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三門戻り橋 魔封じの銀鈴  作者: のすけ
13/22

新月に祈る

「その傷、痛むか。血は止まってるね」

 ボクの右頬の傷を見て、清悠が言った。

「大したことないよ、お母さんが薬つけてくれたし。木の枝に引っ掛けたって言っちゃった」

「そうか、ごめん。俺のせいで怪我して、嘘つかせて」

 学校から戻った清悠は今、ボクの部屋に居る。

 帰って来るなりこの部屋に来て、今日はおやつも忘れて。

 でも、そんな言い方されたら逆に困る。

 あの時、清悠は呼んでないって言ったのに、一緒に行くって言ったのはボクだし。

 自分だけ悪いみたいな言い方は良くないよ。

「違う、ボクが一緒に闘いたいって思った。だから俺のせいなんて言わないでよ」

「わかった。ありがとう」

 そうは言ったけど、なんか清悠、元気がない。

「ねえ、これまでにも今日みたいなことしていたの」

「そうだな。十二の時、数え十三の時からね。でも今よりもっと少なかったな。年に数回だった」

 じゃあ最近は、妖魔が現れる頻度がグンと上がってるよね。

「今日のカマキリみたいなヤツ、かなり強かったの」

「まあな、かまいたちの仲間で素早いヤツ。俺、術が破られたのは初めてなんだ」

「そうだったの」

「俺の力不足だ。今日みたいな時は自分の身代わりを置く。そうなると安野も含めて、二つの式を同時に動かす。それと豊滝にジャックされないようガードして。そうして戦うと、もうアウトだ」

 それでも豊滝は現れたんだよね。

「そうか。ねえ、これからもボクを連れて行って。自分に関係あることを清悠任せにしたくない。闘いたい、だから呼んで。約束してよ、ね」

 ボクにできることをちゃんとさせて欲しい。そう思うんだ。

「うーん、でも妖魔は夜に出ることもある。しかも夜に行動するのは強いやつが多い」

 歯切れの悪い清悠、ボクを心配してくれてるの。

「だとしても、ボクは行くからね。でもこれ、きりがないよね」

「そうなんだ。前に爺さんとも話したんだけど、本当は結界をちゃんと結び直せばいいんだ。でも今の俺には無理で、だからこそ豊滝が転生して来たんだろうって、爺さんは言うんだ」

「ちょっと話が難しいよ」

「妖魔がこの世に出入りできないように、ガーンと丈夫な扉を締め切ってしまいたい。大きな力を持つ豊滝ならできるからこそ、豊滝が今、生まれ変わって来たってことさ」

「力が必要だから、か。でも豊滝は、あまりそっちに興味なさそうだよ」

 今日だって豊滝が現れたきっかけは、正道が妖魔に傷つけられたせいだった。

 情け容赦なく一気に妖魔を追い込んで。

 あたりの惨たらしい景色に見向きもせず、豊滝は正道を呼んでた。

 豊滝って、よっぽど友達の正道が大切で、会いたいんだな。

 傷ついた正道を前にした豊滝の激しい怒りと心の痛み。

 それは、はっきりと伝わった。

「豊滝は天才だから、大技でボスキャラみたいなヤツも余裕で倒せる。だから大した事じゃないって思ってるんだろうな。俺も抵抗したけど結局ジャックされたし」

「でもそうだ、清柾さんに貰ったあの鈴を鳴らしたら、豊滝は離れたよ。正道じゃないって言って」

 清悠の顔がパッと明るくなって、身を乗り出した。

「そうか、良かった。お守りの効果あったんだな。それは安心した」

「あったよあった。でもその前に、正道出て来いって言われた」

 豊滝はいつもボクを正道って呼ぶけれど、今度こそちゃんとわかった事がある。

 その瞳はボクを見ているわけじゃない。

 ボクの中に正道の心を、魂を探しているんだ。

「そうか、お前の中に正道の魂はまだ隠れているんだな。正道はお前の体だけジャックして、弓を持って俺を助けてくれてる。そうなんだな」

 ボクと清悠は座卓越しに顔を見合わせた。

 ボクも清悠も同じ状況なんだ。

 一つの体に二つの魂を宿している。

「安野も俺みたいに、そもそも正道の生まれ変わりなのかなあ」清悠はそう言って畳の上に寝転んだ。

「ボクが正道の」

 だとしたら、もっとちゃんと豊滝と話して、協力してもらえるといいのに。

 でも今のボクは、いざ豊滝に出会うと、あの雰囲気に呑まれて何もできなくなる。

 豊滝って、綺麗で真剣で本当に強くて、逆らえない感じなんだもんな。

 どうしたらいいんだろう。

 正道の魂なら、なんとかしてくれるかな。力を貸して欲しいよ、正道に。

 ん。

 考えていたボクのそばで寝息が聞こえて来た。

 ふと見ると、畳の上で清悠がコトンと眠っている。

 ついさっき、横になった途端に眠ってしまったみたい。

 安らかなその寝顔は、閉じた瞼のまつ毛が長くて唇は薄めで綺麗な形をしている。

 スヤスヤ眠ってるなあ、これはきっとバトル疲れだね。

 さて、どうしたものか、と思って眺めていたらちょうど綾子お母さんが来た。

 スヤスヤ眠る清悠を見たお母さんは、

「あら。帰って来たはずなのに、今日はおやつの要求にも来ないと思ったら」と笑って清悠にひざ掛けをかけた。

 それからボクに「そのうち起きるでしょ。正道君、私とお茶にしましょう。今日はカステラあるわよ」と言った。



 とうとう十月九日になった。

「今夜は新月だ」

 清悠がそう言って、月の出ていない夜空は薄い雲の間にまに星が煌めいている。

 チカチカと瞬く星の光にボクは思った。

 ああ、いよいよ明日は清悠の誕生日。

 ユイが清悠に告白する日だ。

 そしてその夜、ボクは夢を見た。

 夢でボクは身代わりの一香と記憶の同期をしたみたいで、学校での出来事とかユイとの会話とか、またたくさんの情報が流れ込んで来た。

「帰りに三門君に声かけて、体育館の裏のとこで告白する。お菓子と一緒に手紙渡すんだ。頑張るよ」

 一香の記憶のユイは、頬をピンク色に上気させて真剣な顔でそう言っていた。

 やっぱり可愛い、ユイ。

 お菓子作りも得意だし、何を作るのかなあ。

 夢の中でさえボクの胸は痛んだ。

 でも、やっぱりユイが幸せになれるように。

 笑顔になれるように、友達であるボクはそう思う。

 新月の日っていうのは願い事が叶いやすい、そう聞いたことがある。

 だから寝る前にボクはユイのために、お祈りをした。

 頑張って、ユイ。どうか、告白がうまくいきますように。

 そして十月十日、清悠の誕生日が来た。

 ハラハラしながらボクは清悠の帰りを待っていた。

 情緒に疎いマン清悠のやつが、ユイの告白をどんな風に受け止めたのか。

 六時前に玄関の引き戸をカラカラと開ける音がして、「ただいま」と清悠が帰って来た。

 今日はいつもより遅い。部活がらみか生徒会の仕事だったのかなあ。

 おや、なぜか今日はこの部屋に現れない。

 来ない、と思うと気にかかる。

 今夜は夕食が清悠のリクエストした誕生日のお祝いメニューで、ボクは綾子お母さんを手伝うことにしていたから、しばらく台所にいた。

 エプロンを借りて綾子お母さんに手順を教わりながら、ちらし寿司や茶碗蒸しの支度をして行く。

 リクエストするメニューが清悠はシブい。

 でも、お母さんは唐揚げも作っていたし、ケーキもある。

 こんな風に清悠の誕生日を家族と祝うことになるなんて、夢にも思わなかった。

 結局、落ち着いて清悠と話したのは夕食会の終わった後だった。

「今日さ、倉見に手紙もらったんだ」

 ついにボクの部屋に来た清悠が打ち明けてきた。

 はやる気持ちを抑えて、ボクはクールに振る舞う。

「うん。そっか」

「今日のこと、やっぱりお前知ってたの」ボクが驚かないのを見た清悠が言った。

「実はね。ボクがこうなったあの日もさ、二人で今日のためのお参りに来たんだ。ここは有名な縁結びの神様だからね」

「そうだったのか。はーん、それで例大祭に倉見を誘えとか俺に言って来たわけだ」

 やっと気付いたのかい、君ってやつは。

 まあそれは正直なところ、ボクがユイの顔を見たいって気持ちが言わせてる面もあったけど。

 清悠、これからどうするつもりなのかな。

 内心ヤキモキして来たボクは清悠の表情をうかがって見たものの、彼の気持ちは掴めない。

 気になるところだけど、ここは焦らずつっこまず慎重に見守らなきゃ。

 恋心はデリケートだから、慌てちゃダメダメ。

 そう思ったボクはそれ以上のことは聞かなかったし、清悠も話しては来なかった。



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