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トレーディング・カード・ガールズ

作者: 鴫沖伴

 とある高校生、折野順おれのじゅんは悩んでいた。


「なんで……なんでこんなに俺は女の子に嫌われるんだよ」


 折野は周りの女子に嫌われていた。


 同じクラスの委員長に嫌われ、クラス中の女子からはなんとなく避けられている。


 隣のクラスの幼馴染みからも嫌われ、そのクラスの女子にもいい印象は持たれていない。


 どのクラスかも知らない不良ギャルにも嫌われ、不良グループからは目をつけられている。


 学内一のお嬢様にも嫌われ、お着きの者たちに近づかないようになどと警告されている。


 運動部のアイドルにも嫌われ、運動部全体だけに止まらず彼女のファンからもウザがられている。


 折野は放課後、誰もいなくなった教室で自分の机に項垂れ、嫌われている女子とのことを思い返していた。


「なんでこうなったし……」


 折野が嘆くとどこからか声が聞こえてきた。


「それは彼女たちに悪魔が取り憑いているからさ」


 声のする方、それはどういうわけかほぼ真上なのだが、折野が見上げるとそこにはなにかが浮いていた。


「へっ?て、天使……?」


 白い翼と衣の幼い少年、どう見ても天使だ。


「君を助けに来たよ。折野順」


 恋愛に悩む折野の前に現れた天使は助けに来たのだと言う。恋愛と天使、それが指し示すものは一つだった。


「きゅ、キューピッドなのか?」


 しかし天使は首を傾げながらこう答えた。


「んん?クピードー先輩のことかい?先輩は多忙なんだ。確かに先輩なら矢を一射りしただけで女性は君にメロメロ、憑いた悪魔も矢の風圧で消し飛ぶだろうね」


 天使はニコニコしながらこう続けた。


「ボクはトレド。新人研修中の下級天使だよ。ボクは君の守護天使として君の恋愛を手助けするんだ」


 突然のことで動揺する折野だったが、女子に嫌われているという状況を脱することができるのなら藁にもすがる思いだった。


「お、おう……そのチートみたいな先輩じゃなくて残念ではあるが、助けてくれるのならありがたいよ」


 トレドはニヤリと笑い折野の両肩に手を置いた。


「じゃあ契約成立だね。君の悩みの解決には“君自身”を使うことになるけど、そこらへんはご了承ください。また契約成立後の契約解除は甲と乙両者の合意が必要となります」


「へ?」


 突然の事務的な口調に折野は驚いたが、一番引っ掛かったのは“君自身”というところだった。


「デッキリリース!」


「ぎゃああああ!」


 折野の胸が輝きそこからカードの束が現れた。

 トレドはそのカードを手に取りパラパラとめくりながら折野に哀れむような目を向けた。


「情けない声をださないでよ」


「だ、だってよ……魂抜かれたら魔法少○になっちまうだろ……」


「んー、魂かあ。まあ魂って言われると魂かもね。このカードは≪ソールカード≫。今の君のすべてを表すものだよ」


「ソールってやっぱ魂じゃねえか!なんだよ、魂というわけじゃないんだけど、みたいな言い方しやがって!」


 騙された。これは今すぐ消費者生活センターに駆け込むしかないと折野は思った。


「安心してよ。このカードは魂そのものではなくて、君の内面を投影したアイテムに過ぎないんだよ」


「ちょっと待て。結局お前はどうやって俺を助けてくれるんだ?そんでそのカードは一体なんなんだよ?先にその説明をしてくれ。まったく意味が分からない」


 ポカーンとしたトレドはポンと手を叩きわざとらしくてへぺろをした。


「ごめんごめん。なにしろ初めてだから手順通りにできなくてさ。じゃあ改めて」


 そう言うと、トレドは真剣な顔となり語り始めた。


「まず、君が周りの女の子たちに嫌われている理由なんだけど、それは彼女たちに悪魔が取り憑いているからなんだ」


「ああ、それは聞いたな」


「うん。まあ悪魔といってもイタズラくらいしかできない下級の小悪魔なんだけどね。そのせいで彼女たちの気持ちは蝕まれ君を嫌ってしまったのさ」


「ん?待て。俺が知る限り嫌われているのは俺だけだぞ?なんで俺だけなんだ?」


 するとトレドは難しい顔をして目を伏せた。


「それは……現在調査中なんだ。今のところ最有力なのは呪いによるものだとだけ言っておくよ」


「は?俺呪われてるの?」


「原因はまだはっきりとしないんだ。とにかく原因に関してはここまでにして。続報が入り次第追って報告する」


 コホンと咳払いをしてトレドは続けた。


「その悪魔と戦うためのツールがこのソールカードなんだ。ボクがこのカードを使って悪魔と戦うんだけど、その戦いが君自身と悪魔の取り憑いた女の子に反映されるんだ」


「ん??ごめん、今のとこ分からんかった。俺に反映されるってなんだよ」


「まあそれは言葉でいうより実際にやってみたほうが早いかもね」


 トレドはカードの束から選り分け1/3ほどのカードを残し他はしまった。


「よし!デッキは一先ずこれでいこう!」


「は?デッキってなんだよ?カードゲームでもするのか?」


 トレドはまたニヤリと笑ってカードを掲げた。


「その通り!このソールカードはトレーディングカードゲーム用のカードなんだ。君のソールカードはバランスがいいね。相手に応じてデッキのタイプも変えれそうだよ」


「…………」


 折野はなんとも言えない気持ちになった。この天使はただ遊びたいだけで、自分をからかっているのではないかと思え始めた。

 そもそもトレドは天使ではなく実は悪魔で、トレドが自分に取り憑いてるから女子に嫌われてるんじゃないかと、疑い出せばきりがない。


「ったく……付き合いきれねえよ」


 折野は馬鹿馬鹿しくなりその場を離れようと立ち上がった。

 それと同時に教室の入口が開く音がした。

 折野がそちらに目をやると、そこには折野を嫌う女子の姿があった。


「な、七奈美……」


 折野の幼馴染みである長持七奈美おさじななみは隣のクラスの生徒である。

 なぜこのクラスに来たのかと折野が不思議に思っていると、トレドが折野の前にふわりと移動してきた。


「ははっ。そっちから来てくれるとはね。足を運ぶ手間が省けたよ。まあボクは飛んでるから足は運ばないんだけどね。そもそも足なのに手間ってどういうことなんだろうね」


 折野の耳にはトレドの声はほとんど届いていなかった。それは長持の背後に浮く存在に戦慄しているためだった。


「なんだよ……ほんとに悪魔が憑いてんのかよ」


 黒い姿に翼と尻尾。それは確かに悪魔だった。だが禍々しさはそれほど感じられず、トレドが言った通り小悪魔なのだろう。


(さあ折野、早速実戦だよ!)


 トレドの声が折野の頭の中に響いた。


(こいつ直接脳内に……!)


(契約時のオプションで契約者同士のテレパシーと、乙の悪魔視認能力も自動加入しといたよ!)


「余計なことすんじゃねえよ!てか待て。実戦ってなんだ?俺らどうなんの?反映されるってまさか俺らがダメージ受けるとかか?全部説明してからにしろよ!」


「なに一人でしゃべってんの……?きもっ」


「ぐはっ!」


 折野は思いがけないダメージを受けた。

 どうやら長持には天使が見えていないようだ。


(折野!もうゲームははじまっているんだよ!気を引き閉めて!)


 どういうことだと折野は長持の頭上に浮かぶ悪魔に目を向けた。

 悪魔はカードを数枚手に持ち、空中に展開された魔方陣のようなものにカードの山と二枚のカードが並べられていた。

 それはまるで、トレーディングカードゲームそのもののようだ。


(問答無用で先制攻撃か。まだこっちは手札の準備もできてないのに)


(は?攻撃って今のがか?)


(そうだよ。折野は今までプレイヤー不在のままゲームを強要されていたんだ。ずっと悪魔のターンでフルボッコだったわけさ)


 トレドは魔方陣を展開し、カードの山を端に置いた。そこから五枚引いた。


(もうそんなことはさせない。ボクがいるからね!)


 そう言うとトレドはカードの山に手を置いた。


「ボクのターン!ドローワンカード!」


 突然トレドのテンションが上がった。しかもドヤ顔を折野に向けてくる。


(やりたかったのか、それ?)


(うん……!)


 トレドは満面の笑みで答えた。

 天使とはいえ、見た目同様に中身も子供なのである。


「モーメンタムのパラをセット!セットしたパラをレイにし、ファストの『元気な挨拶』!」


 トレドは手札から一枚魔方陣に置き、そのカードを横にしたあとまた手札からカードを魔方陣に置いたのだった。


「よっ、七奈美!最近調子はどうだ?」


 折野は驚愕した。なぜ自分は突然元気に挨拶をしたのかと。


「くっくっくっ……受けよう」


 悪魔がそう言った直後、それは起きた。


「やっほ。まあまあかなあ」


 折野は唖然とした。嫌われて以来まともに会話すらできなかった幼馴染みが普通に受け答えしてくれている。


(あ……そういうことか)


 折野は理解した。ソールカードとは、天使と契約を交わした人間、悪魔が取り憑いた人間の行動を制御する力があるのだと。そのカードによる行動は対戦相手となる人間への攻撃となるようだ。

 カードを操るのは天使、悪魔で実際に戦うのは人間ということだ。


(なるほどな。だから“君自身”なわけだ)


 だがまだ疑問は残っていた。


(七奈美のきっつい一言は確かに攻撃と言えるけどよ、俺の元気な挨拶のどこが攻撃になるんだ?)


(おっ、ほぼ理解できたみたいだね。そしてその疑問ももっともだ。天使と悪魔では真逆の攻撃になるからね。そもそも目的が違うからなんだ。悪魔は対戦相手との仲を悪くするのが目的で、天使は対戦相手との仲を良くするのが目的なんだ。)


 ふむ、と折野が納得してすぐに悪魔が動いた。


「ドロー。くっくっくっ……ナレッジのパラをセット。『心無い語り部』で攻撃」


「てかさ、なに普通に話しかけてきてんの?」


「ぐはっ!」


 またしても長持のきつい一言によって折野はダメージを受けた。


(くそー、七奈美の本心で言ってるわけじゃないと分かった今でもきついな。なにか俺から言い返してやって正気を取り戻さなせないと……)


(それは無駄だよ折野。カードによる行動はカードでしか防げないんだ。君自身の意思で行動したとしても今の彼女にはなんの効果もないんだよ)


(まじかよ。じゃあどうすればいいんだよ)


(今はただボクに任せて!ゲームに勝つのがボクの役割なんだから)


 トレドはまたカードの山に手をかけた。


「ボクのターン!ドローワンカード!」


(いや、もういいから……)


 トレドはションボリしたが、引いたカードを見て愕然とした。


(な、なんでこんなカードが……君はこんなことまで……)


(ん?なんの話だ?)


 トレドは少し悩んだ後気持ちを切り替えるように首をブンブンと振った。


(いや、今は……これは一先ず保留だ)


「ホーネストのパラをセットしレイ!フィックスの『寛容なる司祭』をセットしてターン終了!」


(なんていうか、用語がよくわかんねえな)


(君は知る必要はないと思うよ。君はこのカードを使うことができないんだからね)


(う~ん、まあそうだけどよ……自分になにが起こるのかある程度分かっておきたいっていうかさ)


 折野は大凡のルールを理解したことで、自分が直面するであろう事態を知りたいと思うのは当然であった。だがトレドのターンを終了していた。不安を解消できるような時間はないのだ。


「ドロー。くっくっくっ……くっくっくっ……ガウディのパラをセット。ガウディを2枚レイ。フィックスの『毒舌の踊り子』をセット」


(あーなるほどなー。パラってのがコストな?そんでレイってのがカードを横にして使用するってことな?)


(そうそう、って飲み込みが早いのは感心だけども、今出てきたカードはちょっとやばいよ。しかもまだ……)


「くっくっくっ……『心無い語り部』で攻撃」


「なに一人で教室残って黄昏ちゃってんの?」


 長持の言葉で折野はまたダメージ(精神的)を覚悟した。だがトレドはそれを未然に防ぐ。


「『寛容なる司祭』で防御!」


「七奈美も見てごらん、夕日がとても綺麗だよ」


(うお!なんだよこれ!自分で言って鳥肌が立ったわ!ってあれ?ダメージなかったぞ……?)


(さきも言った通り、カードによる攻撃をカードで防いだのさ)


 攻撃したカードと防御したカードはお互いの魔法陣の端に移動された。


(ん?今のカードどうなったんだ?)


(今のは同レベルのカード同士だったから相打ちだね。攻撃、防御で敗れたカードや使用済のカード、ボクのは『元気な挨拶』もそうだね、これらのカードはサンに追いやられるんだ。)


(ふ~ん。なるほどなー)


「ターンエンドだ。くっくっくっ……」


「ボクのターン!ドローワンカード!(キリッ」


 トレドは実に気に入っているらしい。折野はもう好きにやらせてやることにした。


(くっ……ちょっと引きが悪いな……仕方ない!)


「モーメンタムのパラをセット!モーメンタムを1枚レイ!ファストの『二人の帰還』を発動!」


「なあ七奈美。たまには一緒に帰らないか?どうせ隣同士なんだしさ。」


(おおおおおお!これはいいんじゃねえか?)


 折野は自分の発言に思わずガッツポーズをした。だが悪魔は不敵な笑みを浮かべ、手札からカードを1枚抜いた。


「くっくっくっ……そうはさせん。ナレッジをレイ。ファストの『聞かざる者』」


「え?あ、ごめん。聞いてなかった」


(はあああああ?なんだよ?今はこっちのターンだろ?)


(ファストは相手のターンにも使うことができる効果のカードなんだ。というか基本的に相手のターンで使って相手のペースを乱すのが碇石なんだよ)


(じゃあお前もそうしろよ!)


(ご、ごめん……初めての実戦でちょっと緊張しちゃっててさ。それより……)


 トレドは対戦相手について嫌な予感がしてきていた。


(折野……もしかして、君の幼馴染は天然かい?)


(え?……ああ、昔からちょっとぬけてるところがあるな)


(そうか……天然系デッキかー。ごめん折野。この戦いは苦戦すると思うよ)


(え?なんでだよ?)


(ソールカードはその人物の内面を反映したものだ、ってのは言ったよね。彼女が天然ならカードは必然的に天然系のカード、つまり打消しや無効化のカードが大量に含まれているはずだ。今回はその対策をとっていないから、もしかしたら……負けるかも)


(ま、負け……そ、そうだ!このゲーム負けたらどうなるんだ?それ聞いてなかったぞ?)


(ボクらが負けた場合、というか攻撃を受けるたびに精神的なダメージを負うことになるんだけど、そのダメージが一定以上になると……その、対戦相手のことを……嫌いになってしまうんだ)


(お、俺が七奈美のことを……嫌いになる……?)


(まあ安心して、君の精神力は並の者よりも強靭だよ。このゲームに負けたとしても──)


 折野は突然言い渡された真実に茫然とした。ずっと幼いころから一緒だった長持のことを自分が嫌いになるだなんて考えられない。嫌われることがあっても嫌いになることなんて絶対にないと思っていた。


(……だって、俺は七奈美のことを……)


「……ターン終了だよ……」




 その後は一方的な展開が続いた。トレドが言った通り、天然系デッキの対策を取っていない即席のデッキでは歯が立つ訳がなかった。


(今ので、こっちのポイントは3/20だね。向こうは15/20……)


(なんだ、一応ポイント制なのか。てっきり俺の気持ちが折れるまで続くのかと思ってたわ)


「ターンエンド……くっくっくっ……」


 トレドのターンとなったが、すでに後がない。


「ボクのターン……ドロー……」


 最初に見せていた勢いはなく、トレドだけでなく折野も意気消沈していた。


(ごめんよ……)


(いや、いいよ。初めてだったんだろ?次から頑張ろうぜ)


「ホーネストのパラをセット……えーっと……んん!?」


(どうした?)


 トレドは手札をに顔を近づけ目を見開いていた。


(んー。いや、どうせ今使っても効果はないだろうけどさ。ちょっと最後にヤケクソやっちゃってもいいかな?)


 折野はなんのことか分からず首を傾げたが、自分が理解する必要はないと悟りトレドに言った。


(おう、やっちまえ。なんでも来いってんだ!)


 それを聞くとトレドは最後の手に打って出た。


「ホーネストを3枚レイ!モーメンタムを3枚レイ!」


 トレドは使用可能なコストをすべて発動させた。そして手札から1枚を抜き高く掲げる。


「ウィザードリィの『求婚』を発動!」


 それは2ターン目にトレドが引いたカードだった。


(へっ?)


「七奈美、俺はずっとお前を好きだった。いつだったか子供の頃に約束したよな?大きくなったら結婚しようって。俺ずっとお前と結婚するものだと思っていたんだ。でも、ここ最近は疎遠というかあまりいい関係ではなくなっちまったけどさ。それでもお前のこと諦められないんだよ。自分でも馬鹿だと思うけどさ。俺のこと嫌いでもいい。そんなお前でも全部受け入れる!だから、俺と結婚してくれ!」


 静寂が訪れた。

 折野は自分の言った言葉が信じられずに口をあんぐりと開け、燃え尽きて真っ白になっている。

 トレドは神にでも祈るかのように目を閉じ両手を組んでいる。

 長持は俯いて表情は窺えない。

 最初に口を開いたのは(折野は除く)悪魔だった。


「くっくっくっくっくっ……馬鹿が。そのカードの効果を分かって使っているのか?」


「ああ、分かっているよ。読み上げよう」


 そういうとトレドは一度セットしたカードをもう一度手に持った。


「折野順は対戦相手にプロポーズをする。プロポーズが断られた場合はこのカードの効果は無効となるが、そうでなかった場合は自身のポイント、対戦相手のポイントに関わらず折野順の勝利となる。このカードはあらゆるソールカードの効果を受け付けない。ただしこのカードの使用は一度までで、使用後はサンに置かれることなく消滅する」


(あ、ソールカードってそういうのもちゃんと書いてあるんだ。ほんとトレーディングカードなんだな)


 折野は白いまま感心していた。


「くっくっくっ……血迷ったか。今のこの女は好感度最悪だぞ?」


 誰もが効果は無効であると思っていた。発動させたトレドもそうだった。しかし誰もが思いがけないことが起こった。


「順……覚えててくれたんだね……?私もずっと忘れてなかったよ?あの日の約束」


 はっ、と折野は灰から復活した。


「酷いこと言ってごめんなさい。最近の私どうかしてた。また昔みたいに仲良くしてくれるかな?」


 悪魔は信じられないというように目をぱちくりさせている。


「その……私も……ずっと順のこと好きだったよ」


(え?ええええ???七奈美が?????)


 天から鐘の音が響いた。


「やったよ折野!勝利だ!」


 天からの鐘の音は天使側の勝利を知らせる音だったようだ。

 だとすると悪魔側の勝利を知らせる音はどこからどんな風に響いてくるのかと折野は考えたが嫌な予感しかしなかった。


「なるほどねー。折野はすでにプロポーズを経験していたからあんなカードが入っていたんだね」


「ちょっと待て。今のはどう考えても無効だ!」


 悪魔が割り込んできた。余裕の笑はもうなかった。


「あの女はプロポーズを受け入れてはいない!よってあのカードの効果は無効となるはずだ!」


 それを聞いてトレドは人差し指を左右に振った。


「確かに受け入れてはいないねー。でもカードの説明にあった通り“プロポーズが断られた場合はこのカードの効果は無効となるが、そうでなかった場合は折野順の勝利となる”だ。無効となるのは断られた場合だけで、受け入れられなくても勝利なんだよ!」


「そんな馬鹿な!そんなチートカードが許されるわけがない!」


「許されているから存在していたんだよ。それに、彼は特別なんだ」


 悪魔は悔しそうにトレドと折野を交互に睨みつけた。


「F**k!覚えてろよ!」


 悪魔がそういうと長持もその場を離れようと動き出した。


「あ、待って七奈美!」


 折野は長持の下に駆け寄る。


「あ、あのさ……さっきの約束のことなんだけどさ……」


 呼び止められた長持は振り向きながら言った。


「え?なんのこと?てかなんで私ここにいるんだろ」


「へ?」


「あ、ごめんごめん。これも言い忘れてたね。天使との契約者はそうではないけど、悪魔が取り憑いた人間はゲーム終了後にはゲーム開始直前の記憶の状態にリセットされるんだ」


 重要なことをとにかく後回しにするトレドである。


「な、なんだってー!」


「うわっ……なにいきなり叫んでんの?キモい」


「ぐはっ」


 折野はゲーム外にも関わらずダメージを受けた。


「さようなら」


「あ……ま、待ってくれえ……」


 長持は教室を足場やに出て行き、折野はその場に崩れた。


「まあ落ち込むなよ。折野はよくやったよ」


 こうしてトレドと折野は初めてのトレーディングカードゲームの対戦を勝利で終えた。


 まだまだ未熟な彼らはこれから訪れる更なる戦いに耐えられるのだろうか。


「おい、ちょっと待て。そういやお前が来る前からずっとあそこでぶつぶつ言ってるおっさんはなんだ?」


「あ、神様だ。今日は父兄参観的な?」


 その行方は私のみぞ知る!


「え、これ全文セリフかよ」




 最初の戦いになんとか勝利した二人だったが、己の弱さを痛感していた。もう『求婚』のソールカードはない。あんな無茶は戦いはもう不可能なのである。二人はカードを見直し一からデッキを組み直すことにしたが、クラスの委員長が彼らの前に現れるのだった。次回トレーディングカードガールズ、『正しき裁き』。


「おい、このおっさん。次回予告してっぞ?」


「流石は神様。未来を見通していらっしゃるんですね」

続くと思いましたか?

いいえ続きません。

需要があれば続くかもしれませんが。


この物語は12年前に考えた恋愛カードゲームを元にしています。

当時はMTGにハマっていてこんなゲームを思いついてしまった訳です。

元の企画が恋愛ゲームなので誰とくっつくかとかはプレイヤー次第なわけで、誰ルートかなんてことは考えてないんですよね。今のところ。

でもやっぱり幼馴染みなんですかねえ。

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