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負け犬はワルツを上手く踊れない  作者: たつみ暁
第2話:お約束のライバルに出会いました
10/46

2-5

「彼女はこちらの世界に来てまだ日が浅い。知らぬ事が多いのも当然の道理だ」


 ……え。


 エエエエエ!?


 あ、アタシ、フェルナンドに抱き寄せられる体勢になってるんですけど!?


「それに、誰が何と言おうと、我が国の唯一の戦巫女は彼女だ。貶めるような発言は控えていただきたい」

 心臓バクバクしてる。

 アタシはまるで、男と付き合ったことが無い乙女みたいに真っ赤になって、貶めるような発言しまくってるのはあんたじゃないかい! なーんてツッコミも口に乗せられなかった。

 マルチナが「そ、それは申し訳ありませんでしたわ」とたじろぐ。リーティアが、愉快そうににんまりしている。

「わ、わたくし、そろそろ失礼いたします。い、行きますわよ、美里殿!」

 マルチナはしどろもどろになりながら、自分の戦巫女に呼びかける。

 でも、美里と呼ばれた女の子は「ちょっと待ってください」と言って、アタシの前に立った。

「ご挨拶が遅れました。わたし、ネーデブルグの戦巫女に選ばれた、長谷川美里、高校一年生です。よろしくお願いします」

「あ、ご丁寧にどうも。矢田蓮子です」

 差し出された手を素直に握る。

「ところで矢田さんは、プロ野球はどちらのチームを応援してますか?」

 ……は?

 何をいきなりと思いながら、これまた素直に、

「ジャイアンツですが」

 と答えると、

「……そうですか……」

 急に長谷川さんの顔つきが険しくなって、握る手に、ぎゅぎゅぎゅぎゅーっと力がこめられた。


「わたしは、タイガースです。それでは」


 タイガース、を強調して手をほどき、彼女はマルチナと一緒に立ち去った。

 ……おいおい。

 応援チームが宿敵同士ってだけで、ライバル視されるワケ? 勘弁してよ。

 痛くなった右手をさすりながら、はあ、とタメイキひとつつくと。

「いつまで俺によりかかっているつもりだ」

 フェルナンドの呆れたような声で、アタシは奴に抱き寄せられたままでいることに気がついた。慌ててバッと離れる。

「あ、あんたが勝手にひっつかせたんでしょうがっ!」

「ああでもしないと、マルチナに言われっぱなしだったろうが。大体お前もお前だ。俺にはギャンギャン言うくせに、黙りこくって。いつものように言い返してやれば良かったんだ」

「あ、アタシにだって、言える時と言えない時ってモンがねぇ!」

「もう、おやめくださいな、お二人とも」

 また、アタシとフェルナンドの間に、リーティアが止めに入る。でも何故か楽しそうな笑顔で。

 ん? もしかして、楽しそう、じゃなくて、ホントにアタシとフェルナンドの喧嘩を、楽しんでる?


「ケケケッ、楽しそうに余裕こいてるねェ」


 そうそう、楽しそうに余裕こいて……。

 と、思考がつられかけたとこで、アタシはもちろんフェルナンドとリーティアも。

 いやらしい声の降って来た方向を、ばっと仰ぎ見た。

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