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負け犬はワルツを上手く踊れない  作者: たつみ暁
第3話:凹んだりもするけれど、アタシは大体元気です
19/46

3-6

 燃え盛る家の中に飛び込んだアタシは、盾で炎をはじきながら、取り残されているはずの子供を探した。

 やがて、ごうごうと火の燃える音に混じって、泣き声が耳に届く。

 声の方向へ駆けて行くと、いた!

 泣きじゃくっている女の子。

「もう大丈夫、大丈夫だからね!」

 走り寄って盾で炎から守り、声をかけてやる。

 だがしかし。

 どおん! という大きな音に、来た道を振り返ったアタシは愕然とした。

 そこには、柱か何かだろう。大きな木材が倒れてきて、退路を塞いでしまっていた。

 しがみついてくるこの子を守りながら、このデカブツをブッ飛ばす余裕は、さすがに、無い。

 立ち尽くすばかりのアタシたちのもとへ、煙が流れて来た。目に入って痛いし、喉に入って苦しい。ゴホゴホせきこむ。

 盾で炎を防ぐことはできても、煙までは防げない。このままじゃ一酸化炭素中毒でオダブツになってしまう。

 かなりヤバイぞ。パニックになりかけた時だった。


「蓮子!」


 また空耳の幻を見たのかと思った。アイツがアタシの名前をまともに呼ぶなんて、ありえないと思ったから。

 しかし、目の前の燃える木材ブッた斬ってやってきたのは、間違いなく。


 フェルナンド!


 炎避けに水をかぶって来たんだろう、頭っからずぶ濡れの奴は、アタシの腕をつかんで怒鳴りつけた。

「まったく、いい歳をして後先考えずに行動するな、このレンコン女!」

 ……やっぱり名前を呼ばれたのは気のせいかもしれない。

 あんたこそ無茶なことしてるじゃない、と反論しようと口を開きかけて、フェルナンドに遮られる。

「文句があるなら後にしろ。とにかく逃げるぞ」

 そんなアタシたちの背後で、めきめきめき、っと、不吉な音がした。

 多分、振り向くより先に、また別の柱が倒れてくるだろう。

 フェルナンドがアタシを引き寄せた。アタシは女の子を腕の中に抱きしめる。


 今度こそ、本気でヤバイ。


 どうにかならないのか、アタシの力で!?


 強く念じた。

 すると、右手の盾が光に拡散する。

 炎に包まれた柱が倒れてくる光景と、光がアタシたちを包むのが、やけにゆっくり見えた。

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