夏の思い出
夏の熱気と人混みの熱気が重なる日本独特の祭風情。
屋台から漂う食欲をそそる様々な香り。
昔ながらのかき氷に現代風なオシャレスイーツ。
浴衣姿に甚平、色とりどりのチーム衣装に身を包んだ踊り子達。
夏の思い出造りにぴったりな夏祭りもいよいよ終わりを向かえようとしていた。
「さぁ、残すは大賞チームの発表だけとなりました!はたして今年の栄冠はどのチームが掴むのか!!」
「第三回 紀伊国YOSAKOI祭り、栄えあるよさこい大賞は、………朧月~~!!!」
年に一度八月に開催される地元のよさこい祭り。
市内の観光名所江戸時代に建てられたお城をバックにした特設ステージ上で、司会進行のスレンダーなモデル体型、黒髪ロングヘアーで美人なお姉さん(推定Dカップ)が観客へのサービス精神豊富に自慢の美脚を惜しげもなくアピールしながらドラムロールの後、高らかに大賞チーム名を宣言していた。
「おめでとう!」
「いいぞぉ~!」
「あ~その鳴子なるこで叩かれてみたい!!」
「お持ち帰りさせてくれ~!!!」
観客の歓声(若干犯罪チックなのも多々あり)とともにステージ上では、大賞チームのインタビューと再演舞が行われようとしている。
そんな華やかな会場の外側、城下公園内にある小さな神社の鳥居の下、丁度二段ほどの階段の上に俺は座り込んでいた。
「終わったな。」
そんな素っ気ない一言が静かな夜風にさらされ宛も無く漂い消えた。
今、まさに再演舞が行われているお祭り一色ムードの会場とうってかわり、ここは周りを木々で被われ、提灯の灯りが周囲をほのかに照らすだけの、まさに『THE田舎の神社』的な場所である。
そんな人気の無い場所で、俺こと正木まさき 京介きょうすけとガキの頃からの親友である河野かわの 晃てる、チームメイトの山城やましろ 椿つばき、音無おとなし カレンが集まっていた。
「わりぃ。…おれのせいだ」
ステージ横の音響スピーカーから流れる祭り拍子の華やかな音色が微かに聴こえるなか、俺は立ったままのみんなに座ったままで頭を下げながら泣いていた。
泣き顔を見られたくなかったからだ。
「お前だけのせいじゃねぇよ。自惚れんな」
晃の慰めに俺は沈黙で返すしか無かった。
「そうよ!あんたはよくやったわ!この私が…保証してあげるわよ!!」
椿も追随して語気を荒げながら言葉を掛けてくれる。
「あなたは、悪くないわ。だから泣かないで」
いつもの無表情だが、声色に労いの気持ちを乗せてカノンがそっと肩に手を置いてくれた。
その手は微かに震えていてまるでカノンが泣いているように感じた。
俺はゆっくりと顔を上げながら声を掛けてくれた三人へと視線を合わせたが、三人の瞳から今にも雫が落ちてしまう程に溜められた光を直視出来ずに目を反らせてしまった。
そして、俺たちの夏は静かに幕を下ろしたのだった。
今年度、チーム一颯いぶき入賞ならず
その事実だけを刻んで。
今もステージ周辺では踊り子と観客が入り乱れて踊る“総踊り”の楽しげな音色の中で笑いながら踊っているチームメンバーの姿が俺たちの心を蝕んでいく。
「俺は、何もわかっちゃいなかったんだな」
ポツリと囁いた言葉は誰にも届かずに夜の闇が飲み込んでいった。
以前投稿したものの改編番と続編として執筆を再開しました。
内容が多々変わると思います。
これからもよろしくお願いします。