Ⅰ.始まりの白
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「そこの、これに耳を傾けよ」
囁くような、だけど厳しい口調の男の声がした。
状況を理解できない私は、周りをキョロキョロと見渡すが、真っ白な平原が続く景色には人影は無い。
ハッとしてスマホを探すが、普段持ち歩いているバッグは近くになく、そもそも私は服を着ていなかった。
どうやらここはこの世では無いらしい。
「わ、私、死んだの…?ていうか、ここどこですか!?何がどうなってるの…!?とりあえず何か、服!服ください!!」
気が動転した私はまくし立てるように叫んでしまった。
目の前にぼんやりと人影が現れ、ハァ…とため息が聞こえた。
「なぜ御主のような者が跡目になるのか…」
人影は徐々に形を帯び、杖のようなものを持った白髪の若い男の姿になっていった。
「ちょ、ちょっと!人の話聞いてました!?服!!服!!布でも何でもいいから!!こっち見ないでください!!」
白髪の若い男はまた、ハァ…とため息をついた。
「人の子の身体など見飽きたわ、それよりも、そこの。御主はこれから小さき神となり、縁切りを司るのだ」
「は、はい?神さま?縁切り?何言ってるんですか?」
「御主は自ら人の身を捨てたのだ。その償いとして、人の子の願いを聞け。いずれ赦される時が来る」
白髪の若い男はそう告げると、私の視界を手で塞ぎ、額にフッと息を吹きかけた。
リン、と鈴の音が鳴り、
そこで私の意識は暗転した。
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