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楽しい休日の過ごし方

 ちゅんちゅんと鳥が鳴いている。

 2回目だな……と、俺は眠い目を擦りながら思い出す。といっても、つい昨日のことなのだが。

 昨朝は鈴蘭が抱きついていたんだった。昨晩はさすがに妹も帰ってきたので、姉の威厳を保ちたいみたいなことを言っていた鈴蘭は自室で1人で寝ているはずだ。昨日の二の舞を踏むことはあるまい。

 と、思っていたのだが……。

 上半身を起こした俺の手元にある、手首に当たる感触は、どう考えても毛布や布団のものではない。

 柔らかく、そしてほんのり温かい……。

 美衣が眠っていた。

「は、はいいいいいいいい!?」

 思わず大きな声を出してしまう。昨日は鈴蘭に近所迷惑になるだの何だの言っていたが、今度は自分に言わなければならなくなってしまった。俺よ、近所迷惑になるから騒ぐのはやめなさい。……じゃなくて。

「み、美衣?美衣??」

 美衣の体を揺らして起こそうとするが、なかなか起きない。1分ほど揺らし続けたところで、ようやく少女は目を覚ました。

「あはは、お兄ちゃんだ……」

 いや、そりゃ私の布団なんですから私がいるに決まってるでしょう。というか、展開が昨日と同じじゃないか。

「うむ、聞きたいことは山ほどあるが……なぜ美衣がここにいる!」

「数年ぶりのお兄ちゃんの温もりを感じたかったんれすぅ~」

 そんなことを言って、寝起きで少し呂律が回っていない美衣は、そのまま俺の体に抱きついてきた。

「お兄ちゃんあったかいね~」

「ちょちょちょちょおっと待ちなさい美衣ちゃん!?こんなとこ鈴蘭に見られたら……」

「……真司……何してるの……?」

 ぞくり、と俺の背筋が凍りつく。ブリキのおもちゃを動かしたときのような音を立てそうな動きで、さっきまでなかった声の方向へ首を向ける。そこには案の定、俺の絶叫を聞いて飛んできたのであろう鈴蘭が、腕を組んで不敵な笑みを浮かべている。

「ち、違うんだ……これは……なんというか……」

「朝から彼女の妹を布団に連れ込んで……そのまま寝てたんだ……」

「誤解だ!朝起きたらなぜか美衣が俺の布団で寝てたんだ!」

「じゃあどうしてそんな仲良く抱きついてるのかなあ~?」

 不敵な笑みが、いつの間にやら黒い笑みへと変化している。やばい、これは久々に本気で鈴蘭を怒らせたかもしれない。

「あ、お兄ちゃんに……お姉ちゃん…………お姉ちゃん!?」

 恐ろしい笑みを前にして文字通り飛び起きた美衣の顔は、この世のものとは思えない恐怖で真っ青だった。

「美衣~?これはどういうことなのかなあ~?お姉ちゃんに説明してくれる?」

「あ……あの……これは……」

 言いよどむ美衣に、俺は小声で逃げられないよう釘を刺しておく。

「美衣、頼むぞ、ここのセリフ選択は下手したら俺の命まで奪われかねないんだからな」

「お兄ちゃん酷いよ!私も助けてよお!?」

「知るか!勝手に俺の布団に潜り込んだ方が悪いだろこれは!その理由を早く鈴蘭に……」

「何こそこそ話してるの2人ともっ!!」

 漫画でよく母が子を叱る時に、雷がぴしゃっ、と落ちる描写があるが、まさにそんな感じだった。一言で表すなら、鬼のように怖い。

「ひいいいいお兄ちゃん助けてええ」

「俺に言わないでくれえええ」

「じゃあ2人とも、話の続きはリビングで、ね?」

「「ひいいいいいいいい!」」

 俺と美衣は引きずられてリビングへと連れていかれ、こってりと鈴蘭に絞られたのだった。ちなみに美衣が布団に潜り込んだ理由は、「修羅場を生み出してみたかったから」だそうだ。おかげさまで地獄のような修羅場を経験できましたよ。もう2度と経験したくはない。



 朝から元気な3人は、朝食をとった後、ソファーでテレビでやっている特撮番組をBGM代わりにのんびりしていた。頭に果物が落ちてくるシーンは、シュールというほかないだろう。

 番組が終わって女児向けのアニメが始まる。大きなお友だち、主に男もよく観ている、このアニメの隠れた人気は半端ではなさそうである。

 Aパートが終わりCMになったところで、俺は昨日密かに考えていた、今日のプランを提案してみることにした。

「なあお2人さん、こないだできたばっかりの水族館に、行ってみたいとは思わんかい?」

 沈黙がややあって、最初に口を開いたのは鈴蘭だった。それも太陽に負けないくらい顔を輝かせて。さっきまでの鬼のような迫力が嘘のようだ。

「行きたい!水族館なんて小学生の時以来だし!」

 それに同調して、美衣も同意の意志を示す。

「お姉ちゃんとお兄ちゃんがいちゃいちゃしながら館内を回ってるところを見てみたいでーっす」

「ちょ、美衣!?」

「美衣ったら!」

 声を揃えて焦るバカップルを前に、美衣はやれやれと溜息を吐く。ただでさえ毎日いつでも一緒にいるくせに恋人同士になってしまうなど、フェライト磁石をネオジム磁石に変えるようなものだ。さらに離れなくなるに違いない。そんな風に考えている美衣の真意など、もちろん俺と鈴蘭は知る由もない。

 そうして俺たち3人は、水族館へ行くこととなった。この3人で休日を過ごす。当たり前にあることのようで、つい昨日までは考えられなかったことだ。俺たちは楽しみに胸を躍らせながら、各々準備を始めた。

 文字通り躍っていた鈴蘭の胸を恨めしそうに見ている美衣の姿があったことは、俺の胸の中にそっとしまっておくことにしよう。



 かくして水族館へやってきた。日曜ということもあって相当人が多いものだと思っていたが、実際はそうでもなかったようだ。というのも、その水族館はかなり敷地面積が広く、このあたりの人口からすると休日でも混まないかららしい。果たして、それでちゃんと利益は得られるのだろうか。

 一緒に来た2人は、それはそれは可愛い服装で決めてきている。その可愛さが幾何のものかといえば、顔立ちやスタイルも相まって、すれ違う人が2度見するくらいだ。これを両手に花と言わずして何というのだろう。

 そんな注目度の中、鈴蘭は俺の腕に腕を絡ませて、ぴったり体を密着させている。恋人同士だから別に不思議なことではないはずなのだが、周りの男性たちから明らかに殺意を浴びせられているのがわかる。かなり怖い。

「お姉ちゃんったら、妹がいてもお構いなしなんだね~」

 美衣が半分呆れた顔で俺と姉を見ている。確かに俺もそう思うが、気分が悪いわけではもちろんない。むしろ周りに自慢したいくらいである。

「だって真司恋人なんだし~、普通じゃない?むしろ自慢したいくらい!」

「俺と考えてること同じかよ」

「あーはいはい、バカップルさんは仲良しですねー」

 思わず突っ込んだら、冷たい返事が飛んできた。美衣の気持ちよくわかるんだけどな。ついこないだまで友人と組んでバカップルには冷徹に接してたし。まさかそのすぐ後にこうなるとは思ってなかったが。

「そんなこと言うなよー。今日は鈴蘭とだけじゃなくて美衣とも一緒に楽しみたいんだからさ」

「あはは!お兄ちゃん優しいね。まあでも、お兄ちゃんとお姉ちゃんは延々とそうしながら回るんでしょ?」

「うぐ……まあそのつもりだが……でもほら、美衣が楽しいって言ってくれなきゃ意味ないしさ」

「そうそう、だからちゃんと楽しもうねっ」

 鈴蘭は明るく俺に同調してくれた。そう、今日は美衣もいるのだ。もう前にこの3人で出かけたのがいつだったかも思い出せないが、だからこそこの3人で思い出を作りたいと思って考えていたのだ。2人とも、それはわかってくれているに違いない。

「ふふっ、わかった。じゃあまずあっち行こ!」

「あ、人にぶつからないよう気をつけろよー」

 まるで小学生のように駆け出していく美衣を見て、俺はすごく嬉しかった。ちゃんとお兄ちゃんと慕ってくれていることを再確認できたのも1つだが、2人の姉妹の中にいる俺が、家族として迎え入れられていることに安心感を覚えたからだ。これをまた崩すようなことはあってはいけないな、と漠然と思う。だって、こんなかけがえのない楽しい家族なのだ。これからもずっとこんな時間が続けばいい。そうなるように努力も絶やすわけにはいかないな。主に、間の悪さという面で。

 俺たちはそうして、いろんな海の生き物を見て回った。熱帯魚、銀色に輝く小魚の群れ、悪臭を放つセイウチ。そして優雅に泳ぐスナメリに、そいつと仲良く戯れるウミガメ。美衣はそれを見て、まるでお兄ちゃんとお姉ちゃんだね、なんて言ってくる。恥ずかしいからやめてくれ、と俺は顔の熱を自覚しながらそう返していた。

 水族館にいる生物の中で、一番2人が食いついたのがダイオウグソクムシというヤツだ。暗いブースの中にいるそのダンゴムシのような姿かたちをした生物は、体長は大体30cmくらい。もう何年も餌を食っていないらしい。まるでサングラスをかけたいかついギャングのような顔をしているというのに、なぜこの2人は目をキラキラさせているのだろう。俺から言わせればかなりおかしな生命体なんだが……もう30分はここにいるにも関わらずこいつ、微動だにしてないし……本当に生きているのだろうか。

 フラッシュなしなら写真撮影OKということで、鈴蘭と美衣はスマホで写真を撮りまくっている。俺が数えているだけでもう50回以上はカメラ音が聞こえている。すっかりこの謎生物のファンになってしまったようだ。俺はちょっと理解できないが、2人が楽しそうなのでよしとしよう。あとでこいつのグッズを抱えることになるんだろうな、とほぼ間違いない予想をする俺なのであった。



 しばらく散策して、お昼にしようということになった。広場のような場所に着き、そこで鈴蘭は持ってきた大きな二重のお弁当箱を開け……って

「なんでお弁当持ってんの!?」

「え?だってお出かけだし、お弁当が普通でしょ?」

「いやそうじゃなくて!俺が行こうって言ってから2時間ほどで家出たよね!?なんでそんな短時間でこんな大きなお弁当を……」

 遮って、鈴蘭が人差し指を俺の唇に当てた。

「真司、あんまり細かいことは気にしちゃいけないんだよ?」

 鈴蘭は笑顔でそう続ける。怖い。何がって、笑顔なのに禍々しい何かが目に宿っている。どうやら、絶対に触れてはならないことらしい。

「は……はい」

「お兄ちゃんって結婚したら絶対お姉ちゃんの尻に敷かれるタイプだよねえ」

 美衣が笑いながらこちらを眺めている。うん、その予想は間違いないな。

 気を取り直して、という様子で弁当箱が開かれる。そこにはおなじみ卵焼きや、ウインナー、スパゲティなどたくさんのおかずが、もう1つの箱にはサンドイッチが、隙間なく丁寧に詰められていた。

「おお、すげえ!美味そう!」

「ほんと!やっぱお姉ちゃん料理の天才かも!」

「それは食べてから言ってよー」

「あは、じゃあいただきます!」

「俺も。いただきまーす」

「いただきますっ」

 みんなが揃って箸を進め始めた。味は言うまでもない。絶品である。一体どうやってこんな弁当作ったんだろうな、などと思いながら、ちらっと鈴蘭の顔を見る。そこにはさっきと同じ、禍々しさを含んだ顔があった。俺は静かに弁当に向き直った。

「んー!おいしいねお兄ちゃん!」

「ああ、ほんとにな!」

 鈴蘭はそんな俺たちの顔を満足そうに眺め、お弁当を少しずつ食べていたのだった。


 

 少しして鈴蘭が、俺の隣に座ったまま、持っている箸に挟まれた卵焼きを示してこう言ってきた。

「ねえ真司?あーん」

 え、あーん……ですと!?

「お、お姉ちゃん、こんな人がいっぱいいるのによくやるね……」

「えっ?恋人ってこういうことするでしょ?」

「いやそうだけど……いっぱい人いるのによく恥ずかしがらずできるなーって」

 広くて混んでいないとはいえ、人数は相当のものだ。美衣の意見はごもっともである。

「ふふっ、いいのいいのっ。はい真司、あーん」

「あ、あーん」

「わわっ、ほんとにやっちゃったよ!」

 美味い……恋人同士はこんな技を繰り出すのか……。こんなに美味く感じるなんて初めて知った!

「じゃあ今度は俺がやってやるよ。あーん」

「あーん」

「おおっ、すっげえお熱いよあの2人!」

「恥ずかしくないのかしら……」

 うん?なんか聞き覚えのある声が。

 そう思って振り向くとそこには……。

 クラスメイト、そして俺と鈴蘭共通の友人の、川田祐介かわたゆうすけと、能仲透子のなかとうこが、こちらを文字通り目を丸くして見ていたのであった。

 どうも、毎度おなじみつぼっこりーです。

 今週体育祭というイベントがあったんですよ。それがもう退屈で退屈で。

 というのも、私は出る競技が2種目だったんですが、その2種目が両方午後の部だったんですよ。つまり午前中は何もやることがない。やることがあっても応援だけですね。

 暇でした。午前中は黒髪ロングの女の子がポニテにしてたのを「かぁいいなぁ」などと思いながら見てるか、タオルを頭に乗せて座りながら寝てた記憶しかありません。おかげ様で次の日首が筋肉痛になりました。体育祭恐るべし。

 物語の方も大変でした。水族館ネタにしようというのも決まったのが金曜の夜でしたからね。何でもできる、というのはなかなか難しいものだと知りました。先週と言ってること違うとかゆーな。

 そんなこんなでクラスメイト登場です。このクラスメイトがどんなヤツかは次回を読んでいただくとして、なかなかキャラが増えてくると楽しいです。この先ワイワイしてくるかと思うとたまりませんね。

 次回はもう大体話は決まっているので、サクサクいけそうです。

 それでは今回はこの辺で。みなさんの暮らしが楽しく明るいものでありますように。また次回、読んでいただければ幸いです。

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