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負け犬はワルツを上手く踊れない  作者: たつみ暁
番外編:お中元にもらうようなお菓子のアラカルトみたいな小話たち
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番外編1:幼なじみ

 女二人集えば、コイバナという花が咲く。


「蓮子様は小さい頃、好きな男の子はいらっしゃいましたか?」


 それは、リーティアの部屋でお茶をしていた時。

 ブシツケな質問に、アタシは飲んでいたハーブティーを盛大にぶほーっと吹いた。

 慌ててナプキンで口元をぬぐって、咳払いし。

「あのね、何を急に」

「いえ。少し気になりまして」

「大して面白くないよ? それでも聞きたい?」

「聞いてみたいです」

 そう答えて可愛らしく笑うものだから、語らない訳にはいかないじゃないか。

「ええっとね、あいつとは保育園から一緒だったな」

「ホイクエン?」

「ああ、親が仕事で忙しい子供を集めて、面倒見る所。で、家が近かったから、一日中一緒に遊んだりした訳よ」

「幼なじみ、と云うものですか?」

「うーん、そうなるのかな」

 正直、そんな美化された思い出でもないんだよね。

 覚えてるのは、


 近所の小川で遊んでて、アタシが足をすべらせ、あいつまで巻き込んで水の中に落っこちて、親にすごい叱られた事とか。


 ふざけて追いかけて、ズボンどころかパンツまで引きずりおろして、親にみっちり叱られた事とか。


 あいつをいじめた子供達にこってんぱんに仕返しして泣かせまくって、親にめちゃめちゃ叱られた事とか。


 ……叱られた記憶ばっかだな……。


 しかしそれを話すと、リーティアはそりゃあいい笑顔で。

「良い思い出なのですね」

「えーと、どの辺をどう解釈したらそういう感想出て来るかな」

「だって、蓮子様はとても楽しそうに話していらっしゃいますもの」

 言われて、アタシは否定しきれない。

 確かに、あいつと過ごした幼い日々は、決して嫌な思い出ではないのだ。

「とにかくね、こいつにはアタシがついていないとダメだと思った。好きとか嫌いとか言う前に、そばにいたいと思ったのかな」

「それで、その方は今?」

「わかんない」

 アタシの答えに、リーティアは不思議そうな表情を見せて首を傾げる。

「小学校にあがる頃にあいつの一家が引っ越しちゃって。行き先も聞かなかったから、それっきりだな」

「お別れしてしまったのですか。……お会いしたいと思った事は、ありませんか?」

 まるで自分の事のように寂しげに、リーティアは問うけれど。

「うーん、子供の頃の話だからねえ。その後他の男を好きにならなかった訳じゃないし、今更会っても、お互いわかんないと思うしね」

「そういう……ものですか」

「うん、そういうもの」

 はい、初恋物語はこれでおしまい、と手を叩き、アタシはにんまり笑って、リーティアにつめ寄る。

「それよりさ。そーゆー話を聞きたがったって事は、もちろんリーティアも話してくれるよね、コ・イ・バ・ナ」

「え、わ、わたくしですか……!?」

「そりゃそうだよ。アタシにだけ手持ちの札出させて、自分は温存なんてナシだよ」

 見る見るうちに、リーティアの顔が赤くなる。

 お、これはひとつ、面白い話が聞けそうだぞ。

 期待したら。

「失礼いたします」

 一人の若い兵士がやって来て、アタシ達の話は中断を余儀無くされた。

「姫様、戦巫女様。国王陛下がお呼びです。フェルナンド様もお部屋の外でお待ちしています。ご一緒にお越しください」

 ええい、折角これからいいとこだったのに。多少恨みがましく思いながら兵士を見、何となくリーティアを見ると。


「わ……わかりました。あ、ありがとう、シオン」


 あれ?

 あれあれあれ?

 リーティアってば、さっきより赤くなって、なんかどもってるぞ?

 これはもしや。

 再度、兵士に目をやる。

 シオンと呼ばれた、リーティアと同い年くらいなんじゃないかと見える、結構整った顔をしたその子は、アタシの視線に気づくと、こちらも頬を紅潮させて誤魔化すように会釈し、立ち去った。

 リーティアの部屋を出たところで、いつも通り不機嫌そうに腕を組んで待っていたフェルナンドに合流する。

 スタスタと前を歩いてゆく奴を追いかけ、肩を小突いて、リーティアに聞こえないように尋ねた。

「ねえ、さっきのシオンて子とリーティアって?」

 フェルナンドは相変わらず気難しい顔して振り向き、

「あの二人は乳兄妹だ」

 そっけなく言い切る。

「ちきょ?」

「乳母が同じと云う事だ。そんな事も知らないのか、レンコン女」

「うるさいな、乳母なんて習慣、アタシの国にはもう無いのよ」

 しかし。

 そうか、なるほど。

 幼なじみより強い絆だわな、そりゃ。

 初々しくて微笑ましい二人の姿を思い返し、ニコニコしていると、フェルナンドが一言。


「何を一人でニヤニヤしている。その辺りに生えている茸でも食べたのか」


 アタシは笑顔のまま、奴の脇腹をひじで思い切りどついてやるのだった。

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