未知の惑星
4人は巨木の森の不思議な木から転移した未知の惑星で、草を刈ったり果物をもいだりしていた。
「この惑星は植生が違うようですわね」
「もぐもぐ、みかん、りんご、キュウイ、レモン、もぐもぐ、ここは寒い時に出来る果物が多いね」
いまもみかんの木に登って4人は収穫中だ。もうこの惑星に来てはや1週間、この惑星を探索しつくすというまではいかなかったが、不思議な木の周辺くらいは、探索を終えていた。
「ですが、木の形などは本来のものとは違いますわよね?」
「うん、我輩の知ってるみかんの木は、こんな1000m級の巨木じゃないし、形も違った気がするんだよね」
「もぐもぐ、普通の果物の木の形ならあたしは全部知ってるけど、もぐもぐ、みかんの木はこんな形じゃないね」
「まあ、巨木の森の木の時点でおかしかったし、どうでもいいさ。美味いしな」
「ええ、そうですわね」
ただ、巨木の森の1000m級の木々の場所とは異なり、ここには草食モンスターがおり、その大きさもすさまじく大きかった。前足をあげれば、この巨木の上部の葉っぱやみかんをばくばく食べれるほどの大きさだ。また、この草食恐竜の群れには、サイズの小さい子供もいた。子供は流石にそんなに大きくないので、親がみかんや葉っぱを咥えてあげていたようだが、最近はそれに3人も混ざっていた。
「あ、また首の長いのが来たよ」
「ほんとだ。ちっさい子供のやつもいるな」
「私、みかんをあげてきますわ」
「あ、ずりいぞグラジオラス」
「そうだよ、グラちゃん」
3人はもうすっかりこの環境にもなれたようだ。首の長いブラキオサウルスのような草食恐竜の子供に、エサをあげるために、みかんを抱えて飛んでいく。
「ほ~れ、食え食え~」
「こっちのほうが美味しいよ~」
「いいえ、私のものが一番ですよ」
3人はそれぞれが目利きしたみかんを首の長い草食恐竜の子供に上げていく。ハピはその様子を木の上からのんびりながめていた。え? ハピはあげないのかって? ハピは飛べないのです・・・・・・。
妖精族の3人は、最初のころは巨木の森のぶどうを運ぶのも苦労していたが、今では巨木の森のぶどうよりはるかに大きい、この未知の惑星のみかんを持って苦もなく飛んでいる。自然魔力が豊富な土地で過ごし、魔力が豊富な果物を摂取することで、3人はかなりのパワーアップを果たしていたようである。これは、3人にとってははるかに格上の環境であることを意味していたのだが、草食恐竜としか出会わなかったことで、すっかり警戒心がなくなっていた。
ガアアアア!
そう、それは完全なる油断。いや、ローズが言っていたように、もはや周辺環境と、本来の実力の格差のせいで、センサーが木っ端微塵に壊れていたのかもしれない。上空から現れた、巨大なドラゴンに、誰も気が付かなかった。
ブオ~ン! ブオ~ン! ブオ~ン!
巨大なドラゴンは大人の草食恐竜目掛けて空中からつっこんできた。このドラゴン、いわゆる西洋タイプのドラゴンだ。巨大な3本の足の爪を草食恐竜のわき腹に突き刺す。攻撃を受けた草食恐竜は苦しそうに声を上げる。他のブラキオサウルス達は大急ぎで逃げていく。子供も一緒だ。
これはまずい、普通の肉食動物と草食動物の関係なら、大人の草食動物は狙わないし、狙われても群れで対処できることが多い。なにせそのために肉食動物を越える巨体になるのだし、群れなのだから。それは巨木の森の頭でっかちドラゴンも一緒だった。実際トリケラトプス達は抵抗できていた。だが、この巨大ドラゴン、大人の巨大ブラキオサウルスよりも、さらに大きい。普通に大人の草食恐竜をハントできるサイズだ。
『まずいまずいまずいまずい、これはピンチだよ、どうしよう』
『どうしようって、どうしようもないですわ、見つからないように、逃げるしかありません』
『くそっ、こっちに気づくんじゃねえぞ』
3人は子供のブラキオサウルスの頭に張り付いて、ブラキオサウルス達の群れと共に逃げ出していた。ハピも木の上で無事だ。
だが、そんな逃げるブラキオサウルスの群れ目掛けて、ドラゴンは大きな口を開けた。
『やばいやばいやばい、なにか来る』
『まずいですわ』
『ちい、当たんないように祈るしかないだろ』
グラジオラス達がピンチに陥っていたとき、ハピがぷうのスーパーゴブリンゴーレムを取り出して、木の上から攻撃した。
バッコ~ン!
「ふっふ~ん、どんなもんだい!」
ハピのスーパーゴブリンゴーレムの一撃は見事に命中したが、巨大ドラゴンはまったくの無傷だ。しかえしとばかりにハピのスーパーゴブリンゴーレムにブレスを発射した。ビームのようなブレスがハピのスーパーゴブリンゴーレムを襲うものの、ハピは咄嗟にこれを回避する。だが、わずかにスーパーゴブリンゴーレムの左腕にかすったようだ、ビームのあたった左腕は綺麗さっぱり消滅していた。
ハピは攻撃を開始すると同時に、猫トラックバージョン2を妖精トリオの救出に向けて走らせていた。猫トラックバージョン2は無人でもいうことはちゃんと聞いてくれる、実に賢い乗り物だ。子供ブラキオサウルスの頭まで全速力で移動して妖精トリオを回収する。そして、巨木の森へ逃げ込むために不思議な木へ向けて走り出す。転移の実はハピや妖精トリオからすれば大きいが、ここの巨大なモンスター達では頭も入らない。巨木の森に逃げ込めれば、追いかけてこられる可能性は低い。
「ハピさんは無事なのでしょうか?」
「わかんない、いまどこにいるの?」
「あそこだ、なんか羽根が生えて空飛んでる」
ハピのスーパーゴブリンゴーレムはスーパーの名に恥じない多種多彩なモードがあった。そのうちの1つが飛行モードだ。背中からロボチックな羽根が生え、空を自由に飛べる。ハピは空中をひゅんひゅん飛びながら右手の大砲をばかすか連射する。狙いはダメージを出しやすい目だ。
ガアアアア!
これには巨大ドラゴンもいらいらしたのだろう。ハピのスーパーゴブリンゴーレムを倒すためにもっと強力なブレスを撃つことにしたようだ。大きく息を吸い込み、すさまじい魔力がドラゴンの口に溜まっていく。
「このままでいいのでしょうか?」
「ああ、ハピの攻撃、まったく効いてなかったよな?」
「そうだよ、あたし達は、ハピの護衛にきたんだよ。このままじゃ、ただの足手まといだよ」
3人が迷っている時間は、ほんの一瞬だった。
「シクラメン、ローズ、いきましょう!」
「ああ!」
「うん!」
3人は猫トラックバージョン2から瞬時に飛び出した。
「ハピさん、聞こえますか? 私達が囮になります。猫トラックバージョン2とお逃げ下さい!」
「そうだぜ。ハピ、お前は収穫物を持って逃げろ。それがお前の役割だろ!」
「うん、果物いっぱい美味しかったよ。無駄にしたら怒るからね!」
そして、3人は全力で攻撃する。普段は高速で飛びながらの魔法なんて撃てないし、チャージにもすごい時間の掛かっていた3人だったが、なぜか今は高速移動しながらでも、瞬時に魔法が撃てる気がした。そして3人の放った魔法は、普段のそれよりもはるかに高威力だった。それは、ここ2週間魔力豊富な土地で過ごし、魔力豊富な食材を食べ続けた効果だろうか、最後の一撃と決め、すべてを込めて放った一撃だったからだろうか。
「食らえ、ビューティフルアイスレイン」
「いでよ。スーパービューティーワンダーハイパーゴーレム」
「焼き尽くせ、キラキラピカピカサンシャインアタ~ック」
ローズの魔法はパワーアップを果たし、今までだったら自身の周囲を浮かぶ光の球から、魔法を連射する技だったのが、光そのものを自在に飛ばせるようになっていた。ローズは光の球を全力で巨大ドラゴンに向かわせて、一転集中でアイスレインを撃つことに決めた。
グラジオラスの魔法もいままでにない巨大な火の玉になっていた。おまけに今まで弱点だった飛翔速度も改善されているようだ。ローズの光のたまには負けるものの、かなりの速さで飛んでいく。それどころかある程度なら自在に操れそうだ。グラジオラスは、ローズが冷やしまくった箇所にぶつけることに決めた。
シクラメンも過去にない大きさのゴーレムを生み出していた。大きさだけだったらスーパーゴブリンゴーレムにも負けない、50m級の妖精型ゴーレムだ。しかも羽まで再現して空も飛べそうだ。シクラメンは高速で飛翔させて、その勢いを使ってそのまま剣を突き刺すことにした。
この魔法で巨大ドラゴンのターゲットが自分達に移れば、3人は死ぬ。そんな覚悟で放った3人の魔法が巨大ドラゴンに襲い掛かる。
だが、猫トラックバージョン2がかなり速かったせいもあり、けっこうな距離があったようだ。3人の攻撃が届く前に、ハピ目掛けてすさまじい威力のブレスが発射された。回避不可能の超極太ビームが、ハピのスーパーゴブリンゴーレムを飲み込んだ。
「な~あ~あ~あ~あ~あ~あ~」
スーパーゴブリンゴーレムは完全に消滅し、ハピは悲鳴をあげながら飛んでいってしまう。3人は愕然としたが、すぐにあることに気づく。
「なあ、あんな大声上げてるってことはさ、ハピのやつ、無事っぽくね?」
「ええ、そうですわね」
「うん、あんな緊張感のない悲鳴、絶対無事だね」
「よし、俺達も逃げよう」
「はい」
「うん」
後ろを向いて逃げようとした時、後方でどかどかと音が鳴る。そう、ローズの光の球がようやく巨大ドラゴンに届き、超連射アイスレインを発射し始めたようだ。さらに、グラジオラスの火の玉が直撃する。さらに、シクラメンのゴーレムも、飛行からの剣突き刺しを決めようと飛んでいっている。
巨大ドラゴンはこの攻撃にぎろりと3人のほうを向く。
「まずいですわね」
「ああ、完全に余計なことやった気がする」
「あたしのゴーレムはまだなにもしてないのに~」
「に、にげろ~!」
「「きゃ~!」」
3人はあわてて必死に逃げ出すが、巨大ドラゴンは軽く息を吸い込む、どう考えてもブレスの予備動作である。死んだ、3人が諦めかけたそのとき、巨大ドラゴンの首に、4本の線が走った。
ズッズ~ン!
ブレスを吐き出すこともなく、4つの輪切りになったドラゴンの首が地面に落ちる。そしてそこには、巨大ドラゴンにも負けない、巨大な猫の顔をした球体が浮かんでいた。




