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負け犬はワルツを上手く踊れない  作者: たつみ暁
第3話:凹んだりもするけれど、アタシは大体元気です
18/46

3-5

 魔物が出た現場にアタシたちが駆けつけた時、あたりは騒然としていた。

 敵は赤ん坊くらいの大きさしか無い、赤いドラゴン。しかしそれが五、六匹の団体さんでブンブン飛び回り、しかも見た目にたがわず炎なんか吹くもんだから、近くの家に火がついて、街の人たちは、火を消すべきか、逃げ出して身を守るべきか、混乱していたのだ。

「子供や老人、怪我人を先に避難させろ! 余力の有る者は火を消せ!」

 フェルナンドが怒鳴りながら剣を抜き、近くにいた一匹を一撃で斬り捨てる。

 突然の王子様の登場に、周りの人は、なんで!?という顔をしてたけど(そりゃそうだ)、すぐにフェルナンドの指示に従って動き出す。

 王子様のご威光、大したもんだわ。

 感心しながら、アタシは右手に意識を集中させる。

 光が集って、使い慣れた銀色の斧になる。

 それを握りしめる両手は、正直、まだ少し震えてるんだ。

 でも。


 大丈夫。


 自分に言い聞かせて、すうっと一回深呼吸して。

 にっと笑うと。


 飛んだ。


 眼下で観衆がどよっとざわめくのを聞きながら、


 一匹、二匹、三匹と。


 赤い粒子に還してゆく。


 フェルナンドがまた一匹倒して、あと一匹。

 最後の抵抗とばかりに、赤ドラゴンが火を吹いてくる。アタシはそれを空中でくるりと回転してかわし、その勢いで斧を打ち下ろした。


 よっし、全滅!


 しかし、魔物が消えても奴らが放った火は消えたワケじゃなかった。


「子供が! 子供がまだ中にいるんです!」


 地上に戻ったアタシの耳に届いたのは、母親の金切り声。

 二人がかりでおさえられた彼女が必死に手を伸ばす先には、炎に包まれた家。

「もう無理だ、この火の勢いじゃ…!」

 誰かが言い聞かせるけど、母親は子供の名前だろう名を叫び続ける。

 アタシは手の中の斧に目をやった。


 変幻自在のアタシの武器。


 それなら。


 守るものにも、変えられるんじゃない?


「おい?」

 感づいたらしい、フェルナンドが怪訝そうに声をかける。

「……ッ、待て!」

 奴が叫んだ時には、アタシは燃え盛る家の中へと走り出していた。

 銀色に光る、炎をはじく盾を掲げて。

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