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いつの間にそこにいたのか。
廊下から見渡せる庭に、ソイツは浮かんでいた。
「ケケッ。フォルティアに戦巫女が現れたって聞いたから、どんな奴かと思って来てみれば……ただのオバサンじゃないか」
「なっ、何よ、あんたまで年増扱いする気!? この……ッ」
好きなモノについてめっちゃアツく語るかぶりものした芸能人みたいな、カン高い声をまき散らすソイツは、上半身はほぼ人間の少年なのに、下半身が鳥の脚みたくなってて、腕は翼。
ゲームとかでよく見るコイツは確か、
ハーピー。
でもコイツはオスだから。
「こンの、ハピ夫!!」
ぐぉしゃーん!!
宙を舞っていたハピ夫が、頭から真下のバラの花壇に落っこちた。
「なっ、なんだハピ夫って恥ずかしい! オイラにはメルヘーヌって立派な名前があるんだぞ!」
「恥ずかしさ大して変わらないじゃない!」
「大違いだ、キキーッ!」
「大体ハピ夫なんて頭おめでたそうな名前、聞いたことないわっ」
「だから勝手にハピ夫と呼ぶな! ひとの話を聞け~ッ!」
アタシ達が口論を繰り広げている間に、騒ぎを聞きつけた城の兵士さん達が集まってきた。魔物が出たとあって、マルチナと長谷川さんも戻って来る。
「マルチナ様、ここはわたしにお任せを」
長谷川さんが背中の薙刀を抜いてすっと構えた。元々武道でもしていたのか、なかなか様になっている。
「ジャイアンツファンなどに、遅れをとりはしません」
チラリとアタシの方を睨んで、長谷川さんは、宙に舞い戻ってまだキイキイ言ってるハピ夫めがけて、
飛んだ。
彼女も戦巫女の力をモノにしている。いや、アタシ以上に慣れている。
何も無い空中で、まるで足場があるかのように、たん、たん、と踏み切っては方向転換し、ハピ夫を追って薙刀を振るう。
しかしハピ夫も負けちゃいない。するりするりとすばしっこく薙刀をかわすと、
「ケケーッ!」
長谷川さんに蹴りを叩き込んで、地面に落とした。
受け身をとったか、長谷川さんは大怪我こそしなかったが、花壇の中でうめいて、しばらく立ち上がれそうにない。
「さあ、次はお前だ、フォルティアの戦巫女!」
え。
「ちょっ、ちょい待ち! 心の準備が!」
と言っても敵が待ってくれるはずもなく、ハピ夫はアタシめがけて急降下。
ぶ、武器、何か武器!
焦って右手を突き出すが、前回のように光が集って……とはいかず、ぷすん、とシケた音だけが耳に届く。
やられる!? と思った瞬間、アタシとハピ夫の間に、背の高い影が割り込んだ。




