もっとスピードを
「じゃあ、次はあたしの火の魔法を纏うのを体験させてよ。エリカやアオイ殿、カリン殿も気にいると思うよ!」
「お、いいな。あの火の鳥になる技。かっこよかったもんな」
「ええ、それだけでなく、美しくもある非常に優雅な技ですよね」
「私は炎魔法がそこまで得意ではないので、楽しみですね」
「じゃあ、火魔法かけるけど、その前に防御用に土魔法をかけるね」
「ああ」
「じゃあ、いっくよ~」
ぷうが火属性の強化魔法を4人にかける。4人が火に包まれた。
「お、この土の鎧もすげえな、ぜんぜん熱くないぜ」
「ああ、本当だね。あたしは風魔法で炎に焼かれないように身を守ってたんだが、くやしいがこっちのほうが熱くない」
「このままパンチやキックをしても強そうだが、炎を噴射すれば、ピヨみたいに飛べるんだよな?」
「ああ、そうだと思うよ」
アオイは、下向きに強烈な火を噴射した。するとアオイは空に浮かび上がる。
「へ~、炎の力だけでも、けっこう簡単に浮くな」
さらに空中で今度は横向きに炎を噴射したり、風魔法と併用してみたりする。
「はっは~、すっげえパワーだな。火魔法で強引に飛ぶのも、けっこう速いな」
さらに火をすさまじい勢いで噴射して、まるでミサイルのように飛んでいく。その速さは、ピヨの火の鳥並みだ。
「あっはっは、これいい、気に入った。すっげえ速いじゃん」
だがその横では、さらに速い速度でピヨが飛び回る。
「ああ、最高だな。他人から強化魔法をかけてもらうと、こんなにも違うのか。火魔法の制御のしやすさが段違いだよ」
エリカは風魔法と同時に使用して、ピヨの速度を体験していた。
「すごいですね。ピヨはこの速度を1人で出せるのですね」
そして、普段空を飛ぶことのないカリンは、恐る恐る飛び上がりながらも、感動しているようだった。
「空を飛ぶとは、こういう感じなのですね。感動してしまいますね」
「カリンも、つたの鎧をいじれば空を飛べると思うよ。羽根にしちゃえばいいんだもん」
「なるほど、それもありですね。いきなり羽ばたいて飛ぶのは難しいかもしれませんが、ケンタウロスモードでダッシュからの大ジャンプ後に、滑空飛行くらいなら、すぐにでも出来そうですね」
「うん」
こうして、みんなでしばらく空を飛んで遊んだあと。アオイがぷうに質問をしにきた。
「なあ、ぷう。ギルマスが使ってた全身を炎にするやつも一緒の技か?」
「ん? なんのことだい?」
「私も気になります。ギルマスはすごい強いと評判ですが、残念ながら戦っている姿を見た事がないのです。」
妖精の国で最強はだれ? という質問で、何人かの候補者の名前が出てくるが、その中に必ず名前が挙がるのが、現役時代のギルマスだ。そんなギルマスの技ということで、みんな興味津々なようだ。全員集まってきた。
「俺も1度しか見たこと無いんだがよ。ギルマスも、今みたいに全身からを炎を出して戦ってたんだよ。でも、今みたいな表面的な炎っていう感じじゃなくって、体の中から燃えてる感じだったんだよな。しかも、めちゃくちゃ強かったぜ。あんなつええ化けもんがこの世にいるのかよって、思ったくらいの強さだったぜ。だけどよ、最後には大火傷してたんだよな。対戦相手はぴぴだったんだが、ぴぴが火魔法を使ったわけじゃなさそうだから、どうやら自分の技の反動で傷ついたっぽいんだ」
「うん、その通りだよ。ギルマスの使ってた技は、見た目は似てるけど、アオイの言うとおり、あれは全身、それこそ体の中まで燃やす技だからね」
「体の中まで? それって大丈夫なのかい? 普通、火傷程度じゃすまないよね?」
「それがね、全身、それこそ体の中まで炎にする方法っていうのがあるの。わたし達の体は大本は命の魔力で出来ていることは知ってる?」
「ああ、知ってるぜ。だから、回復魔法の中には、命の魔力を増強する技があるし、それだけで大抵の怪我と病気が治るんだろ?」
「うん。だからね、命の魔力と、火の魔力を融合させて、体を火の体に変えちゃうことができるんだ」
「は~、聞いたことねえぜ」
「あたしもだよ。でも、すごいこと考えるやつがいたもんだね」
「それは、スライムとか、トレントなどと同じということですか?」
「うん、エリカ博識だね」
「いえ、ギルドの図書館にある、モンスター図鑑に書いてありましたので」
「え? そうなのかい? 私が見た図鑑には書いてなかったと思うけど」
「それは恐らく、エリカさんの読んだ本は、詳細が書かれたちゃんとした図鑑で、ピヨさんの読んだ図鑑は、簡易版の図鑑だったのでしょう。強いモンスターはまだしも、弱いモンスターの詳細情報は、多くのハンターは面倒くさがって読まないですからね」
「あ、あはは」
「スライムって、内臓とか一切無い水の塊みたいなモンスターなのに、ちゃんと生きてるでしょ? あれは、命の属性と水の属性が融合したモンスターだからだよ。だから、生きるのに必要な要素が、水の中に溶け込んでるってかんじなの」
「なるほどな~、技の説明はわかったんだけどよ。でもよ、ギルマスのあれはめちゃんこ強かったよな。スライムと同じ技で、あんなに強くなるとは思えないんだが」
「同じ技というか、スライムは最初から命と水が融合してる存在だから、技とはちょっとちがうの。それに、スライムは種として弱いわけじゃないからね。数を見れば、スライム以外のすべてのモンスターに、妖精族やエルフとかを足した総数よりも、スライムのほうが多いと思ったよ。それに、時々いる強い個体、ビッグスライムとか、キングスライムなんかは個体としてすっごい強いらしいしね。ちょっと話がスライムにいっちゃったけど、ギルマスの話に戻るね。この融合技の最大のメリットは、相乗効果なの。例えばさっきの移動でも、アオイは最初風魔法だけで飛んでいたけど、そこに命の魔法の力で変えた羽根の力を加えて、すごい速く飛んでいたでしょ。ピヨも風魔法だけで飛んでるときより、火魔法を組み合わせたあとのほうがかなり速かったよね。だからギルマスも、命と火、この2つの魔法の相乗効果によって、大幅にパワーアップしてたんだと思うよ」
「なるほど、相乗効果か。じゃあさ、ギルマスが自分の技でぼろぼろになってたっぽい理由はなんだ?」
「ギルマスの技は完璧じゃなかったの。完全に融合し切れていない部分があったから、その部分の体が、火に耐えられなかったんだと思う。普通の火ならまだしも、周辺の火は命の魔力と融合した火だからね。耐えられなくても不思議じゃないかなって」
「なあ、この技って、ぷうの魔法で再現できるか?」
「ごめんね、この技はわたしの力じゃ無理なの。他人の命の魔力にアクセスしなきゃいけないんだけど、そこが他人への強化魔法の苦手なわたしには難しくてね。失敗したときの命の保障がなくてもいいなら、試すだけなら試せるけど」
「いや、遠慮しくぜ!」
「ああ、あたしもだ」
「ただ、命の魔力を強化したりくらいなら出来るから、やりたくなったら言ってね。補助するよ」
「ああ、是非とも試したい技だしな」
「ああ、あたしもお願いしたいよ」
「では、そろそろ移動を再開しましょうか」
「「「「は~い」」」」
「ここからは、競争をするよりも、新技の練習をしながら移動しましょう」
「「「「はい!」」」」
それぞれ気に入った技を使って移動を再開する。アオイは羽根をオオタカのものに変化させ、カリンはつるの鎧をケンタウロスモードにする。ピヨは雷を纏って筋肉を強化する技を気に入ったらしく、真似しようとする。エリカはアオイと同様に羽根を変化させようとするが、この2人は上手くいかないようだ。
「あれ、上手くできないな」
「ええ、私もです。どう表現したらいいのかわからないのですが、引っかかる感じがします」
「じゃあ、最初はわたしが強化魔法をかけるね。他の人からの補助ありでも、使ってれば、そのうち慣れて1人で使えるようになるはずだから。でも、わたしからあんまり離れないでね。わたしの実力だと、見える範囲じゃないと、効果が切れちゃうかもだから」
「わかりました。ありがとうございます!」
「ああ、ありがとうよ」
ぷうが2人に強化魔法をかけると、2人はそれぞれの技を発動させた。これで準備万端だ。
「では、行きますね」
カリンが走り出し、それに続いてみんなも飛び立つ。ここから先は森林地帯だが、ぷうとカリン以外は空を飛ぶのでまったく影響が無い。
カリンはケンタウロスモードで森林地帯をすいすい進んでいく。流石森の住人とでもいうべきか、カリンは森林地帯だというのに、かなりの速度ですいすい進んでいく。ついさっき使い始めたばかりの技だというのに、長年この体だったかと思うほどに4足歩行が上手だった。ついついぷうはカリンを観察してしまっていた。
「おや、どうされましたか?」
「ううん、さっき使い始めたばかりなのにすごいスムーズだなって思って」
「いえいえ、今は移動だけで精一杯ですよ。この動きは、故郷の森でよく乗っていた、フォレストホースという馬の真似ですね。フォレストホースはモンスターですが、気性が大人しく、私のいた里では、一般的な移動の足としてかなりの数を飼育していました。頭もいいので、手綱を握って細かく木を避けさせるような事をせずとも、大まかな進行方向さえ指示すれば、勝手に走ってくれるのです。その時の走りは実に見事ですよ。森林の中をどうしてこんなに速く移動できるのかと、森の住人を自負している私達エルフですら、不思議なくらいするすると木々の間を抜けて走っていくのです」
どうやらカリンは大丈夫なようだ。
アオイとエリカは仲良く飛行中だ。2人とも羽根の使い方をマスターしようと、風魔法などは最小限しか使わずに、羽根をぱたぱたさせながら飛んでいく。エリカはまだ慣れないようでよちよち飛びだが、そこはアオイがいい感じにフォオーしてあげているようだ、アオイ自身も、羽根の大きさを変えて、自身に最適な羽根のサイズを探しているようである。
「きゃあ、なかなか難しいですね」
エリカは時折がくんっと、おかしな動きをしながら飛行する。
「たぶんだけど、羽根の動かし方が悪いな。どうやらこの羽根は、俺達の羽のように、せわしなく動かすんじゃなく、もっとこう、バッサバッサ動かすほうがいいみたいだな。お前の相棒の普段の動きを真似ればいいのさ。いまはまあ、あんな様だが」
「はい、わかりましたアオイ様、普段のピヨを思い出してみます」
アオイとエリカも、大丈夫そうだ。
アオイにあんな様呼ばわりされたピヨは、風魔法も使わずに必死に羽根をパタパタ動かしている。ぷうのつたない強化魔法では電気出力が安定しないのだが、がんばって自分のものにしようとしているようだ。ピヨ自身の魔法でも、すこしづつ真似ができているようだ。ただ、右へ左へ、上へ下へ、速度もまったく安定していない。まあ、慣れてもらうしかないだろう。
こうして、みんなでいろいろと練習をしながら、3日後の夕方、ついに目的の湖へと到着するのだった。
「ふう、やっと到着か~、練習してて、すっかり遅くなっちまったな」
「問題ないですよ。亀を相手に修行に来たのは事実ですが、いままでの練習もなかなか有意義な時間でしたしね」
「そうそう、わたしは1月くらい特に予定がないからね。のんびりいこ~」
「おかげ様でこの羽根にも慣れてきました。あとは、私1人の力で上手に羽の変化が出来るようになればいいのですが」
「そんなのすぐだぜ!」
「ああ、そうだよ。あたしの電気アーマーなんて、まったく出来る気がしないよ」
「あはは、ピヨのあれはまだまだ出来そうにないな」
「くっそ~、みてろよ、すぐにものにしてやるからね」
「にしても、すっげえ霧だよな。でかい亀を見てみたかったんだが、この霧じゃあ遠くから見るのは無理か」
「ここにいるガブガミガメは、いわゆる水亀ですからね、水中に住んでるんですよ。ですのでボス牛ほど簡単には見つからないかもしれないですね」
「水中かよ、条件悪くねえか?」
「修行には好都合でしょう? ただでさえ牛より硬い亀、しかも、攻撃の通りにくい水中にいるんですから」
「はっはっは、流石カリン殿だぜ。言うことが違うな!」
「ああ、あたしも燃えてきたよ!」
「ええ、私もがんばります!」
みんなやる気は十分なようだ。
「では、今日はこの辺で野営をしましょう」
「「「「は~い」」」」
野営はこの3日間、行く先々で、ぷうの建てた家の中でおこなってきた。ぷうの建てた石の家なら、そこら辺にいるモンスターが束になって襲い掛かってきても、びくともしない。どっかの猫好きとちがって、この石のお家は頑丈なこと以外は普通のお家だ。猫の頭部をデフォルメしたような形状でもなければ、宇宙船でももちろんない。ただ、外見はともかく、中はお家ともちょっと違う。ぷうの作ったお家の中は、壁や天井にキャットウォークが張り巡らされていた。まあ、もともとカリン達ハンターも、アオイのような軍人も、野外ではテント生活なので、見張りもいらない頑丈な家の中なら、それだけで十分だ。
猫トラックや猫救急車は猫型だったが、猫トラックや猫救急車はゴーレムなので、動かすための仕組みが必要だ。そこで、自身の歩行や走り、その際の無意識下でのバランス取りなんかを、魔法でトレースした情報を送るだけで動かすために、あえて自身と同じ形だった。猫好きだからではなく、猫だからあの形なのだ。
「では、明日からは超大型のガブガミガメの討伐をしながらの特訓になります。今日はお夕飯をしっかり食べて、たっぷり睡眠をとって、明日に備えましょう」
「「「「は~い」」」」




