Ⅲ.神様初心者と現実
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「はい…はい……申し訳ありません…ですが先方も困っておりまして…」
10数人ほどが働くオフィスのような場所で、私は分厚い手帳を見ながら、各所に電話をしていた。
このような状況になったのには少し説明が必要になるだろう。
遡ること数日前、気がつくと私はどこかの会社の執務室のような場所にいた。
ふと横に目をやると、意識が途切れる前まで話をしていた白髪の若い男が、白い民族衣装のような服に身を包み、腕を組んでこちらを見ていた。
「あぁ、目が覚めましたか」
「…ここはどこですか?」
私はもはや大抵の状況には驚かなくなっていた。
「ここに名前はありません、あなたがこれから勤めを果たす場所です」
「私が勤めを果たす場所…?えっと…つまり職場、ってことですか?」
「おや、物分かりがいいじゃないですか。それなら、これからあなたにやってもらうことを説明してもいいですか?」
初めて男が柔らかな笑みを浮かべた。
「というか、なんだか口調変わってません?さっきまではもっと古風というか…」
「ああ、それについても説明します」
男の名前は"白鷺"と言い、
彼の説明はざっくり説明するとこのような内容だった。
ここは小さな神々が集い、各所で人間たちが捧げた願いを収集し、その願いを叶えるために、世界中にいる現地の担当者と連携するための場所とのことだった。
小さくても神というだけあり、様々な時代の様々な場所の者が集まっており、言葉もバラバラなのである。
そこでこの男の出番となる。
彼はどんな言語も理解し、相手に説明することができる能力を持っており、各神々との通訳のような役割をしているとのことであった。
そんな中で、"縁切り"を任された私の役目は、繋がれた縁の端と端、つまり縁が結ばれた人間同士の居場所を突き止め、専用のハサミを使い縁の組紐を断つことだということだった。
「人間として生きていた頃、聞いたことがありませんでしたか?神に願う時は住所や自分のことをきちんと説明するようにと。よく分かったでしょう」
白鷺はゆるく口角を上げてそう言っていた。
説明を聞き終わった私は、死んでからもまた働くこととなり、なんだか不思議な気持ちになるとともに、これからのことを考えて、一つため息をついた。
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