探偵金田は何も始まらない
日常は平穏であるべきだ。
ニュースでは芸能人のスキャンダルを取り上げているだけでなんの興味もそそらない。かといって事件のニュースもごめんだが。地元のニュースだと言って、やれ殺人だやれ押し入り強盗だと周りの環境が危ないと煽っているだけではないか!
私は金田博信。探偵事務所を営んでいる。ほぼ私しかいないため閑古鳥が鳴いている状況ではあるのだが。
それでもいい。私は平穏に過ごしたいのだ。誰にも邪魔されず家にいるだけでいい生活を...
その時扉がどんっ、と開かれる。
「先生っ!買い出しに行ってきました!」
平穏が終わりを告げた。
「買い出しなど頼んだ覚えがないが?」
この子は戸田三鈴。ひょんなことからこの探偵事務所に居ついてしまったのだ。女子高生だというのにおかしな子だと常々思う。
「またまたぁ、今日のご飯が冷蔵庫に入っていませんでしたよ?先生ってば私の事試したんですよね?」
なぜうちの冷蔵庫事情をしているのか。確かにここは探偵事務所兼自宅だが。
しかし好都合。家から出なくて済むではないか。
「まあいいか。というかいつも言っているがその先生というのはやめてくれないかな?」
「なんでですか!私は恐れ多くて先生の事を名前でなんて呼べませんよ!神様仏様先生様!」
いつのまにやら私は神格化していたようだ。
いつもこの調子だが、先生というのはいつ聞いても気恥ずかしくなる。
「あっ、今日は何か事件ありました?」
「いつもの通りさ」
「ですよね、いつ来てもお客さんなんて見たことないですし。でも大丈夫ですよ!私がいつも先生のいい噂流してますから!」
どんなデマを流されているのだろう、聞いてみたいが聞いたが最後もう二度と家から出られない気がする。
「ほどほどにしといてくれると・・・」
ありがたいのだが、そう言う前にどたどたという足音が聞こえてきた。
この部屋に、この探偵事務所に向かっている?
そう考えてると扉がまたもやどんっと開かれる。
「助けてくれ!」
「つまり、あなたの知り合いが押し入り強盗としてはめられた可能性があると?」
そう言う依頼人は郷田隆。容疑のかかった友人、太田正平を助けるためにここまで来た、というわけだ。
「そうなんだ、確かにあいつは職もないしお金に困ってた、事件の時刻に付近の監視カメラに映っていたし挙句の果てには凶器の包丁に指紋まで!」
「それは・・・」
どう考えてもその人が犯人でしょうと言うが早いか
「そうなんですよ!出来すぎてますよね!どう考えてもおかしい!」
そうなんですか?と言いたげな戸田君を手で制し質問する。
「まず、なぜ捜査状況についてご存じなのですか?」
「それは、警察の知り合いがいて・・・」
しゃべったのか。素人に。
「正平はそいつとの共通の知り合いでさすがにやばいって教えてもらって・・・」
「では、なぜこの探偵事務所に?やっていないと思うならもう一度捜査してもらえばいいでしょう?」
「だって警察って無能って聞くし、それに噂じゃ数々の難事件を解決しているそうじゃないですか!」
警察が無能なんてどこの小説の知識だよ!しかも数々の難事件を解決って何?!
戸田君の噂のせいだよ!どうしてくれんの!
彼女をにらみつけるとどう受け取ったのかピースしている。まったく・・・。
「わかりました。依頼ですからね。受けましょう」
「ありがとうございます!早速現場検証に行きましょう!」
そんな権限あるわけないだろうが!それに・・・
「いえここで結構です。家から出たくないもので!」
「じゃあ、どうやって捜査するんですか!」
苛立って郷田が尋ねてくる。
そう慌てなさんな。
「まず正平さんの事を知りたいですね。」
「はいはーい。知ってますよ!」
そう元気よく手を挙げる戸田君。
「確か太田家の一人っ子で、前やっていた会社を辞職して、今は実家で就活という名のだらだらとした生活を送っている、そうです!」
郷田が驚きながら尋ねる。
「そうです、よく知ってますね?」
「ふふん、この町の井戸端会議に参加していれば当然です!」
いよいよ主婦っぽくなってきたな。戸田君は。
「つまり、無職であるが実家なのでお金の心配はない、ということですね。パチンコやたばこなどは?」
「確か、しなかった・・・」
「してないですね!お小遣いをせびるような真似もしていないようです!逆に養ってもらって申し訳なさそうな感じみたいですね」
元気いいなあ。
「つまり、強盗に入る動機がない・・・」
のに強盗をしたのか
「そうなんです!」
今度は郷田が元気になった。
「動機がないのに急に強盗なんかしないでしょ!」
「え?でも正平さんのお母さんもうすぐお金が入るから安心してみたいなこと言われたそうですよ?」
「そっ、それは・・・もうすぐ就職できるって話を聞いていました!そのことですよ、きっと!」
ふむ、就職・・・。
「ね?おかしいでしょ?」
「では被害者はご存知ですか?」
「いや、特には・・・」
「はい!先生!」
それも知っているのか。
「・・・どうぞ」
「えーと、飯田さん家ですね。たしか一人で住んでいてこの町じゃ知らない人がいないくらい名物おばちゃんだそうですよ」
私は知らないが?外でないし。
「どんな風な?」
「嫌味がすごいらしいです。井戸端会議でも愚痴が絶えないですよ。」
それは恨まれてそうだな。
「今は包丁を刺されて病院で入院中です。」
「なぜそこまで知って?」
「だってニュースでやってましたもん。」
そういえばそんなのやってたな。
「なるほど!この事件大体わかりました!」
「じゃあ解明と行きましょうか!」
すると突然郷田がうろたえ始める。
「えっ、話聞いただけじゃないですか!しかも30分くらいしか!そんなんで分かるわけないでしょう!」
「そうでもないですよ?先生は難事件を解決できるほどの天才なんですから!」
戸田君がなぜ得意げなのか。
「じゃあ状況整理から、正平さんは強盗を計画し念のため包丁を用意し”手袋”をして飯田さんちに向かった。」
「え、先生?正平さん手袋してたんですか?」
「その辺は後で、そして寝た時間を狙ったつもりだったが起きていたので、顔を見られた正平さんは咄嗟に刺してしまった。そして動転したのか包丁を残して去っていったため捕まった。って感じかな。」
「待ってください。正平が犯人って、それ警察が言っていることと同じじゃないですか!」
「あたりまえでしょう。警察が証拠を見逃すなんてありえない。」
「でっ、でも、手袋!さっき言ってた手袋ですよ!あれははめられたって言う決定的証拠じゃないですか!」
「まあ、指紋なんて誰しも考えがつく話だし事前には準備していたんでしょうね。手袋と包丁は。」
「じゃあ・・・」
「じゃあなんで指紋が残っていたのか、ですか。そりゃあ犯人が正平さんではないと一つでも私に思い込ませたかったからでしょう。といってもどこまで計算していたんだかねえ、郷田さん?」
「えっ・・・?」
「郷田さん、あなたはいつまでも無職で申し訳なさそうにしている正平さんを見かねてうまい話を持ち掛けたふりをした。誰かの家から奪えばいい。ばれなきゃ問題ないだろ?とでも言ったんですかね。そして正平さんの指紋がついた包丁、手袋を用意して渡した。ついでに寝る時間も。起きているだろう時間にしておいてね。」
「待ってくださいよ!どうして俺がそんな事を・・・」
「言ったじゃないですか。正平さんをはめるためだと。いや誰でも良かったんでしょうね。とにかく飯田さんを殺すためですよ。」
「だから飯田さんなんて知らないっていってるじゃないですか!」
「さっき戸田君が言ってたじゃないですか。この町じゃ知らない人がいないくらい嫌味なおばちゃんだったって。外に出る人ならだれでも知ってるその人をあなたは隠そうとした。つまり、関係ないことにしておきたかったわけでしょう?つまり恨みがあったわけだ。しかし、自分が殺したくはなかった。そして白羽の矢がたったのが彼だったと」
「はあ、じゃあ仮にそれが本当だとして、いったいなぜ俺が探偵に依頼してるんですか?墓穴掘っているようなもんじゃないですか?」
「それは、あんま言いたくないのですが、私がメイ探偵だと思ったからでしょう?あっメイって迷うほうの迷ですよ?戸田君の私に対する噂を聞き、数々のありもしない事件を解決したなんて嘘ついているならきっと包丁についていた指紋一つでこの事件をひっかきまわしてくれるに違いないって思ったんでしょう。でも結局犯人自体は正平さんだからそこに収束し、だれの指示かなんてうやむやにしたかった。」
「しょ、証拠は!私が首謀者であるという証拠はあるんですか?」
「ないですよ?でも私がここから動かなければいずれ正平さんが自白するでしょうね。なので早めに自首をお勧めしますが。」
そう言うと郷田はうなだれてしまった。
「・・・いつからだ」
「え?」
「いつから、俺が首謀者だと気づいた?」
「そうですね、あなたが入ってきた瞬間でしょうか」
その後郷田は自首したようだ。
「すごいですね先生!最初から見抜いていたなんてすごすぎますよ!」
「えっ?何が?」
「だってだって、入ってきた瞬間分かったんでしょ?私は最初、すごく友達思いのいい人だと思ったのに!」
「そんなわけないでしょ?最初は健さんが就職できるなんて嘘ついたところあたりかなぁ。だって就職するなら強盗する必要ないし。」
「えー!じゃあなんであんなこと言ったんですか!」
「決まってるでしょう。あんな小説好きにはああ言っておけば黙るんだよ。」
「なんかずるいですね。」
「細かいことは、気にしないっ!」
「あっ、そういえば今回の報酬は?」
あっ、忘れてた・・・。
「戸田君!今から警察行って郷田から報酬もらってくるぞ!」
「いや、無理でしょ先生・・・。えっ先生?!速っ!こういう時は速いんだからもう!」
出不精な事を忘れ走ったが、警察に行ったところで報酬なぞもらえなかったのは言うまでもない。




