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ぷうとアオイとカリンとピヨとエリカ

 でっかい亀の討伐に向かう道すがら、5人は競争していた。


「付いてこれますかな?」

「ぜってえ負けねえぜ~!」

「あたしが勝つ!」

「私も負けません!」


 4人の本気の勝負が始まる。


 カリンは身体強化魔法、風魔法、植物魔法を駆使して走る。全身を覆うだけに止まらず、自身の足を延長したかの様に伸びたつたは、植物魔法の力によって、すさまじい力でしなる。そして、それはカリンに爆発的な加速をもたらした。だが、アオイもピヨもエリカもそう簡単に負けるわけにはいかない。風魔法の出力を上げて、カリンを追走する。


 この勝負、仕掛けたのはカリンなのだが、他の3人だって負けるわけにはいかない。なぜならこの勝負、有利なのは3人のほうなのだ。これは種族的な部分が大きい。エルフをはじめとする2足歩行動物は、正直あんまり足は速くない。理由は簡単で、空気抵抗が大きいのだ。


 大気圏内では、速度が上がれば上がるほど空気抵抗が大きくなる。その計算式は、空気密度×速度の2乗×空気抵抗係数×前方投影面積だ。このうち、空気密度と、速度の2乗の部分に、種族差はない。だが、前方投影面積において、2足歩行は圧倒的に不利なのだ。それに対して、アオイ達妖精族は、直立の状態で飛ぶわけではない。頭を前に、体を後ろにして飛んでいる。その前方投影面積は、カリンの数分の1しかない。つまり、アオイとエリカにしたら、カリンの数分の1の力で勝てる勝負なのだ。おまけに今のカリンは、つたのために更に巨大になっている。恐らくカリンの10分の1のパワーも出せば、勝てるはずである。


 そして、そんなアオイとエリカ以上に負けられないのが、オオタカのピヨだ。オオタカをはじめとした猛禽類は、空を飛ぶことに特化した生き物だ。その流線型の体は、妖精族よりも明らかに空気抵抗係数が小さいし、その羽根は高速飛翔に非常に適した形になっている。オオタカの羽根に比べたら、妖精族の羽は、前方に高速移動するのに向いている構造ではなく、どちらかといえば小回り重視の羽なのだ。そのため、猛禽類であるオオタカが一番有利だ。この勝負、ピヨは絶対に負けられないのだ。


「はあ、はあ、はあ」

「くう、まけないぜ~!」

「あたしが最速だよ!」

「私も負けません」


 しばらくの間、飛行組み3人と互角の勝負をしていたカリンだったが、ついに遅れ始める。身体強化魔法、風魔法、植物魔法と、3つの魔法を組み合わせて、他の3人に対抗してきたが、空気抵抗の大きさは、パワーの割りに速度が出ないこと以上に、カリンの魔力と体力を、すさまじい勢いで削っていった。地理的にこのあたりはそこまで強いモンスターは出ないとはいえ、これ以上の消耗は避けたかった。カリンは脱落を受け入れるのだった。


「はあ、はあ、その先に森林地帯があります。その手前で、昼食を取りますよ!」


 最後にゴール地点だけ伝えて、カリンは魔法を解除した。もうばてばてだが、流石にこのペースで進むのが前提な予定は立てていない。あとはのんびり進んでも、日が天辺に昇るころには、森の手前に着くだろう。


 カリンが脱落した後も、アオイとピヨとエリカの戦いは続いた。だがやはり、オオタカのピヨが有利な様だ。じょじょにオオタカのピヨが前に出る。このままでは100%勝ち目は無い。アオイとエリカが勝てるとすれば、今使っている身体強化魔法と風魔法だけではなく、カリンのように、プラスアルファのなにかがほしい。


 まず、身体強化魔法ではダメな理由だが。メイクンでは一般的に、非力な小さい動物ほど、魔力が多い傾向にある。これは、小さな動物が、モンスターに対抗するために遂げた一種の進化のようなものだと言われている。だからといって、力の強い大きい動物に対して、小さい動物が豊富な魔力を用いて、身体強化魔法で対抗できるということではない。なぜなら、大きい動物の魔力が絶対量として少ないわけではないし、そもそも肉体の強化には限界がある。本来の肉体の強さが強いほど、身体強化魔法の効果は高くなるし、強化できる限界も上がるのだ。そのため、飛行する力の強い肉体を持つオオタカに、身体強化魔法で妖精族が勝つのは、いくら魔力が多くとも、非常に難しい。もっとも、妖精族の羽は、そもそも体から物理的に生えているわけではなく、魔力で出来た羽が、体から浮いたところで発生しているだけなので、普通の羽根とはぜんぜん違うものだ。別の見方をすれば、この羽が、どういう原理で身体強化魔法の影響を受けるのか等、よくわかっていないことも多い。妖精達からすれば、飛べるから飛べるんだそうだ。


 次に、風魔法もだめだ。純粋な魔力量なら妖精族のほうがあるはずだし、風魔法に対する造詣においても、けっしてオオタカに負けない自負のある妖精族だが、直線の高速飛翔や、急降下に関する部分に関しては、オオタカのほうが一枚上手だ。妖精族の魔力をもってしてもやすやすと勝てることじゃない。おまけにオオタカは、猛禽類の中でもけっして大柄なほうではない。そのため、比較的魔力も多いのだ。


 妖精族の2人にはわかっていた、このままでは確実に負けるということが。身体強化魔法や風魔法以外に、活路を見出さなければ、オオタカには勝てない。アオイは考える。どうすれば勝てるのかを。


(このままじゃだめだ。いくら魔力量は有利ったって、風魔法の出力は、俺はもう限界、ピヨのやつはまだ余力がある。なにかないか、もっと速く飛べるなにか・・・・・・。そうだ、ナノハナさんに教えてもらったあれをやるっきゃねえ、ぶっつけ本番だが、負けられるかよ!)


 アオイは自身の羽に魔力を注ぎこむ、そして、羽の形状を目の前のオオタカと同じような形状に変化させようと、意識を集中させる。


 アオイはナノハナに以前教わった技にぶっつけ本番で挑むことにした。この技、ナノハナに教わったときは、ぜんぜん上手くいかなかった技だ。難易度が高い割に、羽の形状を変えるだけという地味な効果に、アオイは意味を見出せなかった。アオイからしたら、そんな魔法を覚えるくらいなら、風魔法の練習をしたほうが、よっぽど速く飛べると思っていた。


(以前は意味を見出せなかったが、今ならわかる。この技は、俺が次のステップへ進むために必須の技だ。それから、もうひとつわかった。今なら間違いなく成功する。俺の妖精族としての本能が、血が、やれと騒ぎ出してくる)


「うおおおおおおお!」


 アオイの羽根が、まばゆい光を発した。光はすぐに収まる、するとそこには、まさにオオタカの、いや、猛禽類の羽根があった。一気に加速したアオイは、ピヨに追いつく。


「悪いがピヨよ、もう負けねえぜ!」

「この速度についてくるなんて、妖精族としちゃ、確かに速いね。でもね、この程度であたしに勝てるなんて、思わないでよね!」


 だが、ピヨはまだ100%じゃなかったようだ。風魔法の出力を更に上げる。これにはアオイも追いつけない。折角つめた距離が、また広がっていく。いくらオオタカ同様の翼を手に入れようが、ピヨにしてみたら生まれつき持っていたものだ。羽根が生えたばかりの、生まれたての小鳥に、負けるわけにはいかない。


「これが本当のあたしの風魔法だよ!」

「へへ、やっぱりまだ全力じゃなかったんだな。最高じゃねえか!」


 ピヨとアオイは、ハイレベルのすさまじい勝負になってきた。だが、その勝負の影で、エリカはリタイアした。


(ダメ、私では付いていけない。ですが、アオイ様のあの羽根はいったい・・・・・・。)


 前方に森が小さく見えてくる。ゴールはあの森の手前だ。覚えたての技のせいか、流石に効率面でまだまだ至らない部分が多かったのだが、じょじょに扱いに慣れてきた。身体強化魔法や風魔法の使い方が、みるみるうちに改善されていく。すぐ前にこの羽根の見本にして、扱い方の達人がいるのだ。練習するのに、これほどいい環境もそうはない。アオイはピヨの羽根の動き、身体強化魔法の動き、風魔法の動きを細かくチェックする。そして、妖精族の魔力量を持って、強引に魔法で加速する。徐々に徐々にではあるが、差が縮まっていく。


 そして、ゴールがはっきりと見えてきたあたりで、アオイはとうとうピヨに追いついた。


「へえ、あんた、やるね!」

「はあ、はあ、はあ、お前もな!」


 アオイは息が完全にあがっていた。流石に覚えたての技、いくら目の前にいいお手本があって、アオイの飲み込みが早いとはいえ、無駄がかなり多かった。妖精族の魔力量でむりやり高速飛翔を続けていたが、流石にもう限界寸前だ。それに対してピヨは、まだそこまで限界ではなさそうだ。


 ドドドッ


「ふふふ、ここまでがんばった敬意を表して、あたしの真の力を見せてあげるよ! ぴ~!」


 ピヨは思いっきり鳴くと、全身から炎が噴出す。それはまるで、火の鳥のようである。


(これは、ギルマスと同じ技!? いや、ギルマスのあの技は体の中から炎が噴出していた。だからこそ自身が大やけどをおっていた。だがこのピヨの技は、体の表面から炎が出てるだけか?)


 ドドドドドドッ


「行くよ。フレイムジェットバード!!」


 ヒュゴオオオオオオ!


 ピヨは後方に爆炎を噴出しながら一気に加速した。その姿はまさにジェット戦闘機だ。この加速には流石のアオイも追いつけない。ゴールまではもうあとちょっとだ。アオイも振り切った。ピヨは勝利を確信した。


 ドドドドドドドドドッ


「よし、あたしが一番乗りだね!」

「きゃああああああああ!!」


 ドドドドドドドドドドドドッ


 だが、そんなピヨの横を、きゃあきゃあ叫びながらたやすく追い抜き、駆け抜ける影があった。


「森の手前だから、ここでいいのかな?」

「え、ええ。ありがとうございます」

「はあ、はあ、ぷう様、ありがとうござい、ます」」


 ピヨを抜き去り、森の前でぴたっと止まったそれは、ぷうと、ぷうの尻尾から伸びるロープのようなもので体を拘束されているカリンとエリカだった。そして少し遅れて、ピヨが、もう少し遅れて、アオイが到着する。


「はあ、はあ、なんでだ? 何が起こったんだ?」

「はあ、はあ、くっそー、勝てねえぜこりゃ。ピヨもぷうも速過ぎるだろ」

「ちょっとまってくれぷう殿。いま、どうやって?」

「ピヨ、私が説明しましょうか?」

「あ、ああ、頼む」

「ぷう様は、カリン様について来いといわれたのに、カリン様が途中でギブアップしてしまったので、回収したのだそうです。尻尾から、土魔法でロープみたいなものを伸ばし、カリン様をこう、ぐるぐるっと確保したそうです。その後私達を追いかけて走っていると、私が遅れていたので、私も同じように確保されました。そこで私が、アオイ様とピヨが速すぎて追いつけなかったという話をすると、じゃあ、追い抜いてあげるよ~と、猛ダッシュをして下さいまして、今に至ります。あまりにもすさまじい速度と、地上すれすれをロープでつながれた状態での移動でしたので、その、少々怖くなってしまいました。出来れば先ほどの悲鳴は聞かなかったことにしていただけると」

「ああ、わかったよ。あたしはぷう殿の足音以外、なにも聞いていないさ」

「ええ、お願いします」


 何はともあれ、全員無事に森の前に到着した。予定よりだいぶ早く、まだ日は昇りきっていなかったが、ゆっくり昼食をとることにした。


「それではぷうさん、ここで昼食にしたいのですが、かまいませんか?」

「うん、じゃあ、ダイニングとご飯を出すね」


 ぷうが、な~っと一鳴きすると、ぷうの口から放出された魔力が、椅子とテーブルの形になり、あっという間に木造の椅子とテーブルが出来上がる。どっかの猫好きの作る作品と違って、いささか豪華ではあるが、普通の椅子とテーブルだ。さらに、テーブルの上には、金属魔法で作り出したナイフとフォーク、スプーンが置かれ、土魔法で作ったガラスのグラスまで置かれていた


「椅子に座って~。ご飯用意するね」

「なんか、すっげえ豪華なきがするな」

「はい、先日アオイ様にご招待いただいた、王城の食堂のようです」

「本当ですね」

「ああ、緊張してきちゃうな」


 用意するとはいっても、収納魔法の中に入っているハピに作ってもらったご飯を取り出すだけだ。だが、1つだけ問題があった。普通、ハンターが昼食を取るのに、テーブルなんていらないだろうと思うかもしれないし、実際はその通りなのだが、ハピの用意した料理は、王城の高級食堂で出てきた料理そのままか、それをハピ流にアレンジした、サンドイッチとかだった。そのため、用意した料理の半分は、椅子とテーブルにナイフとフォークとスプーンじゃないと、食べづらいのだ。エリカの指摘したことも正解だ。ぷうにとっては、一番身近なダイニングを真似た程度の認識だが、ぷうが一番よく行く食堂は、王城の高級食堂なのであった。


「今日のランチは、恐竜のお肉料理です」


 ぷうは収納魔法の中から、恐竜のお肉料理、スープ、サラダ、パン、花、ドリンクなどを次々と取り出す。


「うお~、うまそ~」

「はい、すごい美味しそうです。椅子やテーブル、カトラリーにグラスを見たときも思いましたが、本当に王城の食堂のようです」

「ああ、あたしもまさかこんな美味しそうな料理を、野外で食べられるとは思わなかったよ」

「ええ、本当ですね」

「おかわりもいっぱいあるし、他の料理もいろいろあるから、遠慮なく言ってね」

「おう、サンキュー」


 みんなでもりもり食べる。一番たくさん食べたのはぷうだったが、これは別に食いしん坊だからじゃない。みんなが遠慮しなくていいようにという、そう、配慮なのである。



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