やばい心霊スポット
深夜のドライブはかれこれ2時間近くになろうとしていた。
車の助手席のウィンドには頬杖をつき、少しふくれっ面な私の顔が薄っすらと反射していた。その顔の奥には鬱蒼とした森がかなりの速さで通り過ぎていくのが見えた。
森の木は途切れることなく現れては通り過ぎていく
なんでこうなった?
私は忌々しそうに心の中で舌打ちをした。
そして、こうなったいきさつについて反芻する。
ことの発端は鹿島稔がバズりたい、と言い出したからだ。
稔は、私の恋人である森田健司の友人だ。中学のころからの友人らしい。
二人は親友だと言い合っている。
だけど私は、この鹿島稔という男を快くは思っていない。
一言で言うなら信用が置けないのだ。
チャラいというのか、とにかく発言一つ一つが軽くて責任感を感じない。嘘か本当かわからないけれど、なんでもかんでも「そんなこと、いったっけ?」でごまかすタイプ。
健司とは真逆だ。
なんでこんなのが親友?って思う。
自分に無いものを求める、っていうやつだろうか? 知らんけど。
職業がユーチューバーなんていうのもベタな感じ。そんな稔が『アクセス数を稼ぎたいから』と言い出したのが心霊スポットでの配信、だった。彼曰く、アクセス数を稼ぐのに一番お手軽とのことらしい。
ま、行きたければ一人でいくらでも言ってきたらよいのに、よりにもよって健司を引っ張りだしてきた。稔が車を持っていないからってことだ。
もちろん私は反対した。そもそもだるいし、心霊スポットと呼ばれる廃墟というのは意外と危険だから。
その手の場所は大抵廃墟で、怪しい連中がたむろしていることもあれば、それ自体が崩れかけていて危険だ。そもそも家屋や土地の管理者に許可なく入ればそれは不法侵入。違法行為だ。
そんな怪しいことに私の大事な恋人を巻き込むな! と大声で言いたかった。てか、言ったんだけど、健司は稔に押し切られた。
あーー、なんで健司はいつも稔の言いなりなのかと思う。
その時、私は半分切れかけて、勝手に二人で行けばいい、って言い捨てたのだけど、稔がレポーター役に知り合いの女の子を連れていくっていう段になって気が変わった。
稔が誰を連れて行こうとしているのか知らなかったけど、類は友を呼ぶ、ってことでどうせ頭もお尻も軽い女なんだと思う。そんな輩に私の大事な健司をたぶらかされるわけにはいかない。
勿論! 私の健司に限って、そんな女どもに心を奪われるなんてことは微塵にないだろうけど、そんな女どもに健司が触れられること自体が許せないのだ。
ほら、食べようとしてたケーキに蟻がたかっていたら気分が悪くなるでしょう? そんな感じ。
だから、今、私は稔が運転する車の助手席で頬を膨らませて外を眺めているってわけだ。
「あははは。なにこれ受ける~~」
後部座席からバカ丸出しの女の笑い声が聞こえてきた。
名前をカオルというらしい。
ウェーブのかかった金色のロングに厚い化粧。想像した通りの女だった。
「これ今から行くとこだよね。えっとなになに……」
もう1人、女の声が後を続けた、稔は女を2人つれてきていた。サユリとかいっていた。
「『……市の北の外れにある山村。廃村になって10年以上経って誰も住んでいないけれど、ここがとんでもなくヤバい心霊スポットとして知られている。出るのだ。すごくヤバいものが出る』」
サユリは耳に障る甲高い声でネットの文章を読み上げる。
ああ、ヤバいのが出るのね。幽霊なんているわけないし、出てもそれほど怖くないわ。幽霊に殺されたって話しはよく聞くけど実際に起こったってのはみたことないし。熊が出る方がよっぽどヤバいわ。
「『狸が出る。』……はっ、なに? 狸ってあの狸?」
狸かよ! って内心突っ込みたくなった。 と言うか内心突っ込んだ。
「なにこれ? 可愛いじゃん!
狸ってあのちっこいやつだよね。尻尾がしましまの」
それはアライグマよ!
まさかの二連発ボケに堪らず突っ込みたくなり後部座席へ振り返ったけれど、突っ込みが私の口から出ることはなかった。
なんか突っ込んだら負けな気がすごくしたからだ。だから私の行動は宙ぶらりんになってしまった。突然、私に振りむかわれてカオルとサユリは驚いたようだ。
「……えっと、真美さんでしたっけ?
なにかありましたか?」
鳩が豆鉄砲を食らったように目を丸くしてサユリがおずおずと言った。濃い目のアイラインのサユリの顔が狸に重なった。
「いえ、なんでもないです」
そう答えると座りなおした。なんだかすべてが馬鹿馬鹿しくなってしまった。小さくため息をつくと健司の手が私の手をやさしく握ってきた。
「怖い? ごめんね。こんなことにつき合わせちゃって」
健司がやさしく囁いた。
怖いっていうのは違うと思う。
ただ、自分はイライラしているだけだった。なんでこんなところに自分がいるのかということや、巻き込んできた稔や、その馬鹿っぽい女連中、自分のことを今一つ勘違いしている健司にも色々諸々イライラしていた。けれども気遣ってくれる健司のやさしさにこたえるように笑みを浮かべつつ、「大丈夫」とだけ答えた。
その時だ。突然森が開けて、人里が現れた。
「あ、着いたみたい」と健司が言った。
2025/4/30 初稿