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意味のない夜と、聞いてくれる人

(……結局、去年と同じ)


それだけのために、2時間。

形式だけの「話し合い」。

誰もがそれなりに言葉を発していたけれど、最初から決まっていたような結論にたどり着いただけだった。


「では、次回は2週間後の火曜日、19時からということで……」


北村部長の声を背に、今日子はそっと立ち上がる。


家庭科室の扉を開けると、夜の冷たい空気が頬に触れた。

明かりの少ない校庭を抜け、小学校の門を出る。


家までは、歩いて10分もかからない。


(ほんと、近くて助かるわ……でも……)


足元から聞こえるパンプスの音が、やけに大きく感じる夜道。

周囲は静かで、たまに虫の声が耳に届いた。


(今日、何か意味あったのかな……あの会議)


PTAのこと、バザーのこと、誰かと“何かを決めた”という実感はほとんどなかった。

でも、次回の予定だけはきっちり決まっていた。


(また、あんなふうに……2時間?)


ふぅ、と吐いた息が、ほんの少し白く見えた気がした。

遠くに、誰かの家の窓明かりが灯っている。


(俊、もう寝たかな)


やっと一日が終わったと思ったのに、心の中ではすでに、次の会議のことが重たく横たわっていた。



玄関の扉を開けると、ふわっとソースの香りが鼻をくすぐった。


「おかえりー」

脱衣所の方から、夫・務の声がする。


「ただいま。俊、寝た?」


「今、髪乾かしてるところ。お風呂も歯磨きも済んだよ」


リビングに入ると、食卓には温め直された焼きそばが置かれていた。

目玉焼きがのっていて、紅しょうがまで添えられている。さすが、几帳面な人。


「お腹すいたでしょ。冷めてたら、もうちょっと温めようか?」


「ううん、大丈夫。ありがとう」


ひと口食べると、甘辛い味がじんわりと沁みた。


「……なんかさ、2時間もいたのに、結局去年と同じって……」

今日子は、箸を持ったまま、ぼそりとこぼした。


「ふむ」

務は、ソファに腰かけながら頷く。


「最初から副会長さんが流れ決めててさ。だったらもう、最初からそれでいいじゃんって感じで……」

「うん、うん」

「“みんなの意見を聞きながら”って言ってたけど、実際は“聞いてるふり”だったし」

「うんうん」


次々と出てくる愚痴に、務はひと言も遮らず、ただ相槌を打ち続けてくれる。


その「聞く姿勢」が、今日子にとって何よりありがたかった。


「……あー、すっきりした」

最後に焼きそばを食べきって、ふぅとひと息ついた。


「また2週間後なんだよね?」

「うん……もう憂うつ」

「焼きそば、また作ろうか?」

「うん、それだけが救いかも」


笑って言うと、務もふっと笑った。


廊下の奥から、俊の「おやすみ〜」という声が聞こえた。

今日子は立ち上がり、俊の寝顔を見に行こうと思った。


(家に帰ると、やっぱり落ち着く)


そんな思いを胸に、今日子は静かにリビングの明かりを落とした。

形だけの話し合いに、ため息をつきながら歩いた帰り道。

疲れた心に寄り添ってくれる家族の存在が、今日子に小さな安らぎをくれた。

明日もまた、がんばろう――そんな気持ちになれる夜だった。

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