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負け犬はワルツを上手く踊れない  作者: たつみ暁
第5話:物語はハッピーエンドと相場が決まってます
34/46

5-7

 アタシは元の世界に帰って来た。

 目が覚めたら、アパートの自室。


 の玄関先で、突っ伏していた。


 も少しマトモな帰り方させて欲しかったよ、アリスタリア……。

 どれだけ時間が経ったものかと、慌ててテレビをつけたら、フォルティアに召喚された次の朝だった。

 向こうでの戦いは、たった一晩の出来事で終わったのだ。

 だけど。

 あれが夢でなかったと証明するものが、ある。


 ひとつは、充電の切れた携帯。


 もうひとつは、


 彼。


 そしてクリスマスは過ぎて、十二月三十日。

 アタシの誕生日。


 年の瀬の超大手テーマパークは、どこもかしこも人があふれていた。

 アイツと行くつもりで取ったツーデーチケットは、無駄にならなかった。

 アトラクションひとつ乗るのに、二時間三時間待ちはザラだけど、苦にはならなかった。


 好きな奴と、一緒に来てるんだから。


 今、アタシの隣には、フェルナンドがいる。

 アタシがアリスタリアに願ったひとつめは、フェルナンドをこの世界に連れてくること。

 ふたつめは、フェルナンドがこっちの世界でちゃんと暮らせるように、戸籍関係と語学力をいじくっておくこと。

 夢がないとか言うな。大事なことだ。戸籍がハッキリしない、日本語読めないじゃ、ダメ。愛だけじゃ暮らしていけないのが現実だ。

 まあ、アタシの心配をよそに、フェルナンドの適応力は素晴らしく、この一週間で、高度成長期の三種の神器、テレビ冷蔵庫洗濯機にも慣れて、車に驚くことはなく、新聞を読んで、携帯もそれなりに使いこなした。

 アタシが次のバイト先を探して奔走しているうちに、さっさと面接に行って仕事決めてきたのには、心底びっくりした。

 そんだけ完璧だったので、カードのチャージ不足で自動改札にひっかかった時は、思い切り笑い飛ばしてやった。

 そしてみっつめ。これも大事なこと。

 フェルナンドの髪と、目の色だ。

 フォルティアではアリかもしれないけど、こっちの世界で青い髪は、ちょっとコワイ系のお兄さんお姉さん方がする色だからね。

 それを告げたら、アリスタリアはお安い御用だと受けてくれた。

 そんなワケで、今、フェルナンドの髪と目の色は逆転して、金髪碧眼。どこから見ても立派に、この世界の外国人だ。

 街に出て、並んで歩くと注目されるけど、まあいずれ慣れるだろう。


 夜八時を回って、テーマパークお決まりのパレードが始まった。

 軽やかな音楽が流れ、キャラクター達が電飾で彩られたパレードカーに乗って、踊りながら目の前を通り過ぎていく。

 フェルナンドはアタシの隣で、子供みたいにきらきら目を輝かせてそれに見入っている。


「さあ、みんなも踊ろうよ!」


 メインキャラクターが観衆に声をかけると、カップルや親子連れがわらわらと進み出て、キャラクター達の真似をして踊りだした。

 普通に考えたらすんごいおかしい光景なんだろうけど、ここでは恥ずかしく見えないから、不思議だよ。笑いながら見ていたら。

「俺達も踊ろう」

 フェルナンドがアタシの手を取った。

「ちょい待ち。あんたの得意なワルツとは違うんだよ」

「踊れるさ」

 白い歯を見せてフェルナンドは言うと、アタシの手を引き踊りの輪に加わった。

 最初は照れながら踊ってたけど、だんだん楽しくなってきて。

 フォルティアに来た最初の日つたなく踊った、ワルツを思い出しながら。

 アタシ達は、踊る、踊る。


「蓮子」


 大音量で曲が流れる中、フェルナンドの声は何故かハッキリとアタシの耳に届いた。


「二十九歳の誕生日、おめでとう」


 もう、負け犬なんて言わせない。


 夜の空に、華々しく色とりどりの花火があがった。

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