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倉庫にて

 小走りで職員室に向かった俺は、担任から件の「用」の内容を聞いていた。

「ここの隣の教室にある机を……ほら、あそこの倉庫に入れるのを手伝ってほしいんだ」

 担任は50メートルほど離れた薄暗い場所にある建物を指して言った。

「あの倉庫に……ですか」

「ああ、もちろん先生も手伝うから心配するな。一人でこの数やれなんて言わないさ」

 見たところざっと50台くらいはあるだろうか。大量の机が無造作に置かれている。

 俺の心配はむしろ別のところにあるのだが……。

「この倉庫、昔から変なものが隠されてたりお化けが出るって噂立ってるんですけどね……」

 そう、この倉庫は異様な特徴のせいで、校内では倉庫の近くで亡くなった人のお化けが出るだの死体が隠されてるだのとまことしやかに囁かれている。なぜかこの倉庫は皆が授業を受ける校舎からやたらと離れているし、それだけではなく倉庫の存在を隠すかのように枝垂桜が枝を垂らしていたり、壁が今にも崩れるのではないかというくらいボロボロだったりするからだ。一言で言って怖い。

「そんなわけないだろう。そんなことが本当にあるなら、この学校は授業なんてできてないよ」

 そりゃそうだ。俺は心の中でそんな噂を流し始めた人間にツッコミを入れる。

「さ、やるぞー。早くしないと日が暮れて、お化けが出るかもしれないしな!」

 あんたさっき自分で言ったこと忘れたのか。今度は担任に心の中でツッコんでおいた。

 

 時刻は16時5分。真司が担任と作業を始めようとしていた頃。教室では鈴蘭が1人暇を持て余していた。

「んー……どれぐらい時間かかるか先生に聞いときゃよかったなあ~」

 片付けられて机と椅子が丁寧に並べられた教室を見渡しながら、誰に届くわけでもない独り言を漏らす。

 この後デパート行って、いろいろ真司を連れまわすつもりだし……早く戻ってきてくんないかな~。そんなことを考えながら、鈴蘭は、校内の2か月のスケジュールやらオープンキャンパスの日程やらが書かれた紙が貼られている掲示板を眺めている。

 「あ、そういえば真司をどうやってあそこに連れて行こうかな~。多分言ったらついてきてくれないだろうしな~……。んん~……」

 1人思案に暮れながら、ただただ唸るのであった。


 もう20分くらいは経っただろうか。ようやく10台を倉庫に入れることができた。

「……なかなかしんどいですね……これ……」

「そうだな……台車か何かあればよかったんだが……」

 俺は既に少し息を切らせていた。やはり、50メートルを往復しながら1つ1つ机を運ぶのはなかなか骨が折れる。

「でも休んでるとそれだけ時間もなくなる。さっさと終わらせてそれから休むことにしよう」

「そうですね。頑張りますか」

 2時間はかかりそうだけど。心の中でそう付け加えたその時、誰かがこちらにやってきた。

 あれは……うちのクラスの副担任だ。高校の副担任なんているのかどうかわからないくらい目立たないから一瞬誰かと思ってしまう。

「斎藤先生、ここにいましたか」

「おおこれはこれは副担任先生じゃないですか。どうしました?」

 副担任先生と呼ぶ担任。みんな最初は陰でなんでだろうと言っていたが、今では慣れたせいかまったく触れることはなくなった。そういえばなんで副担任先生って呼ぶんだろうな……。

「いやあ、学年主任から斎藤先生の手伝いをしてこいって言われましてね、探してたんですよ。まったく……どこでやってるかくらい聞いておけばよかった」

 聞かなかったのかよ。

「それはありがたい。よかったな東雲。早く終わりそうだ!」

 なぜか俺よりも嬉しそうな担任である。

「そうですね。じゃあパパッとやっちゃいましょうよ。この後俺用事ありますし」

「そうかそうか。じゃあパパッとやっちゃおうか!」

 なんで繰り返した、俺のセリフを。

 そんなこんなで、副担任という心強いかはわからない助っ人を迎え、3人で残りの机を運ぶこととなった。

 

 1台目の机を運び入れた副担任は叫んでいた。

「ゥオアァ!?」

 どう聞いてもそんな風にしか聞こえないような声を上げて。

「どうしたんですか!?」

 俺が声を駆け寄ると、副担任は腰を抜かした様子で倉庫の中を指さしていた。

「い、今、そこに!そこに!!」

「ま……まさか……」

 え、マジで?マジでお化け出た?

 そんな一抹の不安をよそに、担任は落ち着いた面持ちで静かに語り始めた。

「そういえばこの学校、昔から出るんだよなあ……」

 ちょっと!さっきあなたそんなの出たら学校できてないって言ってましたよね!!そんな言葉が出かけたが、ぐっと堪える。

「出るって……何がですか」

「んー?でっかい蜘蛛」

「く……雲?」

「蜘蛛だ。生きてる方な」

「ああ……蜘蛛……蜘蛛ね。って蜘蛛かよ!!!」

 思わず大きな声を上げる。

 お化けじゃないのか……ただの蜘蛛かよ……。安心した反面、どこか拍子抜けしてしまう。

「ただ大きさが30センチくらいあるんだなあ」

「でけえ!?なんでそんなのいるんですか!業者呼んでくださいよ!」 

「ちょ……2人とも……業者呼ぶ前に助けて……」

「「……あっ」」

 2人して副担任のことを忘れていた。すみません副担任先生……。

 ちなみに蜘蛛は虫好きの生物の先生の救援によって追い返された。どうも殺すのは嫌なんだそうだ。

 その生物の先生曰く、業者を呼んでおくとのことだ。

 え、殺すのは嫌なんじゃないんですか……自分の手じゃなかったらいいんですか……。

 

 ハプニングはあったが、仕切り直しだ。作業を続けることにした。

 50メートルもあるので、リレーは大して意味がない。1人が1台の机を、職員室隣の教室から倉庫まで運ぶ。数えると残り36台だったので、1人12台で教室は綺麗になる算段だ。

 1つ1つは軽いのだがこの距離だ。なかなか疲れる。

 机の腹に両手を入れて、抱えるようにして運んでいく。20メートルほど行くと腕が限界だと音をあげるようだった。いったん地面に置いて、10秒ほどの小休憩をとる。

 倉庫に着けば今度は机の木の部分、物を置くところを重ねるようにして2台ずつ積んでいく。下側はまだいいが、上側の時は持ち上げなければならないのでこれまた疲れる。

 すると担任が作業中、突然こんなことを言い出した。

「東雲って頼んだらできることはなんでも手伝ってくれるよな。そういう優しさがあるなら、結構モテるんじゃないか?」

「ないですないです。俺今まで彼女いたことないですし」

「そうなのか。俺はてっきり田中と付き合ってるものかと」

「なっ!違いますよ!あいつはただの幼馴染ってやつですしなによりあいつにそんな気ないでしょ」

「てことはお前は気があるのか……?んん?」

「そ、そんなの先生に言ってどうするんですか!」

 高校生かあんたは。この担任はいつもこんな感じなのだ。しばしばこの人は俺たちと同じ脳内年齢だなと思う。

 そんな会話をしながら厳しい作業を何度も何度も繰り返し、大量の机のあった教室は、ようやく何もない広々とした空間へと変わったのだった。

 ちなみに副担任はといえば、5台運んだあたりで教室に座り込んでしまっていた。5台分自分たちの仕事が減ったと思えばいいのだろうが、7台分の仕事を増やされたとも思ってしまう。人間というのは、どうも本当に疲れた時に心を広く持つことは極めて難しい生き物のようだ。

「……あっ!」 

 妙な発見をした俺は、職員室の時計を見て思わず声を上げる。

 時計の長い針は、机を運ぶうちに1周と半分を回っていた。

「先生、お疲れ様でした!んじゃ俺はこれで!」

「おっ、お疲れ。ありがとな。また明日~。」

 軽く会釈をして、俺は職員室を出る。

 担任に明日は土曜で授業ないですよと言おうかと思ったが、とりあえず今は急がなければならない。

 俺は廊下を全力でダッシュして、鈴蘭の待つ教室に向かったのだった。


「くっそおおお時間って過ぎるの早すぎいいい」

 そんな言葉を口にしながら、廊下を走る。

 廊下は走るな?今は1時間半以上待たせてる人がいるんだから許してくれ、今回だけにするから。

 そうして俺は息も絶え絶えに教室に辿り着いた。そこには……。

 誰の人影もなかった。

 もちろん鈴蘭のことであるが、鞄だけが教室に残されている。

「トイレかな……」

 そう思い教室を出ようとした時、目の前に四角い物体が置かれていた。

 段ボールである。大きさは俺の腰の少し下くらい。というかデカい。こんなものいつの間に……。

「ばあっ!!」

「!?」

 中から綺麗な声とともに、長く黒い髪の美少女が現れた。

 鈴蘭だった。

「お前……何やってんの……」

「えーつまんなーい、真司反応薄すぎだよ~」

「ご、ごめん……じゃなくてなんで段ボールとか被ってたの!?!?」

「なんか折り畳まれた段ボール残ってたし、こないだやったゲームの真似したくなっちゃって。てへ☆」

 ああ……あのゲームか……確かに段ボールはかなり使えたけど!

「てへ☆じゃないよ心臓飛び出るかと思ったわ!」

「全然そんな反応じゃなかったじゃん」

「心の中では飛び跳ねてました!つか突然段ボールから人が飛び出してきてびっくりしないヤツがいるか!」

「確かに……それはそうだね……」

 静かな声で腕を組み頷く鈴蘭を見て、今後しばらくは段ボールには注意して過ごそうと決める俺であった。

「……遅くなってごめんな。じゃあ行こうか、すずらんの買い物」

「そだね、あのデパート23時までやってるけど、できるだけ早いほうがいいよね」

「あそこそんな遅くまでやってたのか……」

 そんな他愛もない会話をしながら、並んで学校を出る。

 その時俺はさらに大変なことに巻き込まれるということを、まだ知らないのであった。

 どうも、つぼっこりーです。ここまで読んでいただいてありがとうございます。

 楽しいですね。小説を書くというのは。話考えるのは大変ですが。

 そして最後まで読んでくださる人がいるのは嬉しい限りです。

 次回、真司と鈴蘭とのデート(?)話になります。

 考えているだけでにやにやしてしまいますね。わかりますよその気持ち。私もあとがきを書きながらにやにやしてしまいます。真司そこ変われ。

 そんなこんなで、次話もまた日曜更新でございます。あまりハードルは上げすぎないでくださいね。くぐっていきますので。

 それでは今回はこの辺で。みなさんの暮らしが、明るく楽しいものでありますように。

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