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ハピと妖精トリオと巨木の森

 ぴぴがギルマス達との特訓に王都ハンターギルド本部へ、ぷうがアオイと一緒に王都ハンターギルド北門支部に行っていた頃、ハピもお出かけしようと、馬車置き場に来ていた。今回の相棒はぷうに改良してもらって、大幅なスピードアップをはたした猫トラックバージョン2だ。行く場所が行く場所だからと、荷台にはぷうが作ってくれたゴブリンゴーレムの最新版、あの恐竜にも勝てるとぷうが自負する最強のゴブリンゴーレム、スーパーゴブリンゴーレムが入っている。


 わっがっはい~は猫である♪ ふふん♪ ねこ~とらっくも猫である♪ ぴかぴか♪ きらきら♪ 新車だよ♪


「あれ~、ハピだ~」

「あら、本当ですわね。今日も1人ですか?」

「ようハピ、なにやってんだ?」


 あう、人目のつく場所で歌うのは避けていたハピだったが、まさか馬車置き場に人が来るとは、迂闊だった。だけど、どうやら聞こえていなかったようである。セーフだ。来たのは、この間のお買い物ではお世話になった妖精トリオ。シクラメン、グラジオラス、ローズの3人だ。


「我輩、お出かけしようと思って準備してたの。ぴぴはギルマス達と、ぷうはアオイ達と遊びに行っちゃったよ」

「おでかけ~?」

「あら、素敵ですわね」

「どこ行くんだよ。俺達も付き合ってやるよ」

「巨木の森にね、草とか果物とかを取りに行こうと思ってるの」

「草? 猫さんは食べたっけ?」

「猫は基本的には肉食ですよね?」

「草なんて食っても、強くなれねえぞ」

「我輩が食べるんじゃないよ。ほら、我輩チーズほしがってたの覚えてない?」

「うん、覚えてるよ~」

「ええ、覚えていますわ」

「ああ、覚えてるぜ」

「それで、美味しいチーズを作ってもらうために、美味しい牛乳がほしくて、そのためには美味しいくて栄養豊富な草や果物が必要になるの」

「なるほど~、ちょっとまどろっこしいけど、わかったよ! あたしもおいしい果物食べたいな」

「ええ、そうですわね。店で買うのもいいですが、直接収穫というのもたまにはいいかもしれませんね。農作業でしたら、人手があったほうがいいでしょうから、私達がお手伝いしますよ」

「おう、そうだな。俺もくだものは好きだし、俺達がいれば農業なんて一瞬だぜ!」

「え、悪いよ~、ぴぴたちには1月くらいかけてのんびり行ってらっしゃいって言われているし」

「気にしない、気にしない」

「ええ、気にする必要はありませんわ」

「そうだぜ、遠慮するなって!」

「そうなの? なら、一緒にいこっか~」

「何で行くの~?」

「これ。ぷうに作ってもらった猫トラックバージョン2。ぷうが言うには、超速いんだって」

「ふむ、猫型か、あんまりかっこよくはないが、まあいいか」

「あら、かわいらしいではありませんか」

「じゃあ、準備おわったらここに集合でいい? どのくらいかかるかな?」

「そうですね、10分ほどください。普段から収納魔法の中に、最低限必要なものは入っていますので、旅の準備は必要ないのですが、副隊長への連絡だけははずせませんので」

「おうともよ。1月くらいのサバイバルに、準備なんていらねえぜ!」

「そうだそうだ~」

「じゃあ、まってるね~」


 10分後、予定通り3人組は戻ってきた。


「許可はいただいてきましたわ」

「あたしも~」

「おれもだぜ!」

「それじゃあ、出発するね」

「「「お~!」」」


 ハピ達は妖精の国の王都を後にして、巨木の森のある大陸中央部へと進んでいく。妖精の国は大陸の南西に位置しているため、目指す方向は北東だ。東や北への道はあるものの、北東方面への道はないようだ。道なき道というか、妖精の国の土地は基本花ばかりなので、花畑の中をハピは猛スピードで猫トラックバージョン2を走らせる。


「ほう、けっこう速いじゃねえか」

「ええ、驚きましたわ」

「うん、これならすぐつきそうだね」

「それでも3日くらはかかるかな~」


 一行はのんびりとまさにピクニック気分で進んでいく。行き先がこの大陸のモンスターの領域のなかでも最強の場所、巨木の森に行くにもかかわらず。


「そういえば、みんなは隊長さんなのに1月も空けちゃって良かったの?」

「ええ、かまわないわよ」

「おうよ、俺達は自由なんだよ!」

「本当は隊長っていっても、落ちこぼれだから、なにしてても文句言われないだけだよ~」

「あ、こら、シクラメン、そういういいかたはよくないぞ!」

「そうなの? こないだの交渉のときなんか、すごく頼りになったよ。それに、アオイもみんなのことソロはともかく、集団では結構強いって言ってたよ」

「あの交渉は、勝ちの決まった勝負ですから、当然ですわ」

「まあ、おまえんとこにはアオイがいるし、もともと隠し事ってわけでもないんだけどよ。俺達のいる部隊が近衛師団って言われてるのは、リーダーであるナノハナが、次期女王候補筆頭だからってだけなんだよな」

「うん、元は妖精軍ナノハナ隊って呼ばれてたの。だから正式な近衛師団のメンバーは、ナノハナ直轄の第1部隊だけなの」

「そもそも、私達は隊長を名乗っておりますが、正式なものではないのですわ」

「正式なものじゃない?」

「ええ、自称ですわ!」

「あれ、でも、部下もいたよね?」

「あいつらはナノハナが部下として使って良いよって、俺達に気軽に貸してくれる、ナノハナの部下だぜ」

「部下っていうより、あたし達のお目付け役かも~」

「でもでも、みんな☆6ランクの凄腕なんでしょ? 実際魔法の威力は部下の人たちやアオイよりすごかったし」

「それもね~、なんていうかね~」

「ええ、そう誇れるものではないのです」

「知ってるかもしれないけど、軍や、ハンターでもパーティーだと、集団でのランクになるからさ。個人のものとは別なんだよ。極端な話、周りが強ければ、昼寝してるだけでも上位にいけるぜ」

「あう。そういえば、我輩もぴぴとぷうのおこぼれで☆8もらったんだった」

「あはは、☆8とはなかなかハードなのもらったな」

「それに、あのとき私達が部下として連れてきたメンバーは、全員普段は事務員なのですわ。戦闘職ではないのです」

「うん、それに、アオイとは得意魔法が違うからね。あたし達の得意技だけで比べれば、アオイより強いんだけど。普通に戦えば3対1でもアオイには勝てないんだよね~」

「その得意魔法もな~。ナノハナの本隊にいる連中と比べちゃうと、どうしてもな~」

「そういうわけですので、私達の心配は不要ですわ。私達は、ワンマンアーミーですので!」

「ううん、グラジオラスちゃん、1人でなにかすることはまずないから、スリーマンアーミーだよ!」

「まあそういうわけで、俺達のことは気にするな。むしろこのスリーマンアーミーである俺達にまかせとけって! 農作業くらい、ちょちょいのちょいだぜ!」

「うん、よろしくね!」


 その後もおしゃべりしたりしながら3日間、猫トラックバージョン2を走らせ続けた。魔力さえ込めておけば夜も自動で走ってくれるのは、とても便利だ。大幅に時間短縮ができた。そしてついに巨木の森の外延部に到着した。


「うお~、なんだここ、木がむちゃくちゃでかいじゃねえかよ」

「ええ、大きい木は300mくらいありそうですわね」

「なんか、背筋がちょっとぞわぞわするんだけど、ここの魔力濃度、ちょっと異常じゃない?」

「さ、もっと奥にいこ~。奥のほうが自然界の魔力濃度が高くて、いい草や果物があるはずだって」

「ちょ、ちょっとまて、ここどこだ?」

「あれ、言わなかったっけ? 巨木の森だよ」

「確かに聞きましたけど、王都から3日の距離に、こんな危険地帯ありましたか?」

「ううん、あたし知らない。こんな危険地帯、王都の周辺にあったら、知らないはず無いよ」

「おい、ハピ、どういうことなんだよ?」

「どういうことって言われてもわかんないけど、王都の近くじゃないよ。巨木の森っていう、大陸の真ん中にある大きな森だよ」

「巨木の森、思い出しましたわ。この大陸最強のモンスターの領域ではないですか」

「意味がわかんねえ。なんで戦闘力の無いお前が、こんな危険地帯に来てるんだよ?」

「そうだよ、引き返そうよ。危険すぎるよ。ナノハナの部隊でさえ、ここの調査は慎重に慎重を期しておこなうって言ってたよ」

「大丈夫だよ。この猫トラックバージョン2なら逃げるのは簡単だし、荷台には戦闘用にスーパーゴブリンゴーレムも入ってるからね。それに、いざとなったらぴぴぷちゃ号を呼べばいいしね。おいしいチーズのためなら多少は問題ないはず! チーズの穴はルールの穴ってね!」


 ぴぴぷちゃ号は、ハピ達3人が惑星メイクンに来るにあたって乗ってきた、宇宙船兼お家である。今は公平を期すためにメイクンでの使用は禁止されて、静止軌道上でぷかぷかしている。ぴぴやぷう、ハピの着ている超強い毛皮ですら禁止されなかったのに、わざわざ禁止にされたくらいすごいのがぴぴぷちゃ号だ。いざという時にはぴぴぷちゃ号を使えば大抵のことはなんとかなるはずなのである。


「意味わかんない」

「ええ、わかりませんわ」

「まあ、策があるなら行くか?」

「そうですわね」

「うん」

「じゃあ、しゅっぱ~つ!」


 ハピ達はどんどん森の中を進んでいく、さくらが言うには巨木の森は外延部と中心部に分かれており、中心部のほうがはるかに自然界の魔力濃度が高いのだそうだ。ただ、あまりにも危険なため、情報はほとんどないとのことだ。ハピは最高のチーズのために、一番いい草や果物を狙う。よって中心部へ迷うことなく進んでいく。


「おい、見ろよあのモンスター、馬鹿でかいぜ」

「すごいですわね、首の長さがすさまじいです。あの大きな木の果物を食べているようですわね」

「うん、すごいすごい」


 3人の視線の先にはブラキオサウルスのような恐竜モンスターが複数いた。


「何食べてるのかわかんないけど、大きいし美味しそうだね」

「ああ」

「ええ」

「うん」

「じゃあ、取りにいこっか」

「ちょっと待ってください。あのモンスターの強さがわからないのですか? 内包する魔力量だけでいったら、恐らくあなた方の仕留めた、ビッグヘッドランドドラゴン並ですわよ」

「そうだぜ、せめてあいつがいなくなってからにしよう」

「うん、そのほうがいいよ」

「大丈夫でしょ。あれ、草食だもん」


 ハピは猫トラックバージョン2でするすると木に登り始める。


「ちょっと待ってください、本当に行くのですか?」

「おいおい、無茶にもほどがあるだろ」

「むりむりむりむりむり」

「も~、平気だってば~」


 猫トラックバージョン2はなんなく木を登っていき、ブラキオサウルスのような恐竜の顔と同じ高さまで、あっという間に到着する。ハピはどうどうと猫トラックバージョン2から降りて、果物の回収に向かう。そこに生っていたのは、おいしそうなぶどうだった。


「ぶどうの木って、こんな木じゃなかった気がするけどな~。まあ、細かいことを気にしてもしょうがないか」


 ハピは一粒が妖精族くらいのサイズはある巨大なぶどうを、根元からもぎ取る。外見は巨峰のような濃い紫色をしている。表面にはブルームと呼ばれる白い粉がいっぱいで、実に美味しそうである。そして4粒だけ更にもぎ取って、残りは猫トラックバージョン2の荷台に放り込んだ。ちなみにもぎ取るのに使った魔法は、猫族ならだれでも使える魔法、サイコキネシスだ。自身の魔力体の一部を腕のように変化させ、自在にあやつれるこの技は、猫グッズを作ること以外に、ハピが使える数少ない魔法だ。ハピはこの技で人間の腕やロボットアームを再現して、猫の手の不便さを補っているのである。


「ただいま~、早速食べよ~」

「あ、ああ、おかえり。ふう、気が気じゃなかったぜ」

「本当に心配したのですよ?」

「おいしそう・・・・・・」

「まず試食して、おいしかったら、もっといっぱい集めよっか」

「「「うん!」」」


 4人は巨大ぶどうを試食する。農薬の心配なんてまったくいらないため、洗わずにそのまま食べる。


「「「「おいし~!」」」」

「ハピ、これは美味いな!」

「とっても美味しいですわ」

「・・・・・・」


 4人はばくばくと食べ進める、一番速く完食したのはシクラメンだ。体のサイズと顔のサイズからしても、ハピが一番速く食べ終えそうだったのに、シクラメンは無言で、ダントツの速さで食べ終えた。そして食べ終えると、すぐさま猫トラックバージョン2から飛び出した。


「おい、シクラメン? 待て、どこいくんだよ」

「シクラメン? 危険ですわよ。お待ちなさい」


 シクラメンはローズとグラジオラスの制止の声も聞かずに、巨大ぶどうをつぎつぎと収穫し始めた。


「どうやらあの子、このぶどうをそうとう気に入ったようですわね」

「ああ、食い意地すげえからな、シクラメンは」

「大丈夫だよ。あの首の長い恐竜の近くにさえ行かなければ、間違って食べられたり、向こうから積極的に襲ってくることは無いはずだよ」

「本当ですの?」

「信じて良いんだろうな?」

「うん、だって、シクラメンより、ぶどうのほうが美味しそうでしょ? それに、我輩達がぶどう取ったとしても、いっぱいあるし、たぶんすぐに次のが生るよ」

「それもそうですわね。この森の魔力濃度なら、1日で果物くらい生るかもしれませんわね」

「確かにな。シクラメンよりぶどうのが美味そうだよな」


 ハピ達はぶどうを食べながらシクラメンの行動を観察する。まだシクラメン以外は半分も食べ終えていない。シクラメン、食べるの速すぎである。


「このぶどう、大きいだけあって結構重いはずなのに、シクラメンってパワーあるんだね」

「いや、一粒二粒ならともかく、1房まるごとは普段のあいつならたぶん持って飛べる重さじゃないはずだ。食への情熱が、リミッターをはずしたみたいだな」

「そうなんだ。これ、チーズのためのミルク用に、ひとにあげるって言ったら、怒るかな?」

「あの子の収穫分は別にして置きましょう。それにこのぶどう、並みの食材よりも魔力が多いので、王都でも普通に重宝されると思いますわ」

「じゃあ、食べ終わったらみんなで収穫しよっか。あっちにも同じような木があるみたいだから、たっぷりあるしね」


 ハピ達はこの辺のぶどうをすべて取りつくす勢いで収穫をした。


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