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どっすん。
「あいだーッ!!」
背中から落ちた衝撃に、乙女にあるまじき悲鳴をあげてしまった。
頭がぐわんぐわんして、しばらく動けない。ようやく痛みがひき、両手をついて上体を起こすと、そこは、コンクリでこそなかったが、随分と高価そうな大理石の床だった。
そりゃ、こんなとこに身体打ちつけたら痛いわ。
そんな事を考えていたら、ふと目の前に影がおちて、
「ああ、巫女様!」
やったら可愛らしい声が、頭上から降ってきた。
「わたくしの呼びかけに応えてくださったのですね、戦巫女様!」
は? イクサミコ?
顔を上げると、いつの間にかアタシの前に立っていた、声に違わず可愛らしい顔をした女の子は、びくっと身をすくませた。アタシが怪訝そうに下から見上げたので、かなりおっかなく見えてしまったらしい。
「ああ、ゴメンゴメン。驚かせるつもりは無かったんだけど」
言いかけてアタシは、異常事態に気がついた。
アタシはマンホールに落ちたはずだ。しかしそこは下水道なんかじゃなく、背中から落ちた大理石の床の祭壇がこしらえられ、綺麗なステンドグラスの窓から暖かな光が差し込んでいる。まるで、ドキュメンタリーや国営放送の世界遺産紹介番組なんかに出てきそうな、外国の神殿のような造りだった。
さらに驚いたのは、女の子の格好。
どこかのお姫様みたいに浮世離れした服を着込んでいる。
何より、髪と目の色。
青い髪に金色の瞳なんて。まるで、何かのゲームのキャラみたいな配色じゃない!
呆然としていたら、バン!と扉が開かれる音。
「成功したのか、リーティア!」
「お兄様」
女の子が振り返った方向につられて目をやる。
靴音高く入ってきたのは、これまたどこぞの騎士みたいな軍服に身を包んだ、背の高い男。
お兄様と女の子が呼んだが、まったく似ていない。束ねた長い青の髪と、切れ長の金色の目が、かろうじて血の繋がりを示すんじゃないかってくらい。でも、妹に負けず劣らず、ドキドキするくらいの美形だった。悔しいが、アタシより美人。
ところが、その美人兄さん。
アタシの前に立って、まじまじとこちらの顔を覗き込んだかと思うと、ふっと目を逸らし、もんのすごいガッカリした表情でボソっと洩らしやがった。
「何だ、戦巫女はこんなに年増なのか」
ずど―――ん!
そんな効果音が聞こえてきそうなくらい、アタシの頭は噴火した。
「な……っ、何よ年増って! アタシはまだ二十八よ!」
「二十八!?」
相手が金色の目を細める。
ふふん。アタシはバイト先でいつも、お客さん達の年齢当てゲームの引き合いに出されるくらい、歳より若く見えるって評判だったんだからね。不敵に笑うと。
「じゅうぶん年増だ」
ちゅど―――ん!!
「しょっ、初対面に年増だなんて言われたくないわよ! 大体あんただって、同じくらいの歳に見えるでしょうがっ!」
「俺は二十六だ!」
「大して変わらないじゃない!」
「お、おやめください、戦巫女様、お兄様も!」
そのままつかみかかるんじゃないかってくらいガンを飛ばしあっていたアタシ達の間に、リーティアと呼ばれた女の子が割って入る。
それでお互い、フン、と顔をそむけたところで、アタシは根本的な疑問を思い出した。
「そういえば、ここはどこなの? 戦巫女って何なのよ?」
するとリーティアは、途端に居住まい正して、アタシに向かってひざまづき、深々と頭を下げるのだった。




