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ナノハナの追撃部隊とピクニック気分の4人

 ハピと妖精トリオを追いかけることに決めたナノハナとうめは、大急ぎで王都ハンターギルド本部を飛び出して、近衛師団の詰め所前に広場にやってきた。そこではナノハナの側近の1人が、すでに追跡部隊の手はずを整えていた。


「ナノハナ隊長、追跡部隊の準備整いました」

「ありがとうございます。引き受けてくれたのはどこの部隊になりますか?」

「引き受けたのは俺達、はやぶさファイブカラーズさ」


 そういいながら5人のはやぶさ達が空から姿を現す。はやぶさ達はそれぞれ赤、青、黄、ピンク、緑のスカーフをしている。


「レッド隊長、よろしいのですか?」

「ああ、俺達も近衛師団第13部隊だからな、こういう高速任務ならたまには請け負ってやるよ」

「ありがとうございます」

「ふっ、気にするな。それよりも、出来れば初日の内に追いつきたい。軽装で行きたいゆえ本日の昼飯夕食以外の物資の移動はまかせてもいいか?」

「はい、お任せ下さい。いけるだけ行った所で夜営していてください。物資は私達第1部隊で、朝までには必ず届けます」

「では、頼んだぞ。第13部隊はやぶさファイブカラーズ、行くぞ!」

「「「「クァ~!」」」」


 レッド達はやぶさファイブカラーズは一斉に飛び立った。このはやぶさファイブカラーズ、本当はなぜか第1300部隊がよかったらしいのだが、そんなに多くの部隊は今後も出来る予定がなかったので第13部隊だ。名前のレッドも本当の名前ではない、ただ、このスカーフを付けている時はレッド隊長なのである。妖精の国ではこの手の遊びを好む人がそこそこ多いため、レッド隊長が何人もいたりする。


「ナノハナ、ついていきたいのはわかるけど、あんたは我慢だよ」

「はい、それはわかっています、うめ様。あとははやぶさファイブカラーズを信じて待つのみです」

「そうかい、わかってるならいいんだよ」


 ナノハナははやぶさファイブカラーズを信じて待つことになった。はやぶさファイブカラーズは近衛師団第13部隊ということで、近衛師団内のポジションにおいてはアオイやグラジオラス達と同じだ。ナノハナ率いる近衛師団には、本隊である第1部隊のほかに、第2以降の独立部隊が数多く存在する。この第2以降の独立部隊がなぜ存在するのかといえば、はやぶさファイブカラーズのように通常の作戦では移動速度や戦闘方法の違いで、組み込みにくい部隊が存在するからだ。


 はやぶさは本来なら群れない動物であるため、軍に所属するはやぶさ達はそんなに多くない。多くの場合はハンターとして妖精の国で生活している。群れるのが好きな妖精や犬は軍へ、群れない猫やライオン、猛禽類はハンターへ、というのが妖精の国の基本だからだ。だが、ハンターの中にそこそこの規模のパーティーがあるように、軍の中にも、独立を保ちたい人がいる。そんなの軍としてどうなのって思うかもしれないが、そもそもナノハナ率いる近衛師団の場合、第2~第4部隊はグラジオラス達だし、第8部隊はアオイだ。つまり、妖精族のわがままさんがけっこう多いのだ。むしろはやぶさ隊のような、他種族にもかかわらず少しでも協力してくれる部隊は、妖精軍においては実に頼もしい存在だ。特にはやぶさ隊の飛行速度は、妖精の国に住む全動物中でも上位に位置しており、妖精では速さが足りずにやりにくい、特殊な任務を頼むにはうってつけなのだ。


 はやぶさファイブカラーズは、大通り上空を超スピードで飛翔して、瞬く間にハピ達が出発した東門にやってくる。レッド隊長は東門に着くなり門番長を呼び出し、事情を説明する。


「はやぶさファイブカラーズだ。近衛師団ナノハナ団長よりグラジオラス達4名の追跡任務を受けた。どちらへ向かったのか、詳細を教えてほしい」

「はい、まっすぐに北東方角へ進んでいきました。追跡するのでしたら、足跡を追うのが確実かと思われます。猫型の魔道自動車に乗っていったため、花畑に4足歩行動物の足跡が残っております」


 はやぶさファイブカラーズは軽く飛び上がる。確かに北東方向に向けて4足動物の足跡が一直線にのこっている。


「レッド隊長、門番長のいうとおり、北東に向けて足跡があります」

「確認した。門番長、情報感謝する!」

「行き先は巨木の森と聞きます、お気をつけて」

「心配不要、巨木の森に付く前に追いついてみせる! では、はやぶさファイブカラーズ出発!」

「「「「クァ~!」」」」


 はやぶさファイブカラーズは全力で追跡を開始した。5人でV字の編成飛行をする。このV字編成飛行、渡り鳥がよくやるやつだ。なんでも前を飛ぶ鳥の羽根の翼端渦流により、後方を飛ぶ鳥は少ない力で空を飛べるようになるのだとか。


「それなりに大きな足跡だな、これなら見失うこともあるまい」

「そうですね、レッド隊長」

「では、これより高速モードで追跡を行う。先頭は30分交代で行くぞ」

「「「「クァ~!」」」」


 レッド隊長がV字編成の先頭で風魔法をその身に纏って加速する。そしてそれに続いてブルー、イエロー、ピンク、グリーンが続く。ぐんぐんと加速していく、その速さは妖精軍最高峰といってもいいだろう。


「今日中に追いつけると思いますか?」


 ブルーがレッドに問いかける。


「大丈夫だろう。ナノハナ殿の秘書の話では、向こうはあくまでもピクニック気分ということだ。急がねばならない理由がない。それに対して我々に油断はない、つまり、全力で飛んで追いつけない道理がない」

「ふん、レッドもブルーも何言ってるんだ。仮に全力で逃げてても我らはやぶさファイブカラーズからは逃げられんさ」

「レッドもブルーもグリーンも何言ってるの。昼までには追いつくわよ」

「ピンクの言うとおりだよ。携帯食は美味しくない。出来ればお昼すら帰って王都で食べたい」


 グリーンもピンクもイエローも、この任務が今日中に終わることを信じていた。だが、昼飯の時間になっても、ハピ達の乗った猫トラックバージョン2の姿はまったく見えない。悔しい結果だが昼飯を抜いて追いかけてハンガーノックになったら何の意味も無い。ここは昼飯にすることにした。昼飯を取る場所は周囲を見回しやすい大きな木の上だ。


「ここなら見張りを立てる必要はないだろう。警戒しつつも各々10分で食事を終えろ」

「「「「クァ~!」」」」

「どうなってるの? こんなに追いつけないことってある? 相手は妖精が3人でしょ?」

「相手の移動手段はあくまでも猫型の魔道自動車だ。妖精族が飛行して移動しているわけじゃない。そして、猫型魔道自動車は、あのビッグヘッドランドドラゴンを仕留めた猫トリオの1人作り出したものだそうだ。製作者と運転手は別らしいが、一筋縄じゃいかないということだな」

「火魔法も併用して超加速で向かうか?」

「ダメだ。確かに一時的にはすさまじい加速ができるが、すぐに魔力切れになる。それではトータルでの移動距離は大幅に短くなる」

「そう焦る必要はないでしょう。今日中に追いつければ理想的だったけど、もともと巨木の森に入る前に追いつければいいんだからね」

「その通りだ。下手に焦って任務失敗では我らの名に傷がつく。焦らず、だが、最速で追跡を続けるぞ」

「「「「クァ~!」」」」


 だが、その日の夜になってもその姿をとらえることはできなかった。はやぶさファイブカラーズはやむなく大きな木で夜営することにする。はやぶさ達は晴れてさえいれば寝る時にテントなどを特に必要としない。そのため、ちょうどいい大きさの枝でそれぞれが羽根を休める。1日中全力で飛んで追いつけないという事実に、はやぶさファイブカラーズのメンバーは意気消沈といった様子だが、もはや全力を出しすぎて会話をする元気もなかった。


「今日はここで夜営をする。各自夕食を済ませ次第睡眠にしてかまわん。念のため、見張りは行う。順番はいつもの順番だ。では、休憩!」

「「「「クァ・・・・・・」」」」


 明け方、ナノハナの第1部隊のメンバーが補給物資を持ってやってきた。補給部隊はこの場で休憩してからゆっくりと追走してくる。次に出会うのは、はやぶさファイブカラーズが無事に追いついて引き返す時か、追いつけずに巨木の森までたどり着いた後だろう。


 ここから先は、はやぶさファイブカラーズだけでの追跡だ。その後6日かけて巨木の森にたどり着いたはやぶさファイブカラーズだったが、ついにハピ達の姿をとらえることは出来なかった。





 一方、ハピ達は昼夜問わず猫トラックバージョン2を走らせていたということもあり、3日で巨木の森に到着し、すでに3日の散策していた。そして、ハピがあったらいいなと思っていた、なし、かき、くりを無事に発見し、どんどん奥地へと進んでいった。


「ねえハピ、今日の朝ごはんは~?」

「ふっふっふ、昨日くりをいっぱい見つけたから、栗ご飯なんてどう~?」

「いいね、美味しそう」

「でしょでしょ~、デザートにはくりようかんとモンブランもつけちゃうよ!」

「おお~、すごいね!」

「さらにさらに、移動中にもぐもぐ食べるおやつとして、焼き栗もどう~?」

「食べる食べる!」


 ハピの猫グッズの1つ、猫のご飯皿パワー炸裂である。ハピが食べたことのある料理なら何でも再現可能なこのお皿パワーで、料理が出来なくてもどんな料理でもできるのだ。もっとも、料理そのものはハピの魔力で出しているものなので、材料の現物が存在するくり以外の栄養素を取ることは、ハピには出来ない。また、ご飯を食べてパワーアップの効果は、猫でないグラジオラス、シクラメン、ローズの3名にはほとんど効果がなかったりするのだが、いまは純粋にご飯を楽しむために出しているだけなので、なんの問題もないのだ。


「そろそろ巨木の森の中心部分かな~?」

「そうですわね、自然の魔力の濃さが、信じられないほど高いです」

「だな、俺の危険を察知するセンサーは、すでにぶっ壊れて振り切れてるぜ」

「中心部のほうが美味しいものが多いんだよね?」

「うん、さくらっていう食いしん坊妖精の話では、そうらしいよ」

「さくらっていう食いしん坊妖精、ですか?」

「うん、知ってるの? うめっていう食いしん坊妖精さんとセットっぽかったよ」

「なあハピ、なんでその2人が食いしん坊妖精なんだ?」

「うんうん、あたしもその2人が食いしん坊っていうイメージはなかったんだけど」

「我輩達が王都に始めてきた日にね、王城の食堂でみんなで恐竜のお肉食べたよね?」

「ええ、美味しかったですわ」

「ああ、ここのとこ毎日食っててありがたみを忘れそうになるが、すげえうまいよな」

「うん、いくらでも食べれちゃうよね」

「あれ、最初わんこ大臣達や、アオイ、ナノハナといったメンバーだけで食べてたんだけどね。その2人の食いしん坊妖精が現れて、私達も食べたいって、お願いしに来たの。ね、食いしん坊でしょ?」

「なるほど、それは確かに食いしん坊妖精ですわね」

「ああ、まったくだな」

「なんかちょっと意外~」

「我輩達はいっぱいあるしよかったんだけど、解体をまだしてなくてね、わんこ大臣達はそのあと大急ぎで解体してたみたいだから、ちょっとだけ気の毒だったよ」

「そういえばハピさん、あの2人がどういった立場の方がご存知ですか?」

「ううん、食いしん坊おばあちゃん妖精ってことしか知らないかな」

「はっはっは、そりゃあいいな。一応言っておくと、あの2人は妖精の国の女王だ」

「え? そうなの? でも待って、女王が2人もいるの?」

「あの2人は女王歴がすっごい長くてね、もう何百年と女王をしてるの。ただ、ずっとやり続けるのは飽きるらしくてね、今では10年交代で女王をやってるんだよ」

「そうなんだ~」


 そういえばメイクンモンスター辞典にもそんなことが書かれていた。


「ええ、そして今はさくら様が女王の番ですわね」

「なるほど~」

「ちなみに次期女王候補の筆頭はナノハナだが、俺達も元女王経験者なんだぜ!」

「え、そうなの?」

「うん、あたしとローズちゃんが3日で、グラちゃんが7日だったっけ?」

「ええ、そうですわね」

「あれ? そんな短期間だけの女王なの?」

「ああ、女王ってのはやりたいやつがやっていいルールだからな。なんだかんだで妖精の半分くらいは女王や王の経験者じゃねえか?」

「うん、そうだと思うよ。でも、ほとんどはつまんなくて、あたし達みたいに10日も経たずにやめちゃうんだけどね」

「そうなんだね。ちょっとびっくり」

「この大陸に住んでるエルフやドワーフなんかは、妖精の国の仕組みをある程度知ってるからびびらないんだけどよ。他の大陸で、特に王制の国なんかに行くと面白いらしいぜ。妖精の国の元女王の肩書きで行けるからな」

「もっとも、私達は誰も他の大陸には行ったことはありませんが」

「でも、楽しそうだよね~。いつかは行って遊びたいよね~」

「それに知ってるか、ハピ。俺らのカードについてるような☆によるランクってのは、国家にもあるんだよ」

「そうなの?」

「ええ、例えば☆8モンスターを倒せる国家と、総力戦でも☆8モンスターに勝てない国が、同じ格というわけではないのです」

「それでね~、現状☆8ランクの国家、つまり事実上最上位の国家認定されているのは、全部の大陸をあわせても、妖精の国だけなんだよ」

「え、そうなの? じゃあ、他の国にあの頭のでっかい恐竜が出てきたら、どうするの?」

「「「逃げる!」」」

「この大陸にある国家の首都は、自然魔力が薄く、強いモンスターほど魅力を感じない場所に存在するのですわ。ですので、そこに篭れば追いかけてくることはありませんの」

「もっとも、俺もじかに出会ってわかったが、あの頭のでかいドラゴンは無理だ。妖精の国が☆8ランクっていっても、せいぜいゴブリンの最上位種とやりあえるっていう程度だな」

「まあ、そういうわけで、妖精の国は唯一の☆8国家なの。そこの元女王3人組みだよ~。他国にいったら面白そうじゃない?」

「うん、面白そう。そのときは我輩も呼んでね!」

「うん、もちろん!」

「もちろん、いいですわ!」

「おう、お前も一緒に楽しもうぜ!」


 その後もぺちゃくちゃと飽きるまで雑談をして、ようやく重い腰を上げておいしい果物探しを再開するのであった。



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