きっと愛とは永遠を誓うこと
昨夜のパーティの疲れがどっと来ている昼休み。午前中の授業が終わって、その安らぎをいつもの4人で過ごしていた。机を合わせて昼飯に舌鼓を打つその光景は、周りの人間全員が見慣れたものである。たったひとつ、俺と鈴蘭が恋人同士である、という事実を知ってしまった、すぐ近くで俺達4人――正確には俺と鈴蘭だが――を見ているクラスの女子たちを除けば、なのだが。
彼女らはまだしっかりとその口を封じているらしい。鈴蘭の不思議な人望あってこそなのだろうとは思うのだが、普通1人ぐらいは口を滑らせるものではないだろうかと思う。異様なまでにガードの固いその情報を隠す砦は、その存在すら他の誰にも気付かれていないのだ。俺はその団結力に、感謝と、軽い恐怖心を抱かずにはいられない。
そんなことを思っていると、俺は目線の先の廊下を誰かが何度も往復しているのを発見した。するとその人影はおもむろに扉を開き、その姿を現した。冴えない男だった。髪は真っ直ぐにすれば肩まであるのではないかというほど長く、まるで実験に失敗した科学者のようにもじゃもじゃと絡みあっている。
その男は、教室に入るなり一帯を見渡し、ある標的を捉えてそちらへ向かう。不満げなその表情は、どういうわけか俺に向けられていた。そして向かった先は……。
鈴蘭のもとだった。
その男はいきなり鈴蘭の腕を掴むなり、こっちへ来いと言わんばかりに腕を引き上げる。突然掴まれた鈴蘭は青ざめた顔をしていた。当然黙っていられない俺がそいつを止めようとすると、見ていた女子たちが俺よりも早くその男を包囲する。それはまるで、何があっても俺と鈴蘭の間に入る邪魔者は排除するという、騎士のような雰囲気を漂わせていた。
「ちょっとあなた。女の子に向かって随分手荒なことするじゃない?」
「鈴蘭ちゃんはあんたなんか眼中にも入れてないわよ」
連続で謎の男へ攻撃を加える女騎士たち。しかし、賊は動じることもしなかった。それどころか、何事もないかのように余裕に満ちた表情をしている。
そしてしばし騎士たちを見下ろした賊は、俺たちの動きを止めて余りある反撃をもって女騎士たち、いや、俺たちを蹴散らした。
「俺が、こいつの彼氏だったとしても、か?」
「……なんですって……?」
勢いを途方もない威力の爆弾をもって遮られた女子たちの顔は驚愕に満ちていた。いや、親友2人もそんな顔をしていたのかもしれない。鈴蘭の恋人は俺のはずだ。一体どういうことなのだ。俺はわけのわからないまま、混乱する意識をその爆風に奪われていった。
俺が目を覚ましたのは、真っ白が広がる場所だった。とうとう俺にお迎えが来たのかと思ったが、あの世にしては随分と騒がしい。俺は鉛でも乗っているのかというほど重い体に反抗して、まだ状況が理解できていない頭を叩き起こし、喧騒の方向へと目を向けた。そこには、祐介と透子が女子たちとともに、しょんぼりとした鈴蘭に問い詰めている光景が見受けられた。一体何の話をしているのかと、俺は意識が戻る前の記憶を手繰り寄せる。
「そうだ……さっきの変なヤツが言ってた……あれ……」
さっきまで寝ていた俺の声に反応して、3人と保健室の先生がこちらへ駆け寄ってきた。俺は薄い意識でも、いつもなら真っ先に駆けてくる鈴蘭が、他の3人より明らかに遅かったのを見逃さなかった。保健室の先生は俺に向かって、はいか頷くかで答えられる質問をいくつかしたのち、祐介たちに何か言って立ち去った。先生が退出して扉を閉めたのとほぼ同時に、祐介と透子は俺に同時に話しかけてきた。
「おい真司大丈夫か?!ちゃんと意識戻ってるか!?」
「真司くん痛いところとかない?大丈夫?」
こんなに焦る2人を見たのは初めてかもしれないと、こんな状況ながら思わず微笑がこぼれてしまう。それを見て親友たちは、ふうっと息を吐いて安堵の笑みを浮かべた。
しかし1人だけ、まったく笑顔を見せないで思いつめた表情をしている。俺の大好きなその娘の笑顔は、一瞬にしてあの男に奪い去られたような気がした。
……あの……男……?
「……そうだ……あいつ……あいつはどうしたんだ!」
突然表情を鬼にした俺を前に、祐介と透子は束の間たじろいでいた。だが、俺はそれを気にしている余裕なんてなかった。あのわけのわからないことを言っていたヤツが、俺はただ憎くて仕方がなかった。
「待って真司くん。無理しちゃダメ。まずは話を整理してからでもいいんじゃない?」
落ち着きを取り戻した透子によって、俺ははっと我に返る。俺はそこから、祐介と透子からあったことの説明を受けた。
簡単にして言うならばこうだ。突然やってきたそいつが言うには、鈴蘭を返さないと痛い目に遭う、と言ったらしい。そこで鈴蘭はひとまずそいつと話をしてくると言って着いて行き、その間に2人ともう1人とで俺をここまで運んだらしい。たまたま通りがかった斎藤先生がいなかったら大変だったとも言っていた。今度、あの人には礼を言っておかなければ。
だがわけのわからないことには変わりなかった。1つ目に鈴蘭がそいつに大人しく着いて行ったこと、またそこで何があったのかということ、そして、鈴蘭を「返してもらう」という意味。
俺はそのどれにも見当がつかなかった。まだ暗い様子でいる鈴蘭に無理に聞き出すのも忍びなかった。
「とりあえず真司、お前のカバン取ってくるよ。続きはそれからにしよう」
「え……俺早退するつもりないんだけど……」
「もう放課後よ。あなたの欠席のことはちゃんと私から先生に伝えてあるから心配しないで」
2時間も気を失ってたのかと、俺は自分の心の弱さを感じてしまう。俺はとりあえず祐介にカバンを取って来てもらうことにして、その間透子と話をすることにした。鈴蘭は、いつの間にか部屋の隅っこのほうへ移動し、肩を落としている。
透子によると、あの男が来てからずっとその様子らしい。何か耳打ちをされていたが聞き取れず、透子も何がどうなっているかわからないらしかった。鈴蘭に限って他の子となんてあるわけないと思いたいとも言っていたが、俺は当然それに同意だ。第一俺の知ってる鈴蘭はそんな器用なヤツじゃない。だからこその確信でもあった。だが話を聞くほどあの男と鈴蘭との関係が浅くないことを感じずにいられなくて、俺はもうどうしたらいいのかわからない。
そう透子に告げた直後、祐介が戻ってきた。手には俺のカバンと自身のカバンを持っていた。俺は祐介に礼を言ってカバンを受け取り、帰宅することに決めた。話しかけづらい様子でいる鈴蘭にも帰ろうと言ったが、いつもの明るさのないその肯定の返事に、ただただ俺はやり場のない不快感を覚えていた。
結局その後家に帰っても同じ調子で、美衣に姉がどうしたのか聞かれても言葉を濁すしかない。俺はその晩美衣に申し訳なさを感じながら、鈴蘭のことばかり考えて、眠れない夜を過ごしたのであった。
俺は次の日たまらずある人に助けを求めることにした。斎藤先生だ。彼はいつものように快くそれを受けてくれた。そして昼休み、俺はいつもの救世主と向かい合っていた。
「……なるほどね。お前もなかなか苦労人だなあ。というか、お前やっと鈴蘭ちゃん……田中と付き合い始めたのか」
今は教師という仕事中ということもあって、呼び方に気をつけていた先生だった。俺は無理に言い直さなくてもいいと告げる。そんな一面のある彼は、やはり昔のように俺の味方になってくれた。
「まあ結論から言えば、浮気……っていうのかな、それはないだろ」
「ほんとですか?」
俺は信じていたそれを彼から聞けただけでも救われた心地がした。他の誰よりも状況推察や心を読むことに長けているこの人の言うことは、どんな哲学者でも敵わないだろう。それは信頼という面もあるが、なにより俺が鈴蘭を信じたいという気持ちをちゃんと理解してそう言ってくれているからでもある。当然嘘偽りもないだろう。
しかし、話はそれだけでは終わらなかった。
「でもな、その男はかなり危ないかもな。多分お前ほどじゃないにしろ、他のヤツよりは鈴蘭ちゃんのこと知ってるだろう。それをダシに鈴蘭ちゃんに言い寄ってくるはずだよ。ちゃんと守ってやれ。いざとなったら俺が教えたの使っていいからな」
「ストーカー……ですかね」
彼が俺に教えてくれたもの……というのはここではいいだろう。だが、ヤツが危険であるということはわかった。あいつが鈴蘭を狙っているということもわかった。あとはどうやって鈴蘭を元通りにするか……。
「そりゃお前、ちゃんとあの娘の味方でいてあげればそれでいいさ」
「さらっと心読まないでくださいよ」
俺は思わず突っ込んでしまう。すまんすまんと詫びている彼を見ていると、なんだか深く考えていたことも答えがあっさり見つかったような気がした。常に鈴蘭の味方でいる。その一言に、いろんな意味が込められていることも理解した。
ありがとうございましたと礼を言って立ち去ろうとすると、斎藤先生は俺を呼び止めてこう言った。
「あ、そうそう、多分その男ただのストーカーじゃないよ。まあ、大体予想はついたけど言わないぞ俺は」
ただのストーカーじゃない……ならばヤツは何なんだ。俺は斎藤先生から出されたようなその新たなクイズに、放課後まで悩まされたのであった。
そして昼の授業もあっという間に終わり、皆は帰宅の準備を始めていた。
その狭い教室にできたちょっとした人混みを、見慣れた後ろ姿がかき分けて行ってしまうのを見つけた。今しかない。俺はその確信と、今さっきわかった斎藤先生からのクイズの答えを胸に抱き、鈴蘭に気付かれないよう後をつけることにした。透子と祐介はそれを理解していたようで、何も言わず先に帰ってしまったが、俺はその2人の気遣いに静かに感謝する。これは俺と鈴蘭の問題だ。他の誰かに邪魔されていいものではない。
そうして辿り着いたのは、屋上だった。俺たち4人とクラスの女子以外入る方法を知らないのにと思いながら、ドア越しに耳を澄ませて2人の会話を盗聴させていただいた。
「……から……う……たとは……!」
「あ……のど……いいって……んだ」
小さくてよく聞き取れないが、断片で聞いている限りは俺の予想で間違いなさそうだ。妙に安心したその気持ちから、思わず俺は笑みがこぼれる。あの人の言っていたことは今回も正しかったな、と思いながら、意を決し、空間を隔てる壁を打ち破る。
勢いよく開いたドアは、まるで俺の中の心の扉を開けたかのように重く、清々しいものだった。
「お、お前っ!」
「真司っ……!?」
2人はとても驚いた表情をしていた。だがそれがいい。それが今から始まる最高の勝負の合図だと思うと、俺は心地いい気分にならずにはいられなかった。そして、俺の完全勝利がそれの結果だ。
「やあやあお2人さん。何2人で話しているのかと思えば、随分俺も人気者になったじゃないの!」
「何……?」
男は本当にわけがわからないようだった。そりゃだって、今の今まで話聞いてたんだしー!
「まあとりあえず鈴蘭!こっちおいで」
「真司……どうしたの?なんか怖いよ……?」
「大丈夫そいつよりは怖くないよ。モジャ毛でしつこい男なんかよりよっぽどな」
最高の煽りが決まった!何もかも予定通りだ。俺のもとへとやってきた鈴蘭を抱きしめて、ごめんな、と一言だけ耳元で呟いた。それは一体誰に向けての謝罪なのか、後になってもわからない。
「何がそいつよりだ!くっそっ!」
そう言ったかと思えば名も知らぬストーカーもどきは俺に殴り掛かってきた。俺のすぐ目の前に鈴蘭がいるっていうのにこいつは、鈴蘭も巻き添えにするつもりか。
俺は素早く鈴蘭の前に出て、殴り掛かってきた腕を掴み、反対方向へ思い切り投げる。いつかあの人に教わった、いつでも使える投げ技だ。柔道を教えてもらったつもりが、いつの間にかシステマのような技になっていたのに2人で気付いて笑ったのは終わった後だったか。そんな回想が脳裏によぎるほど、この投げは思い出とともに体に染みついている。
「俺に体術で勝とうなんて無駄だぞ元カレさん。お前みたいに脇ガバガバのパンチ、いくらでも投げ返してやるよっ」
「くそっ!」
その後何度投げて心の中で快哉を叫んだかわからない。こいつは鈴蘭が前いたとか言ってた所謂元カレ。おおむね鈴蘭に彼氏ができたとかどこかから聞きつけたか目撃したかでずっとつけてたんだろう。そりゃあこんだけしつこいヤツなら嫌気も差すだろうなと、俺は鈴蘭に同情してしまう。
相手が起き上がる気力も失ったところで、俺は構えの姿勢をやめた。向こうは随分息を切らしていたが、一体なぜこの程度の準備運動でヘトヘトになるのだろう。わけがわからない。
「もう諦めなよ。鈴蘭は俺の大事な幼馴染で彼女なの。お前に邪魔なんてできるわけなないからよ」
「くっそっ!」
俺が言葉で引導を渡してやると、結局最後まで名乗ることをしなかった鈴蘭元カレは走って逃げてしまった。他愛もない、と嘲笑の眼差しで相手を見ていると、鈴蘭が俺の袖を引っ張ってきた。
「ん?どした鈴蘭」
「いや……真司って意外とドSだなあって思って」
「へ?」
まったく意味がわからなかった。
しかし何にせよ、ケガもなく無事に鈴蘭は取り戻せた……よな?
「おい鈴蘭よ」
「何?真司?」
「脱ぎたまえ」
俺は鈴蘭の手によって、綺麗な曲線を描いてはり倒された。鈴蘭にケガないか確かめようとしようと思っただけなのに、俺は説明不足のせいでとんでもなく鈴蘭を怒らせてしまったようだった。
「バカ!ほんとバカ!やっぱ真司ドMだよ!ばーか!」
「ぐふっ、ぐほっ、ふべらっ!?」
俺は鈴蘭の踏みつけ攻撃をもって、俺は10分間お仕置きされたのであった。
その後2人で教室に帰ると、教室中のみんながこちらを凝視していた。何事かと思ってふと窓際に目を向けると、そこにはピースをした祐介と、祐介に倣って同じことをしている透子がいた。
「あれ、お前ら帰ったんじゃなかったの?」
すると祐介はあっけらかんとした様子で俺に告げた。
「いや、2人が仲直りしてらぶらぶしてんのを見届けてから帰ろうって、透子ちゃんが」
「おいっ!おま……」
言いかけたその瞬間、俺は教室中を振り返った。今祐介……思い切りやらかしたよな?らぶらぶしてるとかいうワードは明らかに仕掛け爆弾だよな!!
そう思った直後、思わぬ声が俺を凍りつかせた。
「おおー真司ー。仲直りはできたかー?」
「っ!先生じゃないっすかこんなところで何を……」
「いやーお前ら恋人同士らしくしてるとこ見損ねたからな。仲直りしたなら見ておこうかと思って」
しんじとすずらんに65535のダメージ!
しんじとすずらんはしんでしまった!
そうして俺と鈴蘭の関係は、担任であり恩人である斎藤によって、たった一晩で学校中に知れ渡ることとなったのであった。
「「た……ただいまー……」」
学校を出るまで続いた有名人並の質問攻めから生存し、無事に鈴蘭の家へとたどり着いた俺と鈴蘭は、帰宅早々手を洗って2人仲良くソファへと倒れこんだ。
「大丈夫!?」と心配そうに駆け寄ってくる美衣が天使に見えた。こんな天使なら連れていかれても……。そう思った直後、俺の顔が鈴蘭の豊満な山で覆われた。
「うええええん真司怖かったよぉおおお!!」
一体何に対して怖かったと言っているのかわからなくなっていたが、おそらくあのストーカーまがいの元カレの件だろう。俺は何とか柔らかいものから脱出し、「ぴえええええ」というのが相応しい泣き方をしている鈴蘭の頭を撫でてやった。
「お兄ちゃん、お姉ちゃん元気になったみたいだね。仲直りできたの?」
美衣もきっとわかっているであろうことを問うてきた。きっと俺の口から聞きたかったのだろうと、想像に難くないことを思い浮かべる。
「ああ。ばっちり!もうこれでしばらく鈴蘭には泣いてほしくないよ……」
とほほ……と言わんばかりの俺に美衣は笑って頭を撫でてくる。よしよしと言いながらというのはこれまたご褒美だろうか。
するとやっと泣き止んだ鈴蘭が、目に涙を溜めたままで俺に上目づかいをしてくる。マズい、これはおねだりだ。どんなのでも聞いてしまう魔性のおねだりのターンだ!!
「真司……昨日から約束してたこと覚えてる……?」
……昨日?はて……何かあったかな。
「一緒にお風呂入れてなかったから、今日こそ一緒にはいろ?今からはいろ?」
いやいやいや、それを今言うか。第一鈴蘭と風呂なんて、約束したけど恥ずかしくてできるわけないだろう。
「わかった入ろう」
バッチリキメ顔で言ってしまった俺を見て、美衣はやれやれと肩をすくめるのであった。
「真司と一緒に入るの……何回目かな……」
「……小学生くらいの頃に1回入ったきりじゃないかな」
そんな会話をしながら湯船に浸かる俺と鈴蘭。体は鈴蘭の要望で洗いっこをし、お姫さま抱っこで湯船に入れてあげた……って、あれ、デジャヴ……?
しかし、こんな恥ずかしい風呂も初めてである。美衣と入った(半ば無理やり入らされた)時も恥ずかしかったが、今日のはそれをはるかに上回る。もう顔が赤くなるのを止められない。彼女と風呂に入るって、こんなに恥ずかしい……というか、恥ずかしいを超えた恥ずかしさを感じるんだなと、俺はぬるめのお湯の中で思わされる。
美衣の時のように密着しているわけではない。ギリギリ肌が触れない距離だが、それでも俺の脳を沸騰させるだけの火になって余りある。触れると爆発するかもしれない。イライラ棒か何かか。
ふと俯いていた顔を上げると、俺をじっとを見つめている鈴蘭を発見する。その顔はまるで二次元の女の子のように……いや、もはやそれすら上回るかわいさで、俺は思わず目を逸らしてしまう。しかし鈴蘭は俺の顔を両手で挟んでそれをよしとしない。
「今日はほんとにありがとね。昨日は迷惑かけちゃってごめんなさい。かっこよかったよ、真司」
そう言って、鈴蘭は唇同士を重ね合わせてきた……と、思いきや、あろうことか一糸まとわぬ姿だというのに思い切り抱きついてきた。ああ、もうダメだ、もう鈴蘭に勝てない。美衣の時以上に恥ずかしさが脳を溶かす。焼き切れた思考回路のせいか、俺は思わず鈴蘭を抱きしめ返してしまう。ぴったりくっついたその肌と肌は、まるで俺と鈴蘭の心までもがぴったりくっついたようだった。
そして鈴蘭は、その体勢のまま、こう付け加えた。
「真司、これからも迷惑かけるかもしれないけど、末永くよろしくお願いしますっ」
彼女などいたことがない時からは考えられなかったその最高級の愛の言葉に、俺は何も言わず、鈴蘭にキスをするのであった。
最終回です!!!!!
はい、どうも、つぼっこりーです。突然ですが、今回をもってこの作品は完結という形を取ることになります。まだまだ温めていた話はたくさんありましたが、自分に大事なことはいろんな作品を書くことだと、天から言葉が降りてきたのです。もちろんそんな予感がしたということなのですが。今までこの初心者の作品をお読みいただきありがとうございました。
内容ですが、最後の真司のキスは、真司なりの最大限の表現でした。それがつまり何を意味するかは、きっとその後見せたであろう鈴蘭の表情が物語っていることでしょう。そして真司と鈴蘭は、この後もにぎやかな日常を送り、真司に至っては経験したこともないカップルのあれこれを知ることとなるはずです。しかし、それはきっとどんなことであっても、彼らの愛と絆を深めることとなるのです。彼らのいきつくゴールは一体、どんな幸福なのでしょうか。
さて次回の連載作ですが、それは現在試行錯誤中です。この作品を作るにあたって身に付けた駄文スキルを総動員させてがんばっております。それまではもしかすると短編小説などを投稿するかもしれません。皆さまのほんのオケラほどの大きさの応援でも、私は大喜びしますので、このミノムシめに応援いただけると幸いです。
それでは、またいずれお会いしましょう。