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美衣の誕生日(上)

 俺は家中を駆け回っていた。

 美衣のサプライズパーティのために、リビングを思い切り華やかにしようということで、装飾の材料をかき集めていたのである。リビングでは鈴蘭が折り紙を切り貼りして、装飾を作っている真っ最中だ。鈴蘭の腕が千手観音に見えるほど、その手さばきは早かった。

 俺はその作業に追いつくように家中の折り紙やら糊やらをリビングへ運び入れているのだが、鈴蘭の作業の早さに追いつくのがやっとという体たらくである。俺はこの時ほど自分の足の遅さを呪ったことはなかったに違いない。

 時計の長い針が半周したあたりで装飾は完了した。が、まだ終わっていない。今度は美衣の誕生日プレゼントを買いに行かなければならない。もちろん美衣の誕生日であることをわかっていて、事前に買っていた鈴蘭は留守番だ。「豪勢な夕食を振る舞う」と意気込んでいた。俺はその言葉だけ聞いて、猛ダッシュで家を出る。その直前に鈴蘭にいってらっしゃいのキスをされたのは秘密である。

 俺は自転車にまたがり、ペダルを全力で回す。体中のアドレナリンがさっきの装飾の材料運びの疲れを吹き飛ばしている。焦る理由はただ1つ。あと20分もすれば美衣が帰ってくるのだ。それまでに帰らなければ、鈴蘭は美衣がリビングへ侵入するのを止めることはできないだろう。そうなればサプライズはおじゃん、ゲームオーバーだ。鈴蘭はどうしてもサプライズにこだわりたいらしいので、何が何でもそれまでに帰宅しないといけない。もしできなかったら、鈴蘭が怒るか泣くかのどちらかなのは目に見えているし、そのどちらも困る。

 自転車で普通なら10分はかかるところを、俺はアドレナリンのおかげか2分という神がかった速さでデパートへと着いた。今なら自転車レースでもいい線いくかもしれない。そしてこのデパートは、かつて鈴蘭と2人で来たあの地である。あの時の出来事が、今の俺と鈴蘭の関係を作ることを手助けしたかもしれないと、俺はつい数日前の追憶にふける。

 しかし今は美衣のプレゼントだ。何を買うかはすでに決めている。俺はエレベーターを使い、以前行った雑貨屋の前の店へ行って、とあるものを購入した。そうしてすぐさま店を飛び出してデパートを後にし、駐輪場の自転車を爆走させて家へと戻る。

 幸いまだ美衣は帰ってきていない。俺はそれを確認して、リビングのソファーに突っ伏した。

「し、真司……大丈夫……?」

 心配そうに俺の眼を覗き込む鈴蘭は、薄い肌着にエプロン姿という、ボディラインが必要以上に際立つ格好をしていた。長い髪は後ろでひとくくりにしていて、一言で言ってものすごくエロ可愛い。いつも以上にエロ可愛い。当人に自覚はないだろうが。

「うおう……だいじょうぶ……」

 俺の声はそれまでの激務のせいで、完全にしゃがれていた。鈴蘭は俺が手に持っていた袋を見て、何を買ったのか聞かれたが、中身を教えると鈴蘭はその選択に満面の笑みとともに褒めてくれた。俺はそのかわいさMAXの笑顔を見て、思わず抱きついてしまう。突然のハグに鈴蘭は驚いたような様子だが、黙って抱きしめ返してくれる。互いの体温を確かめ合うと起こるこの安心感は、俺にはなくてはならないものになったと思う。

 その突然やってきた穏やかな空気から現実に引き戻すように、玄関のドアが開錠される音がする。

「ただいまー。お姉ちゃんまたお兄ちゃんと抱きしめあったりしてないでしょうねー」

 はい、図星です。俺はそう言う間をカットして、鈴蘭とともに玄関へと駆け出した。リビングに入られれば計画は水泡と帰す。俺たち2人は必至で美衣をリビングへ入れないように取り繕った。

「美衣!今ちょっと掃除してるからリビングには入らないでくれ?!俺と鈴蘭で今めっちゃがんばってるから!」

「そ、そう!だから手洗ったら、晩ご飯まで部屋でゆっくりしててね?!できたら呼ぶから!」

 俺たち2人は思いついたシチュエーションをそのまま口に出す。うまく鈴蘭が合わせてくれたのは見事な連携であろう。

 美衣は頭の上に疑問符を浮かべて、俺たちの顔を怪訝そうに伺う。そうして、ある結論にいきついた。

「もしかして……えっちしてた……?」

「ブーッ」

 予想の斜め上、いやもはや直角に飛び上がったその予想に、俺は思わず思い切り噴き出してしまう。鈴蘭は鈴蘭で顔を真っ赤にして身悶えている。美衣の脳内では俺たちはそこまでするほど進展しているのだろうか。

 美衣は納得したような顔をして、小悪魔的な笑顔を浮かべた。重大な誤解が生じているなどとは思っていない、その確信に満ちた表情のまま、美衣は俺の耳元に口を近づける。

「お兄ちゃん、えっちするのはいいけど、ちゃんと後片付けはキレイにしておいてね?あと今日はとっても大切な日なんだから、まさか忘れてるなんて……ないよねっ」

 美衣の語る言葉すべてに俺は黙り込むしかない。さっきまで美衣の誕生日を忘れていたのは事実だし、エロいことをしていたというのは事実とはまったく違うが否定すると扉の向こうで何をやっているのか詮索される。俺はなぜか生き生きとした美衣の攻撃を、ただひたすら防御するしかない。ネタばらしした時にちゃんとそこも明らかにしよう……。

 そして去り際に、美衣は鈴蘭に何か耳打ちをした。すると鈴蘭はさらに顔を真っ赤にして今度は硬直し、その妹はくすくすと笑いながら自室へと階段を上っていった。鈴蘭に何を言ったのか……気になるが、なんとなく予想はつく。鈴蘭が茹であがらないように、あえてその話題は何も触れぬようにしたのだった。



 その後美衣が下りてくるということもなく、なんとか鈴蘭お手製の夕食を食卓へ並べきることができた。

 鈴蘭に美衣を呼んできてくれと頼まれたので、俺は美衣の部屋の前へと立っていた。美衣の部屋へ来るのは2回目だが、その時のことを思い出すと顔が真っ赤になる。俺はとりあえず美衣を呼び出すために、部屋の扉を叩くことにした

 コンコンとノックをするが、返事がない。もう一度同じようにノックをしてみるが、これまた返事がない。寝ているのだろうかと思い、少しだけ扉を開いてみる。すると部屋の中には、視界いっぱいに鈴蘭の水着写真が広がっていた。肌色の多いビキニからはちきれんばかりのスクール水着まで、まるで俺の趣味をそっくりそのまま鈴蘭に着せたような写真ばかりであった。しかも、季節外れの水着ばかり……

「ふふふふふ……お兄ちゃんようこそ……私の作り出した楽園へ……」

 そう言って突如現れた美衣は、柔道の崩しの手法で俺の体のバランスを奪う。瞬間、俺の体は回転しながら美衣の体へと吸い寄せられていった。

 美衣を上に、仰向けの状態で倒れこんだ俺の視線の先には、鈴蘭の水着がカメラの持ち主によって今にも剥ぎ取られてしまうという状況の写真が貼られていた。俺は無意識に眼前の美衣とその写真を交互に見てしまう。何度か目を動かしたのち、俺は鈴蘭の平面で豊満な山へと視線を奪われた。その瞬間、強烈な右ストレートが腹へと落ちてきた。

「グボォォォォォォォォォォォ!!!」

 俺は華奢な体からは想像もできないほどの威力に悶絶する。ちらりと見てきた美衣の顔はすごく笑っているのに、その目はとてつもない侮蔑の念を含んでいた。

「お兄ちゃん?『楽園』に酔いしれすぎなんじゃないの?いくらお姉ちゃんが好きだからって、それはないと思うなぁ~?見比べるなんて……ん~?」

「いはいいはいいはいわはっははら!わはっははら!!」

 俺は笑顔の美衣に千切れるのではないかというほどの力で頬を引っ張られた。俺の必死の訴えで離してくれたが、俺の頬はおたふく風邪にかかったかのようにふっくらと腫れ上がっていた。

「お兄ちゃん、今日何の日か知ってる?許してほしかったら、1つ私の言うことなんでも聞いて……」

「そうだああああ美衣!!夕食できたんだ!!は、早く食べに行こう!!な!?」

 俺はその嫌な予感しかしない言葉を遮って、腹の上の美衣からなんとか脱出し、やっとの思いでリビングへと帰還する。そんな状況を知るはずもない鈴蘭は、不思議そうな顔をして俺とそれを追いかけて降りてきた美衣に笑顔を向ける。俺はその笑顔に救われた心地がしたが、美衣は一貫して鈴蘭の豊満な胸を直視していた。俺はそこに触れるとまたあの強烈な右ストレートをプレゼントされる気がしたので、黙って机の上に置いておいたクラッカーを手にして待機した。

 間が空いて、美衣がリビングのにぎやかさに気付くと、その表情はとても驚いた顔へと変化した。俺はその表情を待ち望んでいたのだ。俺は鈴蘭とタイミングを合わせて、クラッカーの紐を引く。

「「美衣!誕生日おめでとう!!」」

 美衣は驚いた顔をしていたが、すぐに中学生らしく喜ぶ少女へ変化した。

「あ、ありがとう!お姉ちゃん!お兄ちゃん!」

 その表情はさっきの部屋とは打って変わって満面の笑みだった。俺はその表情を見て、嬉しさと同時にほっとしたのを自覚する。俺の心は正直なことに、しばらくは美衣のお怒りを受けなくて済むと思ったのだ。だが美衣が喜んでくれたことは確実だ。サプライズの成功に、俺と鈴蘭はピースサインで喜びを共有した。

「よし、じゃあ美衣もびっくりしてくれたことだし、誕生日パーティ始めるか!」

「うん!そうしよそうしよ!ほら美衣も座って座って!」

「あははっ、おいしそう!これ全部お姉ちゃんが作ったの?」

 食卓に並んでいるのは、ターキー、お寿司、小分けにされたスパゲティなどなどと、和洋折衷のフルコースだ。その豪勢な食事とともに、美衣の波乱のバースデーパーティは始まったのであった。

 どうもつぼっこりーです。

 最近リアルが忙しいです。べりーびじーです。そして特に報告することもございません。相変わらず彼女はいません。

 お話の方は突如明かされた美衣の誕生日。真司は義理の妹(立場上)のために奔走します。体を張ります。次回も体を張ります。真司のような女の子のために忙しい生活をしてみたいものです。

 それでは今回はこの辺で。みなさんの暮らしが楽しく明るいものでありますように。また次回も読んでくださると幸いです。

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