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2人の友人

 4人はどのぐらいの時間、そのままの態勢で硬直していたのだろう。唯一平静な様子でいたのは美衣だけだった。そして、その沈黙を最初に破ったのもまた美衣だ。

「あのー、皆さんはどんな間柄なんですか?」

 黒髪ツインテールの少女はこの2人を知らない。バカップル2人は、箸を置いて美衣に2人の友人の紹介をし始めた。その時真司と鈴蘭の手がかなり手が震えていたのは、あえて言わないでおこう。

「えーっと……俺たちの同級生の透子と祐介だ……学校では仲良くさせてもらってるよ……」

「そ、そうそう。よくこの4人で集まって話してるよねー……」

 なるほど、このバカップルが今までになく気まずそうにしているのはそういう理由か。美衣は内心呆れながらも理解する。この2人は、仲のいい友人に食べさせ合いしているところを目撃されて、恋人同士であることを言い逃れできなくなっているのだ。

 所謂八方塞がりというやつだね。2人しかいないけど。

「いやーそうかそうか、真司とすずちゃんはやっぱりカップルだったんだなあ。学校ではあんなに否定してたのに」

 ニヤニヤと人の悪い笑みを浮かべている祐介という男の人は、バカップル2人よりは少し高めの身長に、短く髪を切って立てている、爽やかな、かなりモテそうな容姿をしていた。なんとなく、内面は常にネタを求める関西人の感じがする。

「……やっぱり私の予想通り。うふふ」

 こっちの透子という人は、姉とは違って美人系。鈴蘭と同じく黒い長い髪をしているが、前髪は綺麗に切り揃えれられ、顔立ちの差からかとても妖艶な雰囲気を纏っている。そしてクールときた。文化祭とかでは、貞子とかやるとしっくりきそうだ。

「し、真司い……どうしよう……」

「どうしようって言われても……」

 隣のバカップルはまだ慌てふためいていた。

「いやいやお姉ちゃんにお兄ちゃん、もう隠しようがないでしょ」

 人前であーんなんてやるからこんなことになるのよ、と付け加えるのも忘れない。一言で言ってしまえば自業自得である。

「真司」

「っ!なんだ祐介!」

「なんでそんな慌ててんだよ。透子も俺も、もうわかってたぞ?」

「え……ええ……」

 何が、とは言うまでもあるまい。聞いていても仕方なさそうなので、美衣は太陽のぽかぽかとした温かさの下、横になって静かに目を閉じたのであった。



 1番出くわしたくなかったヤツと遭遇してしまった。よりによってあーんしてるとことか見られてた。恥ずかしいし気まずすぎる。

 俺は隣で突然昼寝を始めた美衣を見て、その気楽さをわけてほしいと思った。いや、こんな大衆の中食べさせ合ったりするから悪いってのはわかってるのだが。

「あんだけ学校でも通学路でも一緒にいたら、付き合ってるって思うだろ普通」

「で、でも!私たち恋人同士になったの金曜だもん!」

 いや、この際それはどうでもいいと思うぞ鈴蘭。というか、もう認めちゃったぞ今の発言。鈴蘭のさりげない自爆に、俺の動揺が更に激しくなるのがわかった。

「……透子はなんでわかってたんだ……?」 

 俺は祐介の追撃を逃れるために、透子に水を向けた。

「私?私はほら、あなたたちのことずっと見てたから。恋人同士になるって誰よりも早く見破ってたわ」

「怖いよ!!そんな幽霊みたいに静かな声で言われたらストーカーかと思うわ!!」

「失礼ね、私はこういう話し方なの。それと私はストーカーじゃないわ。尾行しただけよ」

「同じだよ!……ってしてたのかよストーキング!!」

 透子恐ろしい子。透子は高校に入ってから同じ学校になった彼女の趣味は、人間観察という名の情報収集。その情報を使って恋愛相談に乗ったり、人生相談を引き受けているとかいう話を以前教えてくれていた。プライバシーは可能な限り守るらしいが、この娘に自分のこと細かい個人情報が握られていると思うだけで背筋がぞっとする。我が校の生徒はみな、この妖しいオーラを放つ美女を恐れながら生きているのだ。

 友人であるというのは、それほど恐れる必要がなくて楽である。が、今回はかなり手痛い情報を握られた。

「……なーんて思ってるかもしれないけど、もうあなたたちが付き合ってるって思ってる人は山ほどいるわ。諦めなさい」

「人の心読むな!エスパーなのか!?ますますお前のことわからなくなるわ!」

 そうか、この女には一生かかっても勝てないな。俺は、透子という女の怖さを心に改めて刻み込んでおいた。

「そうだよ……俺と鈴蘭は付き合ってますっ。つっても金曜に告白されたんだけど……」

 俺は観念して、恋人同士であることを打ち明かす。ここで話は終わると思っていたのだが、2人が気になったのはどうやらそこではないようだ。

 2人の友人は目を見開いて、ほぼ同時に驚きの声を上げた。

「ええ!?お前すずちゃんに告白させたのか!?」

「真司くん、それはない。本当に男の子なの?」

 酷い言われようだった。俺だって好きって自覚してたら俺から告白してたよ……。

 そんな思いを胸中に秘めていることは、ここにいる誰にも秘密である。

「でもでも、真司とってもいい人だもん!今まで彼女いなかったから、恋愛経験がほとんどないだけだから私気にしてないよっ」

「お前もなかなかさりげなく俺のデリケートな心を傷つけていくんだな。まあ可愛いからいいけど」

「あははっ、真司も可愛いよっ」

 これ見よがしに俺たちがいちゃつき出すと、呆れた友人2人が突っ込んできた。

「あーあー、アツアツですねえお2人さん。羨ましい限りだよほんと」

「本当にそう思うわ。さっさとリア充爆発しろ」

 あれ、透子からものすごい冷たいセリフが聞こえた気が。ああ、あれか、クールなだけに冷たい罵声ってか。やかましいよ。

「それで、今日は妹を引き連れてデートなのか?」

 祐介はまだニヤニヤしていた。こいつの家庭事情はよく知らないが、毎回妹の話となると目の色を変えて興味を示してくる。もし妹がいるとしたら、こんなシスコン兄貴は扱いが大変に違いない。俺はいるかどうかも定かではない祐介の妹に、少し同情する。

「ああ、そうだよ。この子は美衣って言って、鈴蘭の妹だ」

 そう答えて祐介の顔を見ると、祐介はさっきよりもニヤニヤして美衣に目を向けていた。その今にも罪を犯しそうな目をした男に、俺はいつでも掴みかかれるよう気を抜かない。

「へえ。お兄ちゃんなんて呼ばせてるのか。ずるいな」

 呼ばせてるとか言うな。気付いたらこう呼ばれてたんだよ。まるで俺が妹萌えの変態みたいじゃないか。その役はお前1人で十分だ。気付くと俺は、心の中で祐介に連続ツッコミを入れていた。現実でやればたんこぶでもできそうだった。さすがにしないけど。

「確かにずるい。鈴蘭はともかく、真司にはもったいない妹ね。」

「あげないよー?美衣は私の妹なんだからっ」

 俺たちはいつの間にやら、いつもの学校での和やかな雰囲気を取り戻していた。その輪に、すやすやと天使のような可愛い寝顔で、俺の膝に頭を乗せて眠る美衣を入れて。

「あっ、美衣ったら真司の膝枕を……!」

「どったのすずちゃん、ジェラシー?」

「ち、違うもん!ジェラシーなんかじゃないっ」

「むすっとした顔も可愛い。こんな顔学校で見せてくれないから新たな発見ね。真司ずるい」

「透子まで祐介みたいなこと言うなよ……」

 俺は羽織っていたパーカーを美衣にかけてやり、そのまま4人で、少女が目を覚ますまで談笑していたのであった。


 

 美衣が目を覚ましたのは、それから30分後のことだった。

「……ふわぁ……あ、お兄ちゃんおはよ……」

 実に呑気である。この30分の間にどれだけこの娘に起きててほしかった瞬間があったことか。

「起きたか?ほれ、レモンティー」

「あ、ありがとお兄ちゃん」

 昨夜美衣に、好きな飲み物を聞いていた俺に抜かりはない。昔読んだ漫画に、女の子の好物や誕生日を覚えてる人はモテる、みたいなことを言っているシーンがあったが、あれはきっと嘘だな。俺はふと、以前思っていた記憶をよみがえらせる。今は鈴蘭がいるからいいけどな。

「美衣ちゃんってほんとかわいいなー……何故に真司ばかり……」

 ぶつぶつと独り言を漏らしているシスコンは放っておこう。美衣に変態シスコン野郎だと教えないだけマシだと思うんだな。

 ふと透子を見ると、そんな祐介の横顔をじっと見つめていた。どうしたんだろう。

「真司!美衣も起きたしそろそろ行かない?あと1時間半もすれば閉館になっちゃうよ!」

 鈴蘭が突然、もうすぐ唇が触れ合うのではないかというくらい至近距離で、俺に持ちかけた。顔に熱が溜まっていくのがわかる。恋人同士になったからといって、こういうのに慣れることはなさそうだ。むしろ以前よりも胸の鼓動は大きくて、すぐ下の美衣に俺の心音を聞かれそうで余計ドキドキする。

「そう……だな。早めに行かないとなくなるかもしれないしな」

 動揺で震えた声で、俺は何とか鈴蘭に言葉を返す。

 鈴蘭が催促している理由は、きっとお土産コーナーに行きたいからだ。ゆっくり売り場を見たいというのも理由の1つにあるに違いない。以前のデパートの件といい、女の子の買い物が長いのは重々承知しているつもりだ。

「もうちょっとお兄ちゃんに膝枕してほしかったなー」

「別に家でもできるでしょっ。それにあんまり真司を独り占めしないのっ」

「お姉ちゃんが独り占めしたいだけのくせにー」

 諌める鈴蘭の本心を、鋭い美衣は小悪魔のような表情をしながらすぐに見破ってしまう。見ていて微笑ましいというか、こういう姉妹仲良しな光景ははずっと見ていたい気分になる。

 祐介と透子も、どうやら俺と同じことを思っているようだ。

「はっはっは、ほんと仲いいねえすずちゃん姉妹」

「学校での鈴蘭は大人しいから、今日のはすごく新鮮だったわね。いいこと知れた」

 透子はさっきとほぼ同じことを言っていた。しかし……こやつに恋人同士であることを真っ先に知られたのはやっぱりまずかったな。俺はしばらく透子の今後の動向に注意深くいようと、密かに心に決めたのだった。



 2人と別れ、閉館までお土産コーナーにいた俺たちは、水族館を後にして、帰路についていた。ここから1時間、電車と徒歩で帰宅する。俺たちは水族館の目の前にある駅から、ホームに着いた電車に乗った。

 俺は案の定というべきか、両手に姉妹の買ったお土産を持っている。

 袋にはダイオウグソクムシのぬいぐるみとか、オオグチボヤのストラップだとか、いろんな水族館限定グッズが入っている。どれも異形の姿をした、海の底にいる生物のグッズばかりだ。中でもバットフィッシュのブロマイドは意味が分からない。こんな誰が見ても不細工と言うであろう顔をした生物のどこに魅力を感じたのか、俺にはさっぱりだった。

「楽しかったね!予想外の出来事はあったけど……それでもすごいいい1日だったよ~」

「ほんとにね。3人で出かけたなんて夢みたい。いろいろ忘れて楽しめたよ。いい案出してくれてありがとね、お兄ちゃん」

「ああ。ほんと、楽しかったな」

 また行こうな、と付け加える。鈴蘭が楽しんでくれたのはもちろんだが、美衣と一緒に遊びに行けたというのは大きなことだった。これからは美衣とも仲良くやっていけると思うだけで、俺の心の中は温かさでいっぱいだ。

「それよりも、お兄ちゃんはまずお姉ちゃんと2人でデートに行くことが先だと思うんだけどな~?」

「はは、痛いところ突かれたな。もちろんそれも今考えてるんだけど、行くなら旅行っぽく泊まりで行きたいなーって思ってるんだよ」

「あれ?日帰りにしようって言ってなかった?」

 鈴蘭が当然の疑問を口にする。俺も今日行くまではそのつもりだったのだが。

「いや、よく考えたら、鈴蘭とは昔から遊びにはよく行ってるだろ?だからせっかくなら、まだやったことのない泊まりでどこか行きたいなって思ってるんだ。その方が思い出もいっぱい作れるし……」

 実際のところ、俺は彼女などいたことがなかったので、デートと言ってもいいものが思い浮かばないというのが本音なのだが。しかしそれを言ってしまえば、美衣に3日は「情けない」と弄られ続けるに違いない。俺は出かけた本音を、誰にも気付かれないように飲み込んだ。

「そかそか。楽しんでくるといいよ。あ、でも既成事実までは作っちゃだめだよ?お兄ちゃんっ」

 美衣はいたずらっ子のごとき笑みを浮かべながら、中学生らしからぬことを言い出した。

 そんな知識どこで得たというのだろう。今時の中学生って恐ろしい。しっかり注意しておかなければ。

「そういうこと、中学生の女の子が言うのはよろしくないぞー?」

「あははっ、冗談だよっ」

 語尾にハートマークでも付きそうな口調で、元気よく返してきた。そんな美衣を見ると、改めて可愛いな、などと思ってしまう。鈴蘭に似てとても可愛いのもあるが、この、俺が困った顔をしているのを見て楽しんでいる姿を見るのがいいというか。

 ……俺はドMか。絶対違うからな。

「……既成事実って何のこと?」

 美衣とは対照的に、目に見えるかのようにクエスチョンマークを頭上に浮かべている鈴蘭。鈴蘭は鈴蘭で、別の意味で不安になってしまう。ちゃんと守ってやらねば。それと、少しはそういうこと教えた方が……イヤイヤ、何考えてるんだ俺は。

 脳裏によぎった煩悩を振り払うように頭を振る俺に、鈴蘭は腕を腕に絡めてきた。だ……だから柔らかい膨らみが……。

「ふふっ、何かえっちなこと考えてる顔してるよ真司っ」

「え、えええっ!?」

「……お兄ちゃん、ほんとにするつもりだったんだ……」

 美衣はドン引きしていた。

「い、いや違う!ちょっと違わないけど違うから!」

 なんとか美衣を宥められたのは、40分ほどの電車での道のりを終えた頃である。その様子を見ていた鈴蘭は、終始横からくすくすと笑っていた。

 いくら慣れているとはいえ、女の子2人には勝てないな。鈴蘭は俺にぴったりくっつき、美衣は俺を鈴蘭と挟むように歩いている。他愛もない話をしながら、俺たちは家に辿り着いた。

 そしてまだ、先ほど美衣がこぼした一言が、美衣にとっては重い意味を込めた言葉であったことを、俺はまだ知らないのであった。

 どうも、つぼっこりーです。

 姪っ子が生まれました。3日前のことです。

 私が帰ってくると、姉が破水したということで入院したと母から教えられました。さすがは3人の子を産み育てた母。落ち着きも大したものです。

 下の姉を伴って行くということで、夜勤明けのその姉を待っていたのですが、これが来ない。待てど暮らせど来ない。そうこうしていると上の姉から産まれたとの連絡がきてしまいます。

 何事かとメールしてみると、「洗濯物たたんでたら意識失ってた(原文ママ)」。母はさすがにおかんむり。下姉は今向かってるとのんびり。私呆然。

 そんなフリーダムな3人は、無事赤子を目にすることができたのでした。

 赤子は意外と軽くて重い。何言ってんだこいつと思ったかもしれませんが、まさにこの表現がぴったりくる抱き心地です。そうして私は、終始姪っ子の可愛さに魅了されていたのでしたとさ。

 軽くて重いといえば、次回はちょっと重めの話。

 「光があれば影がある」。そんなお話になる予定です。ご期待ください。

 予告は以上!後悔はしていない。

 それでは今回はこの辺で。みなさんの暮らしが楽しく明るいものでありますように。また次回、読んでいただければ幸いです。

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