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三門戻り橋 魔封じの銀鈴  作者: のすけ
14/22

ユイと正道

 その数日後の午後遅く。

 ボクが境内を散歩していたら、入り口の方からユイが一人でトコトコやって来た。

 制服姿で、どうやら学校の帰り道みたい。

「結菜ちゃん」とボクは声をかけ手を振った。

「正道君」

 ユイはボクに気づいて礼をすると笑顔を見せてくれた。正道は高一って設定だから、ユイに先輩扱いされる。そこもちょっと嬉しいけど。

「学校帰りにお参りに来たの。清悠に用事だったら、今日はまだ帰って来てないけど」

 そう言ったらユイは少し頬を染めて首を横に振り、

「あの、三門君はいないって知ってて来たの。私、今日は正道君に会えたらいいなあって思って来たんです」と答えた。

 ええ。一体どうしたのかなあ。

 でも、つまり清悠とは顔合わせないほうがいいって事、なのかな。

「僕に。そっかー。じゃあさあ、別の道に入って話そうか。ちょうど散歩してたとこだったんだ」

 ユイがうなづいて、ボクらはメインの参道とは別の小道に入った。

 草木に囲まれるように静かな道の草むらからは、虫の声がする。

「あの私、イチカからも伝言もらっていて、それに正道君ならわかるかなって事もあって……」

 ためらいがちにユイが言った。

「あ、伝言ね。この前一香ちゃんに、また遊びに来てって君に伝えてー、なんて頼んだから。勝手な事言って、ごめん。で、僕ならわかる事って、なに」

 歩きながらちょっとだけユイを眺めてそう言ったら、うつむいたユイが言った。

「私ね、実はこの前の三門君の誕生日に、彼に告白したんです。春に同じクラスになってからずっと、三門君のことが好きだったから。できたら付き合って欲しいですって」

「うん、うん」

「でも今日、断られました」

 えええええー!

 そ、そうだったのか。ああ、そうかユイ。

 あの情緒に疎いマンには、伝わらなかったのか。そうなんだね。

 うーん清悠。

 鈍いやつとは思っていたが、可愛いユイの直球の告白を受けたら、さすがに覚醒するだろう。

 そう思っていた、けど。

「そう、だったの」

「うん。三門君ね、今は友達付き合いとか部活や生徒会とかもあって、そういう事で満たされてるって。だから特に誰かを好きってのはないし、付き合うってことも考えてないって」

 うーん。

 まあ、思えば確かに、清悠は恋愛以外のとこでリア充ではある。

 夜も晴れていれば二階の縁台とかで天体観測してたり、そういう一人の時間も大事みたいだし。

 そういう今のあいつには、学年でも有数のキュートさを噂されるユイの告白も響かなかったのかなあ。

 ユイのことをいいなって言ってる男子なら、いくらも居るってボクは知ってる。

 清悠も、同学年や下級生にも人気がある。教室を覗きに来る下級生もいる。

 でも本人は意に介さない。綾子お母さんとも仲良いけど、別にマザコン臭もしないんだよなぁ。

 豊滝にジャックされた状態だと、異常なくらい色っぽいのにさ。

 まったく、あの不思議ちゃんめ。

 そう思いながら、ふむふむ、とボクはユイの言葉に耳を傾けていた。

「でも私、それだけかなって思ったんです。あの、正道君。三門君って、本当はイチカのことが好きなんじゃないかって、私は思うんですけど……」

 えええええー!どうして。

 はっ、でもこれはもしや。

 ボクの懸念が的中したのではなかろうか。

 そう思ってドキドキしながらユイに確かめた。

「どうして、そう思ったの。結菜ちゃん」

「それは。三門君、この頃イチカのこと気になってるんじゃないかって、そう思うことがよくあったんです。よくイチカの方見てたり、話しかけて来たりとか。三門君とイチカが二人で日直の日も、プリント取ってくるとか日誌提出に行くとか、全部イチカを呼んで一緒に行ってたし」

 それ見たことかあ!清悠、みんなお前のせいだあ!

 やっぱり誤解されてるよ、あーあ。ほらやっぱり。

 その後もボクが危惧した通りだった。

 身代わりの一香を気遣う清悠の行動は、確実にユイの誤解を深めていたのだった。

 ボクはユイに言った。

「うーん。ボクは清悠が一香ちゃんを好きってわけじゃないと思うよ。家に居る時もさ、ボクと遊んだり喋ってる時もあるけど、勉強したり星の観察したり。いつも何かしてるから、それで満足してるってのは本当だと、ボクは思うな」

 それに妖魔退治したりね。

 でも、これまで清悠と恋バナ的な男子トークをしたことがない。正道としては仲がいいと思うけど。

 いやいや、第一ボクは本当の男子じゃないし、な。

 それにしても、もし清悠が誰かを好きだとして、あの性格で変化球は出せないんじゃないかな。

 ()直球で、相手に言うんじゃないだろうか。

 あれ、ユイ。

 気づくとユイがふと足を止めて、それに小さくすすりあげている。

 制服のポケットから取り出したハンカチで、ユイは目元を抑えた。

 目が赤い、ユイが泣いてる。

 もう、清悠。これは君のせいだぞ。

 君のせいで、ボクの大好きなユイが泣いてるんだ。

 ユイの相手がボクだったら。

 そうだよボクだったら、こんな。泣かせるようなことなかった。

「結菜ちゃん、泣かないで」

 そう言ったボクは思わず、ユイの小さな肩を抱き寄せていた。

「あっ」

 ユイが小さく声をあげて、ボクは我に返った。

 わわっ、しまった。

 正道の体だってこと、今のボクは男の子だってこと、一瞬頭から飛んでた。

 ボクは慌てて、ユイから手を離した。

「ごめんね結菜ちゃん。急に触ったりなんかして、驚かせてごめんね」

「大丈夫。私が、泣いたりするから。正道君、ごめんなさい」

 ユイの様子を見ながらボクはしみじみ思った。

 自分が男の子だったらユイに告白したい、ずっとそう思ってきた。

 ユイは男の子が好きだから、女子のボクがいくらユイを好きでも伝えられないって思ってきた。

 これから先、またすぐに女の子に戻るとしても、正道でいる今がその時だって思いたい。

 振られるとしても、この気持ちを伝えるだけでいい。

 ボクがユイを想ってると知ってもらえるだけで、いい。

 気持ちを定めたボクは、深呼吸をひとつ、して言った。

「実は僕さ、結菜ちゃんっていいな、可愛いなあって思ってた。一目惚れしたんだ。それで、そのこと一香ちゃんに言ったらさ、『私もユイが好きです。ユイは私の大事な子なんです』って言ってた。結菜ちゃん、僕は君が好きだ」

 ついに言ってしまった。

 たった今、正道()()()、と、一香()()()、と二人分告白したぞ。

 ユイは少しだけキョトンとしたけど、すぐに笑顔になった。

「そうだったんですか。私もイチカのこと、すっごく好きで大事なんです」

 でも、その後で神妙な顔つきになってボクに言った。

「正道君の気持ちは、嬉しいです。けど、でも私。今はごめんなさい、です」

 うーん。

 正道は見事に振られてしまったなあ。

 そして、やはり一香の方はイマイチうまく伝わらなかったみたい。

 ふと思いついて、ボクは言ってみた。

「もしも、一香ちゃんが結菜ちゃんと付き合いたいって言ったら、考える?」

 そうしたら、ユイはウフフっと笑って言った。

「イチカって性格がすごく男前でかっこいいし、背も高くて顔も綺麗だし。部活で走ってるとことか、全てが素敵なの。だからイチカが男の子だったら私、きっと告白してたと思います」

 うわあ、超、超嬉しい。

 でも、やっぱりそうか。男の子だったら、か。それでも十分嬉しいよ、ユイ。

 そう思ったらユイが言った。

「イチカはいつも、自分は好きな人いないって言うんだけど、最近の三門君との様子見たらね、実は自分の気持ちに気づいてないだけなんじゃないかなって、思ったりもしたんです」

 ユイってばあ。それは、違うんだよう。

 今、ユイの側にいる一香は清悠の式で、つまり(しもべ)だから彼に従順なだけで。そこに最近の誤解が加わって。

 それに、好きな人いないってボクが言うのも。

 ただただ、ボクがユイには言えない、誰にも言えない気持ちをずっと抱えてきただけで。

 さらにユイは続けて言った。

「三門君もイチカと同じで、自分の気持ちに気付いてないんじゃないかな。そう思って。それなら私、応援したいです。本当に、心から。だってイチカもずっと、私のこと応援してくれたもの」

 ボクはどう答えたらいいかわからなくて、黙ってうなづいていた。

 失恋して傷ついたばかりなのにユイ、優しすぎるよ。ボク、もう泣きそう。

 けれど、ユイがボクのことをとても大切に思ってくれている。

 その気持ちはまっすぐに伝わって、それに話してるうちにユイがちょっと元気を取り戻してきたように見えて、よかった、とボクは思った。

「いきなり来ちゃったのに、お話ししてくれてありがとう、正道君。私、正道君とはこれからもお友達でいたいです。それは、いいですか」

 ユイにそう言われたボクは、

「もちろん、仲良くしてよね。君にちゃんと気持ちを伝えて、僕も逆にスッキリしたんだ。ありがとう」と言えた。

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