3-1
晴れた空の下、響く喚声。
地上では、フェルナンド率いるフォルティアの兵士達が、オオカミとライオンをかけあわせたような魔物と戦っている。
それを眼下に見ながら、アタシは、
飛ぶ。
何も無い空中で、足場があるかのように、とん、とんと宙を蹴っては、飛び回る小悪魔じみた魔物を追いかけ、銀色の斧で斬り捨てる。
残り、十、九、八、七……。
魔物はキイキイ耳障りな声をあげながら黒い粒子と化し、次々と数を減らす。
フォルティアに召喚されて、早一ヶ月。
アタシはフォルティア兵と一緒に、国内を荒らす魔物退治に出るようになった。
「戦巫女自ら前線に出てくれれば、兵の士気も増す。受けてくれるか」
相変わらず偉そうに腕組みして、人にものを頼む態度ではないフェルナンドの売り言葉に買い言葉。
「いいよ、やってやろうじゃない」
と安請け合いしてしまったのだ。
六、五、四……。
実際、アタシが出て来て、兵士達はガゼンやる気になったらしい。アタシが同行した戦い以外にも、国内の魔物討伐の成功件数が上がっているそうだ。
アタシだけじゃなくて、フェルナンド――王子自らご出陣、てのも一役買っているように思うけど。
戦場に出るようになって、アタシは自分の力を試してみた。
まずは、常人離れした身体能力。
どうやらジャンプ力だけじゃなくて、走る速度や筋力もアップしているらしい。力を授けてくれた女神アリスタリア様様だわ。
まあチョーシに乗りすぎると、次の日もンのすごい筋肉痛に襲われるんだけど。次の日、でまだマシだと思う。三日後とかだったら、完璧にトシだものね。
そして、光から武器を作る力。
ネーデブルグの戦巫女、長谷川さんは、黒の薙刀一つに絞っているらしいが、アタシは折角変幻自在に変えられるんだからと、いろんな武器を出してみた。
剣、槍、弓、銃、フレイルに手裏剣。まあとにかくいろいろ使ってみた。
一度、ゴブリンの群れがあまりにもワラワラうるさいので、いっぺんにつぶしてやろうとでっかい投石器を出してみた事もあったが、ありゃだめだったわ。インパクトだけで性能悪すぎ、当たりゃしない。
まあそんな間抜けなこともやってみて、やっぱり斧がアタシの手に一番しっくりくるという結論に達したワケだ。
三、二、一……。
「これで終わりっ!」
最後の一匹をブッ飛ばして、空中でくるりと一回転。アタシの最近のキメポーズ。
そろそろ、地上での戦いでも終わる頃だろう。
得意げに降り立とうとした時。
「おいっ、しっかりしろ!」
誰かの切羽詰った声に、アタシは着地に失敗して、どべっと顔から地面に激突した。
その光景を見た時のショックを、多分、アタシは一生忘れない。
きっとこれから何度も、カラーで夢に見るだろう。
そんなことを考えながらしばし立ち尽くしてしまったのだ。
一人の兵士が仲間に抱きかかえられていた。
そのヨロイが、明らかに魔物の爪によるものだろう、大きく引き裂かれて、どくどく赤黒い液体があふれ出している。
血、だ。
「ちょっと……」
アタシはヨロヨロしながら駆け寄って、膝をつく。
「し、城に戻ろう! リーティアに頼めばどうにかなるでしょ!」
そばに突っ立っているだけのフェルナンドに、半ばイラっとして声を荒げたが、奴はゾッとするくらい冷静な顔のまま、ゆっくりと首を横に振った。
「無理だ、間に合わない。お前もわかっているだろう」
間に合わない?
それって……。
恐る恐るのばした手を、ぱしっとつかまれる。
傷ついた兵士がアタシの手を握ったのだと気づくのに、しばらく必要だった。
「おお、戦巫女様……。貴女に看取っていただけるとは、身に余る光……栄……」
妙に穏やかな表情でそうもらして、その兵士は二度と動かなくなった。
死ん……だ?
「魔族と戦う以上、死は常に隣りあわせ。我らはそれを覚悟しております。戦巫女様、どうか気に病まれませんよう」
兵士の誰かがそんなことを言って、死んだ兵士の手をアタシから引きはがす。だけどその言葉は、アタシの耳を右から左へ通り抜けた。
……死?
「……おい、どうした?」
フェルナンドが声をかけてくる。だけどそれに答えることができなかった。
手が震えて。
それがあっという間に全身に広がっていく。
死って。
こんな近くにあったものなの?




