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33.領地の発展の影響

「食事が終わってから話があるんだが、いいか?」

 夕食の席で、レイモンドが改まってエレオノーラに話しかけた。


 ちなみに今日のメインディッシュは、今度海風亭にレシピを提供しようかと考えている魚の味噌煮込みだった。エレオノーラ自ら厨房に行って、一緒に料理した一品だ。

 エレオノーラは、兄レイモンドがどんな反応をするかドキドキしながら、フォークを握る手に力を込めて見つめていた。

(お兄様、どうかしら。少し味付けを濃くしすぎたかも……?)

 レイモンドは、黙々と料理を口に運び続けた。そして最後の一口まできれいに平らげると、満足そうに息をついた。

「うまかった」

 その一言で、エレオノーラの胸に安堵が広がった。

「よかった!お兄さまがおいしいって言うなら、海風亭のお客様にも喜んでもらえるわね!」


 食後、二人は執務室へと移った。レイモンドは机の向こう側に座ると、ごつごつした筋肉質の手を机の上で組んだ。その表情は先ほどまでの穏やかさから一変して、真剣そのものだった。

「どうやら第二王子がヴェルデン領の視察に来るらしい」

「え!?」

 エレオノーラは思わず椅子のひじ掛けを掴んで立ち上がりそうになった。

「なんで……?」

 慌てた様子のエレオノーラは、椅子に座りなおしながら、胸がドキドキしているのを感じた。

(急に王族の視察なんて、何か事件?それとも、不正を見つけた?何もしていないと思うけど……)


 腕を組み、眉間にしわを寄せて、視線を天井に向ける。数秒後、彼女の表情がぱっと明るくなった。

「あぁ、そういうことね!」

 エレオノーラは手をポンと叩いた。

「あまりにもヴェルデン領が急に成長したから、怪しまれたのね?」

 レイモンドは苦笑いを浮かべながら頷いた。

「その通りだ。まあ、悪いことじゃない。むしろ注目されているということだからな」

 そう言いながら、彼は机の引き出しから羊皮紙を取り出し、エレオノーラの前に広げた。

「視察についての親書だ。読んでみろ」


 エレオノーラは身を乗り出して文書に目を通した。格調高い文字で書かれた内容を読み進めるうち、彼女の心は期待と緊張で高鳴った。

「この領地の成長をどう見せるか、しっかりと準備を進める必要があるな」

 レイモンドの言葉に、エレオノーラは勢いよく頷いた。

「ええ、お兄様!見せるのは、保育施設と、領民のトレーニングと、……」

 彼女はあごに指を当てて上を向きながら考え、最後にぱっとレイモンドを見た。

「メインは、やっぱり海鮮レストランよね!」

「同感だ」

 レイモンドは力強く頷いた。

「それぞれに王子の好奇心を引くような具体的な内容も用意しておこう。保育施設の中で子どもたちがトレーニングしている様子や、領地名物の料理とかな」


 エレオノーラは椅子から立ち上がって、部屋の中を歩き回りながら考えを整理した。

「じゃあ、保育施設や街の様子を視察してもらったあとに、海産物のレシピを活かしたディナーを提供するっていうのはどうかしら」

「いい案だ」

 レイモンドも立ち上がって、窓の外を見つめた。遠くに、この1年で発展したヴェルデン領の街の灯りが見える。


「あとは警備の確認もしておこう。王族をお迎えするんだからな」

 そこまで話して、レイモンドは改めてエレオノーラを振り返った。その目には、兄としての誇らしさが宿っていた。

「エレンの改革を見せるせっかくの機会だ。しっかり準備して、フィリップ殿下に印象づけよう」

「もちろん!」

 エレオノーラは両手を握りしめて、目を輝かせた。

「第二王子に自信を持ってお見せできるように、全力を尽くすわ!」

 レイモンドは満足げに頷くと、机に戻って羽根ペンを取り上げた。

「それじゃあ、具体的な計画を立てるとするか」


 レイモンドが紙を取り出して大枠の計画を書き記しているあいだ、エレオノーラは窓際に歩み寄って、夜空を見上げながら第二王子フィリップのことを思い出していた。

 エレオノーラは第二王子との面識があった。ハーマンの婚約者として紹介された後、何回か舞踏会で目にしたことがある。


 第二王子フィリップ殿下は、ハーマンとは対照的だった。すらりと背が高く、穏やかな顔立ち。黒髪に黒曜石のような瞳で、舞踏会でも多くの令嬢たちの視線を集めていた。

(今思い返してみると、目の保養になるほどのイケメンだったわね)

 エレオノーラは頬を赤らめながら、そっと微笑んだ。

(それに、歳は1つ上なだけなのに、他の同世代の男性と違って体の使い方が上手だった気がする)

 フィリップの母親はアンヌ王妃ではなく、側妃のカトリーナ様だ。

(もしかしたら、ハーマンとは違う育て方をされていたのかも)

 エレオノーラは何となくそう考えた。カトリーナ様は、確かスタンダル帝国の出身だ。ティモテウス・アウグスティヌスの提唱する育児方法を信用せずに、自国で覚えた育児方法で育てた可能性がある。エレオノーラは、フィリップ殿下がどのように育ったのかにも興味をもった。


 レイモンドが羽根ペンを走らせる音が部屋に響く中、エレオノーラは新たな希望を抱いていた。

(とにかく、フィリップ殿下がどんな方であろうとも、ヴェルデン領の成果をしっかりとお見せしましょう)

 彼女は両手を胸の前で握りしめた。

(これは領地の未来にとって、大きなチャンスになるかもしれない)


 窓の外では、星々が静かに瞬いていた。エレオノーラは新たな挑戦に胸を躍らせながら、明日から始まる準備のことを考えていた。

「エレン、まずは保育施設の見学ルートから決めるか」

 レイモンドの声で現実に戻ると、エレオノーラは振り返って明るく答えた。

「わかったわ!フィリップ殿下にも、子どもたちの最高の笑顔を見てもらわなきゃ!」

 兄妹は夜遅くまで、王子の視察に向けた詳細な計画を練り続けた。


次回、第二王子フィリップが視察にやってきます。ハーマンの弟です。

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