服屋と武器屋
王都ハンターギルド本部を後にした一行は、お買い物をしにまずは服屋に向かった。服屋が先なのは、変身して武器を持つときに裸だと困るからだ。妖精の国には商業区としてまとまった地域はないものの、大通り沿いとその周辺は全部商業区になっているため、大通り沿いをぶらぶら歩けば、大抵のお店が見つかるようになっていた。
「街道沿いは商業区って行ってたけど、どこ行けばいい?」
「内門の中に行ってくれ、内門の中は住宅街だから、服とか日用品を売ってる店が多いんだよ」
「なるほど、じゃあ、出発するね」
ハピ、モンスターに間違われるかも問題は、そもそも杞憂だったようだ。地球でならともかく、メイクンには猫でも種族によってはそのくらいの猫はいるそうだ。そもそも500キログラム越えの虎なんかもいるらしく、30キログラムの猫なんてかわいいもんだそうだ。なので、わんこ大臣にまじめに相談したら笑われた。そのため、ハピが運転だ。こうして内門の中の服屋に到着した。お店は服の絵が描いてある看板があるから服屋とわかるものの、もしなかったらただのツリーハウスであった。
からんから~ん
「いらっしゃいませ~」
一行が店に入ると、店員さんが声をかけてきた。店員さんは身長140cmくらいの小柄でおしゃれな人族っぽい雰囲気の人だった。お店はこれぞ服屋という内装で、棚には大量の服が並び、おすすめのコーディネートの画像とかがいろいろな場所に貼られていた。
「こいつらの変化の術用の服がほしいんだが」
「かしこまりました。服のサイズが自動装着調整されるタイプでよろしいでしょうか?」
「ああ、それがいいな」
「自動装着調整って?」
「はい、普段は服を着ていない方が変身する際に、変身魔法の魔力を感知すると自動で展開、装着できるタイプの服になります。大きさも自動で調整されますので、どの服をお選びいただいても問題ありません。私が着ているのも、同じタイプになります」
流石に変身魔法を使う動物が多い妖精の国だけあって、そのへんの便利さの追求はされているようだった。ちなみにこの店員さん、なんとぴぴ達と同族、猫とのことだ。おしゃれを楽しむために普段は人に化けているのだそうだ。それにしても化け猫の術が上手な人である。猫っぽさがまったくない。
「普段から人の姿って、不便じゃないの?」
「慣れれば便利なものですよ。例えば、お料理店を経営するのは大抵妖精族やエルフ、ドワーフといった方々ですので、手で食べることが前提のことが多いですからね。同じような作法で食べたほうが美味しいと思うのです。サイコキネシスを使えば似たように食べれるとはいえ、口の構造などがちがうので、どうしても食器を上手く扱いきれない部分がありますしね。もちろん、そういうのを気にしなくていいように配慮はしてくださいますが、やはり同じように食べたいと思ってしまうのです」
「なるほど、それは大問題だね。わたしも料理されたものの方が好きだから、がんばって化け猫の術を使おうかな」
この猫店員さん、自由気ままを地で行く猫族にしてはめずらしく、配慮できる猫のようである。試着室もあったため、そこで実際に化け猫の術を使い、試着もした。この自動装着調整の服は、収納用の超小型クローゼットとセットになっており、猫から人型に変化すると、超小型クローゼットから自動で服を着せてくれる優れものだった。そして猫の姿にもどると、自動で超小型クローゼットの中にもどるのだ。この超小型クローゼットも、知恵のオーブと同様、使用時には魔力を流していないといけないため、スカーフの中に入れる予定だ。しかしここで、重要な問題が発生した。
「あうあうあうあう、うまく変化できない・・・・・・」
ぴぴとぷうはそれはそれは普通に変化できたのだが、ハピはなんとケット・シーみたいなかっこうでしか変化できなかった。つまり、2足歩行の猫だったのだ。身長はもともとの大きさのまま変化なし、尻尾を除いて1mくらい。ただ、手や足の関節などは一応の変化は遂げていた。
「わたしも上手く使えてるわけじゃないよ。これ、どう見ても大きすぎる妖精族だし」
「うん、同じく」
ぴぴとぷうは、アオイをはじめ、ここのところ妖精達との触れ合いが多かったせいだろうか、1mくらいで羽の生えた、巨大な妖精族のような姿になっていた。アオイが40cmくらいのことを考えると、だいぶ大きい。とはいえ、羽は魔力で出来ていて、消そうと思えば消せる上に、体から少し浮いたところから生えているため、服に穴あけ加工等をしないといけないといった問題はなかった。尻尾も無ければ耳もない。そういう意味では完璧に近い化け猫の術であった。
3人の選んだ服はおそろいで、アオイのもの同様、迷彩服みたいな動きやすい服だった。色もおそろいで何色か選んでいた、ちなみにこれはアオイセレクションだ。本来の迷彩服と違うのは素材と靴だろう。ぴぴ達の場合は本気で戦うときは猫の姿にもどるので、戦場でも使用可能な耐久性よりも日常での着心地が重視された。靴も同様だ。本来のブーツのような耐久性はいらないため、普通のスニーカーだ。ちなみにこの軽量、動きやすさ重視のなんちゃって迷彩服はアオイも同様である。敵の攻撃は魔法で防ぎ、そもそも着地しない妖精族にとっては、服は飛翔の邪魔にならない軽量のものが好まれていたのだ。
また、マントも購入した。3人ともマントの色だけは毛色に合わせて購入した。ぴぴは黒色、ぷうは茶色、ハピは黄色だ。ただ、原色に近い黄色だと目立つため、ハピの毛色みたいな白地に、淡い黄色の模様という組み合わせだ。ちなみに模様は猫の手形模様だ。この猫店員さん、正確には猫店主さんだったのだが、服に関連する魔法が使えるらしく、ハピの無理な注文にも一瞬で答えてくれた。
無事に服を購入した一行は、次の武器屋へ向けて出発するのだった。武器屋はアオイお勧めの近衛師団御用達のお店に向かった。お店の場所は、お城があった南西の行政区と西通りを挟んで向かい側にあった。このお店は看板に杖のマークと、近衛師団御用達だからだろうか、近衛師団の服と同じ花のマークが飾ってあった。
「実は俺も店に来るのは初めてなんだよ。普段は近衛師団の詰め所に直接来てもらってたからな」
そんな会話をしながら一行はお店に入った。
「いらっしゃいませ~」
店員さんは、妖精族だった。武器屋らしくいろいろな武器が並んでいたといいたいところだが、この妖精の国で武器を使うのは妖精族がメインであり、妖精族の使う武器はイコールで杖であるため、お店の中は杖だらけだった。むしろ杖専門店といっていいほどに杖だらけで、他の武器は解体用と思われるナイフくらいしか売っていなかった。アオイは武器屋といっていたが、正確には武器防具屋らしく、魔法使い用のローブなども置かれていたが、アオイのお目当てのガントレットも、ぴぴ達のお目当ての武器もなさそうだった。
「あれ? ガントレットとか、武器の類は置いてないのか?」
「それでしたら、こちらに置いてあります」
そういうとお店の奥に案内された。
「場合によっては特注になるかもなんだが、問題ないか?」
「はい、微調整とかに訪れるかたもいらっしゃいますので、常に職人が待機しております」
案内された部屋はこれぞ武器屋というかんじで、店には大量の武器防具が並んでいた。ただ、武器はクロー系が多いし、防具も人用というよりわんこ用のものが多そうだ。
「へ~、すごいね、最初杖とかローブしかないから、魔法使い用の専門店かと思っちゃったよ」
「近衛でも、犬達の部隊の中には武器使いがいたからな、そういう連中用の装備も作ってるんだよ。正確には1つの店ってわけじゃなくて、いろいろな店の集合体ってかんじだから、大抵のものは売ってるし、注文できるぜ」
「親方~、お客様がいらっしゃいましたよ~」
妖精の店員さんが親方を呼んでくれた。妖精の店員さんは表の魔法使い用装備の担当らしく、それ以外はよくわからないとのことだ。店員さんが親方を呼ぶと、奥からドワーフが現れた。身長150cmくらいで、ごつい丸太のような体と四肢、長い髭といった姿だった。
「ほう、めずらしいな、妖精族と猫族か、表の店じゃなく、こっちになんのようだ?」
「ああ、俺は魔法を使う際に、杖じゃなくて素手で使いたくてな。ただ、素手だとやっぱり杖を使ったときほど威力がでねえ。でだ、素手でも杖を使ったとき並に威力が出せるような、ガントレットがないかとおもってな」
「なるほど、安心しろ、そういうのはすでにあるからな、流石に妖精族用のサイズのものはないが、作れるぜ。そっちの猫どもの用件はなんだ?」
「わたし達は変化後の武器がほしくて来たの」
「ほう、変化してもらってもいいか?」
「うん」
そういうとぴぴとぷうはポンッとあっさり変身して見せた。それに対してハピは。
「変身」
かっこよくがんばって低い声を出し、地味ではあるがかっこよくポーズを決めていた。
「「「おお~、なんかかっこいい!」」」
「ぴぴもぷうもまだまだだね、変身にはロマンがつまっているのですよ」
ハピが変身に関するロマンを熱く語り始めそうになったのでそれを止めて、路線を修正する。
「全員1mくらいか、体重もなさそうじゃし、軽量の武器じゃないと持て余すな。まあ、まずはそっちの妖精の武器からいくぞ」
「おう、頼むぜ」
「まず、お前のいうタイプのガントレットなんじゃが、すでにある。わし等ドワーフにも使い手はおるが、武闘家と呼ばれる連中が使っておるタイプじゃな。基本的には武器を持たず、身体強化魔法と魔力で覆った拳や足で戦うことを生業としておる連中じゃ。そういう連中の中でも、一部の放出系の魔法が得意なやつらは、直接攻撃だけじゃなく、拳や掌から魔力弾を普通に飛ばしおるぞ」
「ほう、いいな。ただ、魔力をまとった拳や足で直接攻撃はしないから、魔力を飛ばすことに特化した方向で頼むぜ」
「うむ、防御性能はどうする? 直接のガードはしそうにないが、腕部分に防御魔法を展開しやすくする工夫をすることもできるぞ」
「じゃあ、それも頼むぜ」
「あとはそうじゃな、足はどうする? 蹴りも使うなら、同様の装備を作れるが」
「そうだな、じゃあ、一応頼もうかな。どんな具合かわかんねえから、まずはお試しで安めの装備を作ってくれ」
「ああ、わかった。まあ、お主の体格じゃ、材料は適当な端材でいいからな。杖を作ったときの端材で作ってやるよ。耐久性はないから実戦には持っていけないが、金額はこのくらいでいいか?」
「ああ、かまわないぜ」
「実験用の装備くらいなら俺の生産魔法でならすぐ作れる。今日中に仕上げとくから、明日また来てくれ」
「おう、頼んだぜ」
「あとはそっちの嬢ちゃん達の装備じゃな。街中で持つようなら、軽ければ何でもいいか?」
「だめだめ、私はこの姿でも戦う予定だから、普通に強い装備がいい」
「わたしも~、やっぱ強くてかっこいい装備がいいよね~」
「我輩も」
「その姿で戦うにしても、魔法主体で杖のがいいんじゃないのか?」
「ぷうは魔法でもいいかもだけど、私はもともと爪で戦う、近接アタッカーなんだよね」
「わたしも折角だから、武器ほしいよ」
「あ~、じゃあ一応聞くが、お前ら武器についてどの程度知識がある?」
「剣とか槍とか斧とか銃とか弓があるんでしょ?」
「例えば素材ごとの対応モンスターランクとかは知ってるのか?」
「なにそれ? ぴぴ知ってる?」
「ううん、ハピは?」
「我輩も知らない」
「はあ、じゃあ軽く説明してやるよ。モンスターにランク設定されてるのは知ってるよな?」
「うん、☆の数のことでしょ?」
「そうじゃ、☆が多いほどにモンスターは強く、頑丈になるのじゃよ。☆の多いモンスターほど単純な肉体の強さの上昇以上に、魔力体が強化されるのじゃ。そして、常時発動している生命維持のための魔力も増える、それにより強度が上がり、肉体が頑丈になるということらしい。モンスターによっては、これにプラスしてさらに身体強化魔法や防御魔法で身を守るというわけじゃ。なので、それなりのモンスターと戦うなら、それなりの武器が必要というわけじゃ」
「鉄の武器だとどのくらいまで相手できるの?」
「うむ、そこも教えてやろう。モンスターの種類によって違いはもちろんあるが、一般的に言われているモンスターランクと、武器に関する話になるぞ。まず、☆1ランクは、木を尖らせた槍で簡単に殺せる。☆2ランクは、木をどんなにするどく尖らせても、まず刺さらん。鉄の武器が必須じゃ。一応木材でも、ハンマーのようなもので殴り殺すことは出来るがの。☆3ランクは、鉄の武器ですら切ったり刺したりが難しくなる。そこで、鍛冶魔法で強化した鉄武器を使うか、使い手が武器強化魔法で鉄武器を強化して使う。☆4ランクまでくると、鉄武器じゃかなりきびしい。魔法の才能があるやつが、鍛冶魔法に武器強化魔法を合わせてぎりぎりといったところじゃ。出来れば、ミスリルといった魔法金属や、武器に向くモンスター素材で作った武器に、鍛冶魔法と武器強化魔法の両方がほしい。☆5ランク以上ともなると、素材もじゃが、使い手の魔力量も相応にないと厳しい。もし、ミスリル武器で☆5と戦うなら、強大な魔力持ちでもない限り厳しい。普通はミスリル以上の希少な魔法金属を使ったり、上位のモンスター素材を使う。特定の獲物を狙っておる場合は、ミスリル武器に特定のモンスター専用の特化型鍛冶魔法で強化するという方法もあるがの。幸いここ妖精の国は鉱石はともかく、上位のモンスター素材は入手しやすいから、要望があれば取り寄せるぞ」
「詳しい説明ありがとう」
「かまわん、武器は扱い方を間違えれば自分を滅ぼす。わしの武器を扱うからには、最低限の知識はいやでも覚えてもらう。それと、実力も見させてもらう。でじゃ、どんな武器がいい? 剣か? 槍か?」
「私は槍」
「わたしは盾と剣がいいかな~」
「我輩は鉄砲って言いたいところなんだけど、材料の話を聞くと、鉄砲って弱い?」
「うむ、銃弾の素材になにを使うかじゃが、普通金属の鉛、鉄、銅、タングステン、ウランあたりじゃと、結局☆2までしか倒せん。☆3を倒したいなら、鍛冶魔法か、武器強化魔法を使うんじゃが、どちらの魔法で強化するにしても、均一、あるいはバランスよく強化しないと、まっすぐ飛ばなくなるから、難易度が高いのじゃ。近接武器なら、魔法による強化のバランスが多少悪くとも問題にならんからいいのじゃがな。かといってミスリル以上の素材で銃弾みたいな消耗品を作ると、すさまじく金が掛かる」
「うん、ハピの銃は無しでいいよ。戦闘はそもそも私とぷうの担当だしね。それに、ハピってけっこう不器用だし、そもそも武器強化魔法を使えないだろうからね。それに、戦いに行きたがるとは思えないんだよね」
「うん・・・・・・」
けっこうはっきりぴぴに言われて、ちょっと落ち込むハピであったが、使えないのは事実なのでしょうがない。そして、この間のゴブリンの街では、銃が、というよりもゴブリンゴーレムに乗りたかったから乗っただけだ。銃を持ったくらいで戦いに行くなんて面倒なことをするとも思えなかった。
「というわけで、ハピの武器はいいや、銃撃ちたくなったら、ぷうにゴブリンゴーレム作ってもらえばいいでしょ? そもそもその2足歩行状態ですら、途中で飽きてやめそうだし」
「うん」
そう、化け猫の術は猫なら誰でも使える魔法なので、テレパスやサイコキネシスと同様の魔法なのだ。ハピが2足歩行をしたければ、猫の国でさんざん練習も出来たのに、まったくやっていなかった。なぜなら、ハピは人間だった頃から、立ってるのがあまり好きじゃなかったのだ。
「じゃあ、槍と剣と盾でいいんだな。お前達用のサイズはないから、とりあえず簡単なのを作ってやるよ」
「ううん、そこにある3mくらいの槍でいいよ」
「私もそこの四角い盾と、そっちの1mくらいの剣でいいよ」
「いやいや、でか過ぎるだろ」
「たぶん平気だよ」
「うん」
「お前ら、持ち歩く苦労も考えろよ。それに、3mの槍とか、街中じゃ持ち歩けないだろ」
「むう、確かにそうだね」
「はあ、じゃあ、とりあえず使ってるところを見せてみろ、それを見てから作ってやる。そうじゃな、ガントレットの扱いも見てみたいから、明日ハンターギルド本部の訓練場でも借りて、武器つかってみるか?」
「ああ、かまわないぜ」
「わたし達もいいけど、ギルドの訓練場って、そんな簡単に借りれるの?」
「大丈夫じゃ、あそこのギルマスとは知り合いじゃしな。うちの店はハンターどもにも武器屋防具をつくってるからの。じゃあ、明日朝10時くらいにギルド本部の訓練場に集合でいいか?」
「おう、頼んだぜ」
「「「じゃ、またね~」」」
こうして、明日の武器を使えることを楽しみに、一行は店を出るのだった。




