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それでも世界は続く  作者: 猫眼鏡 
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プロローグ

時の流れとは不思議なものだ。

小さい頃はあんなにゆっくり感じられたのに、最近では瞬く間に流れ去ってしまう。

体の大きさに比例しているのだろうか?そう考えても確かめる術はない。

何せこの世界で使えるキャラクターは自分ただ一人なのだから。


そんな風に考えていると、ピンポンが鳴った。時刻は午前5時。こんな朝っぱらからいったい何だろう、そう思いながら玄関の覗き口から来客の確認をする。そこには白髪の老人が立っていた。

老人は民族衣装のような変わった格好をしていた。ベトナムのサリーによく似ている。

ドアの前で開けるかどうか迷っていると、もう一度ピンポンが鳴る。


ここは居留守を使おう。だいたいこんな朝早くから非常識だ。


そう思った私は部屋に戻ろうとドアから離れた時だった。

「あなたは神を信じますか?」

白髪の老人はそう言った。

「神はあなたの心の闇を必ずや晴らしてくれることでしょう」

老人は、ぼそりぼそりと、そう言った。

なんだ宗教の勧誘か。それにしてもなんて下手くそな勧誘だろうか。これでは何がしたいのか全く意図が読めない。

神を信じるかと言われたら、私は信じないと答える。

論理的に神を否定したいわけではない。単純に神を信じられるほどの余力を残していないのだ。

今年で私は22歳になる。現在いまだに受験生、俗にいう浪人生でしかも4浪のどうしようもない人間だ。

とある名門大学に入ろうと奮起し、高校三年間も勉強に費やした。

何度も神を信じて、祈った。もちろん努力もした。神にすがって慢心するような真似はしていない。

だが、どんなに頑張っても結果には結びつかなかった。

私の時間は4年前から全く進んでいない。

心の闇がなんだと老人が言っていたが、闇となるとしたらそういう部分であろう。


人生はよくできたゲームだと誰かが言っていた。

だがこの世界のゲームバランスは酷いものだ、と私は思う。

すべての人間に誕生と死が与えられている。

しかしその間の人生にはありとあらゆる格差が詰め込まれている。

この世界は平等でいて不平等だ。と誰かが言った。

私もそう思う。

もし神になったらもっとうまくこの世界を作るのに、私はそう思う。


ドアの前で固まっていると、コツンコツンと足音が離れていく。

どうやら老人は帰っていったらしい。ようやく朝日が昇り始めたのがカーテンの隙間から分かった。

再び薄暗い部屋の中に静けさが戻る。


私は大きく伸びをして、再び部屋の中に戻る。

かといって特に何もしておらず、何をしようという気も起きない。

仕方がないので、テレビをつけることにする。朝早くということと、部屋の壁が薄いので消音に設定した。

カラフルな光が部屋の壁を染め上げる。

赤、黄、橙と視界を彩る。画面の向こうではキャスターが慌ただしく何かを実況している。

時折画面が大きく揺れ、映像が乱れる。

画面が切り替わり、今度は宇宙からみた地球の映像が映し出された。

北アメリカ大陸が真っ赤に染まっている。中央付近からは血のような液体が勢い良く噴き出しているのが見えた。全く現実離れした映像が映し出される。これは一体何の映画だろうか。よくできている。


再び画面はスタジオに切り替わる。そこで画面が赤く変わり”緊急速報”という文字が点滅する。

今度は画面だけでなく自分がいる部屋も大きく揺れるのを感じた。

部屋全体がギシギシと音を立てる。


ここで私はふと疑問に思う。今見ているのはごく普通の報道番組ではないかと。

そこで私は理解する。今起きていることは現実なんだと。


避難するべきだろうか。逃げ場はあるのだろうか。そう思いながらカーテンを開けて外に目を向けてみる。




そこには割れた大地と、飲み込まれた町と、吹き出すマグマの光景が広がっていた。



全くこの世界のバランスは悪すぎる、そう思ったところで私の世界は真っ白になった。





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