3.5-1
凹み時期を乗り越えて、アタシは再び、フェルナンドやフォルティアの兵士さん達と共に、国内の魔物退治に繰り出していた。
今までたまりにたまった鬱憤を晴らすがごとく、宙を飛び回り、銀色の斧をブンブン振りまくり。
あー、やっぱりアタシは何も考えずに戦ってる方が、性に合ってるわ。ストレス解消にもなる。
「はい、以上っ!」
白フクロウが規格外の大きさへパンパンに膨れ上がったような魔物を、一刀両断。フクロウは耳障りな悲鳴をあげて、霧のごとく消えた。
地上に戻って話を聞いてみれば、今日は味方の損害は軽微だったらしい。軽傷を負った兵士はいるけれど、死者は出ていない。
それを聞いて、アタシは内心安堵の息をつく。
そう何度も、目の前で誰かが死ぬのを見届けるのは、さすがにメンタルにこたえるからね。
さーて、フェルナンドはどこにいるかな、と辺りを見渡す。フォルティア王族キョーレツ遺伝の青い髪は、すぐに見つかった。何だか深刻な顔をして、兵士さんと話し込んでる。
小走りに近づいてみると、奴は真剣な顔をして、兵士さんが布の上に載せて差し出してる何かに見入っていた。
アタシより背の高い、奴の背後から覗き見る。
それは、掌ですっぽり包み込めそうな水晶玉だった。七色にキラキラ光る様が、パワーストーンのお店でよく見かける、アクアオーラとかいう石を彷彿させる。
あ。今、『アラサーがパワーストーンに詳しいとかキモッ』とか思った奴。パワーストーンは、効能云々じゃないのよ。日々のバイトで理不尽な事とかあって、通勤電車で押されどつかれ足踏まれて、心荒んでも、部屋にひとつぽん、とキレイな石が飾られてたら、それを見てるだけで、気持ちが落ち着いていくんだから。
……ん? アタシは誰にツッコミ入れてるんだ?
謎の自分ツッコミをしながら、アタシはフェルナンドの隣に並んで、石をまじまじと見つめる。
「さっきの魔物達が守っていたものだそうだ」
突然アタシが真横に並んだ事に驚きもせず、フェルナンドは顎に手をやったまま、にこりともしないで説明してくれた。
「見た目は変哲無い水晶玉だが、魔物が持っていたのだから得体が知れない。フェーブル城に持ち帰って、専門の魔術師に見てもらうしか無いな」
「ふーん」
こんなにキレイなのに、飾らないで終わらせちゃうとは、何だかもったいない。研究の為だとか言って、トンカチ持ち出して粉々に砕いちゃいそう。
と、後から考えれば、アタシはもうこの水晶玉に魅入られていたんじゃないかと思うほどに惹きつけられて、後先考えずに七色の玉にトーゼンのごとく手を伸ばしていた。
すると。
「何をしている、馬鹿者!」
フェルナンドの罵倒が耳に突き刺さると同時、奴の手が伸びて来て。
ばちいいいんっ、と。
アタシとフェルナンドが触れた水晶玉が、放電したような火花を散らせながら、兵士さんの手から転がり落ちた。
「あわわわ、びっくりした、びっくりしたー!」
アタシがシビシビした手をさすっていると、あいつの金色の目が、心底からの怒りをため込んで、ぎろりと見下ろして来る。
「この、大馬鹿者!」
あ、バカって二回言われたわ。
「どんな危険が潜んでいるかもわからん物に、軽々しく手を出すな!」
ひとしきり怒鳴ったフェルナンドは、兵士さんから布を受け取り、地面に落ちた水晶玉を、包み込むように拾い上げる。無造作に落っこちた玉はしかし、そんな衝撃もへのかっぱ、とばかりに、疵ひとつつかず、静かな七色の輝きを放ち続けていた。
そして、事件は会議室ではなく現場……もとい、フェーブル城で起こった。




