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妖精族との模擬戦

 闘技場は城の裏手に隣接しており、普段は近衛師団が訓練で使っている場所だそうだ。お城とは打って変わってこの闘技場は石造りだった。闘技場は円形で、地面は基本的に土、壁は石造りで壁の上にはちょっとした見学席もあった。天井が無いため雨が降ったら大変そうだが、その場合でも雨天決行で訓練をするらしい。訓練場そのものは大きかったが、あくまで訓練のためだけのもので、見学席も関係者が見るくらいであったため、高さはあまりなく、作りもシンプルで装飾もほとんどなかった。闘技場に到着すると、すでに2匹のわんこがいた。2匹とも門で出会ったわんこと同じ、ジャーマン・シェパードぽいわんこだ。それ以外にも軍事訓練中なのだろうか、妖精族や他の動物達もそれなりにいた。広いので問題ないのだろう。


「またせたの」

「いえ、問題ありません。準備運動もばっちりです」

「では紹介しよう、こっちの黒いのがシュバルツ、そっちの背中が茶色いのがブラウンじゃ」


 うん、毛色と名前の時点でわかってた。


「シュバルツだ。警備隊南門部隊の隊長をしている」

「ブラウンです。同じく警備隊南門部隊の副隊長をしています」

「わたしはぷうだよ」

「ぴぴよ」

「我輩はハピ」

「まずはブラウンと戦ってもらう。悪いが手加減はできない。だが、救護班はいるから安心して戦ってほしい」

「「うん」」


 まずはブラウンとぷうが戦うことになった。お互いに向かい合う。


「どこからでもかまいませんよ」

「うん、じゃあ行くよ」


 ぷうの石弾。ブラウンは横に回避する。そして、全身に炎をまとって突進してきた。ぷうも負けじと石弾を2発、3発と発射する。しかし、ブラウンは左右に華麗にステップをして回避しつつ接近してくる。そして4発目、ぷうはいままでより速度を上げた石弾を発射する。ブラウンは最初の3発の速度に慣れてしまったことと、近づいていたこともあり回避できずに直撃する。ぷうの石弾は殺傷能力を抑えるために丸くて硬くもなかったが、運動エネルギーはもろに伝わった。直撃したブラウンは吹っ飛んだ。


「救護班!」


 救護班が現れ、ブラウンを治療する。たいした怪我はないようで、すぐに復活した。


「上手いですね。最初の3発で速度に慣らさせ、接近したところで高速の一撃を放つ。見事にやられましたよ」


 ぺこりと頭を下げて下がっていく。


「さて、じゃあ次は俺だな」

「隊長、気をつけてくださいね。たぶんまだまだ本気じゃなさそうです」

「おう、わかったぜ」


 今度はぷうとシュバルツが向かい合う。


「どこからでもいいよ~」

「じゃあ、行くぜ!」


 今度はシュバルツの先制攻撃だ。


「がうっ」


 鳴き声とともに風の弾が飛んでくる。それと同時にシュバルツは風をその身にまとい走り出す。ぷうは落ち着いて風の弾を石弾で迎撃する。続けて2発目、3発目と発射していく。シュバルツは2発目は回避し、3発目は風の弾で迎撃した。そして、ぷうの4発目、さきほど同様速度あげた石弾を発射する。


(ここだ!)


 ぷうの発射とほぼ同時に横に飛んで、シュバルツはぷうの高速弾を回避する。そして、一気に加速する。


(やつの発射間隔からして、次の弾は普通には間に合わない。無理して撃った不完全な一撃くらいは耐えてみせる)


「があうっ」


 お口を開けて全力で飛び掛る。そして、ぷうの5発目が直撃したシュバルツは吹っ飛んだ。すぐに救護班が現れ、シュバルツを治療する。シュバルツもたいした怪我はないようで、すぐに復活した。


「くっそ、お前、発射間隔もトラップかよ」

「あはは」

「大臣、申し訳ありません。私達では力を測れそうにありません」

「うむ、ご苦労じゃった」

「よっしゃ、それじゃ、ついに俺の出番ってわけだな」

「アオイよ、頼んでも良いのかの?」

「もちろんだ、まかせてくれ。言っとくけどぷう、俺のランクは☆6だ。悪いが、全力で行かせてもらうぜ」

「うん!」


 そして、ぷうとアオイが向かい合う。遠距離攻撃が得意なぷうと、種族的に遠距離攻撃が得意なはずのアオイ。奇しくも同じタイプの2人が戦うのだった。


「じゃあ、いくぜ!」

「うん!」


 まずはアオイの攻撃だ。


(あのゴーレムを見る限り、ぷうは土魔法使いだな。ここは土しか材料がないし、土系のゴーレムは濡れるのに弱かったはず。水じゃ攻撃力がいまいちだから、氷でいくか)


「おっらあ!」


 アオイは空中で思いっきり右手を前に出すと同時に、氷の矢を発射する。すかさず左手で氷の矢を発射する。それを交互に繰り替えし、大量の氷の矢でぷうを攻撃する。



「おらおらおらおらおらおらあ!」


(氷か、数も多いし威力もある。シュバルツたちとは違うっていうことね)


「にゃ~」


 ぷうも石弾を連射して撃ち落す。今度はごまかしなしの速度と連射速度だ。最初こそ2人の間でぶつかり合っていた石と氷だったが、徐々にアオイが押されていく。2人とも一直線に撃ち合っているだけじゃない、上下左右からカーブを描くような起動にも、お互いに技を撃ちこみ合う。そのため、技と技がぶつかり合う部分の面積は、結構広かった。お互いにすべてを撃ち落せているわけではないが、ちょっとくらい抜けてきても同時に展開中の防御魔法でそこは防ぐ。


(くう、弾速も連射性能も桁違いだ。油断したら一気に抜かれる。だが、このままでもジリ貧だ。どうする?)


 アオイが対策を講じようと考えるが、石と氷のぶつかり合う地点はどんどんアオイの側に寄っていく。するとアオイは徐々に高度を取り始めた。押されている分、上に逃げようというわけだ。


 ぷうも動き出す、じゃあ距離を詰めるために近づこうというわけだ。撃ちあいで勝っているぷうの方が余裕がある。てっくてっくと気負うことなく走って、アオイの真下に移動して、一声鳴いた。


「う~にゃ」


 ぷうの石弾の連射速度がさらに1ランク上がる。撃ちあいで壊れた石と氷が降り注いでくるが、ぷうの魔力で生まれ、いまもぷうの魔力をまとった石が降ってくるのだ。一見すると危なそうに見えるが、ぷうはそれを再利用することで省エネで連射できた。一方アオイの氷は、術者であるアオイから遠い上に、ぷうの石弾の魔力が邪魔で落ちた氷は利用できそうになかった。


(くっそ、猫も妖精族同様体が小さく魔力が多いとは聞いていたが、まさか妖精族の俺が完全に撃ち負けるとは。一か八かだが、意地を見せないわけには、いかないだろうがよ)


 誰の目にもこのままではぷうが勝つと思われたとき、アオイが仕掛けた。


「うおおおおおおお~」


 撃ち合いをやめ、両手を再び大きく上げる。そして、ぷうの攻撃を数秒しのげるぎりぎりまで防御魔法の出力を上げる。もう飛び続ける必要はない、防御魔法以外の魔力は飛翔に使っていた分もすべて使い、全力の水球を作り出した。視界はさっきからまったくない。今もバリアで砕ける石弾のせいで何も見えないが、もうこの一撃にかけるしかなかった。そして、真下に向けて水球を発射しようとしたとき、音が止まった。いままでバリアで砕け散った石の音があれだけうるさかったのに、何も聞こえない。いや、そんなことは気にしていられないと思った瞬間、異変に気づく。足にぷうが噛み付いていたのだ。


「いってええええ」


 ぷうはその場で縦にくるりと一回転すると、アオイを地面目掛けて投げ飛ばした。


 ドッカ~ン!


 盛大に地面にたたきつけられたアオイは、ギブアップした。


「くっそ~、空飛ぶなんて卑怯だぞ」

「それ、アオイが言う~?」


 妖精族にだけは言われたくない一言だった。


「あはは、アオイ負けてやんの~」

「あらあら、ほんとですわね。近衛師団の隊長の1人なのですから、もう少し意地を見せてほしかったですわ」

「はっ、なっさけね~な~」


 さわぎを聞きつけたのか、3人の妖精が現れた。


「ったく、おまえらかよ。見られたくない連中に、いやなとこ見られちまったな」

「だれ、こいつら?」

「ほほほ、わたくし達を知らないとは、驚きですわ。ですがいいでしょう、教えて差し上げますわ。わたくしは近衛師団第2部隊隊長、グラジオラスですわ」

「あたしは近衛師団第3部隊隊長、シクラメン。そこのアオイの100倍は強いよ」

「はっ、おれ様は近衛師団第4部隊隊長、ローズ様だ。貴様らに名乗る名などない!」


 ・・・・・・


「アオイ、だれ、こいつら?」

「ああ、一応全員近衛の隊長だ。なにかと俺のことをライバル視してくるんだよ」

「ふ~ん、アオイ、もてもてなんだね!」


 お嬢様言葉のグラジオラスも、アオイの100倍強いシクラメンも、おれ様ローズ様も、一応女の子のよである。


「なんでそうなるんだよ!」

「そうですわ、なんでそうなるのですか!」

「ほんとよ!」

「はっ、何が悲しくてこんなやつと!」


 なんだかんだ照れているあたり、図星なのかもしれない。


「そんなことより、そこの子猫ちゃんたちの実力を測っていたようですわね」

「どうしてもっていうなら、あたし達が協力してあげるよ~」

「はっ、アオイじゃ、実力不足だったみたいだからな!」

「じゃあ、お願いしようかな」

「おい、ぷう。いいのかよ?」

「うん、いいんじゃないのかな?」

「おい、大臣~」

「ほっほ、面白くなってきたの。ではお嬢さん方、お願いしようかのう」

「ええ、そのご依頼、お受けいたしますわ」

「じゃあ、準備してこよ~」

「完全装備を着てくるから、ほえずらかくんじゃねえぞ!」


 そういうと、準備をするために飛んでいってしまった。


「はあ、ほんとに大丈夫かよ。あいつら、実力云々よりいろいろ問題ありだぞ」

「ほっほ、まあいいじゃろう。ブランシュ、クロを呼んできてくれ」

「クロ様ですか? あのお方はまずいのでは」

「かまわん、わしの元☆7の将軍だったカンが告げておるのじゃ。こやつらはわしの全盛期以上だとな」

「かしこまりました」


 しばらく待っていると、妖精トリオが大量の妖精を引き連れて帰ってきた。見学者だろうか。3人はすさまじい重武装だ。防具はフルプレートアーマー、右手には身の丈の倍はあろうかという大きい杖。左手には全身すっぽり入るくらいの巨大な盾だ。明からに重量オーバーっぽい。飛行もふらふらしてるし、なによりもう疲れていそうだ。


「はあ、はあ、お待たせしたようですね。では、いまからはじめましょうか」

「ちょっとまて、お前らの装備は別にいいが、後ろの妖精達はなんだ?」

「ぜい、ぜい、なにって決まってるでしょ。私達は隊長なのよ。部下を連れてきたのよ」

「はあ? いくらなんでもせこいだろうが!」

「はふう、はふう、はっ、なに甘いこと言ってやがんだ。俺らの強さは部下込みに決まってるだろ。なっとくいかないってんなら、装備品の一種だと思えばいいんだよ!」

「はあ? 屁理屈も大概にしろよ!」

「まあまあ、別にわたしはかまわないからさ」

「いや、そうは言ってもよ。あの3バカは一応隊長、俺と同格だぜ。そんで、副隊長は戦闘力では俺より格下だが、頭は切れるやつらなんだよ。しかも部下勢ぞろいってことは、全部で300人以上いるぞ」

「まあまあ」

「ったく、しらねえからな」


 こうして、ぷう対妖精336人の対戦が始まった。だが、やる気満々の3人に比べて、明らかに後ろの妖精達はやる気がない。


「さあ皆さん、一斉攻撃ですわよ!」

「やっちゃえやっちゃえ~!」

「はっ、見よ、これが俺達の力だ!」


 やる気なさそうに攻撃をしようとしているが、その前にぷうが動いた。重すぎて飛ぶのが大変だったのか、すでに地面に立っていた3匹の地面まで魔力を流し、一気に隆起させた。すると3人は、空高く飛び上がった。


「いい攻撃ですわね。普通ならこの攻撃で降参するのでしょうね」

「あまいあまい、お砂糖よりも、蜂蜜よりも、あますぎだよ~」

「はっ、俺達は妖精族だぜ。残念だけど、飛べるんだよ!」


「お~い、お前ら、その鎧着てて、本当に飛べるのか?」


「ふふ、余裕ですわよ。あれ?」

「そんなの出来て当然でしょ。あれれ?」

「はっ、俺達をなめすぎなんだよ。おらあ! あん?」


「飛べませんわ、ぜんぜん浮きませんわ」

「重すぎてぜんぜん飛べないよ!」

「はっ、気合でなんとかなるんだよ! なに、飛べないだと!?」


「お~い、せめて鎧を脱いだらどうだ?」


「無理ですわ、着方も脱ぎ方も知りませんもの」

「いつもだれかに着せてもらって、脱がせてもらってるから、やり方なんてわかんないよ」

「はっ、こんなもん力づくで脱いでやるぜ。うおおおお! だめだ、ぬげねえ」


「お~い、流石にそんな勢いで落ちたら、大怪我するぞ。ナノハナさんがいるから死にはしないだろうが、すっげえ痛いぞ」


「まずいですわ、ぴんちですわ」

「おい副隊長。おまえら、助けろよ」

「そうだぜ、俺様を助ける権利をやるぞ!」


「隊長方はさきほど、絶対に負けられない戦いに赴く気持ちで戦いなさい。多少の犠牲は気にせず、なんとしても敵を倒すのです。とおっしゃいました。ここで敵に背を向けたら、大きな隙を敵に見せることになります。多少の犠牲は気にせず、任務をまっとうします。安心して下さい。ナノハナ様がいるので、死にはしませんよ」

「「右に同じで」」


「副隊長、これは命令ですわよ」

「あとで軍法会議にかけてやる~」

「ふざけんな! 裏切り者が~!」


「あと何秒で落ちるかな、カウントダウンいるか?」


「アオイ様、お助け下さいませ~」

「アオイ様、お願いします。お助けを~」

「ううう、だ~、もう。助けてくれ~!」


「しょうがねえな、グラジオラスとシクラメンは助けてやるよ」


「ありがとうございますわ」

「ありがとう、アオイ様~」

「うううううううううう、アオイ様、お助け下さい~!」


「はいよ」


 そういうとアオイは3人の落下地点に巨大な水球を作り出した。水の粘性を調整したアオイの水球は、対した衝撃もなく、3人を受け止めた。


 どぽーん、どぽーん、どぽーん


 3人は無事に着地に成功するのだった。


「ぐすんっ、参りましたわ。貴方、お強いのですわね」

「くすんっ、今日は負けを認めるよ。でも、次はこうはいかないからね」

「すんっ、はっ、今日のところはこのへんで勘弁してやらあ!」


 3人は部下を引き連れて帰ってくれるようだ。


「少し待ってもらえんかの」


 と思ったら、わんこ大臣が待ったをかけた。


「確かにおぬしらは今負けた。じゃが、実力を発揮したわけではないじゃろう。どうじゃろうか、副隊長に指揮権を渡し、冷静にもう一度戦ってみてくれんかの」

「そういうことでしたら。副隊長、次の戦闘の指揮権は貴方に授けます。必ずや勝利を掴みなさい」

「はっ!」

「第3部隊も同じくで」

「はっ!」

「もちろん、第4も同じくだ! 本気で行くぜ!」

「はっ!」


 どうやら本気でやるようである。3人も鎧を脱いで盾も捨てた。ただ、杖だけはものすごい長い杖のままだ。


「おい、ぷう」

「どうしたの?」

「気をつけろよ。今もそうだったが、あいつ等は単独、あるいは3人組み程度までなら、対した強さじゃない。俺でも3対1で勝てるしな。だが、軍隊としてみた場合には、あいつらはかなり強い。ふざけた性格してるが、俺と同格の隊長なんだよ」

「大丈夫だよ、さくっとやっつけてくるよ」

「そうか、じゃあ、最後に一言だけ、油断するなよ」

「うん!」


 こうしてぷうと妖精達は再び向かい合う。今度はわんこ大臣が審判をしてくれるようだ。


 流石にこの展開は不利過ぎるだろうと、ぷうが心配になったアオイが、ぴぴとハピに話しかけてきた。


「なあ、ぴぴ、ハピ。ぷうはあんなこと言ってたけど、大丈夫なのか?」

「ぷうなら心配要らないと思うよ。私と違ってやりすぎることもあんまりないし」

「さっきの戦いを見てる限り、あんまり強そうじゃないけど、強いの?」

「ああ、さっきぷうにも言ったが、あいつら全員俺と同じ☆6ランクの軍人なんだ」

「そうなの? アオイよりぜんぜん弱かったと思うけど、ぴぴはどう思う?」

「う~ん、あながち間違いじゃないと思うよ。確かに戦闘技術とかは未熟そうな気がするけど、私の予想だと、魔力の量とかはアオイと同じ位に見えるし、集団で強いタイプなんじゃないかな」

「ああ、その通りだ。あいつらの部下も近衛で、全員☆5ランクだ。ぶっちゃけこの人数だと、単独だと☆7のやつでも相性次第じゃなにもできずにやられるぜ」

「まあ、心配要らないでしょ。ぷうは私の妹分なんだから」


「双方、準備はいいかの?」

「うん、ばっちりだよ」

「「「はっ、いつでもいけます!」」」

「では、試合開始!」


 わんこ大臣の合図とともに、妖精達が一気に魔法を展開させる。攻撃魔法、防御魔法、支援魔法、待機組み。丁度4分の1づつに分かれている。


 妖精達の攻撃魔法は氷の矢だったが、個々の実力としてはアオイより下だ。威力も連射速度もたいしてない。大人数の分、数は多いが、ぷうも危なげなく土弾で迎撃していく。氷の矢の威力が低いせいか、1発づつのぶつかり合いではぷうの土弾が勝り、氷の矢を破壊して防御魔法まで届く。


「はっ、茶色いの。見よ、俺様の魔法を! ビューティフルアイスレイン!」


 そして、ローズが思いっきり空中で杖を振ると、ローズの周囲に光の玉が大量に浮かんだ。そしてその光の玉から、大量の氷の矢が降り注ぐ。アオイの氷の矢と比較しても、威力、弾速、連射速度、そのすべてが桁違いだ。アオイは両手から連射したが、この大量の光の玉1個1個が、アオイの片手レベルの魔法を繰り出してきた。シクラメンが100倍強いとか言っていたが、これは本当にそのくらい強い可能性のあるがあった。


 だが、割とあっさりとぷうは気づいた。ぜんぜん違う方向に飛んでいる矢が多いことに、どうやらローズはパワーと連射力はすごいが、曲がった軌道で発射するとか、そういった小技が苦手な用である。いや、そもそもまっすぐ飛ばすのさえ苦手そうである。まあ、この大量の光の玉から放つ魔法をコントロールするのは、難しそうではあるが。


「はっはっは~、降参するなら今のだぜ!」


 見た目は派手だし、モンスターの大群相手にはいい攻撃手段なのだろうが、ぷうは向かってくる氷の矢を冷静に迎撃したため、一発も当たっていない。だが、十分に時間稼ぎは出来たようだ。ローズの右側にいたシクラメンが、巨大ゴーレムを作っていた。


「起き上がれ、あたしのスーパービューティーワンダーハイパーゴーレム!」


 巨大ゴーレムは5mくらいはありそうだった。見た目はさきほどまでの重武装の3人を大きくしたようなフォルムだ。フルプレートアーマーに巨大な盾、唯一違うのは杖じゃなく剣を装備していた。見た目的に巨大妖精ゴーレムとでも言うべきか。


「行け、あたしのスーパービューティーワンダーゴージャスゴーレム、敵を捕らえるのよ」


 妖精ゴーレムはぷう目掛けて走り出す。ローズの弾幕はいまだ続いているが、このゴーレムの防御力なら、弾幕をある程度無視して活動できそうだ。


 ぷうも負けじと剣と盾を装備したゴブリンゴーレムを作り出す。初期に作った3mタイプのやつだ。シクラメンの妖精ゴーレムがぷうのゴブリンゴーレム目掛けて剣を振り下ろす。ぷうのゴブリンゴーレムはそれを盾で受け止める。そしてすかさず剣で反撃するが、今度は妖精ゴーレムがその巨大な盾で受け止める。大きさが違うもののパワーは互角のようだ。


「あはは、なにそのゴーレム、ゴブリンの格好してるよ。しかも頭おっきすぎだし。あはははは」


 ぷうはけっこういらっとした。と思っていたら、今度はローズの左隣、ぷうからみると右側にいたグラジオラスが巨大な火球を作っていた。本当に大きい、直径5mはありそうだ。しかもエネルギー密度も高い。実力を試す模擬戦であって、実戦じゃないのに割りと本気で殺す気の攻撃に見えるが、いいのだろうか。


「ローズ、シクラメン、ご苦労様でしたわ。時は満ちました。これで終わりですわ。キラキラピカピカサンシャインアタ~ック」


 しかも、そのままぶっ放した。が、威力ばかりを重視しているのだろう。弾速はむしろ遅い。ぷうはちょっとゴブリンゴーレムに本気を出してもらうことにした。ゴブリンゴーレムはいったん剣を引き、全力で妖精ゴーレムに突き立てた。妖精ゴーレムの盾を突き破り、左手を破壊する。そして、ゴブリンゴーレムは剣も盾も手放し、すばやく妖精ゴーレムの懐に飛び込む。そして、股の間に手を入れて、全力で投げ飛ばした。


「ちょっと、どこに手を入れてるのよ。破廉恥よ!」


 盾ごと左腕を破壊されたことより、そっちのほうが気になるようである。いちおうフルプレートアーマーごしだし、そもそもゴーレムなんだから、気にする必要はないのに。


 投げ飛ばした妖精ゴーレムが向かった先は、当然グラジオラスの巨大な火球だ。グラジオラスの火球は映画やアニメで、隕石が炸裂する瞬間をスローにしたときなみにゆっくりと飛んでいた。だからシクラメンのゴーレムで捕縛しようとしたのかもしれないが、もう関係ない。妖精ゴーレムが火球に当たると、大爆発を起こした。


「ああああああああ、あたしのウルトラビューティーワンダーゴージャスゴーレムがあああああ」


 ゴーレムの名前が微妙に変わっているが、まあ、気にしないでおこう。


 グラジオラスは爆発に巻き込まれて吹き飛んだ。おそらく戦闘不能だろう。部下が防御魔法を展開していたが、あの一撃はレベルが違った。いくら直撃じゃないとはいえ、20人程度の防御魔法で防げるような威力じゃなかった。つくづくシクラメンの言った100倍強い発言は、部分的には正解なのかもしれないと思えてしまう。


「いってえええええ」


 ローズも戦闘不能だ。グラジオラスよりは距離があったとはいえ、あの大爆発だったのだ、巻き込まれていた。ローズの部下は防御魔法をぷう側に展開していたため、斜め横方向からの爆風に耐えられず、ローズもろとも吹き飛んでいた。意識はあるようだが、明らかに痛そうだ。


 ゴブリンゴーレムは落ちていた剣を拾うと、シクラメンの部隊目掛けて走り出す。シクラメンの部下の攻撃程度で止まるようなゴブリンゴーレムではない。無視してどんどん進んでいく。シクラメンは指示を出しやすいように、先ほどまで戦闘がしっかり見える比較的近い位置にいた。そのため、あわてて逃げ出したものの、ゴブリンゴーレムの跳躍力に勝てず、あっさり捕まった。


「なんで土ゴーレムがこんなに飛べるのよ。こら~、放せ~!」


 続いてぷうがゴブリンゴーレムの口を開けて、パクリと咥えて、より強力に拘束しようとすると、泣き出してしまった。


「あああああああああ、いやだ、いやだ、いやだああああああああ」


 残りはシクラメンの部下多数、グラジオラスとローズの部下のうち、大爆発からなんとか逃れられた、支援組みと回復組みが少々だ。まともな戦力はもういない、回復魔法を使われる前に攻撃すれば終わりなのだが、ぷうは待ってあげることした。シクラメンも放してあげた。


「ちょっと待ってなさいよ、すぐにみんな回復させて、再戦だからね」

「回復はするけど、再戦はダメよ」

「なに言ってるのナノハナ、まだあたし達は負けてない」


 わんこ大臣が救護班として呼んでくれていたメンバーのリーダー、ナノハナと呼ばれた妖精族がシクラメンの再戦を却下した。

 

「シクラメンさん」


 ナノハナがにっこりとシクラメンに微笑みかける。すると、シクラメンががたがたと震えだした。


「ごめんなさい」


 どうかしたのだろうか、意外なほどあっさりと謝罪した。


「みなさん、早急に治療を致しますよ」


 観戦席ではぴぴとハピとアオイがのんびり談笑していた。


「ぷうのやつ、まじで強いな。あんなにあっさり勝つとは思わなかったぜ」

「でも、思ってたよりもいい連携だったね」

「うん、我輩もそう思った」

「部下がいないと弱っちいのは、攻撃の準備動作が大きすぎるから?」

「ああ、そうだ。それだけじゃなくて、あいつらは回避しながら攻撃するとか、普通の妖精族なら、☆4クラスの軍人でも出来るようなことが出来ないんだ」

「なるほどね。でも、広範囲弾幕魔法で足止めして、巨大ゴーレムで捕獲、高威力の一撃で仕留める。連携としては悪くないね。ただ、普段からこの連携で戦ってる感じもないから、苦肉の策なのかな」

「その通りだ。あいつらは普段は東の要塞でゴブリンと戦ってることが多いんだが、数の多いゴブリンを殲滅するのが得意なのさ。実際、ゴブリンの撃破数ランキングとかじゃ、俺は勝てないしな。まあ、今回の連携は、副隊長達が考えたんじゃないかな」

「そんなことやってるんだ。ちょっと楽しそうだね」

「おう、お前らも今度参加しろよ」

「うん、わかった」


 こうして、妖精族トリオとの戦いは終わりを迎えた。


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