エピローグ ~ 命つなぐもの
2025/4/30 初稿
その後のことは実はあまり記憶が定かではない。車に乗ってそのまま村を後にして、電話がつながるところで警察を呼んだ。
そして、戻って警察を連れて戻ってはみたものの、あの狸の出る村はどこにもなかった。一本道だったはずなのに、なぜかたどり着けなかった。
カオルやサユリが見ていたという狸が出るヤバい心霊スポットのネットの噂もいくら探してもたどり着くことはなかった。
まるで狐、いや狸に化かされたような話だ。
とはいえ、人間4人がいなくなったのだからそれなりに調べられた。
調べられたけど何も出てこない。私としても出てきてくれるなら人殺しの容疑をかけられても良いと思った。でも死体も何も出てこなければ、殺人罪も成立しない。今4人は行方不明者扱いとなっている。いずれ、時がくれば死亡者となることだろう。
私と言えば、あの夜の出来事から数か月して、自分が妊娠していることに気がついた。
健司の子供だ。
悩んだ挙句、私は生むことにした。
あの時の健司の決断を私も受け継ぐ義務があると思ったからだ。
そして、今、私は分娩室ここにいる。
「大丈夫ですよ。真美さん。頑張ってくださいね」
助産師さんの声が虚ろに響く。あまりの苦痛に頭が朦朧としていた。
苦しい 痛い こんなに痛いものなの?
まるでお腹の中をがりがり齧られているみたい
ああ、健司、私を守って。 私、頑張るから。
「頑張って、もう少しですからね。 え、えええ? なに、これちょっと」
痛い
なんだろう、急に助産師さんたちが慌て始めた。
何かまずいことが起きたんだろうか
「ちょっと、なに、これ信じられない 」
何が起こっているんだろうと思い、ちらっとお腹を見てみる。
なに……これ? お腹がものすごく膨らんでる。 こんな風になるの?
痛い、痛い、痛い、痛い ちょっと、これって これって
私のお腹が突然ばっくりと裂けた。血が噴水のように飛び散り、周りの助産師さんや看護師さんを赤く染める。
私は薄れゆく意識の中ではっきりと見た。 私の裂けたお腹から覗く、その顔はそれは私の赤ちゃんではなく、信楽焼の狸だった。
案外鋭い歯が電灯の光を受けてギラリと光った。