクラメンのお腹の爆発は、食い過ぎだって言っただろ」
3人は魔法をひたすら撃ちまくる。どうやら魔力が非常に豊富な食材を食べたことにより、魔力体が急成長し、成長痛とかと同じような症状がおきているようだ。3人の様子を見る限り、問題ないようだ。
「そうなんだ。なら、我輩は見守ってるね。なにかほしいものあったらいってね」
「くだものがほしい・・・・・・」
「シクラメン、食べすぎですわよ」
「そうだぞ、本当に腹が爆発するぞ」
「うう~」
「ま、まあ、なにかあったら呼んでね」
こうして3人は魔法を撃ち続けた。それこそ睡眠もとらずに丸一日打ち続けた。
そして、翌日。ハピが目覚めると、3人はまだ魔法を連発していた。
「おはよう~。もしかして、寝ないでず~っとそれやってたの? 寝たり食べたりしなくて平気?」
「おはようございます。ええ、大丈夫ですわ。体内魔力が豊富すぎて、眠気も空腹も一切感じてませんの」
「おう、おはよう。ああ、自分でも不思議なくらいぜんっぜん平気だぜ。むしろいま追加で食事からの魔力供給があると、そのほうが辛いな」
「あたしはお腹爆発しそうなのちょっとは治まってきたから、朝ごはんに果物食べたいな」
「ダメよ」
「ダメだ」
「は~い・・・・・・。でも、なんか飽きてきちゃった。ねえハピ、面白い魔法ない?」
「面白い魔法?」
「うん、あたし達の知らない魔法とか教えて、そういう魔法も使ってれば、飽きないと思うんだよね」
「いい考えですわね。私からもお願い致しますわ」
「ああ、面白そうだな。俺からも頼むぜ」
「う~ん、我輩の場合猫グッズを作ることしか出来ないけど、それでもいい?」
「うん、いいよ~」
「お願いしますわ。ご飯皿もですが、このぴぴぷちゃ号をも作り出した魔法ですもの、興味ありますわ」
「ああ、俺もだぜ」
「とはいっても、我輩も何でできるのかわかんないんだよね」
「それは気にしなくても良いですわ。私達が見て、魔力の流れ等を見て再現しますので」
「そういうことなら、やってみるね」
ハピは猫グッズ魔法を発動する。今回作るのは猫グッズの中でも基本中の基本、猫じゃらしだ。ただ猫の気を引くためにふりふり動くだけなので、非常に作りやすい。ハピは、棒の先にふわふわの付いた、シンプルな猫じゃらしを作りだした。
「はい、これが猫が夢中になるおもちゃ、猫じゃらしだよ」
「ふ~ん、貸して」
「うん、どうぞ~」
シクラメンはハピから猫じゃらしを受け取ると、くんくん匂いをかぐ、そして、ハピの顔の前で猫じゃ裸子をふりふりする。
「ぴぴやぷうは割と好きだけど、我輩には効かないよ」
そう、ハピは元人間なので、猫じゃらしに興味津々になるようなメンタリティーではないのだ。どちらかというと猫じゃらしよりも、猫そのものに興味があるのが猫好きのハピなのだ。
「でもハピ、目が追いかけてるし、手も出てるよ?」
「え?」
ぐう、これが猫の本能とでもいうのだろうか、我輩の目が自然と猫じゃらしを追い、手がひくひくと反応する。むうう、猫グッズ魔法でつくった猫グッズには、ご飯皿やぴぴぷちゃ号のように不思議な力があるものも多いが、この猫じゃらしにそんなものはない。にもかかわらず体が反応しまうとは、くうう、不覚。
「それよりもその魔法の再現を致しますわよ」
「うん、そうだったね」
「おう、やるぜ」
「ではまず質問なのですが、これは属性は何になりますの?」
猫グッズの属性、実に困る質問である。ハピはその辺のことはよくわかっていない。なにしろ猫の国という猫にとって都合がいいことしか起こらない空間に慣れすぎていたこともあり、深い理屈を考えなくても出来てしまっていた。ハピとしてもよりより猫グッズ作りのために、研究したかったのだが、そもそも調べたくても、検証の仕方すらハピにはわからない。そのため、ハピも一応原則的な知識を持ってはいるがその程度だ。
例えば、動物が活動するには、自然の力を取り込まなければならない。どんなにパワーがある動物も、どんなにスタミナがある動物も、食事や呼吸から得たパワー以上の力を出すことが出来ない。そして、魔力も同様だ。食事などで取った自然界の魔力は、消化吸収されて個々の魔力に変換される。多くの魔力は命の魔力として、生命維持に使われるが、そのうちの一部が、個々が自由に操れる魔力となるのだ。そのため、元が自然の魔力であるため、放出する時にも自然界の何かになることが普通なのだ。なので、ぱっと見ではよくわからない複合的な魔法であろうが、基本的には魔法には属性がある。
だが、猫グッズ魔法はどう考えても不自然なことがいっぱいだった。そして、どの属性が含まれているのかさえよくわからなかった。
「それが、我輩もいろいろ調べたかったんだけど、猫魔法のことに関しては、属性含めてなんにもわかんない」
「そうですのね。困りましたね。私にも何もわかりませんでした」
「ああ、たしかに不思議な力だよな。普通なら主体となってる属性くらいはすぐにわかるのに、何の属性で出来ているのか、一個も思いつかなかったぜ。触ってみても植物でもなければ、金属でもない。何で出来ているのかさっぱりだぜ」
「我輩もぜんぜんわかんないんだよね。でも1つ言えることは、食べても大丈夫だよ」
まさに、猫グッズの不思議な点その1だ。地球の猫じゃらしならほぼ間違いなく素材がわかる。おおよそ何かの動物の毛や羽根か、石油由来のものである。だが、猫グッズは材質不明なのだ。猫の国では、猫じゃらしの先端部分などを間違って食べちゃう子もいたが、猫グッズは猫が食べても問題のない、超安全設計だ。もちろんハピが食べても害のないもの、という魔力の使い方をしたからそうなっているのだが、結局なにで出来ているのかは不明だ。
食べても言いという言葉に反応したのはシクラメンだ。早速とばかりに食べ始める。
「ちょっと、何をしているのですか?」
「おい、いくらなんでも食うか?」
「ん、ちょっとフルーティーな味がするよ」
シクラメンが果物食べたいと、何度も言っていたこともあり、ハピが猫魔法を使うときに果物の要素が少し混ざったようだ。さきほどくんくん匂いをかいでいたのも、フルーティーな匂いに反応していたのかもしれない。
「あ、ちょっとまって、猫が食べても大丈夫なだけで、妖精が食べても大丈夫かはわかんないよ」
「へ~き、へ~き、ふさふさの部分ちょっとだけだし」
「そっか、なら大丈夫かな?」
「ハピの言う猫グッズ魔法がよくわかんない魔法なのはわかった。他の魔法はないの?」
「我輩猫グッズ魔法以外だと、テレパスとか、サイコキネシスしか使えないよ」
「う~ん、そんな誰でも使える魔法じゃつまんない。他~、ほか~」
食べるのが生きがいのシクラメンが、魔力過多状態のために、昨日からなにも食べてない。そろそろストレスの限界なのかもしれない。どんどん駄々っ子のようになっていく。
「それなら我輩のぴぴぷうコレクションでもみる? 動画で保存してあるから、戦闘シーンなんかもあるよ~」
「それは良さそうですわね」
「ああ、いいじゃねえか!」
「うん、良さそうだね」
こうしてハピ達4人は、魔法の勉強もかねて、ハピの取り溜めていたぴぴとぷうの動画集を観賞することになるのだった。




