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負け犬はワルツを上手く踊れない  作者: たつみ暁
番外編:お中元にもらうようなお菓子のアラカルトみたいな小話たち
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番外編2:「ありがとう」にまつわるエトセトラ

 戦いも終わりに差しかかった頃だった。

「うっひゃあ!」

 素っ頓狂な声と共に、


 あの女が降って来た。


 自分の真上から落ちて来たので、咄嗟に受け止める。それでも二人して、もんどりうって転ぶ羽目になった。

「あ~たたたたあ~……か~っ、失敗失敗!」

 彼女は礼も詫びも言わずに、人の上で身を起こして、てへへ、などと周囲の兵達に愛想笑いするものだから、少し頭に来て、言ってやる。

「いいから早く退け。重い」

 即座に黒い瞳がぎんと睨み返してきた。

「重いとはなによ! アタシは今年ダイエットに成功してねえ!」

「重いものを重いと言って何が悪い、レンコン女。そもそも大方、空中で体勢を崩したのだろう。調子に乗り過ぎだ、馬鹿者」

 彼女は何か言い返したそうに口をへの字にしていたが、ぐっと飲み込むと、こちらの腹に拳を一発叩き込むと、すっくと立ち上がり、すたすた行ってしまった。


 城に帰り、そんな諍いがあった事もすっかり忘れかけていた頃だった。

 自室の扉を開くと、机の上に何かが置かれているのに気がついた。

 近付いて見ると、


 銀色の、小箱。


 差出人の名も無い、包装されてもいないそれの蓋を、そっと開けると、


『さっきはごめん』


 箱の中から、声。

 驚いて見つめているうちに、箱は小さくもう一言を紡ぎ出す。


『     』


 それを言い終わると、箱は、役目を終えたとばかりに銀の光の粒子となって消えた。

 一体何だったのかと首を傾げ、ふと思い至る。


 銀の、小箱。


 形を変える、銀色の光。


「……あの女か」

 思わず声に出して呟いた。

 面と向かって謝れば良いものを、まったく素直ではない。こんな事に力を使うくらいなら、戦闘力を上げる研究でもしていれば良いだろうに。


 だが、しかし。


「意外としおらしい所もあるじゃないか、レンコン女」


 知らず知らずの内に、口元がほころんでいた。

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