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巨木の森の中心部

 妖精の国から3日かけて巨木の森に到着し、巨木の森で散策することさらに4日、ついに4人は巨木の森の中心部に足を踏み入れた。巨木の森はその名の通り、そこらじゅうに生えている木が大きいのが特徴の森だ。外周部でさえ300m級の木々が生えていたのだが、中心部は1000m級の木々が生えていた。そして、木の高さが変われば、木の太さも変わるし、木の密集具合も変わる。


「うわ~、すごいね~。この幹なんてすさまじい太さだよ」

「ええ、本当ですわね」

「ああ、すげえでかさだな。それに、周辺の自然魔力もすさまじい強さだぜ。外周部とはさらに比べ物にならねえ魔力だな」

「うん、すっごいね。でも、慣れって怖いね。この先のほうが確実にやばいのに、なんにも感じなくなっちゃった」

「ええ、確かに私もなにも感じてませんね」

「まあ、迷っててもしかたねえぜ。俺の危険を察知するセンサーは、ぶっ壊れたどころか、跡形もなく粉砕されちまってるしな! うっしゃあ、いこうぜ!」

「「「お~!」」」


 最初の頃はけっこうおっかなびっくりで、猫トラックバージョン2から出るのを怖がった妖精トリオも、今ではすっかり巨木の森になれたようだ。いいのか悪いのかはよくわからないが、いまではそれぞれ空を飛びまわっている。そして、みんなでどんどん探索しながら、どんどん果物や草を収穫していく、木に負けず劣らず果物も草も全部大きい、木がだいたい3倍強なのと同様、果物の大きさも草の大きさも3倍強あった。


「でも、植物が大きいだけで、果物の種類なんかはあんまり変わらないんだね」

「そういえばそうですわね。ぶどう、なし、かき、くりと、植生自体に差はないですわね」

「あとさ、なんか静かじゃねえ?」

「もぐもぐ、うん、あたしも思った。もぐもぐ、もしかしてここって、モンスターがいないのかな?」

「なるほど、確かに我輩の耳にも何の音も聞こえないや。でもここって、中心部でいいんだよね?」

「だと思うぞ。明からに植物の大きさがでかいし、魔力濃度だって高いからな」

「もぐもぐ、うん、あたしもそう思うよ。もぐもぐ、ここの果物、さっきまでのところの果物よりも更においしいもん」

「でも変だよね。美味しくて魔力豊富な植物がこんなにあるのに、なんで草食恐竜がいないんだろ?」

「確かにな。こいつはちょっと異常だよな」

「もぐもぐ、まあ美味しいからいいんじゃない?」

「それもそうだね」

「待ってください。私達、勘違いしていたのかもしれませんわ」

「「「勘違い?」」」

「はい、巨木の森の外周部は、肉食モンスターがあまり出てこないのですわ。ですので、調査もある程度すすんでおりますの。それに対して巨木の森の中心部は、ビッグヘッドランドドラゴンをはじめとした、多種多様な肉食モンスターの巣窟であるため、危険すぎて調査すら進んでいないのですわ」

「なるほど。でもよ、そうだとすると、どういうことだ? この先が中心部っていうならモンスターがいっぱいいるんだろ? いる気配がないぜ」

「うん」

「恐らく違いますの。さくら様のおっしゃった巨木の森の中心部とは、さきほどまでいた、300m級の木々が立ち並んでいた場所ですわ。ですから、外周部というのは、恐らく私達が寝ている間に通り過ぎた可能性が高いのですわ」

「なあハピ、そんなところ通ったのか?」

「わかんない、この猫トラックバージョン2はぷうの作った乗り物なの。私が魔力を流して巨木の森まで行ってって指示をだしたけど、なにを巨木の森とするかは、ぷうの認識だから」

「なるほど~、つまり、妖精の国で一般的に巨木の森の外周部と呼ばれている場所は、寝ている間に通り過ぎて、今までいた場所が中心部ってわけね」

「ええ、その可能性が高いですわ」

「じゃあよ。肉食モンスターに出会わなかった理由は何だよ。頭でっかちドラゴンはともかく、巨木の森の中心部は肉食モンスターは山盛りいるって話じゃないのか?」

「恐らく血ですわ」

「「「血?」」」

「ええ、猫トラックバージョン2と、スーパーゴブリンゴーレムには、ぷうさんがビッグヘッドランドドラゴンを仕留めたあと、乱雑に荷台に放り込んだ時に血が大量に付着しましたわ。水魔法で表面上は流しましたが、恐らくこの巨木の森の支配者である、ビッグヘッドランドドラゴンの返り血を浴びたこの2体のゴーレムに、恐れをなして近づいてこなかったのではないでしょうか?」

「なるほどな、確かに一理あるな」

「ふっふっふ、我輩の計算どおり」

「じ~、ハピ、その顔あやしいな~」

「おほん、じゃあここってなんなんだろ?」

「恐らく、未確認エリアですわね」

「ふ~ん、じゃあ、なおさら探索しないとだね!」

「いや、グラジオラスが言いたいのは、危険じゃねえのってことだと思うんだが」

「そうだね、ここの果物は超おいしいしね。レッツ探検だ~!」

「お~!」

「しかたないですわね」

「ああ、シクラメンの食い気も困ったもんだよな」


 こうしてその後も探索を続けたが、やはりモンスターは1匹も出てこない。そして、摩訶不思議な木を発見した。うねうねとねじれたような幹に巨大な実がついている。大きさもかなりのサイズだ。


「ねえ、あの木ってなんだろう?」

「不思議な木だね」

「ええ、あの実は何でしょうか? なにやら景色のようなものが見えますが」

「おいおい、俺のカンがスーパー反応してるぜ。あれに近づくなって」

「とりあえず、食べてみてから考えよう。モンスターはいないよね?」

「我輩の見える位置にはモンスターはいないね」

「ええ、おりませんね。ですが、危険ではないでしょうか?」

「ああ、いないぜって、おい、近づくなよ?」


 だが、シクラメンはグラジオラスとローズの制止も聞かずに、すたこらさっさと飛んでいってしまう。果物がらみなだけのことはあって、シクラメンの飛行速度はすさまじく速い。グラジオラスとローズもその後を全力で追う。ハピは空を飛べないので猫トラックバージョン2で、シクラメンが近づいた実のそばまで登っていく。シクラメンはすさまじい速度で実に接近したが、迷わずかぶりつくことなく、急制動をかけて実の回りを観察するかのようにぐるっと飛んだ。


「う~ん、この実に移る景色ってなんだろう。むしろこの実から巨大な自然魔力がもれてきてるのかな?」


 食い意地がはっているだけの事はあって、果物っぽくも見える実の観察は念入りに行っている。だが、シクラメンを止めようと全力で飛んできた2人はその動きに対応できなかった。


「うわ~!」

「な、なんですの~」


 グラジオラスとローズは、シクラメンの急制動に対応できずに、実にダイブしてしまった。そして、その実に吸い込まれた。


「「え?」」

「うわ~ん、グラちゃんとローズちゃんが消えちゃった」

「我輩達も追いかけよう。念のため猫トラックバージョン2に乗って」

「うん、わかった」


 ハピとシクラメンもグラジオラスとローズの後を追って不思議な実に飛び込んだ。するとすぐさま真っ逆さまに落下した。


「「うわ~」」


 どす~ん。


「いたたたた、シクラメン大丈夫?」

「うん、あたしは平気、ここどこだろう」


 するとすぐに猫トラックバージョン2のドアが開き、グラジオラスとローズが入ってきた。


「大丈夫ですか?」

「大丈夫か?」

「うん、グラちゃんにローズちゃんも大丈夫?」

「ああ、俺達は平気だ。どうやらあの実は空間のゆがみみたいだな」

「ええ、私達は飛び出したまま空中にいたのですわ。戻ろうとしたら、突然猫トラックバージョンが飛び出してきたので、びっくりしましたわ」

「そうだったんだ。2人も無事でよかったよ」

「ところで、ここってどこだろう?」

「わかりませんわ。ですが、外にはあの不思議な木とまったく同じ木が生えていますわよ。今着地した場所は、あの木のうねうねした幹ですわね」

「ああ、だが、ここがやばいのは確かだぜ。さっきまでの場所よりも、自然魔力の濃さが段違いでやばい」


 すると、ハピはどこか1点をジーっと見つめはじめた。そう、猫がたまにやるあれである。ハピの場合はぴぴぷちゃ号に意識をとられてる時に行うのだ。


「お~い、ハピ、どうしたの?」

「あ、ごめんね。ここはたぶん、メイクンじゃないね。メイクンの近くの別の惑星みたい」

「そうなのですか? なぜわかるのです?」

「ハピはここ初めてじゃないのか?」

「うん、どうしてわかるの?」

「我輩達が乗ってきた宇宙船の話はしたよね?」

「ああ、ぴぴぷちゃ号だろ?」

「うん、その宇宙船と私は常時リンクがつながってるんだけど。そのぴぴぷちゃ号が、あっちに見える星のそばに浮かんでるの。ぴぴぷちゃ号はメイクンの静止軌道に浮いてるから、あの星がメイクンだから、この星は別の星ってことだよね」

「なるほど。便利な能力だな」

「でも、転移されてもリンクが維持されるの? あたしがゴーレムを使う時みたいな、魔力線は見えないけど」

「それは我輩もよくわかんない。ぷうがいうには、ぴぴぷちゃ号はあくまでも猫の国の宇宙船だから、猫の国経由でつながってるんだって」

「ふ~ん、よくわかんないね」

「うん、我輩もさっぱり。でも、ぴぴぷちゃ号の居場所はいつでもわかるんだ」

「まずは、これからどうするかを考えるべきですわね」

「そうだな。とりあえず、外に出てみるか? さっきまでとはぜんぜん違う場所ってことがわかるぜ」

「うん、みてみたい」

「我輩も」


 4人は猫トラックバージョン2を降りて外に出る。グラジオラスの言うとおり、猫トラックバージョン2が着地した場所は、うねうねした木の幹の一部のようだ。


「すごいね。一面の大草原だよ」

「うん、これはみごとだね」


 そこには広大な草原が広がっていた。木々もところどころにが生え、遠くには山も見える。草食モンスターなのだろうか、動物も遠めに見える。


「それと、さっき転移させられた実はあそこにあるよ」

「あれか~」

「ちょっと行ってみよう。ここを探検するにしても、帰り道は重要だからね」

「その通りですわね」

「ああ」


 妖精族3人は空を飛んで、ハピは猫トラックバージョン2で転移してきたらしい実のところまで近づく。そこには、先ほどまでいた巨木の森が写っていた。


「これがその実か~」

「ふむふむ、この実に移ってるのは、巨木の森っぽいね」

「ああ、そうだ。俺達がこっちに来た時は、確かにこっちの景色が実に移ってたし、この不思議な実、いや、木は、空間のゆがみをつなげることが出来るのかも知れねえな」

「なるほど~」

「へ~、なんか面白いね」

「それじゃあ帰り道の心配はなさそうだけど、どうしよっか?」

「危険な気がしますわね」

「ああ、俺もだ。でも、ハピは探索したいんだよな?」

「あたしも美味しいものがありそうなら探索したいよ~」

「我輩としては探索したいけど、もしここが巨木の森以上に危険なところだと、3人に無理は言えないよ。ぷうのゴーレムでも勝てないやつが出るかも出し」

「ううん、ここは妖精軍としても探索するべきだよ!」

「「シクラメン?」」

「だって考えても見てよ。頭でっかちドラゴンでさえ危険なのに、それ以上の危険がいる可能性があるってことだよ。ハピがいて調査できるときに調査しなくて、どうするのさ」


 グラジオラスもローズも黙り込んでしまう。シクラメンの言うことはもっともだ。命の危険があるのはさっきまで以上だろうが、ここを調査できる価値は軍としても計り知れない。だが、2人には確認しておかなければならないこともあった。


「「それで、本音は?」」

「もっとおいしい果物を食べたい」

「ふふふ、そうですわね。調査しましょうか」

「ああ、今回はシクラメンにのってやるぜ!」

「うん、もし危険度が高いようなら。あの木を切っちゃうって手もあるよね」

「なるほど、そいつは思いつかなかったぜ」

「ですが、切れるのでしょうか? 300m級の木でさえ、あのビッグヘッドランドドラゴンのブレスで、表面がわずかにこげた程度でしたわ。この木を切り倒すとなると、相当なパワーが必要だと思いますが」

「そこは1度王都にもどったあとで、ぴぴかぷうにでもお願いすれば良いよ。それよりまずは、調査だね」

「うん、そうだね。おいしい果物を求めて、レッツゴーだね!」

「「「お~!」」」




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