5-1
北の地へ。
デア・セドルのもとへ!
そう念じると、銀色の光がアタシの右手から放たれ、戦巫女と各国の王女を包む。
そして一瞬の後、アタシたち六人は一人も欠けること無く、フェーブル城ではない別の場所にいた。
冷たい風が吹き抜ける。昼間だったはずなのに、まるで夜中のように暗い空。草木一本無い、荒れ果てた大地。
ここが、
北の地。
「デア・セドルは?」
「間違い無く、あそこですわね」
マルチナが扇子で指し示す先を皆で見据える。
この荒野の中そびえ立つ、世界中の黒という黒を集めたような、天然の岩山をベースにした遺跡。
上空には、カラスのさらに大きくなった真っ黒い鳥が、ギャアギャア鳴きながら飛び回っている。
ここまで来たら、後に退けない。
「行こう!」
アタシのかけ声に他の五人も応じて、アタシ達は遺跡目指して走り出した。
「ケーッ!? お、お前たち、何故ここに!?」
遺跡の入口に着いたアタシ達を出迎えたのは、聞き覚えのあるキンキン声だった。
「アンタは……ハピ夫!」
「だからメルヘーヌだと言っているだろう、ケケーッ!」
確かに銃でブッ飛ばして消滅させたはずの、ハーピー小僧が、頭上を舞っていた。
「なんでアンタが生きてるのよっ」
「ケケーッ! オイラは偉大なるデア・セドル様のお力で蘇ったのだ! 戦巫女、貴様らに復讐する為にな!」
相変わらずのキンキン声でハピ夫はわめきたてる。
「それがなんだなんだ! フォルティアからここにたどり着くまでに、たっくさんの魔物達を配備したというのに、それを全部スッ飛ばして来たというのか!? オイラの労力をどうしてくれる!?」
「うっさい!お前の労力なんか知るか!」
いちいちRPGのお約束みたいな手順なんか、踏んでられるかっての。
また銃でもブッ放してやろうと右手に意識を集中させ始めたアタシを、黒い薙刀が遮った。
「蓮子さん。ここはわたしに任せて下さい」
美里ちゃんがずいと進み出る。
「あの魔物には借りがあります。今がそれを返す時でしょう。皆さんは、先に進んでください」
そう言うや否や、彼女はアタシたちの返事も待たず、ハピ夫めがけて地を蹴った。
「何を口開けてボーッとしてますの?」
たちまち繰り広げられる空中戦を見上げていると、マルチナが苛立ちを含んだ声をかけてくる。
「ここは我々ネーデブルグが引き受けるのです。お邪魔ですから、さっさとお行きなさいな」
相変わらずイヤミな言い方だ。でもこれが、彼女なりの気遣い方なんだろう。
「……わかった。二人とも、気をつけて」
「言われるまでもありませんわ」
マルチナと美里ちゃんを残し、アタシたちは遺跡の中へと駆け込んでゆく。
「ケーッ! 逃がすか!」
「行かせない!」
背後から、ハピ夫のわめき声と、美里ちゃんの決意に満ちた叫びが追いかけてきたが、次第に遠くなっていった。




