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アタシ達は三人揃って、声の方を向く。
そこには、シュミを疑うようなビラッビラの赤いドレスを着た、金髪縦ロールに灰色の目の、いかにも高慢ちきなお嬢様! って感じの女が立っていた。
「まあ、マルチナ様ではありませんか。お久しゅうございます」
……リ、リーティアが。あのリーティアが、すんごいウワベだけの笑顔を浮かべてる。
ハッキリ言って……、
コワっ!
うちの義姉さんが、兄貴の携帯に他の女からのラブメールが入ってるのを見つけて、極上の笑みでギリギリ関節技キメてた時くらい、怖いよ!
「こちらは隣国ネーデブルグの王女、マルチナ姫だ」
女同士がバチバチ火花を飛ばし合っているのに、気づいているのかいないのか、フェルナンドがその女をアタシに紹介する。
「フォルティアにも戦巫女様が降臨されたと聞きましたので、ご挨拶に伺いましたのですが……」
マルチナ姫はアタシをチラリと見ると、これまたビラビラした扇子を広げ、口元にあてて、
「まあ、まあまああ! 歴代の戦巫女様に比べて、なんて……」
ホホホ、と笑う。
こンのやろう。
こいつも、「なんて」の後に、年増だとか言いたいんだな。
しかしアタシの怒りは、マルチナの次の言葉で驚きに取って代わられた。
「我がネーデブルグの戦巫女様の方が、より『らしい』というものですわね」
は?
戦巫女様はここにいるだろ? と首を傾げながら、マルチナの視線を追い、アタシは自分の目を疑った。
マルチナの後ろに影のように付き従っていた人物が、ついと進み出る。
背中に、黒い槍――つうか薙刀?――を背負った、十五、六歳くらいのその子は、黒髪に黒い目。そして、まごうかたなきモンゴル系の顔立ち。
日本人じゃん!
そういや今、「フォルティアに『も』」ってマルチナは言った。
アタシは唖然としてリーティアを振り返る。
「ど…どういうこと? アタシの他に戦巫女がいるって?」
リーティアは、可愛らしい顔を困ったように伏せた後、
「まだ、蓮子様にはお話ししておりませんでした」
と説明し始めた。
「女神アリスタリアは、この世界に危機が訪れた時、戦巫女を選定されます。しかし決して唯一人ではなく、このフォルティアと、ネーデブルグ、そしてステアという、この世界の主要三国にお一人ずつ、三人が召喚されるのです」
「それって今までずーっとそうだったの?」
「これまでの歴史で例外が起こった事はありません。まだわたくし達もお会いしておりませんが、ステアにも戦巫女様が降臨されたという話は、聞き及んでおります」
……戦巫女は、アタシ一人じゃ、ない。
その事実に、想像以上にショックを受けてるアタシがいることが、自分でも意外だった。
マルチナが扇子で口を隠し、またホホホ、と笑う。
「まああ、そんな事もご存じでないの? 戦巫女様にはより純粋な方が選ばれると言われますけれど、純粋、と言うよりは……」
チロリ、と侮るような視線。
「子供から成長されてない、ということではなくて?」
ぐ、とアタシは返す言葉を失った。
反論できないんだよ。
見かけだけじゃなくて、精神的にもおっついてない、って周りに言われたのは、一回や二回じゃないから。
何も言い返さないでうつむくアタシを見て、マルチナは勝ち誇ったように目を細める。
すると。
「そのくらいにしていただけないか、マルチナ姫」
そんな言葉と共に、アタシはぐい、と肩を引っ張られた。