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痛い!
の声をあげることもできなかった。
アタシの身体は紙切れみたいに本棚の間を舞って、柱に叩きつけられた。つかんでいた本が手を離れ、ばさりと落ちる。
フォレストじゃない。
「誰、だ……!?」
アタシの問いかけに、フォレスト、いや、フォレストの姿をした何者かは、ゆっくりとこちらに歩いて来ながら、くつくつと嫌な笑いを洩らした。
「誰とはご挨拶だな。ようやくお会いできたというのに」
「まさか」
「そのまさかだよ、戦巫女」
やけに芝居がかった動作で両腕を広げて天を仰ぎ、そいつは言った。
「魔族の王デア・セドルとは、余の事だ」
自分の顔から、本当にさーっと音を立てて血の気がひいていくのがわかった。
「だってアンタは、北の地にいるはずじゃあ……!」
ラスボス自らこちらの本拠にお出ましなんて、ゲームでも小説の中でも聞いたこと無いわよ!
「そう、余は、憎き八代目フォルティアの戦巫女、刈谷千登勢によって、北の地に封じられていた。しかし、この身体の主であるフォルティア王子が、興味本位で封印を解いた。余は既に肉体を失って久しかったからな、この身体を借りたまでよ」
な、何てことしてくれたんだ、放蕩王子!
なじってブン殴ろうにも、フォレストの身体はデア・セドルに乗っ取られて、本人に当たることができない。
何よりデア・セドルが、アタシのそれ以上の反抗を許さなかった。
デア・セドルが片手を突き出した。それだけで、いつものように斧を呼び出そうとしていたアタシの手が、急にいうことを聞かなくなった。
ぐ、と息が詰まる。
アタシはアタシ自身の手で、自分の首を絞める形になっていた。
「ククク……まずはお前だ。その後で、ネーデブルグ、ステアの戦巫女を始末し、三国の王家をも滅ぼしてくれよう」
ちょっと。アタシ、こんな所で死んじゃうの?
戦巫女の任務を果たすって、決めたんだ。元の世界に帰るって、決めたんだ。
そして正月になったら実家に帰って。
きっとまた今回も父さんが餅ついて、母さんがおせちを作って待っててくれるはずだから、甥っ子にお年玉あげた後でいっぱい食べまくるんだ。
両親や兄貴、友達の顔が、浮かんでは消える。
誰か、助けて。
こんな、城のはずれで静まり返った図書館じゃ、誰も気づいてくれるはずは無いのに、アタシは願ってた。
誰か。
王様、王妃様。
リーティア。
――フェルナンド。
「さあ、そろそろ終いにしようか」
デア・セドルが、フォレストの顔に浮かべた笑みをさらに深くする。
終わりだ。
あっけないくらい、諦めかけた時。
「何!?」
デア・セドルの意識が、アタシからそれた。




