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ぴぴの特訓

 ぴぴはわんこ大臣、ブランシュ、クロ将軍の実力をチェックするために3人と戦うことにした。ハンターギルドの訓練場の中央で、ぴぴとわんこ大臣達が対峙する。見学者はギルマスだけだ。ぴぴは改めて3匹を観察する。


 わんこ大臣はラブラドールレトリーバーのようなわんこだ。うすきという名前が示すように、毛色は薄い黄色だ。わんこ大臣の側近のブランシュはグレートピレニーズのような大型わんこだ。毛色は名前の通り真っ白だ。クロ将軍はドーベルマンのようなわんこだ。毛色はもちろん黒だ。普通に考えたらわんこなので牙による攻撃がメインだろう。他には吠えるのも上手なはずなので、ぷう見たいに遠距離攻撃も得意なのかもしれない。まあ、それは戦えばわかることだろう。


「いつでもいいよ」

「ではいくかのう。ブランシュ、クロ、狩るぞ・・・・・・」

「がう!」

「わう!」


「わお~ん! わお~ん!」


 うすきが全力で遠吠えを上げた。口から大量の魔力が漏れ出すが、ぴぴに向かってくるわけではない。むしろ味方であるブランシュとクロの元へと流れていく。つまりこれは、補助魔法だ。うすきの補助魔法により、ブランシュとクロの能力があがる。効果は恐らく純粋な身体強化だろう。


 うすきからの強化を得たブランシュとクロは素早く左右から襲い掛かってくる。そのスピードはかなり速い。うすきの強化魔法の影響もあるだろうが、ギルマスの本気モードなみだ。


「ぐあう!」

「があう!」


 一瞬で距離を詰めると、2人は大きな口を開けて襲ってくる。ブランシュは鼻から口を金属で覆い、さらに、金属の牙をむき出しにして、クロは強力な身体強化魔法で強化した牙をむき出しだ。ぴぴは素早く鼻に猫パンチを繰り出して撃退する。ブランシュとクロは吹き飛んだが、それを待っていたかのように、うすきが全力で吠える。


「わお~ん!」


 強烈な水球がぴぴに襲い掛かる。ぴぴはちょっと強めに猫パンチを繰り出し、衝撃波で破壊する。猫にとって水は飲むものであって浴びるものではないのだ。濡れるのは絶対にいやだ。


「「わんわん、わんわん!」」


 ブランシュとクロは体勢を立て直すと再度襲い掛かってくる。わんわん吠えながらも高速で接近してくる。そして、再び口を開けて襲い掛かかる。ぴぴは猫パンチを鼻に叩き込むことで吹き飛ばす。うすきは距離を取り、ひたすらわお~ん! と吠え続ける。どうやらうすきは攻撃をやめ、ブランシュとクロの補助に回るようだ。ぴぴが猫パンチで吹き飛ばすも、すぐに起き上がり即座に襲い掛かる。それを繰り返していた。


 なるほど、実にわんこっぽい戦い方である。短期決戦が得意な猫に対して、同じ舞台で挑むのではなく、あくまでもわんこが有利な持久力で削り倒そうという作戦のようだ。この戦い方に、ぴぴは感心していた。まず、うすきだ。まるでブランシュとクロの動きを完全に把握しているかのごとく、強化魔法を緻密に制御している。基礎的な強化魔法こそかけっぱなしだが、攻撃の瞬間だけに全能力に上昇をかけ、反撃のぴぴの猫パンチが炸裂した瞬間に攻撃上昇を切って余計な負担を減らす。さらに、壁に激突時には防御力上昇に特化させダメージを抑え、勢いが完全になくなってからは、速度上昇に全振りして迅速な反撃行動を支援する。実にすばらしい魔力制御だ。自分自身の強化魔法ならともかく、他者にかけるタイプでここまでできるというのは、ぴぴにはあまり出会ったことのないタイプだった。ハピもぴぴやぷうの強化は出来たが、実に大雑把な強化なのだ。猫愛が強すぎるのか、効果こそすさまじいものの、細かい制御とは無縁のものだった。もっとも、単独での狩りを好む猫には、そもそも他者を強化する魔法の使い手が少ない。ハピのような猫好きには使い手が多かったが、ハピのように過剰なまでの強化をぶっぱするタイプばかりだった。


 そしてブランシュとクロもだ。ぴぴの猫パンチで何度も吹き飛びながらも、即座に迷い無く再度襲い掛かる。このブランシュとクロの戦い方は、いくらうすきからの支援があろうとも、己が傷つこうとも作戦に絶対に従う、そういう覚悟がなければできないものだ。ぴぴはブランシュやクロの耐久度も図りたかったので、徐々に猫パンチの威力を上げていっていた。いまでは猫パンチのたびに、ブランシュとクロは壁に叩きつけられ、結界の付いた壁を崩している。最初のような同時攻撃こそ少なくなったものの、クロとブランシュはそれぞれのペースで襲い掛かるのをやめない。特に、ブランシュより速度に勝るクロは、ブランシュより早いサイクルで次々と攻撃を仕掛ける。そして、クロよりパワーに勝るブランシュは、時にクロに攻撃した隙を狙い、時にクロの攻撃にあわせて攻撃したりと、クロの攻撃にあわせて上手く動く。


「「わんわん、わんわん!」」


 すでに何度壁に叩き付けられたのかわからない。それでもクロもブランシュもあきらめない。攻撃をひたすら続ける。だがその時、絶妙なタイミングが訪れた。ぴぴを中心に、丁度三方向にわんこ大臣達が位置する角度になったのだ。ぴぴの正面にいるクロが12時の方向なら、ブランシュが8時の方向、うすきが4時の方向だ。


 アイコンタクトもテレパシーによる会話も一切なし。以心伝心のみで繰り出される連携攻撃。クロとブランシュが襲い掛かるほんの直前、うすきが再度遠距離攻撃を放ったのだ。


「わお~ん!」


 クロとブランシュの攻撃が続いていたことで、ぴぴの反応は一瞬遅れる。ブランシュとクロがずっとわんわん吠えながら攻撃していたのも、自らに注意を向け、うすきから意識をはずす為だったのだろう。作戦的には完全に出し抜かれた。だが、素早く振り向いて猫パンチでうすきの水球攻撃を吹き飛ばす。クロとブランシュが飛びついてくるには、まだ少し時間があった。ぴぴなら十分間に合うはずだった。


 だが、ぴぴがうすきの攻撃を猫パンチで攻撃したその瞬間、ブランシュは、近距離から、放出系の攻撃を思いっきり発射した。


「があ~お~!」

「ぐるるらあ!」


 ブランシュは大きな口を開けて、ショットガンのように大量の金属弾を発射する。ブランシュとクロによる同時攻撃を想定していたぴぴは、完全にタイミングをはずされた。しかも、ブランシュの攻撃に巻き込まれるのをものともせず、クロも噛み付きに突っ込んでくる。そして、ブランシュもショットガンを撃った大きな口そのままに、噛み付きにくる。


 完全に作戦負けしてしまったぴぴだったが、ここは大人しく攻撃を食らってみることにする。とはいえ、ギルマスと戦ったときみたいに、普通に食らったりはしない。あくまでもバリアで受ける。理由は、よだれだ。口の中を超高温にしていたギルマスや、金属でコーティングしているブランシュはともかく、ハードな運動のせいでよだれまみれであろうクロの噛み付きは、食らいたくなかった。確実によだれまみれになる。ぴぴは女の子なのでありえない。よって、魔力でバリアを張ってブランシュのショットガンも、クロとブランシュのダブル噛み付きも全部防ぐ。バリアに食らってみた感想は、ギルマスより攻撃力が弱かった。


「それじゃあ、ひとまず終わりにしよう」

「はっ、はっ、はっ、はっ、ぷうが戦うのを見てたときも思ったが、やっぱつええな。はっ、はっ、はっ、はっ、こんだけ攻撃して、それを防いでいるのに、息1つ乱れてないとか」

「はっ、はっ、はっ、はっ、私はけっこう限界ですね」

「はっ、はっ、はっ、はっ、大丈夫か、兄貴」

「はっ、はっ、はっ、はっ、わしの強化魔法ありのこの2人が相手でも、まるで相手にならんとはな、さすがじゃな」

「じゃあ、はい、これ食べて回復してね」


 ぴぴは恐竜料理を取り出す。


「はっ、はっ、はっ、はっ、遠慮なくいただくとしよう」


 わんこ達はがぶがぶと食べだす。このわんこ達、やっぱりそれなりに強い。個々の力はギルマスに劣っているが、3人の総合力ではギルマスを圧倒するだろう。ライオンは猫科の動物の中では珍しく群れて狩りをする動物だが、ギルマスの戦い方は完全にソロのものだった。群れでの狩りはメス中心だったはずだ。オスライオンはソロで動くこともあるというし、ギルマスがソロ狩りの戦い方をするのも不思議ではないが、これは、ギルマス個人の特徴なのだろうか、あるいはオスライオン全般に通じる特徴なのだろうか。ぴぴは少し考えるが、特訓の目的は魔力体の強化であって、戦い方などに口出しする気がなかったことを思い出し、考えるのをやめた。どうしても気になったら、本人に聞けばいいだけだしね。


「じゃあ、さっそく特訓を始めようか」

「これこれ、まだ食べ終わったばかりじゃぞ」

「消化吸収を促進する技くらい、みんな使えるでしょ?」

「それはそうじゃが、せめて10分待つのじゃ。そんな一瞬で回復できんわい」

「むう。ギルマスも、食べてから10分くらいかかる?」

「そうだな。俺もそのくらいはかかるぞ」

「そっか、じゃあちょっと予定変更かな」

「「予定変更?」」

「うん、最初は4人同時に相手にして特訓する予定だったけど、回復にそんなにかかるんなら、1人づつやろう。そうすれば1人1人念入りにやれるからね。それに、他の人がやってるのを回復中見てるのも、面白そうでしょ」

「お、そりゃいいな」

「うむ、いいじゃろう」

「今の内にやり方だけ言っとくね。最初の内は、攻撃前に声かけるから、それを聞いてしっかり防いでね。防ぎ方はお任せするね。身体強化魔法だけで防いでもいいし、防御魔法を使ってもいいし、攻撃して相殺してもいいよ。最初の内は回復時間を考慮して、1人2分を目標にやるからね。ご飯はここに出しておくから、2分戦ったらすぐ食べて、10分回復してその後すぐバトルね。消化吸収促進が上手くできるようになったら、休憩時間を短縮するよ」

「うむ、なかなかハードじゃが、こちらから頼んだことじゃしな。よろしく頼むぞ」

「わかったが、こっちから攻撃しちゃダメなのか?」

「もちろんいいよ。出来ればやってみて」

「へへへ、まあ、みてろや。じゃあ、早速やるか、俺からでいいよな?」

「うん」


 こうしてぴぴはギルマスを連れて訓練場の中央へいく。


「じゃあ、やるよ」

「おっしゃあ、こいや!」


 ギルマスは全身から炎を吹き出す。最初から全力モードだ。1回2分なら、全力を出しても問題ない。ギルマスは特訓をつけてほしいといいながらも、ぴぴへのリベンジをしたかったのだ。もちろん今の時点ですぐに勝てるとは思っていないが、1回の勝負というよりは、柔道の乱取りのような中で、技を盗み。力を磨き、どっかのタイミングで勝てたらな~という感じだった。よって、ぴぴを倒す気満々だ。


「鼻」


 ペッシ~ン!


 一方のぴぴはそんなこと知らない。純粋に特訓をするだけだ。まずは鼻への猫パンチだ。以前なら壁まで吹っ飛ばされた猫パンチだったが、ギルマスは全身から燃え盛る炎で強引に姿勢制御をして、4本の足を地面に全力でめり込ませ踏ん張りぬく。それでも数mくらいは下がったが、最小限の時間で立て直すことに成功する。


「ぐるうう」


(くっそ、相変わらず見えねえ。だが、攻撃箇所さえわかりゃあ、どうということはないぜ)


 ギルマスは反撃を試みようと、ぴぴの位置を確認しようとするが、その前にぴぴが攻撃してくる。


「お腹左」

「ぐう」

「胸右」

「があ」

「顎」

「がふ」

「頭上」

「ぐるう」


 ギルマスは反撃を試みるが、まったく出来ない。ぴぴの攻撃を身体強化魔法と、筋肉をこわばらせて防御するので精一杯だ。しかも、ぴぴの攻撃はどんどん早くなる。


「首」「ぐふ」

「鼻」「ふぐう」

「腰」「がっ」

「肩右」「ぐっ」


「2分だね。ギルマス交代ね」


 ギルマスはすでにボロボロだが、体のキズは回復猫パンチで回復する。ちなみにボロボロなのはぴぴが殴ったせいもあるが、ギルマスの全身から火を吹く技が、自身を焼くからでもある。だが、この特訓を続け、魔力制御力が大幅に上昇すれば、その弱点も軽減できるだろう。


「じゃあ、ギルマスはご飯食べて、消化吸収を促進してね」


 ギルマスはヘロヘロになりながらもがんばってご飯を食べる。あれだけ美味しかったドラゴン料理が、ぜんぜんおいしくない。


「え~っと、次はクロね」

「お、おう、お手柔らかに頼むぜ・・・・・・」


 単独での戦闘能力ではギルマスが一番強いのは、わんこ達もわかっていた。その一番強いギルマスへの蹂躙劇をみて、けっこう精神力を削られたわんこ達だった。そして、4人の特訓は続く、そう、続くのだった。


 4人はまだ知らない。ぴぴは、ぷうかハピがいるか、ミニぴぴぷちゃ号などの見知った場所でないと寝れないということを。

 4人はまだ知らない。ぷうもハピもお出かけ中で、ミニぴぴぷちゃ号はハピが連れて行ってしまっているということを。

 4人は忘れていた。強力な魔力回復手段があれば、寝なくても問題ないことを。

 4人はまだ知らない。ハピが帰ってくるまで、ぷうも合流しないことを。

 4人はまだ知らない。ハピが帰ってくるまで、1月ちかくかかる予定であることを。



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