ぴぴぷちゃ号
3人の前に突如現れ、巨大ドラゴンをさくっと倒したなぞの猫の頭部を模した巨大な球体。3人は、どこから現れたのか、どうやって巨大ドラゴンを倒したのか、敵か味方かもわからないこの物体に、恐怖した。ということもなく、3人とも、あ、これがぴぴぷちゃ号かと、なんとなくわかった。
そして、3人の想像通り、ぷかぷか近づいてきたぴぴぷちゃ号の口が開くと、ハピが現れた。
「ね~ね~、聞いて。あの巨大ドラゴンのブレスのせいで、宇宙まで吹き飛ばされちゃった。ひどくない?」
「ええ、ひどい目にあいましたね」
「ああ、俺もびびったぜ」
「うん、あたしも心配したよ。ところで、それがぴぴぷちゃ号?」
ハピの間抜けな悲鳴を聞いて、あ、絶対こいつ無事だと思った3人ではあったが、攻撃を食らった瞬間は本当に心配したのも事実なので、うそではない。ハピはぴぴぷちゃ号の口から飛び降りると、なぞのダンスを始めた。どうやらハピの動きに連動してぴぴぷちゃ号も動くようだ。
みぎ~て♪ ひだり~て♪ みぎあ~し♪ ひだりあ~し♪ し~っぽ♪ お~み~み♪ くるっとまわって、ぴぴぷちゃ号♪
ハピとぴぴぷちゃ号がびしっと決めポーズを取った。
「あ、ああ、なんかわかんないが、すげえな」
「え、ええ、素敵な歌と踊りでした」
「うん、結局これがぴぴぷちゃ号でいいんだよね?」
「ふふふ、その通り、この子こそ我輩の猫グッズの中でも最高傑作と言われる。ぴぴぷちゃ号なのです」
だが、あくまでも自称最高傑作である。他の猫達にとっては、ハピの猫グッズの価値イコールご飯皿である。
「しっかしすげえな、あのドラゴンを楽に倒しちまうなんて」
「ねえねえ、この宇宙船とぴぴとぷうなら、どっちが強いの?」
「私も興味ありますわ」
「ふっふっふ、このぴぴぷちゃ号は、何度も何度もぴぴとぷうを捕獲して、お風呂に入れてきた猛者中の猛者なんだよ」
ハピが首を上下にコクコクするのにあわせ、ぴぴぷちゃ号も上下に揺れる。地味に芸が細かい。
「は~、そんなに強いんだな」
「それは、すさまじいですわね」
「これはオフレコなんだけど、実は我輩の猫グッズは、猫達は拒絶可能なの。だから、ぴぴとぷうが本気で嫌がれば、ぴぴぷちゃ号での捕獲は出来ないんだよね。だから、全力で拒絶されないように、我輩が上手に誘導してるの」
「じゃあ、ぴぴとぷうはだまされてるってこと?」
「健康のための、多少の犠牲ってやつですよ」
「ものは言いようですわね」
「まあ、このぴぴぷちゃ号の真の性能を引き出すには、我輩が単独で使うんじゃなくて、ぴぴとぷうにも乗ってもらって、ぴぴとぷうのサポートアイテムとして使うのが一番なんだ。我輩だけだと、ぴぴとぷうを安全に猫の国へ連れ帰るくらいのことしか出来ないの。いまの攻撃も、我輩の力っていうよりも、ぴぴとぷうが乗ってた残留魔力みたいなので攻撃しただけなんだ」
「ふ~ん、強力だけど、いろいろ制約もあるって事か」
「うん、そんな感じ。でも、残ってた力だけで倒せてよかったよ。もし無理だったら、勢いつけて体当たりくらいしか、攻撃手段なかったからね。それで、体当たりでも倒せなかったら、みんなを咥えて逃げるしかなかったから、ブラキオサウルスは助けられなかったし」
「そうですわ! ドラゴンに襲われた草食モンスターはどうなったのですか?」
巨大ドラゴンに襲われた草食恐竜の方を見てみると、仲間が集まり、回復魔法をかけているようだ。ドラゴンの爪で重症を追っていたであろうわき腹のキズが、少しずつ塞がっていっている。これなら特に何もしなくてもいいだろう。
「よかった、無事のようですわね」
「ああ、本当だな」
「うん、よかったよかった」
「だね。じゃあ、我輩達はあの巨大ドラゴンでも回収してこよっか」
「お、いいな、それ。ぜってえうまいぞ」
「ええ、楽しみですわ」
「うん、楽しみだよね」
「じゃあ、行こっか~」
「「「お~!」」」
ハピ達は猫トラックバージョン2を呼び戻し、巨大ドラゴンへと近づいていく。巨大ドラゴンは本当に巨大だ。全長は1000mくらいある。そんな超巨大なドラゴンではあるが、猫トラックバージョン2は平然とそれをしまいこめる。軽自動車くらいの大きさしかない猫トラックバージョン2に、その体積の何十倍もある巨大ドラゴンが入っていく様子は、なかなかにユニークだ。また、ハピ達はしまいながらも、本日のご飯用のお肉を、切断面からくりぬいていた。
「おい、シクラメン、いくらなんでもそれはでかすぎだろう。お前よりでかいじゃねえか」
「大丈夫だよ。食べるから」
シクラメンが確保したドラゴンの肉は、どう考えてもシクラメンの体積よりも大きい。質量も体積も数倍はあろうかという肉の塊を、食べれるというシクラメンの感覚はだれにもわからない。
「シクラメン、このくらいになさい」
「い~や~だ~!」
グラジオラスが常識的な範囲の大きさのサイズを提案するが、シクラメンは一歩も譲らない。しばらくの押し問答の後、グラジオラスとローズが根負けしたようだ。そんな中、ハピは摩訶不思議なものをみつける。勝利したシクラメンもやってくる。
「ハピ、なにそれ?」
「よくわかんない。落ちてたの。この玉」
「ふ~ん、あのドラゴンのものらしいけど、すごい魔力だね。でも、硬いね」
「うん、我輩の爪も無理そう」
「食べられるのかな?」
「う~ん、食べれないことはなさそうだよね。硬いけど、我輩のご飯皿で料理すれば、問題ないかな」
「そうだね、じゃあ、それも4等分してみんなで食べよっか」
「うん、ちょっとぴぴぷちゃ号の爪で切ってくるね」
こうして今日のご飯がハピによって作られた。シクラメンのお皿だけ、量がちょっとおかしいが、まあ、いいだろう。みんなで仲良く食事開始だ。
「「「「おいしい~!」」」」
「これは美味しいね。ついに我輩の料理が、王城の料理長を越えたかも」
「ええ、これは最高傑作ではないでしょうか?」
「ああ、こんなに美味いもん食ったことねえよ」
「・・・・・・」
4人でご飯を食べていると、巨大ブラキオサウルス達が現れた。ブラキオサウルス達は、果物を4人のそばにおいていく。どうやらくれるようだ。
「あら、くださるのかしら?」
ぶお~!
「ありがとうよ!」
「ありがとうね!」
「・・・・・・」
ブラキオサウルス達は4人に果物をプレゼントすると、悠然と去って行った。このブラキオサウルス達、果物の目利きはなかなかのもののようだ。どれもすごいおいしそうだ。
「うん、果物もおいしいね」
「ええ、本当ですわね」
「ああ、なかなかいい目利きだな。俺達が収穫したやつより美味いな」
「・・・・・・」
その後はみんな無言でばくばくと食事を楽しんだ。若干1名最初から最後まで無言だったものもいるが。そして、結局みんな同じくらいのタイミングで食べ終わった。なぜシクラメンが自らの体積の数倍のお肉を、みんなと同じタイミングで食べ終えたのかは、実に不思議であるが、まあ、シクラメンという妖精はそういう生き物なのだ。だれも気にしないことにした。
「じゃあ、お腹もいっぱいだし、お風呂でも入ってねよっか~」
ハピはそう言ってぴぴぷちゃ号に乗り込もうとする。
「あの、ハピさん?」
「ん? どうしたの? 速くいこうよ~」
「いや、ハピさ、おまえのそのぴぴぷちゃ号、ルール違反とか言ってなかったか?」
「ああ、そのこと? ぜんぜん平気、これ見て」
そう言うとハピは1冊の冊子を取り出した。
「なになに~、ぴぴぷちゃ号は宇宙での移動での使用はいいけど、惑星メイクンへの持ち込みは禁止です。メイクンに着いたら、静止軌道にでもおいておくべし。だって」
「うん、メイクンはあそこに浮かんでる星だから、ここはメイクンじゃないよね?」
「なるほど、そういうわけですのね」
「なんか、すげえ屁理屈な気もするが、まあ、たしかにここはメイクンじゃねえもんな」
「でしょ~?」
「なるほど、ハピってばあったまいい~!」
「ふっふっふ、それほどでも~。そういうわけだから、遠慮なくぴぴぷちゃ号をつかっちゃおう。ぴぴぷちゃ号の中には、お風呂も完備してるんだよ~」
「おお~、いいね~」
「そうですわね、王都を出発して以来、お風呂には入っておりませんでしたし」
「だな、洗浄魔法で汚れは落ちるとはいえ、やっぱ風呂は別格だもんな」
「うん、というわけで、ようこそ、ぴぴぷちゃ号へ!」
「「「おじゃましま~す」」」
こうして、一行はぴぴぷちゃ号で一夜を明かすことになるのだった。




