秋の祭りの終わり頃
俺は廊下を走っていた。
もちろん廊下を走ることがよくないことなど小中学校のころから耳にタコができるほど聞かされたし、ましてや高校2年生ともなれば言われるまでもないことだ。
だが、俺には早く終わらせる用事があったのである。
俺、東雲真司の通う高校では、15時まで文化祭が開かれていた。
それから時計の針が1周過ぎた頃、残された課題を黙々とこなしていた。片付けである。
ゴミや小道具などがゴミ袋10個にまとめられた頃、黙って立って見ていた担任が口を開いた。
「おーいお前ら、じゃんけんで2人決めて、その2人で焼却炉へ持っていけー」
悪い提案ではなかった。じゃんけんに時間がかかるということはあるが、勝てばこのまま帰ることができる。まだ録画してあるアニメを観きっていないから、それを観て時間を潰すのもいいかもしれない。
さあ、じゃんけんだ。15人いるクラスメイト全員がおもむろに手を出し、グネグネ手首を揺らしている。
「じゃーんけーんぽん!」
1人が大きな掛け声を発するのとともに、俺はグーを出した。理由は出しやすかった、ただそれだけだ。
が、その浅はかな行動に、何とも残念な結末が待ち構えていた
俺はゆっくり周りを見回す。そこで俺は思わず口を開けてしまった。なんと残り14人は全員パーだった。一人負けだ。3,4人で一人負けなら何度もあるが、15人でのじゃんけんで一人負けなどどれほどの確率なのか。そんなことを計算するほど俺の頭は働いていなかった。
「まったく……15人で一人負けするとかどんだけツイてないのよ」
優しい、澄んだ声で呆れたように言葉を発したのは、俺の小学校からの幼馴染である田中鈴蘭。一言でいえば美少女である。日本古来の伝統を受け継ぐかのような黒いサラサラした長い髪に、少し幼さを残した端正な顔立ち。そして胸が大きい。ありふれた苗字に、なかなかない名前も、彼女の特徴のひとつと言えるかもしれない。
鈴蘭は9月に入ってから、もう5人に告白されたらしい。まだ9月は10日ほどしか経っていないのだが。そういえば付き合ってるっていう彼氏がいたはずなんだけど、あれはどうしたんだろ……。
「仕方ないわね。皆、残りの1人は私がやるわ。だから皆は帰ってもいいわよ」
微笑みとともに皆に言う姿はまさに天使だ。俺を見る残り13人の中の男子全員の目が怖い。
皆が帰った後、俺と鈴蘭は10個のゴミ袋を処分するために焼却炉を往復していた。俺は2つ、鈴蘭は1つを一回で持ち、最後一つを俺が持てば3回で済ませられる計算だ。意外とこのゴミ袋が重いのだ。我ながら結構頑張っている方である。
3回目の行き道、鈴蘭はふと口を開いた。
「真司ってなんでこう、学校行事になると地味に面倒くさい仕事を押し付けられるかなあ」
またも呆れたように呟く。無理もない。俺は去年の文化祭ではやりたくもないのにメインで仕事を仕切ることになり、同じ年の体育祭では1人1競技でいいのに5競技をこなし、帰路につくころにはボロボロだったこともある。
「はは……まあ仕方ないよ、俺がやらなくても誰かがやることにはなるんだし」
「そうだけど……」
実際その通りなのだ。みんなの負担を自分が減らせているのは誇りに思っていいと思う。
「でもそれで、無理して体壊したりしないでよね。もし壊したら許さないんだから」
「はい、肝に銘じておきます……」
鈴蘭には昔から頭が上がらない俺なのである。そこ、弱いとか言うな。
そんな話をしているうちに、焼却炉に着いた。俺たちは無造作に焼却炉のすぐそばにある石で区切られた枠の中へ重い袋を投げ入れる。あとは用務員さんがやってくれるのだ。俺たちの仕事はここまで。そう思いながら教室へ戻ろうと廊下に差し掛かったその時、担任とばったり出くわした。担任は俺に向かってこう告げる。
「あ、東雲、ちょっと用があるから後で来てくれ。荷物は教室に置いておいた方がいいかもしれん」
嫌な予感がした。だが、担任が言うにはどうも急ぎの用らしく、男手が必要なんだそうだ。
男子はほとんど部活か帰ったかのどちらかだから、たまたま残ってた俺に頼んできたんだろう。
「わかりました。職員室でいいんですよね?」
「ああ。すまんな」
担任が片手の側面をこちらに向けてもう片方の手で頭を掻く。俺はこの担任を少し尊敬している。それにはいろいろ理由があるが、話すと長くなるからここではやめておこう。
教室に戻ると、見事に俺と鈴蘭の二人きりになった。いつもクラスメイトがあげる話し声や騒ぎ声がないのが、少し新鮮にも感じられる。
「ねえ真司、先生の用事が終わったあと、何か他に用事とかある?」
「いいや。むしろ暇なくらい。」
「そか。じゃあこの後、いつものデパートで食料品買うの付き合ってくれない?」
「おう、いいよ。今日は何作るの?」
「まだ決めてない。行ってから考えようかなって」
「じゃあ俺も一緒に考えるよ。その方が効率いいだろ?」
「うん!いつもありがとね」
このやり取りはもう何百回とした覚えがある。だが、飽きないのは多分、小学校の頃から一緒にいて慣れたせいだろう。
すると鈴蘭は、いつもとは違うことを言い出した。
「それでさ、他にも付き合ってほしいとこ、あるんだよね」
「そなの?弟に何か買っていってやるのか?」
「いや、ちょっと私がほしいものなんだけど……いいかな?」
意外だった。鈴蘭は普段、家庭のことで手伝ってほしいことを俺に頼む。プライベートなことは女友達とか、家族に言うタイプなのだ。だから、俺にそんな頼みをしてくる鈴蘭がとても珍しかった。
「いいよ、鈴蘭に逆らうと、何されるかわかんないし」
「な、なんですって!?」
「冗談だよ」
少しむすっとした鈴蘭の表情はとても可愛い。抱きつきたくなる。が、そんなことをしては殴ってはいけないところを殴られる気がしたので、喉元まできた言葉をぐっと押し戻す。
「じゃ、そろそろ行ってくるよ」
「うん。行ってらっしゃい。教室で待ってるね」
俺は鈴蘭にそう言うと、鈴蘭は笑顔で言葉を返してくれる。それがいつも、少し嬉しかった。
そうして俺は職員室へと向かったのだった。
初めまして。つぼっこりーと申すものでございます。
初めて小説というものを書かせていただくことにしました。今作は記念すべき処女作です。
大体の物語は考えています。先6、7話分くらいのストーリーのおおまかな内容は既にメモ済みです。
正直この作品がどう評価されてどう物語が進むのか、それはまだ私にもわかりません。ただ、この駄文を読んでくださった方々の暇な時間を1分1秒でも潰せたならば幸いです。いつかは時間泥棒と呼ばれるようなお話を書くことができるよう、精進していきたいと思います。
それではどうか、みなさんの暮らしが楽しく明るいものでありますように。
これからもどうぞよろしくお願いいたします。