仲良しトリオ
これは、仲良しの3匹の猫がにゃ~にゃ~、ごろごろ、がぶがぶ、ふしゃふしゃする物語である。
ここは猫の国。猫の天国ともいわれる、御伽噺に出てくる死んだ猫が行く場所だ。一説には死んだ猫はここで毛皮を着替えて、飼い主の元に戻るといわれている。猫の国は、天国の一種なだけあって、猫にとって都合の良いことしか起こらない場所である。ご飯を食べなくてもお腹はすかないし、寝なくても眠気を感じない。もちろん怪我も病気も無縁である。そんな猫の国は、猫たちにとってまさに楽園であるのだが、多くの猫達は、猫の国で休憩をしたあとに、飼い主のもとに帰っていくのである。もちろんすべての猫がそういうわけではない、野良だっているし、飼い主だっていつまでも生きているわけではないためだ。しかし、それでも多くの猫達は、猫の国で休憩したあと、地球をはじめとしたいろいろな宇宙へと旅立っていくのであった。
猫の国のとある平原、さわやかな朝日が照らす一画にユニークな丸い猫のような物体が鎮座していた。猫の頭部を球体にして、そこに直接手足や尻尾をくっつけたフォルム。色はがさばとらときじとらが混じったカラフルな色だ。そんなユニークな建物、通称ぴぴぷちゃ号の中で、のんびりと仲良く寝ている3匹の猫がいた。名前はぴぴとぷうとハピ、地球出身の猫達で、この物語の主人公だ。
1匹目は、ぴぴ。毛色はお腹が白いタイプのさばとら。毛質はさらさら。目は大きくきれいなグリーン。性別は女の子。性格は猫っぽい性格で、基本的には人見知りで生前も飼い主だったハピをはじめ、ごく一部の人にしかなつかなかった。同時期に飼っていたわんこに対しても、猫パンチを繰り出すなど、ハードなコミュニケーションを取っていた。ただ、猫相手には面倒見がよく、1つ年下のぷうの母猫代わりを勤めるなど、世話焼きな面もある。猫らしく運動神経もよく、家の中を走り回ったり、大ジャンプをしたりと、けっこうアクティブな面あり、家に侵入した虫を捕まえて遊んだり、窓の向こうにいる鳥目掛けて目掛けてジャンプしたりと、やんちゃな子でもあった。
2匹目は、ぷう。毛色はお腹が白いタイプのきじとら。毛質はふわふわ。目はちょっと眠たげなヘーゼル。性別は女の子。毛質のせいもあって、ちょっとふっくらした印象のボディだ。性格は猫にしては珍しく、ものすごいなつっこい猫で、初対面の宅配の人にすらすりすりしにいくほどだった。同時期に飼っていたわんことも仲がよかった。よく鳴く子でもあり、しょっちゅうな~な~言っていた。お部屋に入ってきてな~な~、お散歩行きたいとな~な~、すりすりするときもな~な~。ただ、そんな愛されキャラだった反面、なぜかいきなり噛み付くくせがあったがために、両者からは若干警戒されていた。ぴぴと比べると少々食いしん坊で、それほど走りまわるタイプではなかった。庭が好きで脱走の天才だったが、外に出てもまったりごろごろしていた。ゆえにふっくらボディになってしまったのだが。
3匹目は、ハピ。30キログラムはあろうかという巨体をもつ、大柄な猫だ。元人間でぴぴとぷうの飼い主でもあった。性格は猫好き兼わんこ好き、猫とわんこのためならいろいろがんばれるが、それ以外のことはいまいちという残念な人間であった。
ちなみに3匹の名前の由来だが、ぴぴはであったときまだ小さく、ぴ~ぴ~と鳴いていたからぴぴだ。ぷうはぴぴよりもっと小さく、ぷ~な、ぷ~にゃと鳴いていたのでぷうだ。ハピは正式にはハピネスという名前で、猫の名前じゃなく、ぴぴとぷうと同時期に飼っていたわんこの名前だ。ボディサイズと毛の色が似ていたため、わんこの名前をそのままもらったというわけだ。
ここは猫の天国のため、当然ぴぴもぷうもハピも、死んだためにこの猫の天国にやってきたというわけだ。猫であるぴぴとぷうが死後猫の国に行くのは当然としても、死ぬ前は人間であったハピが、なぜ死後に人間の死後の世界ではなく猫の死後の世界にきてしまったのかということはよくわからない。もっとも、ぴぴとぷうは、どうやら本能でハピが猫の国にくることがわかったようである。そのため、毛皮を着替えて地球にもどることもなく、のんびり猫の国で待っていたようなのである。猫先生と呼ばれる賢猫が言うには、そこまでめずらしいことでもないらしく、他種族でも猫っぽい性質のものや、猫好きが来ることはいままでも何度もあったらしい。
「ふあ~、おはよう」
「おはよう~、ん~、今日もよく寝た~」
「おはよう、すぐに朝ご飯にするね」
ぴぴとぷうに続き、ハピも起きる。
「「うん」」
「すぐ準備できるから、ちょっと待っててね」
ぴぴとぷうにそう言われ、ハピはご飯の準備をちゃちゃっと終わらせる。
「はい、どうぞ」
もぐもぐ、がぶがぶ。
「ご飯食べ終わったら、なにする?」
「私は猫岳で遊んでこようと思ってる」
「わたしも一緒に行く~」
「そっか、じゃあ我輩はどうしようかな、ぴぴぷちゃ号でなにか作っていようかな」
もぐもぐ、がぶがぶ。
「「それじゃ、いってきま~す」」
「いってらっしゃい」
ご飯を食べ終え、ぴぴとぷうは猫岳に向かった。猫岳とは、猫の修行場所として知られている山だ。ここ猫の国にも猫岳は何箇所もあり、3匹の家のそばにも1箇所存在していた。ぴぴ達の家の近くにある猫岳はまるで富士山を上下に潰したような横に広い単独の山で、頂上がカルデラのような広場になっており、そこが修行場になっていた。猫岳での修行の多くはバトルである。繰り出される攻防は単純な引っかきとか噛み付きとか取っ組み合いではない。この猫の国では地球でいうところの化け猫や猫又といったような、妖怪が使えるような不思議パワー。キャットパワー、通称CPが存在していた。猫というのは本来肉食獣、生粋のハンターである。そのため、多くの猫達は戦闘用のCPを使うことが出来た。例えば、爪に火をまとわせたり、火の玉を吐き出したできた。そのため戦闘シーンは、様々なCP技が魔法のように飛び交い、まるでファンタジー系のゲームやアニメのようであった。
このキャットパワー、早い話が魔法である。猫であればみんな使える基本CP技もあれば、各々の個性に合わせたオリジナルCP技がある。猫共通の基本CP技は基本的な自己強化技や、隠蔽技、意思疎通のためのテレパシーみたいな技など、CPなしでも出来ることを強化するだけの技である。それに対してオリジナルCP技は生活習慣や性格によって得意不得意などがある。例えば、ぴぴなら夏場でもハピにべたべたするほど、暑いところが大好きなためか、火のCP技が得意だ。親離れできてないだけとか甘えんぼうなだけの気もするが、とにかく暑いのに強い。ぷうならお外大好きで地面の上でごろごろするのが好きだった。そのため、土のCP技が得意だ。また、属性以外でも、いろいろと差がある。走り回るのが大好きなぴぴは、機敏な動きをあまりしないぷうより身体強化が上手で、接近戦が得意だ。逆にぷうはぴぴよりはるかによく鳴く子だったためか、鳴き声にあわせてCP技を飛ばすのがぴぴより上手で、遠距離戦が得意だ。
ぴぴとぷうが猫岳につくと、すでに修行に来ていた猫たちで賑わっていた。ぴぴ達が来たのが分かると、他の猫達がよってくる。
「おう、ぴぴとぷうじゃねえか」
「やほ~、ぴぴ、ぷう。今日はどんなことするの?」
「ん~、遊びたかっただけで、とくに内容は考えてなかったかな、ぷうはなにかある?」
「わたしも遊びたかっただけ~」
「じゃあ、今日はみんなで遊ぼう」
「「うん」」
こうして、ぴぴとぷうは猫岳にいた約20匹の猫達と楽しく遊ぶことになった。この場合の遊びとはもちろん修行のことであり、バトルのことである。諸事情あってめちゃくちゃ強いぴぴとぷうは、この猫岳の猫達にとっては、よい修行相手であった。そして、いつものようにぴぴ、ぷうチームVS残りのみんなというバトルが、今日も当然のように行われたのだった。
一方そのころハピは、ぴぴぷちゃ号で猫グッズ作りをしていた。すべての猫がバトル好きというわけではもちろんない。ただの猫好きのハピが使えたCPは猫の世話に関するものばかりだった。例えば、ご飯皿を作ったり、ブラシを作ったり、キャットタワーを作ったり、ぴぴぷちゃ号をつくったり、といったかんじだ。もちろん、ただの猫グッズではない。ご飯皿はCPを流すとご飯が出てくるし、ブラシはブラッシングすると毛皮がきらきら光りだすほどきれいになり、防御力が上がる。さらにキャットタワーは強力なトレーニング効果があるし、ぴぴぷちゃ号は便利機能満載のお家兼宇宙船だ。
そして、ハピの猫グッズの中でも大ヒットしたのが、ご飯のお皿である。猫の国は猫にとって極めて都合のいい世界であり、本来であれば猫の国では水もご飯も睡眠も不要である。しかし、必要はなくとも、嗜好品としてご飯はみんな食べたいのである。でも、ご飯を食べたくとも、猫の獲物である小動物も死後にはそれぞれの天国にいってしまう。そのため、獲物がいないのでご飯を食べたくても食べられなかった。そんな猫の国で、CPを使えばご飯が出てくるハピのご飯のお皿は大人気になったのである。しかも、出てくるメニューはご飯を食べるために、お皿にCPを流した猫がほしがっているものが出てくるという便利仕様だ。
「わっがっはい~は猫である♪ ふふん♪ お皿を作る~猫である♪」
ハピの今日の予定は元気にお皿作りである。先に紹介したように、何でも出てくるのが猫グッズのお皿ではあるのだが、お皿の出来によって、よりおいしいご飯が出てくるというなぞ仕様があった。さらに、お皿に肉マークをつけたりすると、肉メニューしか出せなくなる代わりに、肉メニューの味が上昇するという、特化皿なるものまであった。そのため、ハピの最近のマイブームは、よりおいしいご飯を求め、よりよいお皿作りをすることであった。
ピンポーン
ハピが陽気に歌いながら作業をしていると、どうやら来客のようである。
「は~い」
「ほっほっほ、ハピはおるか?」
「うん、いるよ~」
やってきたのはメインクーンのような大柄な体に、真っ白な長毛種の猫だ。どことなく老猫のような雰囲気をもつこの猫は、この周辺では一番の賢猫、猫先生だ。どことなく老猫に見えるのはあくまでも猫先生がそうしているだけだ。寿命の概念のない猫の国において、見た目は自由に設定できるのだ。そしてこの猫先生は、3匹が猫の国に来て初めて仲良くなった猫でもあり、いろいろなことを教えてくれた恩猫でもある。また、この周辺のボス猫、通称女王様の父親でもあるため、大ボスのような役割も担っていた。
「今日はどうしたの? 猫先生用のお酒特化皿は、こないだ渡したばかりだから、まだ改良品は出来てないよ」
「ほっほっほ、あの酒皿は最高じゃったぞ。じゃが、今回は別件じゃ。ご飯のお皿が余っていたらほしくての。最近新たに交流を持つようになった猫岳のみんなが、ほしがっていてのう」
「そういうことなら、試作品がまた山盛りあるので、倉庫からいくらでもどうぞ」
「ほっほっほ、では、遠慮なくもらっていくのう」
「うん」
猫は基本的には群れない生き物であるが、なぜか定期的に周辺の猫達が集まって集会をすることがある。ここ猫の国でも基本は1匹で暮らすことが多い猫達ではあるが、当然のように猫の集会は開かれている。そして、ぴぴ達3匹や、近所の猫岳で一緒に遊んでいる猫達の所属する集会のボス猫が女王様なのである。そして、最近の女王様と猫先生は他の猫岳に遠征にいき、他の猫岳を取り込み、どんどん勢力圏を拡大しているらしい。理由は女王様はまだ見ぬチーズを、猫先生のまだ見ぬお酒を知っている猫を探し、その味をハピのご飯用皿で再現し、飲食することにあるようだ。もっとも、女王様も猫先生も、勢力圏を拡大する意図はなかったとのことだ。ただ、美味しいご飯を求め、いろいろな猫岳でお皿の紹介をして、ご飯をみんなで食べるという宴会をしていただけらしいのだが、なぜかみんな女王様の下につくからお皿がほしいと言い出した、とのことだ。
もっとも、ハピはマイペースにお皿作りに精を出すだけである。
「「ただいま~」」
「おかえり~」
いつの間にか日は傾き、ぴぴとぷうが帰ってきた。
「今日はお客さんがいるんだけどいい?」
「うん、いいよ~。誰が来たの?」
「お姫様と猫将軍」
ぴぴに紹介されると白猫と黒猫が現れた。白猫はお姫様、猫先生の孫にして女王様の娘だ。長毛で真っ白い美しい毛並みはどことなく猫先生に似ている。もう1匹、黒猫は猫将軍だ。短毛の真っ黒な毛をもち、筋肉質で大きな体をしている。この猫将軍、どういうわけか体が大きく、メインクーンのような大型種である猫先生よりもふたまわりは大きい。そんな大きく筋肉質で短毛種は地球にはいなかったはずなので、もしかしたら地球にはいない猫種なのか、過去に絶滅した猫種なのかもしれない。
「「おじゃまします」」
「いらっしゃい。それじゃ、さっそく夕飯にしよっか」
「「うん!」」
「姫様はチーズとミルクの特化皿で、将軍はお肉とお酒の特化皿でいいかな?」
「はい、ありがとうございます」
「おう、サンキュー」
「「「「「いただきま~す」」」」」
もぐもぐ、がぶがぶ。
「将軍と姫様は久しぶりだよね」
「はい、最近はお母様と一緒に諸国漫遊の修行の旅に出ておりましたので」
「もしかして、今日猫先生が来て、新規のお皿をたくさん持っていったのも、その旅の関係?」
「そうですね、お皿の補充に戻ってきたようなものですから。近いうちにまた旅に行くことになると思いますよ」
「じゃあ、また猫先生、女王様、お姫様、猫将軍は、新しいチーズやお酒を求めて旅に行くの?」
「あはは、そうなりますね」
諸国漫遊の修行の旅の目的がご飯とお酒ということがバレていて、お姫様はちょっと恥ずかしそうだ。
「ただ、しばらくはこちらにいると思いますので、猫岳で勝負しましょう。わたくしもいろいろな猫と出会い、強くなったのですよ」
お姫様はハピ同様、あまりバトルに積極的な性格ではないのだが、諸国漫遊の旅で自身がついたのか、ひそかにやる気をだしていた。でも、諸国漫遊の旅っていっても、グルメツアーだよねっと3匹が思っていると。
「はっはっは、グルメツアーに行って強くなるとかありえない。とか思ってるんだろ?」
「うん、普通そう思うよね」
あえて誰も指摘しなかった点を猫将軍自らつっこんだ。
「ハピの皿のおかげで、友好的な食事会が出来たところばっかだったんだがよ。はねっかえりってのは、どこにでもいるんだよ。だから、そういう連中とは爪と牙で語り合ったってわけよ」
猫将軍はふふふっと笑いながら爪と牙をキラーンを軽く出してみせる。
「ってなわけでよ、明日猫岳で勝負しようぜ。女王様にも許可はとってあるし、これは決定事項な」
「もちろんいいよ!」
「わたしもいいよ~」
猫将軍の提案に、ぴぴとぷうが元気よく返事をする。
「へ~、それじゃあ我輩も明日はぴぴとぷうの応援にいこうかな」
「なにいってやがる、ハピよ、おまえも戦うんだよ」
「へ?」
「明日の対決は、猫先生、女王様、お姫様、俺の旅パーティー対、ぴぴ、ぷう、ハピのトリオってすでに決まってるんだからよ」
「ええ~、我輩のんびり見学してたいんだけど」
「まあいいじゃん、私達チームだし。女王様チームなんてさくっとやっつけちゃおうよ」
「そうそう」
「そうだね、ぴぴとぷうと一緒ならまあいっか~」
「はっはっは、そう簡単にいくといいがな!」
ちょっとだけ3匹とお姫様、将軍の間で火花が飛び散ったが、その後は和やかにお夕飯を食べた。
もぐもぐ、がぶがぶ。
「「「「「ごちそうさま~」」」」」
「じゃ、明日は朝から猫岳でバトルだから、ちゃんとこいよ~」
「「うん!」」
ぴぴとぷうと猫将軍は今から盛り上がってる。
「本日はごちそうさまでした」
「いえいえ、また来てね」
お姫様と猫将軍は帰っていった。お姫様達とはご近所なので、お泊りは基本しないのだ。
「じゃあ、作戦会議だね!」
「「うん」」
こうして3匹は明日のバトルに向けて、作戦会議をするのだった。