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第3話:「見た目はショタ、中身は投資ファンド」



徹夜明けの会議室。

コーヒーの空き缶がタワーのように積み上げられている。

「……できた」

清宮が震える手でタブレットを差し出した。

そこには、三島の指示に従って描き直された新しいキャラクターデザインが映し出されている。

しかし、原作担当の鋼田は、その画面を見て唸り声を上げた。

「ぬぐぐぐ……! 認めん! 俺は認めんぞ! これが俺の分身(主人公)だというのか!?」

画面に描かれていたのは、くりくりとした大きな瞳を持つ、美少年のイラストだった。

半ズボン。あざといまでの上目遣い。どう見ても10代前半の愛らしい少年ショタである。

「俺が書きたかったのは、酸いも甘いも噛み分けた40代の傭兵だ!

顔の傷! 無精髭! 加齢臭が漂ってきそうな哀愁! それが男の履歴書だろうが!

こんな『女子供に媚びたガキ』に、俺のハードボイルドな魂が宿るかァッ!」

鋼田が机をバンバン叩く。

しかし、三島は優雅にコンビニのおにぎり(ツナマヨ)の封を開けながら、冷たく言い放った。

「鋼田先生。あなたはiPhoneに『無骨な鉄の塊』であることを求めますか?」

「あ? なんだ急に」

「iPhoneは洗練されたデザイン(UI)だから売れるの。でも、中身(OS)は高度で複雑な処理をしている。

この少年も同じ。これは『ユーザーインターフェース(UI)』よ」

三島はおにぎりを一口で半分食べ、咀嚼してから続ける。

「今のなろう市場において、おっさんの絵面ビジュアルは 『参入障壁』 にしかならないの。

読者はサムネイルを見た瞬間、『あ、臭そう』と思ってクリックしない。

だから、パッケージ(外見)だけは徹底的に可愛く、無害に見せる。

『警戒心を解かせる迷彩』……それがこの美少年デザインの正体よ」

「め、迷彩……だと?」

鋼田の表情がピクリと動く。「戦術」という言葉には弱いのだ。

「そう。

見た目は愛らしい天使。敵も『子供だ』と油断する。ヒロインも『守ってあげなきゃ』と母性をくすぐられる。

――でも、中身は鋼田先生、あなたの書く『狡猾で汚いおっさん』のまま」

三島はニヤリと笑った。

「想像してごらんなさい。

この天使のような笑顔で、敵の商人の足元を見たり、えげつない高金利で魔力を貸し付ける主人公を。

『外見と中身の乖離ギャップ』。

これこそが、キャラクターの魅力を暴騰させる 『相場操縦』 のテクニックよ」

鋼田はゴクリと喉を鳴らした。

(見た目は子供、中身はダーティな仕事人……。それはそれで……ある種の『サイコパスな凄み』が出るのではないか……?)

「……わ、悪くない。採用だ」

「チョロい……いや、柔軟で助かるわ」

三島は次に、ヒロインのデザイン画を指差した。

そこには、当初の「奴隷」から変更された、「大家さんエルフ」が描かれている。

しかし、清宮の手癖で、どうしても表情が「儚げで優しい聖女」になってしまっていた。

「清宮先生」

「は、はいっ!」

「修正指示を出します。

眉間の角度をマイナス15度。目つきはもっと冷たく。

私を見る時のアンチのような目で描きなさい」

「ええっ!? でも、彼女はヒロインですよ? 読者に嫌われませんか?」

「嫌われないわ。むしろ、その逆」

三島はスマホを取り出し、自身のアイドル時代の握手会映像を見せた。

『あー、はいはい。ありがとー(真顔)』

『え? 結婚? 無理に決まってんじゃん(鼻で笑う)』

映像の中のキララは、ファンに対して信じられないほど冷たい対応(塩対応)をしていた。しかし、ファンたちは「ありがとうございます!」と歓喜の涙を流している。

「な、なんだこれは……これが国民的アイドル……?」

二人は戦慄した。

「これが 『ツンデレ・エコノミー』 よ」

三島は解説する。

「常に笑顔(供給過多)だと、笑顔の価値は暴落インフレするの。

だから、普段は徹底的に冷たくする。

『家賃(魔力)払えないなら出てってくれる?』と冷徹に見下ろす大家さん。

でも、主人公が本当に死にかけた時だけ……」

三島は清宮の耳元で囁く。

「……顔を真っ赤にして、涙目で、

『あんたが死んだら、誰が家賃払うのよ……バカ……』

って言いながら、全魔力を注ぎ込んでくれるの」

ドックン。

清宮の心臓が早鐘を打った。

「その一瞬のデレ(希少価値)を得るために、読者は普段の冷たい態度すら『ご褒美』として消費するようになる。

清宮先生、あなたが描くべきは『聖女』じゃない。

『攻略難易度の高い投資案件』 なのよ!!」

「うおおおおおおおおっ!! 描ける! 描けるぞおおおお!!

冷徹な大家エルフ! ハイヒールで踏まれたい! でも実は借金まみれの僕を心配してくれてる!!

これこそが、僕が求めていた真の愛だァァァッ!!」

清宮が覚醒し、ペンタブレットの上で高速でペンを走らせ始めた。

その目には狂気と恍惚が宿っている。

鋼田もまた、腕を組んで頷いていた。

「なるほど……。

『可愛い顔してエグい主人公』と、『冷たい顔して情に厚いヒロイン』。

この二人が、借金という鎖で繋がれながら、異世界をサバイブする……。

……面白い。これなら、俺のハードボイルドも活きる!」

三島は、狂ったように作業を始めた二人を見て、小さく息を吐いた。

(単純なおっさん達で助かったわ。

……ま、実際は私の塩対応、単に疲れてただけで『素』だったんだけどね)

彼女はそっとメガネの位置を直し、新たな指令を出す。

「よし、キャラは決まったわね。

次は第1話の『フック(引き)』を作るわよ。

PV数を稼ぐために、タイトル回収を1ページ目で行う荒業に出ます」

「な、なんだって……?」

三島律の再生手術リブートは、まだ始まったばかりである。

(続く)



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