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ボス牛、その後

 無事にボス牛を討伐して帰ってきた3人と18人は、その後はなんのトラブルもなく、王都に帰ってきた。時刻はもう夕暮れ時だ。北門は商人達や他のハンターもいてかなりの人数が入門待ちの列を作っていたが、そこは☆6ランクのカードのパワーだ。あっさり入門できた。ハンター達も☆6ランクと☆5ランクのパーティーという上位ハンター達なので、ぴぴたち同様あっさり入門できた。そして一行は、そのまま王都ハンターギルド北門支部へと足を踏み入れる。


 真っ先にハンターギルド北門支部にやってきたのは、依頼の報告もそうだが、なによりまだ意識が戻らないハンター達を医者に見せるためだ。ハンターギルドの各門の支部にはいろいろな設備が整っている。入り口からぱっと見える場所には酒場くらいしかないが、奥には、宿屋、医務室、洗濯屋、薬屋、道具屋、武器防具屋などがある。これはハンターギルドがハンター相手にもうけようというだけではない。妖精の国のハンターギルドは国営のため、国軍と同等とまではいかないものの、それなりの福利厚生が揃っているというわけだ。


 酒場や宿屋、洗濯屋なんかは民間に任せればいいと思うかもしれないが、ハンターの仕事は時として夜遅くなることもある。そんなときに、返り血を浴びた装備のまま民間の酒場や宿屋を利用できるかというと、衛生面なんかを考えても無理である。そういう時はハンターギルドに来て、ギルドの洗濯屋で綺麗にしてもらい、ギルドの酒場でご飯を食べ、ギルドの宿屋で寝るのである。


「おお、我らが英雄のご帰還だぜ!」

「どうだった、例のばかデカイ牛は仕留められたのか?」


 夕方というのは、ハンター達が依頼報告に来る時間でもある。ある意味一番ギルドが混雑する時間に帰ってきてしまった一行は、みんなの注目の的だった。特に、牛狩りハンター達にとっては、ボス牛の討伐は今後の牛狩りのしやすさに重要な影響があるため、是が非でも討伐してほしかった相手なのである。


「落ち着け手前ら、まだ意識を取り戻してねえ仲間が大勢いる。まずは医務室だ!」

「ああ、すまねえ」

「おい、道を空けろ」

「俺達も手伝うぜ、医務室へ行くぞ」


 ギルドにいたハンター達の手も借りて、全員で医務室へと向かう。全員を医務室へと運び終わった後は、関係者以外を締め出して、医者に見てもらう。


「症状は?」

「ボス牛の攻撃でやられた。外傷はそこにいるぴぴさんとぷうさんに治してもらったんだが、意識が戻らない」


 医務室のお医者さんも妖精族だった。医者妖精はなにやら魔法を使いながら、全員の容態を見ていく。


「うむ、診断がおわったぞ。全員無傷じゃな。意識が戻らないのは魔力を極端に消耗したせいじゃな。魔力回復の点滴をしておけば、明日の朝までには全員目覚めるだろう」

「先生、ありがとうございます」

「気にするな。仕事だからな」


 どうやらハンター達は全員問題ないようだ。ぴぴ達は撤収することにした。


「では、私はこのまま仲間が起きるのを待ちたいと思います。本当にありがとうございました」

「本当に助かったぜ。ありがとうな」

「ほんまにおおきにどした」

「気にするなって。じゃな~!」

「「ばいば~い」」


 それぞれのパーティーを代表して、最初に助けた妖精の女の子、リーダー熊、きつねさんの3人が挨拶してくる。リーダー熊ときつねさんはパーティーのリーダーだったようだ。妖精の女の子だけはリーダーじゃないらしいのだが、肝心のリーダーがまだ目を覚まさないらしい。


 こうしてハンター達を無事に送り届けた3人は、受付で依頼達成をすることにした。混雑している時間とはいえ、今回のボス牛の討伐はギルドの特別依頼だ。受付に並ぼうとしたところで昼間の受付の人がこちらにやってきて、別室に案内してくれた。どうやらある程度ランクの高い依頼の場合は、受注処理も達成処理も全部特別扱いなんだそうだ。というわけで別室にやってきたのだが、達成処理はあっさり終わった。


「ボス牛の討伐ありがとうございます。それで、大変申し訳ないのですが、依頼達成に関する処理を、明日、王都ハンターギルド本部にておこなっていただけないでしょうか?」

「ああ、わかったぜ。だが、普通の牛モンスターも10匹ほど仕留めたんだが、それはどうする?」

「ありがとうございます。そうですね、普通の牛モンスターに関してはこちらでも買い取れるのですが、明日まとめて本部で処理していただいてもかまいません」

「じゃあ、面倒だし明日全部本部にもってくかな」

「かしこまりました。では、本部にもそのように連絡しておきます」

「おう、サンキュー。じゃあ、またな」

「こちらこそありがとうございました」


 今日やることはこれで終わりだ。夕飯にボス牛のお肉を食べたかったが、明日ギルド本部で解体してもらってからになるだろう。一行はハピの待つ、王城の客間へと帰っていくのだった。

 

「「「ただいま~」」」

「おかえり~、おいしそうなの狩れた~?」

「うん、大きい牛を狩ったよ~」

「牛肉か~、いいね!」

「でも、まだ解体してもらってないんだ。明日ギルド本部に行って解体する予定だよ」

「そうなんだ。おいしいお肉なら、先に料理長に話を通しておいたほうがいいかもね」

「それもそうだな。よし、夕飯のときに頼んでみるか」

「「「お~!」」」

「そうだ、ハピはどうだったの?」

「ふっふっふ、高級品から量産品まで、王都で買えるありとあらゆるチーズとお酒を集めてもらうように、商業ギルドに依頼したよ」

「へ~、すげえな。あの商業ギルドにそんなお願いごとをあっさり通すなんて、ハピってけっこうやり手なんだな」

「まあ、実際は我輩が交渉したんじゃないんだよね。例の妖精トリオとたまたま出会ってね。事情を話したら商業ギルドまで付き合ってくれたんだ。なんか、半分脅迫みたいな交渉だったけど、商業ギルドのギルドマスターと交渉してくれたの。そしたら、ギルマスが対応してくれるって言ってくれたんだ。あ、そうだ、その件で今日のお肉、あの3人と商業ギルドにもおすそ分けしたいんだけどいい?」

「「うん」」

「しっかし、あいつらか~。あいつら3人ともけっこういい性格だからな。そういう交渉上手いんだよな」

「でも助かっちゃった。我輩もだけど、ぴぴもぷうもチーズもお酒も食べないし飲まないからね。おいしいもの探せって言われても困っちゃうんだよね」

「え、お前ら自分が食うために探してるんじゃないのか?」

「ううん、チーズとお酒は別口だよ」

「うん、猫の国の女王様と猫先生の好物なの~。わたしとぴぴが好きなのは、魚だしね」

「え? そうなのか? そういや、ぴぴとぷうは魚料理があるとわかったら、魚ばっかり食べてたな。ハピはカレーばっかだしな」

「うん、でも、恐竜のお肉くらいおいしいと、お肉もいいよね」

「うんうん」

「恐竜カレーおいしいよ」

「は~、そうだったんだな。お前らも大変だな」

「そうでもないよ」

「女王様達のほうが、おいしいもの教えてくれること多いからね」

「だね」

「それじゃあ、そろそろお夕飯いこ」

「ああ、そうだな。料理長に頼まないとだしな」


 一行は食堂に向かう。いつものように注文を頼むと、料理長も呼んでおく。


「なあ、料理長いるか?」

「ああ、いるぞ。今は夕飯作りしてるけどな」

「そうか、時間がとれたら俺達の席に来るように言ってくれや」

「おう、わかったぜ。なんかまたいい食材でも手に入ったのか?」

「へへへ、そんなところだ。お前も楽しみにしてろや」

「そいつは楽しみだな、よし、すぐに爺に伝えとくぜ」


 ご飯を食べ始めて少しすると、料理長が現れた。


「おう、アオイ、それに、ぴぴ様、ぷう様、ハピ様、本日はなにやら耳よりな食材をお持ちだとか」

「ああ、そのことについて相談があってな。料理長は北の草原のボス牛のことは知ってるか?」

「ええ、もちろんでございます。あの地域の上位牛モンスターはここでもお出ししておりますので。ボス牛のお話をするということは、もしや」

「ああ、ここにいるぷうがボス牛を仕留めた」

「本当ですか!?」

「うん、ただ、まだ解体してないの。明日ギルド本部でいろいろやってもらう予定なんだけど、最初に料理長に話を通しておこうかと思ってね」

「ありがとうございます。必ずや最高の料理にさせていただきます」

「よろしくね!」


 こうして調理長にも話を通し、準備万端整えてから、その日は休んだ。そして翌日。4人はギルド本部へと足を運んだ。


「はよ~。ギルマスいるか?」

「ええ、お待ちしておりました。こちらです、どうぞ」


 そういうと受付の人は大きな倉庫に案内してくれた。


「ようお前ら、さっそくやってくれたみたいじゃねえか」

「おはようございます」

「「「「おはよう~」」」」

「ここに出していいの?」

「ああ、かまわないぜ。腕のいい解体職人を集めといたからな」

「じゃあ出すね」


 ぷうはボス牛を出した。全長100mのボス牛はやっぱり大きい。


「おお~、おおきいね。これ、あの恐竜より大きくない?」

「全長は親竜と一緒くらいのはずだよ。横幅とかがあるから、大きく見えるね」

「一度草原に駆除に行きましたが、改めてみても大きいですよね」

「すげえな。あ~あ、俺も戦いたかったぜ」

「そういやギルマス、北門支部のやつが言ってたんだが、あんた、戦って平気なのか? 回復が遅いから、いざという時のために温存してたんじゃないのかよ」

「ああ、ちょっと前まではそうだったんだがな。城のほうからすげえいい肉が回ってきてな。ドラゴンの肉らしいんだが、あの肉を食べれば回復力も問題なし、ばっちりだったってわけさ。でもいま思えば、ドラゴン肉で回復が問題ないんだから、俺がいきゃあよかったな」

「ギルマス、まずは解体です。合図をお願いします」

「おう、わりいなカリン殿。よ~しお前ら、解体開始だ」

「「「「「おお~!!」」」」」


 こうして解体が始まった。流石に100mもある大物だと、なかなか解体は進んでいかない。だが、少しづつではあるものの、確実に解体は進んでいった。ぴぴ達も料理長に持っていく分の肉を確保しながら、解体の様子を眺めていた。


「そういえば、カリン殿も挑んだんだよな?」

「ええ、北門支部にとっては、目の上のたんこぶでしたからね。ですが、だめでしたね。私の火力では回復魔法を使わせずに倒すことも無理でしたし、回復魔法を使わることを前提とした持久戦なんてもってのほかでしたから」

「だよな~、俺も同じ理由でダメだったぜ。こりゃあ修行のしなおしだな」

「このデカイ牛を仕留めたのは、やっぱりぴぴか?」

「いや、ぷうだ。顔を見ればわかるが、頭を一撃で貫いてる」

「本当ですね。この頑丈なモンスターの頭蓋骨を一撃ですか」


 みんなの視線がボス牛の額に集まる。そんな中、ギルマスがちょっとした異変に気づいたようだ。


「この肉の柔らかさ、もしやこいつ、死んだときに身体強化魔法もろくに使ってなかったんじゃねえか?」

「ああ、最初俺が戦ってたんだが、無理でな。逃げた後しばらくしてから攻撃してたぜ。俺の与えたダメージの痕跡もないから、俺がいなくなって、回復魔法で回復して、さらに戦闘状態を解除してから仕留めたんだろ。戦闘状態のモンスターは、だいたい身体強化魔法で、体そのものを堅くしてたりするからな、そうなると、倒した後も肉が堅くなるらしいからな」

「なるほどな、そうなるとますます美味そうだな。これはもちろん俺達にも分けてくれるんだろうな」

「もちろんいいよ。わたし達はそんなにたくさん食べないしね」

「さんきゅー、助かるぜぷうよ。これで俺ももっと特訓できるな。そうだぴぴ、昨日お前に教わったことなんだけどさ~、ちょっと上手くいかねえんだよ。練習つきあえや。このまま見学してても暇だろ?」

「うん、いいよ」

「うし、じゃあ訓練場にいくぞ!」

「うん」

「あ、待ってくれ、俺もいくぜ。ぷう、遠距離攻撃魔法の訓練頼めるか?」

「うん、いいよ~」

「では、私もご一緒させて下さい」

「おう、カリン殿も一緒だと、頼もしいぜ!」

「ハピ、後で食堂で合流しよう~」

「うん」


 こうしてハピ以外のみんなは訓練場に向かうのだった。そしてハピは、なにやら1人でこそこそと動き出す。ハピは料理人ではないものの、ご飯皿の研究には余念が無いのだ。解体されたお肉をもらい、人気の無い場所にこそこそ移動しては、ご飯皿の上にそのお肉を置いて、料理を作っていく。


 ハピのご飯皿最大の機能は記憶の中にある料理を、魔力で再現してお皿に料理として出現させることだが、その料理の食材を実際にある食材に変更するような小技も使用可能であった。そのためハピはいろいろな料理方法でばくばくボス牛の肉を食べていく。


「ん~、おいしい~! でもまだだめ。一番おいしいのを探さないと」


 前回、恐竜の肉を食べたときは、王城の料理長の料理に完全に負けた。そのことになんとなく敗北感を覚えていたのだ。いや、ハピは料理人ではないから本来は関係ない。しかも、こうやって料理方法を変えてご飯を食べても、ご飯皿の研究の役にも立たない。そもそも猫のご飯皿の最大の長所は、本来ご飯の無い猫の国でご飯が食べられることである。そして、自分の魔力を自分で摂取するというやり方では、栄養補給にならないメイクンに来てからは、適当な食材がおいしい食べ物になるということこそがすごいのである。なので、そんなに気にすることではないのだが、ハピは1人熱く燃えていた。その後もいろいろ試していく、そして。


「うん、これが1番おいしいかも」


 ハピが1番おいしいと感じたのは、王城の料理長の料理方法をコピーしたものだった。



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